古代遺跡の探索
覚えている。あの時は聞き流されたけど。
シャルロットは言ったよね。
ミシェルさんたちは、古代遺跡から帰るだろうって。
「つまり。禁領の
「あらあらまあまあ」
「どうなんだろうね? アーダさんや魔女さんは、古代遺跡を封印していたように思えるんだけど。その古代遺跡が禁領にあったことを、アーダさんたちは気づいていたのかな? ……というかね?」
僕は、並んで森を歩くルイセイネに迷うことなく言った。
「僕はてっきり、次に抜け駆けをするのはライラだと思っていたよ?」
きっと今頃は、お屋敷でライラが
でも、ミストラルの次に僕争奪戦を勝ち抜いたのがルイセイネだったということに、驚きはないよね。
ルイセイネは、清く正しい戦巫女さまだけど、好奇心は人一倍旺盛だから、僕が「古代遺跡の調査に行ってくるね」と言えば、
「ふふふ。今回はライラさんに譲ってもらいました」
「ライラが譲ってくれたの!?」
「わたくしも驚きました。ですが、ライラさんには何やら計画があるようでしたので、今回はわたくしが」
珍しいこともあるもんだね? と、ルイセイネと笑い合い、二人っきりで禁領の深い樹海を進む。
さて。それでは振り返ってみよう。
僕がお屋敷に戻ってきて。
もちろん、僕とミストラルはみんなから問い詰められた。
だけど、非難はされない。それがイース家の仲の良い取り決めだからね。
そして、みんなから
でも、楽しいことばかりで日々が過ぎていくわけじゃない。
僕は、ある
それは、古代遺跡のことだ。
北の海の先の小島から、ミシェルさんたちを送った時。
転移魔法を使ったシャルロットが、ぽろっと恐ろしいことを言ったんだよね。
ミシェルさんたちなら、古代遺跡を利用して自力で聖域に帰ることができるだろう、と。
古代遺跡。
妖精魔王クシャリラ。その配下であった魔将軍、死霊使いゴルドバが、古代遺跡の転移を利用して、竜峰北部からヨルテニトス王国の東部へと、死霊の大軍勢を送り込んできたんだ。
その時は、みんなの協力で撃退できたけど。
でも、その後。どうやって転移してきたのかと、ヨルテニトス王国の東部にあった古代遺跡へ調査に行ったセフィーナが、今度は竜峰へと飛ばされる事件が起きた。
古代遺跡がなんなのか。
なぜ、転移の術が発動したのか。
謎は未だに多い。だけど、はっきり言えることがある。
古代遺跡は、放置しておくと危険なんだ。
だからアーダさんや魔女さんは各地の古代遺跡を封印して回っていたんだと思う。
でもその古代遺跡が、禁領の、しかも霊山の麓の近くにあるだなんて、寝耳に水だよね!
というわけで、僕は禁領に本格的な冬が訪れる前に、調査に乗り出したというわけです。
ちなみに。
僕とミストラルが不在だった間に、禁領には短い寒波が襲来して、雪をいっぱい降らせていったんだって。
その雪は、翌日には晩秋の弱った太陽の光に溶かされて、今はもう霊山の山頂付近にしか残っていない。
あっ。霊山で思い出したんだけど。
オズよ……
また今度、魔王城に救出に行くからね!
それまで、どうか無事でいてね?
「エルネア君、こちらですよ」
「むむむ。ルイセイネには何が
古代遺跡の調査に行ってきます、と意気込んだ僕だけど。でも、ルイセイネと出発をした後は、ずっと彼女に手を引かれて案内されていた。
もしかして、ルイセイネの竜眼は古代遺跡が放つ不思議な気配さえも見えているのかな!?
「違いますよ、エルネア君」
僕の疑問に笑って答えたルイセイネは、森の空間を指差した。
「ほら、エルネア君も
「な、なんだってー!」
というか、それは意外と普通のことだったかもしれない。
精霊たちは、僕たちが移住してくるよりもずっと昔から、禁領に住んでいたんだからね。
だとしたら、精霊たちが古代遺跡の場所を知っていても変ではないよね?
