【第33話】道家

「強がるんじゃない小僧。今ここでお前は死ぬ運命なのだ」

「僕は2人で話したかったんだ」

「まさか……貴様何者だ?」


「日本人の高校生だよ。それよりボスのことを教えてくれ」

「教えるはずが無いだろう」

「どうして?」

「敵に自分のボスの情報を教えるのは阿呆だろうが」

「僕がここで死んだらその情報は意味を持たない。それとも、僕に負けると思ってるの?」


「ふっ、まあ良いだろう。最期の願いなら教えてやろう。ボスは想像し得ないほどの強大な魔力を有している。遠くに、だがすぐ近くにいる」

「ありがとう。じゃあサヨナラ」


 僕はソルボンの魔本を手に取り、詠唱を始めた。




 僕たち3人は、時計塔に戻ってきていた。時計塔は、外見こそ変化は無いが、内部は魔術結界が破られ散々な有様だった。


「おお、よく戻ってきた。ジャックのことは残念だったな」


 自分は何事もなかったかのようにベンが出迎えてくれた。


「ベンも無事で良かったです」

「私はなんてことないが、魔術師数人がやられた。残念ながら、日本に向かう人員は残っていないな」


 遠回しに、日本に向かうのは君たちだけだと言われた僕たちだったが、こうなってしまっては致し方ない。颯爽と帰国の準備を始めた。


「さて、帰ろうか」

「ソルボン身体は大丈夫? 」

「ああ、問題ない」

「良かった」


 強がっているのはわかっていた。だが、この状況での彼の立場を考えればウソをつくな、なんて口が裂けても言えるはずがなかった。

 僕たちは、来た時と同じ『魔法の鍵』を使い、帰国することになった。


「私も行きたいのは山々だが、時計塔こちらの事もある」

「ありがとうアルバース。日本のことは僕たちに任せて」

「頼もしいものだな。君たちにまた会える日を楽しみにしているよ」


 僕とアルバースは固く握手を交わし、ベンの方を向く。


「ベンもありがとう」

「感謝されることは何もしていない。寧ろ感謝の言葉をかけるのは私の方だ。だが、それはまたの機会にしよう」

「はい、必ず世界の危機を救って見せます」

「ご武運を」


 ベンとも握手を交わし、僕は空間に浮かぶ歪んだ扉に入った。


「おや……?」

「ソルボンどうしたの?」

「いいや……なんでもない」


 僕は微笑を浮かべるソルボンを不思議に見つめることしかできなかった。



 大きく息を吸い込んで、大きく吐いた。やはり、日本の空気は美味い。しかし、懐かしい景色をゆっくり眺めている暇はない。僕たちは、吉川がいない事務所へと戻った。


「まずは情報集めだ。時計塔からある程度のことは聞いているが、詳しい情報は掴めていない」

「そうだね。僕は何をしたら良いですか?」

「今日のところは家に戻りなさい。明日は学校だろう? 情報集めだけなら我々だけでできる」

「わかった。じゃあ、また明日学校終わりに」


 僕は3人と別れ、久しぶりの自宅へと帰った。たった3日足らずの出来事だったが、それ以上の疲れを感じていた。家に着くや否やベッドに倒れ込み、そのまま眠った。

 


 僕は、夢を見た。暗闇の中、1人の少女が出迎える。前にも見ただ。今回は、僕から声をかけた。


「やぁ久しぶり」

-元気そうで良かったわ

「そちらも」

-これからの生活は、以前とは比較にならないほど過酷なものになるわ。覚悟して

「そっか……」

-明日は学校に行くんでしょ? 

「うん」

-あのには気をつけて

「あの娘?」

-彼女の力は異常よ

「だから、あの娘って誰?」

-あの娘よ



 ピンポーン


 インターホンが鳴り響く音で目が覚めた。重い身体を持ち上げ、玄関に向かう。


「はーい」

「あ、水口くんおはよう」

「アカリか……」

「私じゃ嫌だった?」

「いやいや、嫌じゃないよ」

「じゃあ早く準備して。遅刻するよ?」

「あ、ヤバ!」


 急いで制服に着替え、荷物をまとめる。何か忘れているような気がしたが、気のせいだろう。僕はアカリと一緒に学校へ向かった。



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