【第15話】多感な時期

「もしもーし?」

「もしもし、リュウキですけど…… 朝から熱が出たので、今日のバイトお休みさせてください」

「まじ?! 大丈夫?」

「薬は飲んだので、寝ていれば大丈夫だと思います」

「わかった。ゆっくり休んでね」

「はい、ありがとうございます」


 しかし、なかなか熱は下がらず、それどころか悪化しているような気がした。当然、両親も仕事中のため、看病してくれる人はいない。そんな矢先、インターホンが鳴った。布団を引き摺りながら、モニターの前まで行くと、映っていたのはなんと制服姿のアカリだった。


「はあい」

「あ! ごめんね、体調悪いのに」

「良いよ、どうしたの?」

「あ、今日の授業のやつ……」

「ありがとう、今開けるから」


 精一杯の力を出して玄関へ行き、扉を開けた。多少ふらつくが、アカリに弱々しいところは見せられない。


「ありがとう、わざわざごめんね」

「ううん、それより大丈夫なの?」

「ちょっと熱が出ただけだよ」

「そっか、ご飯食べた?」

「薬は飲んだよ」


 段々と立っているのも辛くなってきた。


「ええ、ちゃんと食べなよ?」

「う、うん……」

「はいこれ」

「ありが……」

「ああ!!」


 僕は、必死に耐えていたが、とうとう倒れてしまった。倒れた時に、アカリが支えてくれたところまでは覚えているが、その後の記憶は全くない。目を開けると、ソファに寝ていた。


「起きた! 大丈夫?」

「ああ、ごめんね……」

「良かったあ」

「ここまで運んでくれたの?」

「うん……本当は布団に連れて行こうとしたんだけど、部屋がどこかもわからないし、勝手に入ったらまずいかなって……」

「そっか、ありがとう」


 アカリの看病のおかげで、何とか回復し、アカリに支えられながらではあるが、自分の部屋まで行けた。だが、ここであることに気づく。思春期真っ盛りの高校生は困ったものだ。高熱を出したこの状況でも、を考えてしまうのだから。


「なんか本当にごめんね……」

「ううん、全然良いよ……」

「風邪移ると悪いよ」

「さっきの見たら心配で帰れないよ」

「そうだけど……」

「嫌なの……?」

「嫌なわけない!」


 咄嗟に出た言葉は、間違いなく本心だった。だが、この状況は色々ヤバい。


「じゃあ、もう少し良くなるまで居て良い? 」

「うん、ありがとう」

「良かった。こちらこそだよ」

「え?」

「水口くんと2人きりになれるなんて、そんなにないからさ……」


 ヤバい、僕の心臓が警報を鳴らしている。人間は、体温が42度を超えると死ぬらしいが、恐らく今僕の体温はそれ以上になっているだろう。

 アカリは、頬を赤らめながら僕にゆっくりと近づく。2人の唇が触れるか触れないかのところでインターホンが響く。


「あっ……」

「……ちょっと待っててね」


 リビングに向かうアカリの後ろ姿を見て、思わず安堵している自分がいた。

 玄関先からは、何やら聞き覚えのある声がする。嫌な予感、というよりな予感がした。


「リュウキくんのバイト先のものでえす!」

「ちょ、ちょっと!」

「彼女ちゃん、ごめんね邪魔しちゃって」


 ここまでズカズカ入ってくるのは一人しか居ない。


「アイさん……」

「やあやあ、元気そうじゃないか」

「どうして……」

「頼まれたんだから仕方ないだろう? 」

「吉川さんですか?」

「いいや、爺さんからだよ」


 ソルボンから頼まれたものというのは、手のひらサイズの木箱だった。先日、吉川がいじっていた物に酷似している。


「これは?」

「これを開けたまえ。とのことだ」

「開けるだけですか?」

「うん、だけどね……」


 アイさんは、アカリに聞こえないように小声で話した。


「この木箱には、ソルボンの魔術がかかっている。自力で開けられたら大したものだよ」

「なるほど……」

「まあ、こんなところで失礼するよ」

「ありがとうございました」

「あ、後ね……」


 アイさんは、ゴソゴソと大きめのビニール袋を漁ると、2Lのスポーツドリンクをくれた。


「じゃあね!」

「ありがとうございました」


 お使いを終えたアイさんは、颯爽と去っていった。



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