「くっ。最初から精霊さんたちに頼っていれば……。いや、違う! 精霊さんたちの気配を読むことを怠けていたからこそ、こうしてルイセイネとくっついて歩けているんだかわね」
言って僕は、鼻息荒くルイセイネの腰に手を回して引き寄せる。
ルイセイネはちょっとだけ驚いて、そして僕に肩を寄せた。
「ふふ、ふふふ。
「ねえねえ、ルイセイネ。僕成分ってなにかな!?」
「秘密です」
「そ、そんなぁ」
精霊たちは、昨日の朝に散々とアリスさんを相手に力を使ったからね。今日は、自力で顕現してきたり僕たちの邪魔をする元気のある者はいないみたい。
アリスさん、そこまで精霊たちを追い込むとは。
さすがは巫女騎士さまだね!
気配だけで僕たちを案内する精霊たち。
もちろん、ルイセイネの竜眼はそんな精霊たちの姿さえ捉えている。
僕とルイセイネは、霊山を左手に見上げながら、禁領の深い森を進んでいく。
歩けないような場所は、空間跳躍を。たまに、ルイセイネの移動法術「
そうして僕とルイセイネは、意外とあっという間に、
踏み荒らされた下草や、草食動物に食べられた跡のような場所。深い森の奥に、少し前まで何者かが滞在していたような痕跡が、突如として現れた。
「これはきっと、ミシェルさんたちが踏み荒らした形跡だね。草を食べたのは、黒い天馬たちかな?」
「わたくしたちも、ミシェルさんや戦巫女様方に会いたかったですね?」
「ごめんね、シャルロットが強引だったからさ?」
と、ミシェルさんたちが遺した形跡を一通り調べる僕とルイセイネ。
でも、本当は何も調べる必要なんてないのかもしれない。だって、ミシェルさんたちの痕跡の先には、精霊たちに案内される必要もなく、地下へと続く階段が見えていたからね。
その地下へと続く階段の周囲は、随分と丁寧に下草が刈られていたり、
きっとこれも、ミシェルさんたちが残した形跡に間違いない。
「古代遺跡は地下にあるようですね?」
「そういえば、ヨルテニトス王国の古代遺跡も地下にあったよね?」
竜峰側の古代遺跡は、本格的な調査を行う前にアレスちゃんが破壊してしまったから、地下にあったかは不明です。
「とりあえず、僕たちも地下に降りてみる?」
背中に翼の生えた天馬でも通れるほど大きな階段を覗くと、先は地下の奥深くまで続いていた。
「危険は……無いようですし、進んでみましょう」
僕は竜気を宿した瞳で地下の暗闇を見通し、ルイセイネは竜眼で、僕にも見えない危険を見通してくれる。
だけど、罠が張られていたり、何者かが潜んでいる様子はないみたいだね。
それで、僕とルイセイネは手を繋いで、一緒に階段を降りる。
「ルイセイネ、足元に注意してね? ミシェルさんたちは地上の障害物は払ったみたいだけど、地下に続く階段までは掃除をしてくれなかったんだね! 苔が生えていたり、木の根が伸びているから、注意してね?」
「ふふふ。なにかあったらエルネア君が支えてくださいね?」
「もちろんですとも!」
地下へと続く階段は、石畳でしっかりと造られていた。しかも、床だけでなく壁や天井まで石造りで、見ただけで頑丈だとわかる。
実は、地上には遺跡らしい痕跡は見当たらなかった。
ミシェルさんたちの痕跡がなかったら、近くを通ったとしても地下へ続く階段や遺跡の存在には気づかなかっただろうね。
いったい、この古代遺跡はどれほど前に造られた物なのかな?
