双子と双子
救世主の登場!
と、思った瞬間も僕にはありました。
だけど、魔王とシャルロットはやっぱり極悪魔族でした!
「エルネアよ。今晩は海の魚料理を振るまえ」
「えっ!?」
「エルネア君。陛下は
「初耳ですけど!?」
「其方にルイララを付ける。行ってこい。拒否すれば、プリシアを魔王に仕立て上げる」
「きゃーっ!」
「エルネア君、流れ星の方々も数人連れて行ってくださいね?」
「なんで!?」
「さあ、早く行け。夕食に間に合わなければこの屋敷を消し飛ばすぞ」
「僕たちは平気ですけど、猫公爵が悲鳴をあげますね!!」
なんということでしょう。
魔王は、北の海に行ってお魚を獲ってこいと僕に強要するのです!
誰か、助けて!
妻たちの方を見たら、
「仕方ないわ。手伝ってあげるわ」
「仕方ないわ。邪魔してあげるわ」
「どっちなんだい!?」
大勢の流れ星さまたちにまだ気後れしているのか、ルイセイネに引っ付いて回っているライラは抜け駆けし損ねて、悲しそうな表情です。
「わたしは流れ星の方々のお世話があるし、ルイセイネとマドリーヌは屋敷に残りたいでしょう?」
「そうですね。わたくしは流れ星様方とお話がしてみたいと思っています」
「ルイセイネに同じくですね」
「それじゃあ、北の海へは姉様たちに任せて、私も残ろうかしら」
僕としては、ユフィーリアとニーナの
でも、流れ星さまご一行と魔王たちの接待の両方を考えると、なるべく多くの妻たちをお屋敷に残しておいた方が良い。
何せ、耳長族の人たちでは魔王の接待はできないから、妻の誰かが
「生贄とは、言うではないか」
「口には出していませんけどね!」
ミストラルは、全体指揮。ルイセイネとマドリーヌが流れ星さまたちの対応。ということは、セフィーナとライラが魔王接待だね。
耳長族の人たちには、硬直が解けたらお
では、と僕は流れ星さまたちを見る。
今でも、魔族の登場に緊張した様子だけど。
この中から、何人か北の海に連れていかなきゃ行けないらしい。
魔王はなんで、急にお魚が食べたいだとか、流れ星さまを同行させるように言い出したのかな?
無理難題を押し付けて僕たちを
それとも、何か意図があるのだろうか?
むむむ、と考え込んでいると、ユフィーリアとニーナが手っ取り早く人選をしてくれた。
「貴女と」
「貴女を」
「「連れていくわ」」
ユフィーリアとニーナが
なな、なんと!
流れ星さまのなかにも、双子がいました!
ユフィーリアとニーナほどではないけど、似た
大きな瞳が表情豊かな、銀髪青目の双子さま。
二十代半ばくらいかな?
身長は平均的な女性くらいだけど、銀髪が長いね。お尻あたりまで伸ばした髪を、大きな三つ編みで纏めている。
「双子同士、仲良くできるわ」
「双子同士、意気投合できるわ」
「面白い人選だね! よし、ユフィとニーナの指名に決定です」
僕も、賛成だ。
どうせ誰かを連れて行かないといけないのなら、こういう組み合わせの方が楽しい。
「人選が済んだのなら、さっさと行ってこい」
と、魔王は
僕だけならまだしも、流れ星さまたちを連れて北の海へ行くとなると、地上を走っていると日帰りなんてできませんよ?
それこそ、長期遠征になっちゃいます。
ユフィーリアとニーナ?
この二人が同行する時点で、目的地には辿り着けません!
「にゃん」
「そうだね。ニーミア、お願いできるかな?」
「んんっと、お任せだよ?」
「プリシアちゃんも行く気満々だ!」
お菓子で満腹になり、魔王とも遊んで英気を養ったプリシアちゃんが、ニーミアを確保して、早速のようにお部屋から飛び出していった。
「エルネア、遊びすぎないようにね?」
「う、うん……
気のせいでしょうか。
ユフィーリアとニーナとプリシアちゃん。家族のなかで最も自由奔放な者たちが選抜されているような……?
「エルネア君、頑張ってね」
「セフィーナさん!? はっ! こうなることがわかっていたから、辞退したのかっ」
罠だった。
ライラも、抜け駆けできなかったんじゃない。
北の海へ行く、と決められた時点で、全員が気づいていたんだ!
この、恐るべき人選に。
『仕方がない。我も付いていくが、ほどほどにな?』
『んもうっ。プリシアが行くなら、我も行くしかないじゃないのっ』
僅かな救いは、ユンユンとリンリンが同行してくれることくらいだね。
「エルネア君、それじゃあ行こうか」
「ぐぬぬ。ルイララと一緒かぁ。でも、ルイララがいないと、どうしようもないからね」
「はははっ。僕がいても、幼女の制御はできないけどね?」
「ですよねーっ!」
大冒険の予感がします!
でも、夕刻前には帰りますからね?
