【第11話】開花

「おはよう! これ……」


 アカリは、どこか気恥ずかしそうではあるが、満開の笑顔で僕に花柄のお弁当を手渡した。 


「ありがとう」


 僕は熱くなった頬を隠しながらそれを受け取った。アカリと並んで歩く学校への道は、2人とも何を話していたわけではないが、間違いなく甘酸っぱい青春の一コマだった。登校がこんなに楽しいと思った事は、今までに一回たりともない。そんな、楽しい時間は非常にも、すぐに終わってしまった。


「おい、ちょっと待てよ」


 僕らに声をかけたのは、キムタクではなく、昨日のヤンキー6人組だった。あの時の事を憶えているのか否かは定かではない。しかし今の彼らにはなにも付いていない。


「仲良く登校かよ」

「今日も愛妻弁当か?」

「調子乗ってんじゃねぇぞ」


 口々に放たれる、嫉妬と憎悪の弾丸は、僕たちにはもう効かない。

「なんか用?」

「は? ちょっと来いよ」


 無理やり腕を掴まれそうになって、咄嗟に振り解いた僕の手は、ヤンキーくんの身体に当たってしまった。


「痛ぇんだよ!」

「やんのかテメェ」


 どう考えても痛くない。これで痛いと言ったなら、彼は。そんな事を考えていると、校門の前にも関わらず、怒り狂ったヤンキーたちが殴りかかってきた。


「もうやめて! しつこい!」


 それを見ていたアカリが、僕とヤンキーくんの間に立つ。


「邪魔だ! どけ!」

「あ……」


 ヤンキーたちは、お構いなく突き飛ばした。呆気なく倒れ込むアカリを見て、彼らの動きも止まる。


「アカリ! 大丈夫?!」

「う、うん……」


 アカリの膝に血が滲んでいるのを見た僕の怒りは、最高潮に達した。


「何してんだよ……」

「は? コイツが悪いんだろ」

「ふざけんな」


 込み上がる怒りはとどまる事を知らず、ヤンキー6人組に向いた。


 一瞬だった。何か、が僕の全身を覆ったその時、1人のヤンキーに異変が起こった。


「うわあああ! なんだ! やめろ、来るな!!」

「何してんだよ! 何が来るって?!」


 他の人間には見えていない様だったが、僕には見えていた。彼の全身に、おびただしい数の蜘蛛が這い上がって来るのを。


「助けてくれぇ! 誰か!」


 側から見ると、何も起こっていないのに叫んでいる彼の姿は、恐怖すら覚える様だ。止める術も分からないし、当然の報いだと思った僕は、アカリの手を引き、教室へと向かった。


 教室へ入った僕たちは、繋がれた手を離すと、席についた。

「ねぇ……?」

「ん?」


 嫌な予感がする。


「ううん、なんでもない」

「そっか……」


 良かった。何かの間違いで、アカリにも見えていたとしたら、それこそ非常事態だ。




 いつも通り、授業はつつがなく終了した。後から聞いた話だが、結局あのヤンキーくんは落ち着きを取り戻したものの、恐怖が拭いきれず、保健室で震えていたらしい。


「今日、一緒に帰らない?」

「ああ……」

「嫌だよね! ごめんごめん!」


 嫌なわけがない。が、バイトの時間が迫っている。悲しい表情を浮かべるアカリを見ると、なんだか僕も悲しくなってくる。


「嫌じゃないよ!! 実はこれからバイトなんだ……」

「そっか……じゃあしょうがないね」

 

 校門でアカリと別れ、あのビルへ向かう。


(今日は何が起こるのかな……)


 夕暮れの空を見上げると、アカリと帰れない寂しさと、バイトへの期待感と不安が同時に襲ってきた。


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 ご覧頂きありがとうございます😊

 本日は曇っていて、寒かったので一本のみです!!

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それでは。

 

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