【第10話】最後の団欒

 (まさか、誕生日だから?)


 家に着いた僕は玄関を見て驚いた。まだ18時にもなっていないのに両親の靴があるのだ。リビングにも灯りが漏れている。


 いや、それは無いだろう。去年も一昨年も、僕の誕生日を忘れて仕事をしていた両親だ。

 期待はせずにリビングの扉を開けると、母は料理を作り、父と楽しそうに話している。こんな光景が見れたのは、3年ぶり、いやもっとかも知れない。それくらい前に見た懐かしい家族の風景だった。


「あっ、お帰り!」

「おお、帰ってきたか。遅いぞ」

「私たちが言えたことじゃ無いでしょ」

「それもそうだな。はい、これ」

 そう言って父は僕にたすきをかけた。

「何これ?」

「今日の主役はお前だからな。」


 確かに、襷には『本日の主役』とプリントされている。

(まさか、本当に誕生日を覚えててくれた……?)


「いつも1人にして、すまんな」

「ごめんね、リュウキ」


 必死に耐えていた僕の努力も虚しく、両親の言葉に涙が溢れた。


「さ! ご飯できたよ!」

「ケーキもあるぞ!!」


 こうして家族団欒で食事をするのは、普通の家庭では日常だろうが、僕にとっては非日常だ。最高に幸せなひと時だった。

 母の作るハンバーグとポテトサラダ、父の買ってきてくれたチョコケーキは、僕の大好物だ。


 ひと通り食事を済ませ、3人でケーキを食べながら、僕はバイトの話をした。もちろん全てでは無いが、両親は興味深そうに聞いてくれた。


「いいじゃない! 楽しそうね!」

「ああ、青春だなぁ」


 父のビールが進んだところで、僕は思い切った質問を投げかけた。


「バイトとは関係ないんだけど、2人はって信じる……?」

 笑って流されるだろうと思ったが、両親は顔を見合わせてから、少し困ったような表情を浮かべた。


「なんでそんなことを聞くんだ?」

「いや、なんとなくだけど……」

「あなた、そろそろ話しても良いんじゃない?」

「そうだなぁ……」


 父はコップに入ったビールを飲み干すと、僕の目をまっすぐ見つめてから話し始めた。


「実はな、リュウキのお爺ちゃん、つまり俺のお父さんは、魔法使いだったんだ」


 衝撃的な事実に僕は耳を疑った。


「え?! じゃあ、お父さんも?」

「いや、俺には魔法センスが無かった。でも、弟にはあった」

「え、僕の叔父さんってこと?」

「そうなるな。彼の名前は、小鳥遊たかなし 弥生やよい。その界隈では有名な魔法使いだったらしい」

「だった……?」

「ああ、亡くなったんだ。に殺された」

「なにかって?」

「分からない。残っていたのは右腕だけだったからな」

「あなた、もうそのくらいで……」

「だからリュウキにはその事を伝えていなかった。どうして魔法の事を聞いたのかは分からないが、には関わらないでくれ。お願いだ」


 生まれて初めて父に頭を下げられた僕の頭の中は、ぐちゃぐちゃになっていた。初めて聞いた祖父、叔父の存在と、その2人が魔法使いだったことを一気に聞けば混乱しない方がおかしい。


「分かったよ、分かったから頭を上げて。」

「ありがとう。すまんなせっかくの誕生日に変な話をして……ちょっと酔っ払ったみたいだ。もう寝るよ」


 そう言って、父は自分の部屋へと入った。


「お母さんは知ってたの…?」

「ええ、知っていたし信じているわ。でも、約束してくれるなら私は止めないわ」

「約束って?」

「何があっても必ず帰ってくること。それが守れるなら、リュウキのやりたい事を応援するわ」

「ありがとう、お母さん」


 色んなことが起きた一日だった。でも、充実していた。日常の中の非日常は一旦終わりを告げ、僕はそっと目を閉じる。


(明日も学校か……)


 非日常の中の日常はゆっくりと、でも確実に昇ってくる。


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ご覧頂きありがとうございました!

 今日も良い天気でしたので2話更新しました(´ε` )

 それでは、明日も良い1日を。

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