竜王の森に在った集落跡は、調べると建物の基礎部分が残っていたり、使用していた食器や道だった痕跡が僅かに残っていたけど。
でもこの古代遺跡は、地下へと続く階段以外の地上の痕跡は、完全に失われていた。
すると、僕の浮かべた疑問を感じ取ったのか、ルイセイネが話し始めた。
「エルネア君、知っていますか? 創造の女神様がこの世界をお創りになられて間もない時代のお話です。創世の時代では、人族が世界を
「前に聞いたよことのあるような? でも不思議だよね。人族って、僕たちが言うのもなんだけど、他の種族と比べてひどく弱いよね? それなのに、遥か昔には世界を支配していたなんてさ?」
神殿宗教が世界各地に同じように広がっているのも、人族が繁栄した時代があったからだと
「人族がどのように世界を統べていたのかは、わたくしたちには想像もできませんが」
ルイセイネの視線は、ずっと地下の奥を見つめていた。
「嘗て、人族が世界を統べていた時代。繁栄の中心は、大陸の中心にあったと云われています」
創造の女神様は、ひとつの大きな大陸を創った。つまり、この世界には大陸はひとつだけであり、世界を統べるという意味は「大陸を支配していた」と同意義でもある。
そして世界の中心とは、即ち大陸の中心でもあるんだよね。
人族は、その大陸の中心に大きな都市を築いて、世界を支配していたんだね?
「ですが、ある時代。人族の繁栄は突如として終わりを迎えたそうです」
「どうしてだろうね? 他の種族に滅ぼされちゃったのかな?」
「実は、なぜ滅びたのかという部分は伝わっていないのです」
「不思議だよね?」
ううん、不思議じゃないのかもしれない?
何かがあって、人族の繁栄に
歴史とは、時に誰かの
「人族の繁栄が終わった理由などはわかりませんが。ですが、人族が繁栄を
「言われてみれば?」
人族の繁栄がどういう経緯で滅びたのかは不明だけど。でも確かに、遥か昔に人族は大陸を支配するほど繁栄していたのだと、博識の者でれば知っている。そして同じように、嘗ての繁栄の中心だった場所も、現代に伝わっている。
滅びた原因が伝わっていないのに、繁栄の中心地だけは現代にも伝わっているだなんて、考えてみると不思議だよね?
「では質問です、エルネア君」
「うっ!」
ルイセイネは、地下へと続く階段の奥へと向けられていた視線を、僕へと向ける。
ちょっぴり悪戯心が見える、悪い瞳ですね。
「その大陸の中心だった場所は、現在はどのようになっているでしょう?」
「むむむっ!」
昔に聞いたことのあるような、ないような?
必死に記憶を辿る僕。
だけど、なかなか思い出せない。
だって……!
ルイセイネが僕の思考を邪魔するように、
慎ましいお胸様の谷間で、僕の腕を柔らかく挟む。それだけでなく、しなやかな上半身を、僕の上半身にぴったりと密着させてくる。
ふふふ、と微笑むルイセイネの表情は、まさに悪戯っ子のそれだ。
ルイセイネは意図的に僕を誘惑して、思考が回らないようにしているんですね!
「ぐぬぬ……! り、理性がっ」
ルイセイネの質問に答えなきゃ、と必死に記憶を辿るんだけど。でも、気づくと本能が反応していて、ルイセイネの腰を強く引き寄せてしまっていた。
足を止めて。地下へと続く階段の途中で立ち止まり。
密着した僕とルイセイネは、お互いのおでこをくっつけ合う。そうすると、ルイセイネの淡く輝く綺麗な瞳が眼前になって。
吐息が漏れる唇が限りなく近づく。
「ルイセイネ」
「エルネア君……」
障害は何もない。
ゆっくりと、お互いの唇が近づいていく。
そして。
「こほんっ。えー。そうねぇ、エルネア君が答えないのなら、竜人族である私が代わりに答えてあげようかしら? たしか、大陸の中心には人族の聖地があったわよね?」
「んなっ!?」
「きゃっ!」
唐突に、階段の上の方から馴染みのある声が降ってきた!
僕とルイセイネは驚いて、振り返る。
そこには、これまた悪戯っ気満載の表情で微笑む、ひとりの人物が立っていた。
「ア、アイリーさん、なんでこんな場所に!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます