【第24話】盲目

「アイさん! ソルボン!」

「う、ううん……」


 どうやら、2人とも気を失っているだけのようだ。


「私としたことが……」

「ソルボン!」

「私は大丈夫だ」

「良かった」

「リュウキ……くん?」

「アイさん!」

「吉川は……?」

「吉川さんも、ジャックも、アランすらも居ません……」

「っ……!」


 アイさんは唇を噛んだ。


「探しに行かなきゃ……!」


 立ち上がろうとしたアイさんをソルボンが止めた。


「その身体で何が出来る?」

「うるさい! 私は、私は……!」

「まずは、時計塔に知らせよう。助けに行くのはそれからだ」

「くそッ!」


 ソルボンは、ゆっくりと立ち上がると、僕の肩に手を置いて静かに呟いた。


「私が時計塔に知らせよう。リュウキはこの娘を頼む」

「は、はい」


 薄らと笑みを浮かべ、部屋から出て行ったが、その目には、怒りが溢れていた。

 僕は、初めて見るソルボンの怒りに驚きを隠せぬまま、アイさんに肩を貸し、ソルボンの後を追って部屋を出た。


 ホテルの外には、爆発の影響で警察や消防の他にも人だかりができており、時計塔の魔術師も数人到着していた。


「ソルボン、大変だったな」

「仲間が2人、連れ去られた。急いで救助を要請したい」

「もちろんだ。だか、君たちの手当が先だろう。一旦時計塔に戻りたまえ」

「そんな時間はない。治癒なら自身で可能だ」

「焦る気持ちも分かるが、これはの命令なんだ」

「……」

「申し訳ないが、ここは従ってくれ」

「そうか……」


 

 僕たちは、時計塔に戻り、それぞれ手当てを受けた。


「いつ出れるんだい?」

「少し待ってくれ。議長が来ると連絡があった」

「必要は無い。彼に何が出来ると言うのだ? 」

「言葉を慎みたまえ、ソルボン」


 髭を蓄えた、黒色のローブを着た、見上げるほどの大男。彼こそが、この時計塔の議長だ。


「やあ、旅人たちよ。ようこそロンドンへ」

「そんな流暢な事を言っている暇はない!」


 アイさんの怒りと焦りは、怒号となって彼の耳に入った。


「君が、アイだね? 焦る気持ちも分かるが、私も無能ではない。直ぐに敵陣へ向かったところで、全員死ぬだけだ」

「敵陣? 場所を知っているんですか?!」

「おお、君がリュウキだね。ソルボンから常々聞いていたよ。私の名前は、ビッグ・ベン。君の問いに答えよう。ああ、もちろんだとも」


 議長ベンはゆっくりとソファに腰掛け、僕の方をじっと見た。それから、微笑を浮かべると、姿勢を正すように座り直した。


「おほん。時計塔わたしの偵察によれば、奴らはアイルランドに拠点を構えているようだ。恐らく、そこに君たちのお仲間もいる」

「奴らから何かメッセージは? 」

「今のところ何もない。だが、霊魂までは辿り着いていないようだ」

「それで、どうするつもりだ? 」

「人手が要る。世界中に声をかけているが、集まり次第、行動する。話はそれからだ」


 僕たちは項垂れた。直ぐ2人を助け出せない悔しさは、皆同じのようだった。


 




 







 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る