【第29話】形勢逆転
「おや、リュウキもいたのか」
「私を睨みつけるとは。随分と強気になったものだな」
「吉川さんを返せ!」
「はははは、返せとまで言うか。吉川が捕えられたのも、ジャックが死んだのも君のせいだというのに」
アランは不気味に笑うと、僕に杖を向けた。
「君は邪魔なのだよ。消えてくれ」
「させるか外道!」
アイさんが放った光は、アランの杖に当たって吹き飛んだ。
「おやおや、じゃじゃ馬も居たのか。君との交渉はもう無理なようだな」
「クソ喰らえ」
「はははは、口が悪いな。皆殺しにしろ!」
奴らが一斉に杖を向け、攻撃しようとした瞬間だった。大きな白煙と共に、眩い光が差し込んだ。
「私の弟子に手を出すな」
光の矢は死遊軍の魔術師に次々と刺さり、一気に形勢逆転となった。
「クソッ……」
「ソルボン!」
状況が悪くなったアランは、黒煙に
「無事でよかった」
「でも、ジャックが……」
「彼の死は
「……」
「君が気に病むことではない」
ソルボンは、僕の肩にそっと手を置き、慰めてくれた。
「アイはどこに行った?」
「そこに……」
さっきまでそこに居たはずなのに、アイさんが居ない。
「まさか……」
「連れ去られたか?!」
アルバースも焦りを隠せないようだ。
「一先ず、近くに仮拠点を作ったからそこに行こう」
「でも、アイさんが!」
「彼女はそんなにやわじゃない。仮拠点には時計塔の魔術師もいるから安全だ」
アイさんの安否が気掛かりだったが、ここに居ても何も始まらない。ソルボンの言う通りに従うことにした。
数キロ飛んだ先にテントが見えた。辺りには結界が張られ、厳戒態勢だった。
テントの中は、屋敷のように大きな空間が広がっていた。
「お待たせした。ジャックは死に、2人を連れ帰れたが、一名消息不明となった」
「まずい事になった」
時計塔の魔術師が苦虫を噛んだような表情を浮かべていた。
「どうした?」
「工場の内部で魔術が行使され、騒がしくなっている。何かが起こっているようだ」
「吉川か?」
「いや、これは魔女によるものだろう」
「まさか!」
「恐らく、そちらの友人が単身乗り込んでいる」
「少々まずいな……」
「ああ、かなりな」
アイさんは僕やアルバースの目を盗んで、工場に潜入したようだ。いや、潜入というより奇襲という言葉が妥当か。とにかく、彼女の身に危険が迫っていることに違いはない。
「ベンと話せるか?」
「まだ繋がらない。時計塔も慌ただしくなっている様だ」
「何かあったのか?」
「……」
魔術師は俯き、口を噤んだ。
「どうした?」
「我々が出た数分後に時計塔が襲撃された」
「時計塔はベンの力が働いているので無事だが、日本に発とうとした魔術師数人が重症らしい」
「何故直ぐに知らせなかったのだ」
「ベンから止められていた。あくまでもこちらの作戦が優先だと」
「なんという事だ」
僕たちが優先すべきは、捕虜の解放とアイさんの援護だ。しかし、時計塔は満身創痍で、何をしようにも人手が足りない現状ではどうすることもできなかった。
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ご拝読ありがとうございます!次の更新は未定ですが、別作の「狂鬼の罠」を本日19時に更新予定ですのでお楽しみにお待ち下さい。
それでは。
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