【第20話】危険領域

 見事に悪神を封印することに成功したが、僕にはまだ引っかかる点があった。


「ソルボン?」

「なんだ」

「さっき言ってたのは何の事ですか? 」


 ソルボンは吉川を一瞥してから答えた。


「この魔術師は、悪神を君の中に封印しようとしていたんだ」

「え? 僕の中に?!」

「ああ、だから私は止めたのだよ」

「説明不足が過ぎるぞ、ソルボン」


 吉川は本棚から一冊取り出し、僕の前に置いた。


「昔々の話だが、ある黒魔術師が数百年もの間封印されていた悪神を復活させるための儀式を行おうとした。彼はその儀式を行うことで世界を破滅に導こうとしていたが、それを食い止めようと立ち上がった魔術師によって阻止された」

「その方法というのが、魔術師の中に悪神を封印して、その魔術師が殺されなければ、封印は解けないようにしたというのだ」

「そういうわけだな」

「じゃあ、これを狙ってる奴がいるって事ですか?」

「大正解!!」


 何だか分からないが、ものすごく怖くなってきた。下手をしたら死ぬかもしれない世界に踏み込んでしまった。でも、それは今までも同じだったのかもしれない。もし世界を破滅させるほどの力が解放されれば、魔法バイトをしていなくたって危険なことに変わりはない。要は知っているか、知らないかという問題だ。


「だから、怒らないでくれよ? 君の命は補償する。ソルボンとアイがね」

「アンタも補償しなさいよ! まあ、吉川は雑魚だから仕方ないか」

「黙れ」

「いでえ!!」

「オホン。とりあえず、コレの始末を考えよう」

「狙われているなら、どこかに隠した方が良いんじゃ?」

「いや、いずれにしろコレと同じものがあと3つ存在する」

「え……?」

「コレはではないんだ」


 吉川の話をまとめると、自身の中に封印した魔術師が死ぬ間際、弟子達に命じたと言う。

 

「私の中にある悪神はバラバラにしてから、それぞれ封印しなさい」


 師匠の最後の言葉通り、弟子達は悪神の霊魂をバラバラにし、それぞれを封印してから、2度と揃わないように世界各地へ散らした。

 世界の破滅は永遠に防がれた…はずだった。


「だがな、数百年経った今、それをひっくり返そうとしている輩がいる」

「ひとりじゃないんですか?」

「違うな」

「何人です?」

大勢おおぜいだよ」

「その人達は、何個見つけてるんですか?」

「2つだ」


 僕は生唾を飲み込んだ。その集団は、4分の2を見つけていて、4分の1は僕の目の前にある。僕たちの命も、いつ狙われてもおかしくない状況にあった。


「さて、リュウキくん」

「は、はい」


 嫌な予感がする。


「連休は暇かね?」

「ま、まあ」

「それじゃあ、社員旅行だ!」

「僕、バイトですけど……」

「細かいことは気にするな」


 僕は察していた。社員旅行なんてとんでもない、残りひとつの霊魂を探しに行くのだと。

 

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