【第7話】出会い

 事務所に着いたが、吉川は呑気にコーヒーをたしなんでいる。


「あの……」

「ん? どうした?」

「いや、大仕事あるんじゃないんですか?」

「ああ、あるよ」

「それにしては、のんびりじゃないですか?」

「まぁまぁ、コーヒー飲んで待ってて。もう少しで来るからさ」

「は、はぁ」


 僕がコーヒーに口を付けると、外から声がした。


「誰かぁ! 助けてぇ!!」

「来たな。手伝ってやってくれ」

「は、はい」

 

 外に出て声の主を探すと、階段下から何やら不気味なうめき声がした。 恐る恐る、壁越しに見ると、大きな段ボールを持ったアイがいた。


「はぁはぁ、手伝ってぇ!」

「あ、はい!」


 2人で段ボールを持ちながら、階段を登って行くが、これがかなり重い。呻き声が出るのも納得だ。


「はぁ、やっと着いた。ありがとね」


 やっとの思いで事務所の中に運び込んだ。うっすら汗が滲んだアイは、僕にお礼を言うと、吉川を睨みつける。


「おい、おっさんよぉ! 女の子に持たせる重さじゃねぇぞコレ!!」

「ああ、悪かった。アイスを買ってあるから2人で食べなさい」

「え! アイス!」

 

 まるでボールを投げられた子犬のように冷蔵庫に走るアイ。扱いに慣れてるというか単純過ぎだ。


「さて、コレが今日の大仕事だ」

「コレですか??」

「ああ、開けてみると良い」

「危険じゃないですか?」

「別に爆発はせんよ」


 ゴクリと唾を飲み込み、段ボールの梱包を開けると、更に段ボールが入っている。その段ボールを開けると、今度は金庫が出てきた。


(アイさんひとりに金庫を持たせてたのか、この人は……)

「よし、金庫を開けよう。ここからは彼女の出番だ」

「ほいさっ!!」

 

 アイがアイスを咥えながら、金庫に手を触れる。すると、触ってもいないダイヤルがクルクルと周り、10秒もしない内に金庫はカチッと音を立てた。


「完了!」

「よくやった」


 吉川はそう言うと、ドヤ顔のアイさんの頭を撫でた。


「開けようか」


 吉川がゆっくりと金庫の扉を開ける。中には、何か恐ろしいものが入っている様な嫌な予感がする。僕の心拍数は急激に上がっていた。しかし、中に入っていたのは年季が入った男の子の人形だった。拍子抜けした僕が人形を取ろうと手を伸ばすと、吉川にその手を掴まれた。


「まだ触らない方が良い」

「ただの人形じゃないんですか?」

「ただの人形を金庫に入れる奴がいるか?」

「確かに……」

「これは呪物と言って、文字通りだ」


 その言葉を聞いた瞬間、寒気が僕の全身を電流のように駆け巡った。呪いの人形そんなモノがこの世に、本当にあるなんて信じられない。が、目の前にあるは間違いなくホンモノだ。


「これ、どうするんですか?」

「うちで預かる。というか、処分できない」

「こんなモノ置いておくんですか?!」

「預かってくれ、っていう依頼なんだよねん。しょうがない、しょうがない」

「友達にならなければ3人とも死ぬかもな」

「それヤバぁい!」


 呑気に笑っている2人を見ていると、なぜか不安感が薄れる。


「人形と友達になれるんですか?」

「さあな」

「真面目に!」

「大きい声を出さないでくれ。人形が怒るだろう」

「怒るって、え……」


 僕は目を疑った。


「ん? どしたの? リュウキくん?」

「いや、今人形が!」

「笑っていたな」


 吉川は、クククと不気味に笑ってから、立ち上がって拍手を始めた。人形の呪いかとも思ったが、違ったようだ。


「おめでとう! 人形コレは君のものだ!」

「え、要らないですよ!」

「そういうことか!」

 

 アイまで立ち上がって、目をキラキラさせ始めた。なんなんだこの人達は。


「そうやって、僕に押し付けようとしてませんか?」

「そんなわけないだろ」


 吉川は、微笑を浮かべながら、ソファに腰掛けた。


「君は選ばれたんだ。もうそれは君のものだ」

「選ばれたって……人形に?」

「人形に」

「そんなわけ……」

「「私じゃ不満か?」」


 吉川でもない、アイさんでもない、もちろん僕でもない声が聞こえた。


「い、いま……!」

「喋ったな」


 こりゃ、大変なことになりそうだ。






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