【第3話】初仕事
「さて、早速だが仕事の依頼が来ている」
「おお、来ましたか! 最近少なかったですからねぇ」
吉川はデスクに置いてあったA4紙をペラペラと見せつけ、アイは久しぶりの仕事の依頼に、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでいる。
「今回は割と簡単だ」
「おっけい。見学しとけば良い?」
「とりあえずな」
2人で勝手に話が進む。
「あの、僕は何をすれば良いんです?」
「リュウキ君は初めてだから私と見学!」
「見学、ですか」
見ているだけと言われてガッカリした。僕にもできることはある、と思う。まぁどこに行って何をするのかはまだ分からないが。
終始無言の吉川と、永遠に話し続けるアイさんに挟まれ、僕たちは真っ直ぐその場所に向かう。
「ここだ」
着いたのは大きな屋敷だった。周りは石垣で囲まれ、玄関と言っていいのか分からないほどの大きな門が構えられている。
(東京にこんな大きな家があるのか…。)
「ご連絡頂いた者です」
吉川がインターホンに向かってそう言うと、大きな門がググっと鈍い音を出しながら開いた。中へ進むと、これまた大きな庭が広がっていて、その中央には溜め池があった。先頭を歩いていた吉川がその池の淵に立ち、黒色の鞄の中から短い木の枝を取り出した。
「アイ、坊主の目を塞いでおけ」
「わかった! ちょっとごめんね」
アイの手が僕の目を覆った。
見せてくれない理由は分からないが、見ておけと言われていたのに目を塞がれるのは、些か心外である。
目を覆われているのでもちろん何も見えないが、急に何の音も聞こえなくなった。そして、心なしか指の隙間から漏れていた光も段々と小さくなってくる。ここまでくると恐怖すら感じる。
「もう良いぞ」
「はい、痛くなかった? ごめんね?」
「大丈夫……です……?」
「驚いたか?」
「はい」
「あれ、案外驚いてないねぇ」
驚いているというか、呆然としている。つい先程までの景色とは程遠く、僕たちは今洞窟にいるのだから。
「じゃあ行こう」
「行こー!」
2人がスタスタと真っ暗な道を進む。僕も遅れて着いて行く。少しでも離れると背中が見えなくなるほどの暗さだ。
「ここは、何ですか?」
「何かと言われれば、洞窟だな」
「ここはねぇ、今日の現場だよっ」
「現場……? 何をするんですか?」
「
ニヤッと笑った吉川が、ゴツゴツとした岩肌に手を当てると、硬い岩が瞬きの間に崩れ始めた。
僕は、呆気に取られながらも崩れた岩の向こう側に目をやった。そこには鎖に繋がれた大きな皮の袋があった。その袋には、お札が何十枚も貼られ、まるで何かを封印しているように見えた。
「厄介だな」
「ちょっと! 依頼と全然違うじゃない!」
「全くだな。めんどくせぇ」
そんな会話を聞きながら、僕は寒気、いや悪寒を催していた。『普通の人間が見てはいけないもの』直感でそう感じた。
「これは、何なんですか……?」
震える身体を抑えながら、僕は尋ねた。
「ああ、これは所謂、悪霊とか妖怪とかの類だなぁ」
「最初からこんな所連れてくるなんて最悪! 大丈夫? 吐く?」
アイがそう言って僕の背中をさすってくれた。
「いえ、大丈夫です」
「上等だ。見たところ封印はまだ解かれていない。今日は2、3枚札を貼って様子を見る」
吉川は鞄からお札を取り出し、皮袋とその周辺の壁に貼ってから、呪文を唱え始めた。
「Stöðvaðu vonda djöfla.」
なにを言っているのかは全く分からない。しかし、コレが見せかけであるとは微塵も思わなかった。
それは何故か?
呪文を唱えている間、皮袋が微かに動いたからだ。
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