【第30話】信頼と実力

「作戦を立てている暇はない。今直ぐにでも向かわなければ、2人の命が危ない」


 時計塔の支援が受けられないと知った今、僕たちに残されている選択肢は、現場に残っている者だけで2人を救い出すこと。しかし、敵の数は未知数で、かなりの力がある事は確かだ。


「ああ、幸いにも主力の攻撃部隊は残っている」


 僕たちは、作戦も何も無いままに廃工場へと向かう事になった。

 僕は廃工場を見上げ、なにか不穏な空気が漂っている事に気がついた。


「気味が悪いですね」

「そうだな。先ほどまでとはまるで違って


 隣にいたソルボンも異変に気付き、眉にシワを寄せる。そんな時、アルバースがソルボンに耳打ちをした。


「ここからはかなり危険だ。リュウキはテントに残っていた方が良いだろう」

「僕なら大丈夫です」

「しかし、君は戦闘の経験もないのだろう?」

「それは……」

「確かに、リュウキの年齢も魔術師としては若過ぎるし、経験も無いな」


 ぐうの音も出なかった。


「だが、足を引っ張った事は一度もない。それに、彼は生き残っている。リュウキの力は我々に必要だ」


 今まで敵に対して魔術を行使した事は一度もなかった。だが、こんな事態に陥っても尚、僕は生きている。


「僕は、必ずジャックの仇を打ちます」

「……」


 アルバースは僕の瞳をじっと見つめた。まるで、僕の意思が本気かどうかを見極めるかのように。


「わかった。私に着いてきなさい」

「ありがとう!」


 ソルボンは、微笑を浮かべた後、僕を見た。


「私は先に周囲の敵を一掃してくる」

「ソルボン……」

「いいか、リュウキよ。魔術の行使には強い創造力とそれを操れる強い心が必須だ。逆に言えば、それだけ出来れば奴らは君の敵ではない。だが、もしもの時はソレを使いなさい」


 僕は本を握りしめ、小さく頷いた。


「行くぞ」

「はい」


 ソルボンは白煙となり空へ飛び立ち、続いて魔術師たちが飛び立つ。彼らが結界を破り、それを確認した僕とアルバースは、共に工場の入口へと進んだ。


 ドドドド……パンッ……シュルルルル!


 眩い閃光が四方八方から飛び交い、白煙と黒煙が絡まる様に、僕の上を飛んでいる。完全に待ち伏せをくらった形になってしまった。


「くっ……! 敵が多過ぎる!」


 僕とアルバースを囲む様にして張られた結界に、閃光がバリバリと音を立てながら衝突し、破られる寸前になっている。


「君の力が必要だ!」

「どうすれば……」

「何でも良い!」


 僕はソルボンの言葉を信じてそっと目を閉じた。怒号と魔力同士の衝突音が鮮明に響いてくる。手をかざし、魔力を集中させる。


「な、なんだコイツは?!」

 

 アルバースの声に目を開けると、地響きの様な低い音と共に巨大な蜘蛛が目の前に現れた。蜘蛛は敵味方関係なく、周りにいる全てのものを喰い荒らし始めた。


「クソッ……結界が破られるぞ!」


 僕はもう一度目を閉じ、暴れている蜘蛛を制御するために集中力を高める。


(頼むから言うことを聞いてくれ……!)


 そう願った瞬間、周りの音がぴたりと止まった。何も聞こえない真っ暗な空間に、ひとりの少女が立っている。少女はゆっくりと近づきながら、何かこちらに話しかけている。それは少しずつ、でも確かに鮮明になる。



-貴方の願いは……? 

「アイさんと吉川さんを救う!」

-自分を犠牲にしても?

「もちろん……だけど、僕が死んだら2人を救えない」

-貴方の力は私の力……すべき事をさい

「君は蜘蛛……? 」

-それは正解でもあり、間違いでもあるわ



 はっと我に帰り、周囲の音が戻る。巨大な蜘蛛は、敵と味方の判別ができているようだ。敵の魔術師が次々と喰らい、僕たちの進む道を切り拓いた。


「リュウキ、急げ!」

「は、はい!」


 僕とアルバースは、やっとの思いで工場の内部へと入る事ができた。


「まさかアレを出したのは……」

「はい、僕です」

「リュウキ、君は一体何者なんだ……?」








 







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