ついに暴露しちゃいました

 翌日の早朝。

 王都の通りが人々で賑わう前に、僕たちは苔の広場に戻ってきていた。


 勇者さまご一行や王さまたちと、もっと色々とお話をしていたかったんだけどね。

 でも、僕たちの予定はまだ半分しか終わっていない。

 それに、太陽が昇って王都の人通りが多くなると、お忍びの僕たちは実家から出られなくなっちゃうからね。

 そういうわけで、早々に実家を後にして戻ってきたわけだけど。


「ミストラル、おはよう」

「エルネア。それにセフィーナとマドリーヌも、おはよう」


 ミストラルは既に、苔の広場でスレイグスタ老のお世話をしていた。

 そして、ミストラルにお世話をしてもらっているスレイグスタ老は、とても疲れた表情です。

 原因は……


「ほほう、そこで私を見る度胸はあるのだな?」

「魔王もおはようございます!」


 まあ、考えるまでもないよね?


 セフィーナとマドリーヌは、甲斐甲斐しくもミストラルのお手伝いにしそしんでくれている。

 ということで、僕は巨人の魔王の相手かな?


「ええっと、狂淵魔王の国に行く仲間が増えましたよ! アームアード王国が誇る偉大な勇者のリステアと、その相棒のスラットンです!」

「くくくっ、其方は実に愉快だな。何処どこかへ赴けば、必ず皆の予想の斜め上の結果を持ち帰ってくる」

「気のせいですよ?」


 ミストラルとセフィーナとマドリーヌは、スレイグスタ老の鱗を磨きながら、昨日のお話をしているみたいだね。

 僕が緊張してしまったことや、その後の色々な話題のことを。


「其方も面白可笑しく報告をしろ。面白くなければ竜の森を焼き払う」

「ええいっ、この極悪な老婆め!」


 スレイグスタ老が牙を剥き出して威嚇いかくしているけど、巨人の魔王には全く通用していません。

 僕は、竜の森が焼き払われたら大変だと、昨日のお話を魔王に披露した。


「竜の森で、リステアとスラットンに会ったんです。そうそう、またリリィがなまけていたんですよ!」


 竜の森の騒動を話す僕。

 残念ながら、リリィは逃亡中で苔の広場にはいませんでした。

 あそこで素直に戻っていたら、スレイグスタ老にしかられていただろうからね。きっと、僕がこうしてお話しすることも想定済みで、ほとぼりが冷めるまで避難しているんだろうね。

 逃亡先は、まず間違いなく禁領の僕のお屋敷だ。


「それで、当初はリステアたちの協力を断っていたんですけどね? でもお嫁さんたちが、冒険しない勇者と相棒に何の価値があるんですか、と怒っちゃって」


 お嫁さんに頭が上がらないのは、どうやら僕だけではなかったらしい。

 僕の報告を、魔王は笑いながら聞いてくれた。

 お酒を飲みながら!


 早朝からお酒だなんて、さすがは魔王だよね!


「その後で、僕の挨拶だったんですけど……」


 ちょっと恥ずかしいお話。

 でも、包み隠さずに披露する。

 だって、昨夜のことを思考しただけで読まれちゃうんだから、口をつぐんでいても意味はないからね。

 それじゃあ、思想さえしないように意識するか、心を読まれない努力をすべきって?

 それは、無理っ!


「王さまたちに無事に挨拶ができたら、あとは久々の団欒だんらんになっちゃいました」


 僕の両親がいて、セフィーナのご両親もいて。更に勇者さまご一行が加われば、小さな宴会になるよね。






「エルネア君、竜人族から聞いたぞ。竜神様の御遣いとは、あの竜族たちでさえこうべを垂れるような、特別な地位なのだろう?」

「詳しく教えてくださいね? 竜神様にお仕えするということは、女神様の信徒ではなくなったのかしら?」


 王さまとセレイアさまからの質問に、僕は応えた。


「お義母かあさま、誤解ですよ? 竜神さまは、例えると全ての竜たちの母みたいな存在なんです。なので、竜族たちは竜神様をあがめる宗教を持っているわけじゃなくて、偉大なお母さんにあこがれていて、その御遣いである僕たちをうやまってくれているだけなんです」


