【第13話】伝説

「黒色になりましたけど……」

「ああ、なったな」

「信じられん…まさか、これ程とは……」


 吉川は微笑を浮かべているが、ソルボンは驚きを隠しきれていない。


「あの、僕の性質って? 」

「ムッシュソルボン? 質問だぞ」

「あ、ああ…黒色は、変身術と織物魔術タペストリーに長けている者の証だ。」

「変身術は、文字通り自在に姿を変えられる魔法で、織物魔術というのは、糸を操って創作クリエイションする魔法だな。」

「な、なるほど」


 2人の説明を聞いたところで、僕にできるのか、という疑問は残っていたが、それよりもソルボンの動揺具合が気になった。


「ソルボン? どうしてそんなに難しい顔をしているんです?」

「いや、大した事ではない……」

「ソルボンが渋っているので、俺が説明しよう」


 吉川は本棚から一冊手に取ると、僕に差し出した。分厚いその本の表紙には、『ギリシア神話』と書かれている。正確には、日本語ではないが、この時の僕には分かった。


「これがヒントですか?」

「というか、正解が書いてある。恐らく、君の力はこの神話の登場人物に由来したものだろうからな」

「誰です……?」

「知っているかは分からんが」


 吉川はニヤッと口角を上げると、本に触れた。その瞬間、強風が吹いたように紙がめくられ、『変身物語』というページで止まった。


「ア…ラク…ネ……?」

「そう、変身術と織物魔術に由来しているのは、アラクネだけだ」

「これは、かなり強い性質だ。魔法を始めるには厄介だ」

「しかし、ソルボンよ。この魔法使いは、貴方の力を持ってすれば最強の魔法使いにできる。全盛期の貴方さえ凌ぐかもしれない」

「そこまでの責任は取れん……」

「いや、気付いていたはずだ。彼の魔術を見ていただろう? 訓練もされていない者が、あれほどまでに強い黒魔術クモを扱えたんだ。彼はだ」


 2人の会話は、僕にはよく分からなが、やはり、校門での出来事は、僕がした事に違いはないらしい。

 

「少し……考えさせてくれるか?」

「それは構いませんが、時間はそれ程ないですよ」

「ああ、分かっている」


 ソルボンが悩んでいる間、僕はについて調べていた。女神アテナに盾突いて、蜘蛛となった機織りの女性、アラクネについてだ。

 ここでの細かい説明は省くが、アラクネは、女神に楯突いたことで、蜘蛛にされ、一生醜い姿で糸を紡ぎ続けることになった。これがギリシア神話の変身物語だ。


「よし、やろう」


 ソルボンがようやく重い腰をあげた。どうやら、決心がついたようだ。

 

「君を一流の、いや、最強の魔法使いにして見せよう」

「よ、よろしくお願いします……」


 僕は、期待をされ過ぎると、嫌になるタイプなので、正直辞退したいところだった。しかし、彼らにはそんな言葉は通用しない。

 

 その日から、魔法の英才教育が始まった。

 ソルボンのスパルタ教育は、とてつもなく厳しいものだった。体力的に、というより精神的にキツかった。食事中の方もいるかも知れないので、あえてナニをどうしたのかは言わないが、とにかくキツかった。






 


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