【第12話】鍛錬と異質

「昨日の野球見た?!」

「いいや」

「え?! ファイ○ーズしか勝たんでしょ!!」

 

 今日は、かなり平和な会話を繰り広げている。アイさんは筋金入りの野球ファンらしいが、吉川は興味なさげに箱を弄っている。


「お! リュウキくんが来た!」

「お疲れ様です」

「やっと来たか、遅いぞ」

 

 ふと見ると、部屋の隅でソルボンが手招きをしているので、僕は荷物を置いてから、ソルボンの近くまで行った。


「やあ」

「こんにちは、ムッシュソルボン」

「Bonjour」

 

 僕は彼から差し出された手を握る。

 

「今日は、魔術…いや、魔法の練習だ」

「魔法の練習…ですか……」

「不安かな?」

「はい、とっても」

「不安になる必要は全く無い。君は、自分の力を過小評価している。そんな顔をしていたら、お祖父様じいさまが悲しむぞ」

「なんで祖父のことを知ってるんですか?」

「まぁ、それもじきに分かる。大切な事は自分を信じる事だ」


 そんなことを言われても、自分は平凡な人間だ。父と同じく、なんて無いんじゃないか。


「リュウキよ、今朝の事を思い出せ。君には特別な力があるんだ」

 

 確かに思い当たる節はあった。しかし、それでもまだ偶然としか思えない自分もいた。


「この世に偶然なんてものはない、全てが必然なのだよ。君が人類史に残す影響は、計り知れないものになるだろう。その事実を知った上で拒否するなら、それもまた、運命なのだろう」

 

 ソルボンの長々とした言葉は最早、やれと言っているようなものだった。拒否権などあり得ないだろうが、僕はソルボンに説得されたわけではない。自分と家族、アカリを守ることができたなら、それは僕にとってこの上ない希望だ。


「やります」

「そうか、それは良かった」

 

 ソルボンも安堵の表情を浮かべる。


「早速だが、君のを知りたい。」

「性質…? ですか?」

「ああ、コレを握ってくれるか」


 ソルボンから手渡されたのは、淡く赤色に光る石だった。とても綺麗に見えるが、それ以上に邪悪さを感じる石だ。


「これはただの石ではない。君の性質を感じ取ると、その色に変化する」

 

 僕とソルボンは、じっと石を見つめる。すると、赤い光を放っていた石はみるみる様々な色へと変化した。


「ほう、驚いたな」


 覗き込むようにして、吉川が石を見つめる。


「変…なんですか?」

「変ではないが、このまま一色にならず光り続けるようなら、非常に珍しい」

「他にいないということですか?」

「いや、1人だけ知っている……」

「どんな人です?」

「俺だ」

「さあ、もう良いだろう」

 

 ドヤ顔の吉川を他所に、石の色が変わらないと、ソルボンが石を取ろうとした瞬間、変わり続けていた石が黒い煙を出し始めた。


「なんだコレは…?!」

「こりゃ、驚いた」


 やがて煙は消え、禍々しく黒光りした石が、僕の手の中で熱くなってた。



 





 

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