【第28話】再会

「……」

「なんで……」


 霧の向こうに見えるジャックは、こちらに気付いているようだが、何を話すわけでもなくじっと佇んでいる。


「集中しろ!」


 アルバースが声を荒げたが、他の魔術師たちはまだ混乱しているようだった。


「しかし、あれは幻影なんかじゃない」

「ああ、間違いなく本人だ」

「何かの罠かも知れん。近づくなよ!」

「だがこのままでは、ジャックが邪魔で陽動が正常に働かない可能性がある」


 アルバースは首を傾げながら唸った。確保するにしても、ジャックと接触しないことには計画が進まない。悩んでいる暇はなかった。アルバースは、魔術師をひとり指名した。


「ジャックを確保してくれ」

「わかりました……」


 彼はゆっくりと草むらから出て、周りに誰も居ない事を確認してから、ジャックの側に近づいた。そして、ひとこと声をかけたところで、悲劇は起きた。突然魔術師の腹部を素手が貫いたのだ。


「うわああああああ!」

 

 悲鳴が霧の中にこだまする。倒れ込む魔術師と、はらわたを握っているジャック。頭が真っ白になり、何が起きたのか全く分からなかった。


「アルバースどうするんだ?!」

「……」

「アルバース!」

「現在から目の前にいる男は、我々の敵とみなす。総員、戦闘用意!」


 魔術師たちが杖をジャックに向けた瞬間だった。ジャックは空高く飛び上がると、真っ直ぐと部隊に突っ込んできた。


「うわああ!」

「やめろおお!」


 魔術師の腹部に風穴が空いていく。ひとり、ふたり、さんにん。陽動部隊で残っているのは、僕とアイさんとアルバースだけ。ジャックはアルバースの胸ぐらを掴み、同じように貫こうとした。


「ジャック!!」

「ウウウッ……」


 アイさんが咄嗟に彼の名前を叫んだ。ジャックは、声に気付き、こちらをジロッと見た。最早、人間や魔術師とは言えないその姿は、まさしく悪魔デビルだった。


「ウオオオオ……! 」

「さらばだ、ジャック!」


 不意をついたアルバースのステッキから、光の束が真っ直ぐに放たれ、ジャックの胸に突き刺さった。


「グオオオオオオオ!」


 ジャックはその場に倒れ込んだ。もう息はない。これは幻想などではなく、紛れもない現実なのだ。


「……」 

「ジャック……」


 アルバースはもう動くことのないジャックを見つめた。


「彼は操られていたんだ」

「そんなことが……」

「ああ、できるとも。黒魔術の中でも最悪の魔法がかけられている」

「吉川さんも……」


 僕の脳裏に最悪のビジョンが浮かんだ。


「そうなる前に助けないと!」

「待て!」


 アイさんが駆けて行こうとしたところを、アルバースが止めた。


「まずは時計塔に連絡しなければ。お嬢さん頼めるか?」

「わかった……」


 アルバースの言葉で、アイさんも正気に戻ったようだ。しかし、状況は最悪だった。辺りに気配を感じる。アルバースもそれに気付いていた。


「囲まれてるな」

「ど、どうしますか?」

「応援が来るまで持ち堪えるしかない。戦えるか?」

「やったことはないですけど……」


 アルバースは、僕の自信なさげな返答に微笑を浮かべた。


「やるしかない」

「……」

「君を信じている。君も自分を信じるんだ」

「やってみます」

「上等だ!」


 無数の黒煙が、僕たちを取り囲むようにして現れ、その中から黒いローブを着た魔術師たちが出てきた。

 

「やあ、アルバース」

「貴様は……」


 聞き覚えのある透き通った声。


「先輩に向かって貴様と言うはどうかと思うがね」

「アラン!!」

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