【第34話】予感
「はああ、疲れた」
「疲れたね」
「うん。久しぶりだと楽しいね」
「そっか、良かった」
アカリの様子がいつもと違う。どこかソワソワしているような気がしてならない。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
「何かあったの?」
「……」
やはり変だ。何か言いたげだが、それを押し殺しているように見える。詮索するのもなんだが、このまま分からないというのも気持ちが悪い。
「気になるから言ってよ」
「じゃあ、この後付き合ってくれる……?」
「良いよ」
僕たちは学校を後にし、河川敷へと向かった。土手に腰を下ろしたまでは良かったが、アカリは話し出そうとしない。
「それで、何があったの?」
「実は聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと?」
「うん……前に学校であったことだけどさ」
「うん」
「私が二組の男子に絡まれていた時に、蜘蛛がいっぱい出てきたじゃん?」
「う、うん……」
完全に油断していた。どうしてこのタイミングでその話をするのだろうか。僕はやましい事を隠しているような感覚に襲われた。
「あれって、なんだったのかな?」
「さ、さあ……」
「うそ!」
アカリがぐっと僕に顔を寄せる。良い匂いがするとか、そんな悠長な事を言っている場合ではない。僕は動揺を必死に堪えた。
「本当は知ってるんでしょ?」
「な、なにが?」
「あれは魔法だよ」
「……」
自分としてもこの沈黙はヤバいと思ったが、言葉が見つからなかったのだ。
「やっぱりわかってたんじゃん」
「いや……」
「だって、あの子と私たち以外には見えてなかったでしょ。水口くんがやったの? 水口くんって魔法使いなの?」
「ま、まさか」
僕は思わず目を逸らし、どう言い訳しようかと考えていた。
「そんなわけないか」
「そ、そうだよ! 魔法使いなんているわけないよ!」
「まるで、いたら困るみたいな言い方だね」
「そんなこと……」
まるで刑事に尋問されている容疑者の様だった。しかし、アカリは諦めたのか、ため息をついて立ち上がった。
「まあ、いいや」
「どこ行くの……?」
「もう帰るよ」
「え……」
「また明日ね」
少し不機嫌なアカリはそのまま立ち去ってしまった。
嫌われたくない。それは、僕にとって変わらない。もし、自分が魔法使いだと認めたら、アカリから距離を置かれるのではないかという心配が有耶無耶に誤魔化した理由だった。僕は深い、とても深いため息を吐いた。
「「女に嘘だけはつくな。絶対にバレる」」
「犬に何がわかるんだよ……って、え?!」
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