 だから、実家の庭先に滞在している竜族たちは、僕たちの気配を感じているけど、お忍びの行動中という状況をおもんぱかって、大人しくしてくれている。

 そして、マドリーヌや僕が女神様への信仰心を捨てて竜神さまを新たに崇拝すうはいしているわけでもない。


 まあ、竜の神って言われちゃうと、人族だと創造の女神様と比較しちゃうのは仕方がないよね。

 でも神族だって自称「神」だけど、人族は誰も神族を崇めていないし、むしろ魔族と一緒で恐ろしい種族だとしか認識していない。

 そういうお話をすると、セレイアさまは納得してくれた。


「竜族は、いつかは竜神さまのもとに辿り着いて、自分の成した偉業を認めてもらいたい、と思っているんです。だから、高みを目指して日々を送っているし、竜神さまに認められた僕たちを一目置いてくれるんですよ」


 ただし、そこはやっぱり誇り高き竜族だからね。

 竜峰の最北端で遭遇した飛竜たちのように、竜神さまの御遣いであっても、隙を見せると襲われちゃう。


「へええ、奥深い話だな。高みへ至って、それでお終い。というものじゃないのか」


 と僕のお話に深く頷いてくれたのは、リステアだった。


「俺も、勇者としてアームアード王国や人々に尽くして満足して終わり、と思ってはいけないんだな?」

「リステアが野望を抱き始めちゃいましたよ、王さまっ!」

「ふうむ。エルネア君は、セレイアのことは「お義母さま」呼んでも、わしにを「お義父とおさま」とは呼んでくれないのだな?」

「そっちを心配していたんですか!?」


 仕方がありませんね。と僕が「お義父さま」と呼んだら、王さまは満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。

 僕は、歓喜する王さまに抱きつからながら思った。

 実は、ここ最近「お母さん」が増えて、セレイアさまをそう呼ぶことに抵抗がなかっただけですよ、と。

 僕の心境を知っているセフィーナとマドリーヌが笑っていた。


「しっかし、お前はどんどんと人外の存在になっていくな? 俺様はてっきり、リステアこそが人外の存在だとばかり思っていたんだけどよ?」

「あはははっ、人外すぎて寿命がなくなっちゃったしね?」

「っ!!?」


 ぽろり、と真実を口に出したら、スラットンの目が大きな点になって、石像のように固まった。

 ただし、固まったのはスラットンだけで、僕の両親やリステアやそのお嫁さんたち、そして王さまとセレイア様は普通だ。


「……ま、まさかスラットンだけは気づいていなかったのかな!?」

「いや、エルネアよ。俺たちだって、竜人族からそれっぽい話を聞いていなかったら知らなかったぞ?」

「というと?」


 今度は僕がリステアに質問する立場だね。

 リステアは、苦笑しながら教えてくれた。


「お前たちが金剛こんごう霧雨きりさめを討伐して竜峰の西に飛んで行った後に、竜人族から聞いたんだよ。竜神様の御遣いとなったお前たちは超常の存在となったから、寿命を超越してこれから何百年、何千年と竜神様にお仕えするんだとな」


 僕たちがみんなの前から姿を消して禁領で大人しくしていたのは、こうしたお話が広まった後に、しっかりと浸透するのを待つためだ。

 どうやら、僕たちの思惑は無事に進んでいるらしい。

 スラットン以外は!


「俺はなぁ、妖魔の王が空から出現した時に度肝を抜かれるほど驚いたんだ。だが、お前に掛かればまだ甘い認識だったな。まさか、竜神様は空を覆うほど巨大だったとは……。お前は知っていたのか? いつから竜神様の御遣いとなっていて、金剛の霧雨の討伐の協力を要請していたんだ?」


 僕はリステアの質問に、金剛の霧雨の討伐の裏話を披露した。


 実は、竜神さまの御遣いとなったのは、最初の結婚式の時。

 リステアたちも、実はその時に竜神さまを見ていたはずということ。

 近寄りがたい雰囲気ふんいきを纏っていた賓客ひんきゃくのなかで、角を生やした髪の長い女性こそが竜神さまが人に変化した姿だったと教えてあげたら、リステアだけでなくみんなが驚いていた。


