【第25話】選択

 僕は、時計塔の隅で丸くなっていた。理由は不明のままだが、原因を作ったのは僕のせいなのだ。


「落ち込んでいる暇はないぞ」

「ソルボン……」

「この事態を乗り越えるには、どうしても君の力が必要だ」

「でも、僕のせいで……」

「自惚れるでない、若き黒魔術師よ」

「……」

「君の力は既に開花している。あとはそれをどう使うかだ」


 ソルボンは僕に手を差し伸べた。その手は僕にとって、とても遠く感じられた。


「諸君、集まってくれ。新しい情報だ」


 ベンがそう言って、古地図を広げた。


「新しい情報とは、良い情報か?」

「良い情報とも、悪い情報とも取れる」


 ソルボンの問いに、曖昧に答えたベンだったが、何故か時ときを得え顔に振る舞っていた。


「奴らは霊魂を見つけ、その場所に着いた」

「なんだと?! 」

「落ち着けソルボン。話はここからだ。奴らが霊魂の封印場所に着いた時には、既に盗られた後だったのだ」

「盗られた?」

「ああ、間違いない」

「どこの野郎に盗られたんだ!」

「どこの誰かは不明だが、

「魔女……?」

「察しが良いなリュウキ。そう、女だ」

「その魔女はどこに行ったんですか?」


 ベンは、微笑を浮かべてから僕の問いに答えた。


「君の故郷だ」

「日本?!」

「君たちには、早急に帰郷してもらう」

「ちょっと待って!」


 それまで静かだったアイさんが、声を荒げた。


「吉川とジャックはどうするの?!」

「こちらで救出する」

「それは無理! ふたりの無事が確認できるまでは、帰れるわけないでしょ!」


 当然と言えば、当然の発言だった。


「しかし、霊魂のことを考えれば……」

「僕も……!」

「ん?」

「僕も、アイさんに賛成です」

「リュウキくん……」

「僕は、付き合いはアイさんほど長くないですけど、一緒にいた仲間なんです!」

「……」


 ベンは、困り果てた様にソルボンに目をやった。


「どうして私を見るのだ? ベン」

「君はどう思う?」

「霊魂を最優先にするのが時計塔の、いや、世界平和の為だ。しかし、今の私はリュウキの使い魔に過ぎん。リュウキの考えに同意する他ない」

「そうか……」


 会議は一時中断となり、吉川とジャックの救出に向けて、作戦を練り直す事となった。


「ありがとう、ソルボン」

「礼を言われるほどではない。君の決定に従ったまでだ」


 僕たち3人は、腹ごしらえをするためにロンドンの街に出向いていた。側から見れば、観光に来た、ただのジャパニーズと言ったところだが、せっかくイギリスまで来たのだから、少しは満喫したいと思うのは普通だろう。


「リュウキくん……」


 ひとり、俯いたまま歩いていたアイさんが立ち止まった。


「どうしたんですか?」

「ごめんなさい、私……私っ……!」

「もう気にしないで下さい」

「……」


 涙を目に溜めたまま見つめられては、怒る気にもなれなかった。そもそも、怒る気なんてなかったし。


「とりあえず、今は食べよう」

「ソルボンの言う通りですよアイさん! 腹は減っては戦はできぬです!」

「そうね……ありがとう」


 ロンドンの料理は、思ったより美味しくなかった。

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