【第31話】偉業と落とし穴

 アルバースの表情から恐怖を感じた。


「あそこまでのモノを創り出すには、本来何百年も必要なのだぞ。それを君は一瞬にして創り出した」

「そう……なんですか……」


 僕は無意識に大変な偉業を成し遂げてしまったのかも知れない。もちろんこんな状態では、褒めてくれる者も、表彰してくれる者も居ない。

 僕たちは、誰もいない、暗くて不気味な廊下を歩いていた。一瞬、黒い影が廊下を横切ったのが見えた。


「アルバース……」

「ああ、見えた。慎重に行こう」


 僕たちは小声で話した後、足音を消しながらゆっくりとソレに近づいた。あと一歩のところで視線を感じた。


「「おやおや、小娘を探していたら別の獲物を見つけたか」」


 その耳障りな声は忘れもしない、アランの声だった。しかし、辺りを見回してもその姿は見えない。


「変身術だ……奴は何かに化けている」

「「アルバース、感情的になるなよ? 君の悪い癖だ」」

「貴様こそ、また花瓶にでも化けているのではあるまいな? 」

「「な、なにを言うか!」」

「悪い癖ですよ、


 アルバースはニヤッと笑って杖を振るった。


「durcir」

「「な、なんということを!」」

「これで貴方は元に戻れなくなった。一生花瓶として生きていくが良い」

「「クソオオオオオオオオ!」」


 叫ぶ花瓶を尻目に、僕たちは影の正体を突き止めた。というか、既にそこに立っていた。


「アイさん!」

「リュウキくん……どうして……」

「どうしても何もないですよ! 助けに来たんです!」

「……」


 アイさんは俯き、頬には涙が伝う。


「アイ、さん……?」

「吉川が……」

「え?」

「私の目の前で消えた……」

「どういう事ですか?」

「私は地下牢で吉川を見つけたの。錠を外して、みんなのところに戻ろうとしたら死人ゾンビに襲われて……吉川は私を庇って……」

「そ、そんな」


 アイさんは、髪を掻きむしりながら取り乱し、その場に座り込んだ。消えたとはどういう事なのか。アルバースにも、もちろん僕にも分からなかった。ただ、この空間にもう1人その場に立ち合わせた人物がいた。


「「ふははは、馬鹿な女よ!」」

「黙れアラン!」

「「なんだ、知りたくないのか? 彼がどうして消えたのかを」」


 その場にいた全員が、怒りの矛先をアランに向けた。


「黙らないと割るぞ!」

「「まぁ、落ち着け。奴は確か、変身術が得意だったな」」

「それがなんだ?!」

「「まだわからんのか? というのは死体を見ていないという事だろう?」」

「……」

「つまり、吉川は生きていると?」

「でも、私を庇って消えた後、何も現れなかった……」

「「ふん、本当にそうか? 私には見えていたぞ。君の肩から飛び立つがな」」




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 ご覧頂きありがとうございました😊

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