【第6話】奪還
「お前ってさ」
この切り出し方は怖い。嫌な予感がする。
「お前って、アカリと付き合ってるん?」
「付き合ってないよ」
僕はクライスメイトの質問をポーカーフェイスで逃げた。というか、本当に付き合ってはいないので逃げるも何もないのだが。
「いや、弁当作ってもらったんじゃねえの? これアカリのじゃん?」
さながら名探偵のような洞察力で、弁当の入った袋を指差して問い詰めた。
「今日は自分で作ったんだよ。いつも購買のパンだけだと味気ないからな」
「じゃあ袋はたまたま一緒だったってこと?」
「そうだな」
「嘘つくなよ」
「え?」
「お前の家の前でアカリがお前に弁当を渡すところ見たやつがいるんだよ」
そういうことは最初から言ってほしい。刑事に問い詰められる犯人の気持ちはこんな感じだろうか。
「誤解されると思って……本当に付き合ってはいないんだ」
「ふん。嘘ついたやつの言葉なんか信じられるかよ」
「本当だよ」
「じゃあ、俺がアカリと付き合っても良いってことか?」
「好きにすれば良いんじゃないか?」
「だってよ」
最悪だ。名探偵と刑事の後ろには、涙目のアカリが立っていた。
(はあ、帰りて)
「私……」
「かわいそうにな。俺ならアカリのことそんな気持ちにさせないぜ」
僕も悪いが、奴らが言わなければこんな事にはなっていない。アカリを泣かせた真犯人は、お前だ!なんて言える立場でもなく、僕は俯いた。
(これは流石に嫌われたな)
「アカリ、こんなやつ放ってあっち行こうぜ」
「私、水口くんが好き」
「え」
そこに居たアカリ以外の声が完全にかぶった。
「だからリュウキが好きなの! だからもう構わないで!」
全く予想外だったのは、僕だけではなかった。この3年間で初めて名前で、しかも呼び捨てで呼ばれた僕は、心臓が飛び出す寸前まで膨張した。
「な、何でだよ、こんな奴……」
「構わないでってば!」
涙目で睨みつけられた男達の心は、儚く散っていった。
隣に座ったアカリは、未だに涙を浮かべている。
(気まず過ぎる……帰りたい)
確かにアカリは可愛い。しかし、好きかと言われると分からない。
「あのさ……」
「ん……?」
僕は、沈黙を破ったアカリの方を向く。アカリは、一瞬目を逸らしたが、ジッと僕の目を見て続けた。
「お弁当、食べてくれる……?」
「うん。もちろんだよ」
「本当?! 良かった!」
涙を拭ってから、笑顔を向けられた僕の胸は張り裂けそうになった。
「りゅ……水口くんに好きなってもらえるように頑張るから!」
「う、うん」
窓から見える紅葉が、校庭を綺麗に染めていた。
今日は教室でお昼を済ませた。弁当を食べている僕を、アカリは嬉しそうにチラチラと見ていた。チラチラ見ているのは他にも居たが、僕は全く気にしなかった。
「美味しかった。ありがとう」
アカリは何も言わず、頬を赤らめていた。
授業が終わり、バイトに向かおうと思っていた矢先、奴らが近づいてきた。
「ちょっと、ツラ貸せよ」
こいつは恐らく、ヤンキー漫画の見過ぎだ。まあ高校3年生のこの時期はこんなもんだ。
(めんどくせ)
僕は渋々ついて行く。体育館裏に連れて行かれるものだと思っていたが、着いたのはいつも通る土手だった。
「お前さ、調子に乗ってんじゃねえの?」
でかい男たちに囲まれ、ヤンキー構文を投げかけられる。空手で鍛えられたとはいえ、流石に6対1は勝てる気がしないし、勝てたとしても暴力を振るえば、内申点にかなりのダメージを追う。ここは、何もしないのが得策だ。
「アカリを返せ!」
「は?」
思わず吹き出してしまった。
「何笑ってんだよ!」
「ふざけてんじゃねえぞ!」
ヤンキー君たちが口々に怒鳴ってから、一斉に殴りかかってきたその瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おおい。早く来いよお」
吉川だった。そういえば、彼と出会ったのもこの場所だった。よく通る道なのだろうか。
「誰だよ、おっさん」
「邪魔だ。どっか行かねえと痛い目みるぞ」
「お兄さんだろう?」
飄々とした細身の男に、こいつらがビビるはずもなく、吉川に標準を合わせた。
「どっか行けって言ってんだろ!」
「あ!!」
殴られる寸前、吉川が指を刺した。
「ちょっと待てって、兄ちゃんたち
「あ?! そんなわけ……ああ!!」
吉川の言う通り、ヤンキー全員の尻に豚の尻尾が付いていた。いや、生えていた。混乱するヤンキー6人組を横目に、吉川は爆笑しながら、僕に向かって手招きをする。僕は、吉川とその場を後にした。
「さっきのは、あなたの仕業ですか?」
「さあな」
吉川はまだ笑顔のままだ。
「そんなことより、今日は大仕事だぞ!!」
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