【第16話】宿題

「なんか、ごめんね」

「びっくりしたよ」

「ああいう人なんだよ」

「この前、一緒にいた人でしょ? 」

「え……」

「見えてたし」


 アカリは、頬をぷくっと膨らませて僕の方を見る。


「ご、ごめん」

「何で謝るの?」

「いや、勘違いさせたかなって……」

「ふうん」


 じっと見つめられた僕は、少々気恥ずかしくなって顔を逸らした。


「元気になった?」

「良くなってきたかも」

「良かった。じゃあそろそろ帰るね」

「え……」

「明日は学校来てね」

「う、うん」


 正直に寂しい、とは言えなかった。プライドがそうしたのか、いくじがないだけか。アカリの後ろ姿に、僕は手を振ることしかできなかった。


 僕の体調は快方に向かい、夜にはすっかり元気になっていた。アイさんにもらったスポドリを飲みながら、ソルボンの木箱を触る。一見しただけでは魔術がかかっているとは分からないが、触ってみると確かに魔術がかかっている。


「わからん」


 大きめの独り言を発し、木箱を投げる。魔術を解くには、逆説的に箱の中身を理解できなければかなり難しい。

 ソルボンは中に何を入れたのか。あるいは、何も入れてないのか。結局答えは出ないまま、この日は眠った。


 朝になると、熱も完全に引いたので学校に行った。授業中、木箱をずっと弄っていると、隣のアカリが興味深そうに見ていることに気づいた。


「なにそれ? 」

「ああ、パズルみたいなやつなんだけど全然開かないんだよね」

「へえ! ちょっと貸して」

「いいよ」


 アカリに木箱を渡して、数秒後だった。


「開いたよ」

「え?! 」


 驚いて木箱を見ると、確かに開いている。


「どうやったの? 」

「なんか、触ってたら開いた」


 アカリは、自慢げに笑って木箱を僕に渡した。中には何も入っていないが、どうやって開けたのか僕には全くわからなかった。


「水口くんって……」

「ん? 」

「ううん、何でもないよ」


 アカリは、どこか意味ありげな微笑を浮かべた後、授業に戻った。


(まさか……いや、そんなわけないか)


 今日も授業を終えて、バイトに向かった。


「え?! 一日で開けたの?! 」

「あ、はい。でも……」

「凄い! 」


 目をキラキラさせたアイさんを見ると、本当の事は言えなかった。


「なるほど、どう思うかな? 」

「ほう? これは……」


 吉川とソルボンは気づいているようだった。


「君の友人は素晴らしいな」

「もしかして……」

「いや、本人にその自覚はないだろう。だが、間違いなくだ」

「……」

(まさか、本当にアカリが……)

「それは何の顔だ? 」


 ソルボンが僕の顔を覗く。僕は、悲しいわけでも、嬉しいわけでもない。魔法使いとして負けたような気がして、複雑な気分だった。


「よし、彼女のことは調べておこう。彼女の起源や性質もわかるだろうからな」

「はい」

「とりあえず、今日は木箱コレを自力で開けられるようになるまで帰れないぞ」

「えぇ……」


 僕は項垂れたが、すぐに負けたくない、という気持ちに切り替わり、木箱を受け取った。



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