【第9話】誕生

 そんなこんなで偉人と契約を交わした僕だったが、それでも不安要素はまだあった。


「あの、さっき言っていたこれから起きる災難って何ですか?」

「信じられないと思うが、一年以内に悪魔や魔法使いによる無差別殺人が起こる」

「無差別殺人?!」

「魔法使いは、一般の人間に魔術を見せる事、行使することを法律で禁じられている。今までは魔法なんてものは存在しないことになっていた。それは、魔法や妖の類はこの世にあってはならないという、人類の身勝手な考えがそうさせたんだ。」


 柄にもなく怒りの感情を露わにした吉川だったが、僕はまだ信じられなかった。


「それだったら、魔法使いがいるということを公にすればいいんじゃ無いですか? 人間はその事実を受け入れられると思う。僕が実際にそうなってるじゃないですか」


 それを聞いたソルボンがコーヒーを机に置いてから口を開いた。


「人間という生き物は、1人ならまだ良いが、集団になると簡単には受け入れられないんだ。それに、君は特別だ」

「特別って……?」

「それは……」


 ソルボンが答えようとした瞬間、アイさんが遮った。


「まあまあまあ! 要は難しいってことよ! リュウキくんは魔女裁判って知ってる?」

「はい、知っています。虐殺に近いアレですよね」

「近いというか虐殺だよねえ。アレが起きた頃、魔法使いや魔女と言われた人は、全員殺されたの。もちろん本物の魔法使いもね。あの事件から、人間と魔法使いは相容れないものとなっていったの。それが400年以上経った今でも続いてるってわけだね」


 僕には全く理解できなかった。仕方ないこと、でまとめてしまってはこれからもずっと魔法使いは隅に追いやられることになる。


「まあ、人間と魔術に関しては我々が気にする事ではない。時計塔が試行錯誤しているところだからな。それより、悲劇を止めることが最優先だ。」

「貴方の言う通りだソルボン。しかし、今日のところは解散としよう。今日は特別な日だからな、リュウキくん」

「え?何のことですか?」

「全く君は、自分の誕生日も忘れたのか?」

「あ、そう言えば……」

「今日はもう帰りなさい。も終わったところだしな。」


 僕は不服そうなソルボンを見て、気掛かりなことを投げかけた。


「あの、ソルボンさんはずっと僕に憑いて来るんですか?」

「そうさなあ。ニッポンという国を満喫したいところだからなあ」


 やっぱりそうなるよな。普通の私生活ならまだしも、学校にまで来られるとかなり迷惑だ。


「何を言っているんだソルボン?」

「何かな? 魔術師の青年」

「貴方のその力は、リュウキくんの魔術ではないだろう。貴方自身で相当の魔力を溜め込んでいるんじゃないか?」

「ほう? なぜそう言い切れる?」

「いくら契約を交わしたとはいえ、貴方ほどの魔法使いを操るとなると、リュウキくんの魔力では力不足だ。それに、貴方は……」

「そこまでで結構。その通りだ。私は私で自由に動ける。リュウキと言ったか?」

「は、はい」

「私と君はずっと一緒なわけではないから安心したまえ」


 すっと肩の力が抜けた気がした。良かった。こんな人を連れ回していたら、僕にとっては大事件だ。僕は3人の魔法使いに見送られ帰宅した。


(あれ? 僕の誕生日……なぜ知ってるんだ?)

 

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