【第35話】誘導

「「何見てんだよ」」

「お、お前が喋ってるのか?!」

「「犬が喋ったら変か?」」

「変だろ」

「「噛み付くぞ小僧」」


 なんなんだコイツは。いや、犬なのは間違いないのだが、こんなに流暢に日本語を話す犬がいただろうか。そう言っているように聞こえる、というレベルではない。


「「聞いてるのか?」」

「なんだよ」

「「だから、早く事務所に行け。お前の師匠が危ない」」

「なんだって?!」


 僕は急いで事務所へ向かった。あの犬がなぜ事務所やソルボンの事を知っているのかは気になるが、そんな事を聞いている暇はない。ビルの階段を二段飛ばしで登り、勢いよく事務所の扉を開ける。


「ソルボン!!」

「お、リュウキか。胸を押さえてどうしたんだ」

「え……」


 そこには、コーヒーを片手に魔道書を読んでいるいつものソルボンがいた。隣にいたアイも目をまん丸にして僕を見ている。


「リュウキくん、汗だくだよ」

「だって、ソルボンが危ないって……」

「危ない? 確かにコーヒーが熱くて火傷しそうにはなったが」

「どういう事だ……?」


 あの犬は確かに危ないと言っていた。いや、そう聞こえただけかも知れない。そもそも、犬が言葉を発する時点で異常なのだ。


「ところで、の紹介はまだかな?」

「カレ?」

「リュウキの背後にいる彼だよ」


 トイレから出て来たアランの言葉で、僕が振り返ると、そこには先程の喋る犬がおすわり状態でこちらを見上げていた。


「え……」

「「ここが噂の何でも屋か。コーヒー臭ぇな」」

「しゃ、喋った」

「「さっきも喋ってただろうが」」

「君は何者だい?」

「「俺はちょっと魔法が使える犬だ。吉川とは昔からの仲でな」」

「あ!」


 僕は吉川と初めて出会った日のことを思い出した。


「もしかして、あの時のパンの犬?」

「「やっと思い出したのか。そんなことより、吉川はどこだ?」」

「説明すると長くなるが」

「「説明してくれ」」


 僕たちは、イギリスでの出来事を事細かく犬に伝えた。



「「そうだったのか……なかなか会わないわけだ」」

「聞く限り、我々の敵というわけではなさそうだが、君も力になってくれるのか? 」

「「嫌なこった。面倒くさいし、俺がいたところで何もできんしな」」

「そうか」

「「じゃあな、頑張れよ」」


 そう言い捨てると、犬は事務所から出て行った。思わぬ展開になったが、読者の皆さんには彼のこれからの活躍に期待して頂きたい。


「変わったやつだったが、グッドタイミングだな」

「何がです?」

「これからの大まかな作戦が決まった。それを今から説明しよう」


 ソルボンの言葉をまとめると、時計塔から霊魂を盗んだ魔女の居場所と突き止めたとの連絡があったが、日本の魔術協会は消極的で、我々に協力してもらえるようにお願いに行って欲しいとの事だ。


「これから我々が向かうべきは北海道だ」

「まさか……」

「札幌にな」

 

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