【第32話】第二の契約

「蝶?」

「「奴の性質を知っていれば、ここは喜ぶところなのだがな」」

「アランは知っているのか?」

「「もちろんだとも。敵を知ることは戦士としては当たり前のこと。と言いたい所だが、私も憶測だけで直接聞いたわけではない」」


 これからどうしたら良いのか僕には分からなかった。ジャックを失ってしまった今、日本に帰るのが先決か、それとも吉川を探した方が良いのか。そんなことを考えていた矢先、白煙と共にソルボンが舞い降りた。


「話は聞いていた。さて、どうしたものか……」

「私は吉川を見つけられるまでは帰れない」

「しかしなあ……」

「「とことん盲目な女よ」」

「黙らないと割るわよ?」

「「……」」

「リュウキはどう思う?」


 僕に聞かないでくれという祈りは届かなかったようだが、もし吉川が生きているなら、自力で日本に帰って来られるはずだ。明日から学校も始まるし……


「僕は日本に向かうべきだと思う。吉川さんが生きているなら、心配する必要尾はないんじゃないかな……」

「ふうむ」

「「流石はリュウキだな」」

「あとは君次第だぞ、アイ」

「……」


 アイは瞼を閉じ、深く深呼吸した。


「わかったわ。吉川とリュウキくんを信じる」

「そうと決まったなら急いで向かわなければな。その前に時計塔に向かい、現状を確認しよう」


 僕たちの進むべき道がようやく示された。が、嫌な予感がする。


「なんだと?!」

「「だから、私も連れて行けと言っているんだ」」

「何故お前のような奴を連れて行かなければならんのだ!」

「「おいおいおい、勘違いするなよアルバース。力を貸してやると言っているんだ」」

「ただの花瓶に何ができる?」

「「ハッ! 時計塔にいた時代は可愛がってやったのになあ」」

「しかし、今は違う」


 議論は平行線のまま、10分ほど経過した。僕は自分で言うのも難だが、ナイスアイデアを思いついた。


「ソルボン?」

「なんだ?」

「生きている人間を使い魔にできるの?」

「何言ってるのリュウキくん?!」


 アイとアルバースがほぼ同時に突っ込んできた。しかし、ソルボンは薄ら笑みを浮かべながら答えた。


「できるとも。ただし、黒魔術の応用だ。どちらかに強力な魔力がなければ契約はできないばかりか、心身に何か異変が起こることも危惧される」

「できるなら、やろう」

「リュウキ、考え直した方が良い」

「そうよ、使い魔を2人も擁するなんて体力がもたないわ!」

「でも、ソルボンは自分の魔力があるし、アランだって魔力は残っているはずですよ。それに、アランが僕の使い魔になれば裏切ることもできない」

「で、でも……」

「まあ、アラン次第だけど」


 全員の視線が花瓶に集まった。


「「この際、最善の道だと言えるな。申し出を受けよう」」

「それじゃあ、ソルボン」

「ああ、始めようか」


 僕と花瓶が並べられ、ソルボンが長々と呪文を唱え始める。


「Un diable et un ange se rencontrent et illuminent le monde sale avec la lumière et les ténèbres.C'est bon de crier au-delà de la tristesse, soyons ensemble! 」


 その瞬間、僕の視界は黒い光に包まれ、真っ暗な中にアランが現れた。


「心底馬鹿な男よ。罠とも知れずに契約をするとはな」

「分かってるよ」

「なに……?」



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