【第2話】日常

 学校はひたすらに眠い。昨晩は8時間近くも寝たのに、なぜこんなにも眠いのか不思議でならない。友達と言える友達も少なかったため、部活を引退した今となっては高校生活なんて消化試合でしかなかった。


「水口くんお昼だよ」


 可愛らしい声に起こされるのは嫌いじゃない。目を開けると学年のマドンナと名高い清水がいた。清水アカリは高校生活で3回クラス替えがあったにも関わらず毎回同じクラスになった唯一の女子だ。そのおかげかは知らないが、なぜか僕に懐いていた。

 クラスで僕は、彼女に全く興味がない、ということになっている。必要以上に僕に絡んでくるので、周りからの視線が痛過ぎる。僕の方から避けないと身が持たないのだ。しかし可愛いうえに性格も良かったら誰でも好きになるだろう。普通の男なら。


「ありがと」


 軽くお礼を言って背伸びをする。お弁当という言葉は僕の辞書には存在しないので、購買に行こうと立ち上がった。


「実は今日、水口くんのためにサンドイッチ作ってきた!」


 元気一杯の声はクラス中に響き渡った。周りからの嫉妬と憎悪の混ざった視線が痛い。例えではなく本当に痛かった。

 苦しむ僕に気づく事もなくキラキラとした目で僕を見つめ続ける彼女を押し退け購買に走った。購買でおにぎりを買って部室に行った。嫌いな部活のしかも汗臭い部室で食べるのは嫌だったが教室に戻って食べるのは流石にきつい。

 

 清水は可愛いし、性格も良い。おまけに僕に好印象のようだったが、空気を読めないというか天然なところがあった。

 その天然さが故に僕は今、監督に絡まれている。本当に勘弁して欲しい。監督を例えるなら『熱血拡声器付きゴリラ』と言ったところだろうか。良い人ではあるが、とにかく声がデカい。皆さんの人生で1番声が大きい人を思い出して欲しい。少なくともその3倍はうるさい。


「珍しいなお前が部室に来るなんて!!」


 珍しいどころか、昼休みに来るのは初めてなんだが。 

 午後の授業も寝た。別に眠くはなかったが、清水が泣きそうな顔で僕をチラチラと見ていたからとりあえず寝た。

 滞りなく授業が終わり、今日からバイトがある事を思い出し、少し元気が出た。

 

 昨日見た小汚いビルの3階につき扉を開ける。

 まだ2人とも来ていないようだったので所々破れた茶色のソファに腰掛け、事務所の中を見回した。今時珍しい大きな掛け時計とびっしりと詰め込まれた本棚の側にはデスクが一つ置かれており、その上には書類が2、3枚と年期の入ったコーヒーミルが置かれている。シンプルだがこういう部屋は嫌いじゃない。なんだかこう、モダンで良い。

 

 何の気もなしに整理された本棚を眺めた。よく見ると、英語表記の古本だらけで、暇つぶしに読むには向かないようだった。


「読んでもいいよ」


 僕が驚いて振り返ると、吉川がコンビニのコーヒーを片手に立っていた。コーヒーミルがあるのにコンビニで買うのか、とは思ったが流石に口に出すのはのは止めた。


「読まないのか?」

「英語は読めないので」


 あ、そう。と言って吉川がソファに腰掛けた瞬間、外階段をドタドタと登る音がした。部屋の扉が勢いよく開き、アイが飛び込んできた。


「俺、参上! 」

「あ、お疲れ様です」


 見覚えのある決めポーズと、聞き覚えのあるセリフを吐いたアイさんを僕たちは華麗にスルーした。

 

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