「僕たちはその時に寿命を超越しちゃっていて。だから、セフィーナさんとマドリーヌさまには、僕たと同じ竜神さまの御遣いとなることが結婚の条件だと伝えていたんだよ」


 それこそが結婚の条件で、マドリーヌだけでなくセフィーナに課せられていた女神様の試練だったと話した。

 そして、その試練を克服するために僕たちが取った手段こそが、竜神さまをも巻き込んだ、あの大宣言だ。


「セフィーナさんとマドリーヌさまを巻き込んだ状態で『竜神さまの御遣い』だと宣言して、竜神さまを喚んだからね。後から、やっぱりセフィーナさんとマドリーヌさまだけは違いました、なんて言えないよね?」

「お、お前は……。とんでもない奴だなっ」


 竜族たちでさえ首を垂れて、であり母であるとうやまわれる竜神さまを利用した僕たちの大計画を知ったリステアたちが、スラットンのように目を点にして固まってしまった。

 僕とセフィーナとマドリーヌだけが、その光景に笑っていた。






「其方らのように、あれくらい飛んだ思考を持つ者でなければ、超越者どもには認められぬ」


 魔王は、僕の報告を聞きながら愉快そうに笑う。

 そして、お酒を飲む。


「それで、其方らは夜通し楽しく宴会を開いた後に戻ってきたわけか?」

「はい。あっ、もちろん、結婚の義のお話も進めてきましたよ。……進んだのかな?」

「なぜそこで疑問形になる?」


 魔王から勧められたお酒をやんわりと断りながら、続きを話す。






 僕は、リステアたちが正気に戻るのを待って、今後の予定を口にした。


「僕たちの結婚の儀は、平地で行おうと思っているんだ」


 竜峰や禁領だと、来場できない者たちが多すぎて、不満の声があがるだろうからね。

 だから、最初の結婚の儀と同じように、平地で開催したい。


 ちなみに。

 僕たちがアームアード王国やヨルテニトス王国などの「竜峰以東」のことを「平地」と言うのは、竜人族の人たちの影響だね。

 それと、もうひとつの余談。

 僕が会話で「セフィーナさん」と「マドリーヌさま」と昔のように言うのは、結婚前にご両親の前で呼び捨てにはできないからです!


「でも、今回の結婚の儀は……」

「その件に関しては、どうだろう? わしらに任せてはくれまいか?」


 僕が切り出すよりも前に、王さまが言ってくれた。


「其方らの結婚の儀、どうか其方に関わった者たちにゆだねてほしい。わしらは、エルネア君たちを讃え、祝したいのだよ」


 最初から、わかっていたよね。

 今回の結婚の儀は、僕たちの主催ではなくて、人族やみんなの手に委ねることになるってね。

 なので、僕たちは王さまの提案を素直に受け入れた。

 だけど、そこで王さまが少し残念そうに表情を曇らせる。


「実はな? エルネア君たちに相談もなく勝手ながらその話を進めていたのだが。どうやら、式場はヨルテニトス王国側になりそうなのだよ」

「そうなんですか?」


 結婚の儀の計画は委ねるとしても。

 式場が何処になるかまでは、僕たちも予想していなかった。

 また飛竜の狩場かな? なんて漠然ばくぜんと思っていたんだけど、どうやら違っていたみたいだね?


「その辺りは、向こうに行って聞きなさい。これから、今度は巫女頭様のご両親とヨルテニトス王国の大神殿へ挨拶に行くのだろう?」

「そうですね。会場が向こうになるというのでしたら、あっちで詳しく聞いてみます」






「ということで、約束通りに僕たちをヨルテニトス王国へ送ってくださいね?」


 と僕がお願いしたら、魔王は「魔族が素直に約束を守るとでも思ったのか?」と返されました!


「えええぇぇぇーっ! そんなっ!?」


 これには、僕だけでなくセフィーナやマドリーヌまで驚いてしまう。

 そして、スレイグスタ老のお世話の手を止めて、抗議するようにこちらへ集合してきた。

 魔王は、そんな僕らを見て笑いながら、瞳を邪悪に光らせたのだった!

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