【第38話】交渉

「わざわざ遠くまで来てもらって悪いが、我々は君たちの要請を受け入れる事はできない」


 この太々しい男こそ日本魔術協会の長、河原田カワラダ伸次郎シンジロウ代表だ。


「その理由を聞かせて頂けないですか?」

「ロンドンへの回答の通りだ。日本の魔術師はそれぞれの仕事で忙しい。とてもそちらに回せる人材はないのだ」

「しかし、世界の危機なのです」

 

 代表はゆっくりと立ち上り、僕を見下ろした。


「世界の危機というのはいつの時代にもある。いつだって我々人類は、滅亡の危機に晒されている」

「それを乗り越えられたのは人類であり、魔術師ではないのですか」

「……」


 僕は、立ち去ろうとした代表の背中に呟いた。代表の足は止まり、冷たく静かな視線を僕に向ける。


「リュウキくんと言ったね」

「はい」

「君は吉川の弟子だと聞いたが」

「その通りです」

「あのような奴の側では勿体無いくらい優秀な男だな。しかし、世の中の事を知らな過ぎる。魔術師はヒーローではない。魔術師や魔法といったものはこの世界にとって異物なのだ」

「僕は、ヒーローになりたいわけではありません」

「じゃあ聞こう。君は何者になりたいのだ?」

です」

「正義……?」

「貴方が本当に魔術師の事を第一に考えているのなら、この危機は異物が世界を救い、魔術師として表舞台に返り咲くチャンスだと考えて下さい」


 代表は驚いたように僕の側に寄った。しかし再度表情は曇る。


「君の言っていることは分かる。そうなれば私にとってこれほど嬉しいことはない。だが、そんなに上手くいくのか……?」

「僕にお任せ下さい」


 代表は僕の力を測るようにじっと目を見つめ、それに答えるように見つめ返した。



「お待たせしました」

「帰ってきた! どうだった?!」

「ロンドンに協力し、霊魂を奪った魔女の捜査を始めてくれるそうです」 

「やった! 凄いよリュウキくん!」

「流石だな。リュウキを行かせて正解だった」

「僕も驚きました。まさか代表との面会が1人だけとは」

「ここは警備だけは厳しいからねー。そんなことよりラーメン食べに行こうよ!」

「良いですね」


 日本魔術協会の協力を得ることができた僕たちは、暖かい札幌の夜を満喫した。



########


「どうなっている?! 何故見つからんのだ!」

「申し訳ありません!」

「謝罪をする暇があったら魔女を見つけ出して殺して来い!」


 暗い洞窟に低い怒号が飛ぶ。黒光りした玉座に腰を下ろした男は、ギョロっとした眼光を光らせる。


「いつまでここに居るつもりだ」

「「私はここには居ませんが?」」

「いつまで盗み聞きを続けるのかと聞いているのだ!」

「「貴方が生き絶えるまで」」


 玉座に座った男は低い笑い声を上げた。


「笑わせてくれるわ! それにしても、お前の弟子はなかなかやるな。是非に招きたいくらいだ」

「「環境が違えばそうなっていたかも知れない。だが、おそらく貴方には遣えないでしょうな」」

「早めに殺すのが吉というわけか」

「「そうでしょうな。に殺せればの話だが」」




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