そうしないと、魔王に怒られちゃうから。
「さあ、行くわ」
「さあ、こっちよ」
「「は、はい!?」」
ユフィーリアとニーナに強引に手を引かれて退室していく双子の流れ星さまが、困惑したようにディアナさんたちを振り返っていた。
「ご安心ください。夕方までには必ず戻ってきますので。みなさんは、こちらでゆっくりと寛いでくださいね?」
まあ、同室に魔王がいて気は抜けないだろうけど……
ごめんなさい、と後ろ髪が引かれる思いで、僕も妻たちに挨拶をすると、歓談部屋から出る。
そして、プリシアちゃんを追って中庭へと出た。
すると、プリシアちゃんとニーミアは、既に中庭で駆け回っていた。ただし、ニーミアはまだ小さいままだ。
「驚かすにゃん」
「悪い子ですね」
あはは、と笑っていると、廊下で追い抜いたユフィーリアとニーナが、双子さまを引き連れて中庭へとやって来る。
「改めまして。僕はエルネア・イースです」
「ユフィーリア・イースだわ。ニーナの姉よ」
「ニーナ・イースだわ。ユフィ姉様の妹よ」
「んんっと、プリシアだよ!」
「にゃんはニーミアにゃん」
そういえば、ユフィーリアとニーナの正式な名前は、本当は王族らしく長いんだよね。しかも、お互いの中間名のなかにお互いの名前が入っていたりする。
つまり、ユフイーリアはニーナであり、ニーナはユフィーリアでもある、ということだね。
むむむ、哲学的になってきた?
それはともかくとして。
僕たちの自己紹介に目を回しながらも、双子の流れ星さまも名乗ってくれる。
「私はヴィレッタ・マーキュリアです。姉です」
「わたくしはヴィエッタ・マーキュリアです。妹です」
そして、丁寧にお辞儀をしてくれた。
「な、名前が似ていますね!」
「はい。幼い頃はよく母に文句を言っていました」
「どちらを呼ばれたのか、わたくしたちにも判別できない時があって」
「あははっ、なるほど!」
「ですが、その……」
「失礼ですが、ユフィーリア様とニーナ様は見た目では……あの……」
「問題ないわ。家族以外では誰も判別できないわ」
「それが私とユフィ姉様の誇りだから、気にすることはないわ」
二人でひとりとは、まさにユフィーリアとニーナのためのような言葉だよね。
全く同じ外見。同じ動作で動くし、その気になれば同時に同じ声で同じ内容の言葉を口に出せる。お互いにお互いの心を理解しあっていて、完璧な連携は誰にも真似できない。
ユフィーリアとニーナがお胸様を張って自慢する姿に、ヴィエッタさんとヴィレッタさんはようやく笑顔を浮かべてくれた。
「すごいですね」
「わたくしたちも双子で色々と似ていると言われ続けていましたが、上には上がいたようです」
「精進が足らないみたいですね、ヴィエッタ」
「ですね、ヴィレッタ」
「いやいや、精進してもユフィとニーナほどには絶対になれたないと思いますよ?」
「エルネア君はわかっているわ」
「世界中の双子に負ける気はないわ」
ふふふ、と双子であることを誇るように微笑むユフィーリアとニーナ。
ヴィレッタさんとヴィエッタさんも、こちらの身内に双子がいることが嬉しいようで、笑顔が増えていく。
ちなみに。
姉のヴィレッタさんは、すこしだけ瞳が切れ長。
妹のヴィエッタさんは、猫っぽい瞳。
背は同じだし、三つ編みも一緒だけど、少しだけ髪が長い方が姉。ちょっとだけ身近い方が妹。
顔の輪郭も、少しだけ違うかな?
声も、聴き比べると微妙に違う。
と、すぐに区別できるくらいには違いがある。
まあ、あくまでも二人並べば比べてわかる、という状態で、そこはやはり双子らしく、別々に行動されたらヴィレッタさんかヴィエッタさんかわからないんだけどね。
さて。お互いの自己紹介も終わったことだし、と思って次の行動に移ろうとして。
あらら?
なんだか、あっさりと自己紹介が終わったね?
どういう挨拶をすれば良いのかとか、何を伝え、何を聞くべきか、なんてさっきまで散々に悩んでいたはずなのに。
と、そこでようやく、魔王の配慮に気づく。
僕たちも大所帯。
流れ星さまも団体さま。
そのお互いが理解できるまで自己紹介なんてしていたら、終わりは見えないよね。
だから、魔王は個別で気軽に挨拶ができるように、僕たちに用事を押し付けたのか。
きっと、これから妻たちにも色々と用事を押し付けながら、流れ星さまをその都度同行させて、まずは個別で親睦を深めさせようとするのかもね。
極悪だなんて思考して、ごめんなさい!
魔王はやっぱり優しいね。
「よし、それじゃあ。魔王のために、特大のお魚を獲りに行こうか!」
お礼は、好物だという青物のお魚で!
僕が気合を入れていると、ヴィレッタさんとヴィエッタさんが質問してきた。
「それで、なのですが」
「北には海があるのですか? どれくらいの距離なのでしょう?」
二人の質問に、ユフィーリアとニーナが笑顔で答える。
「歩けば十日以上かかるわ」
「全力で走ったら、二日くらいで着くわ」
「「えっ!?」」
全く同じ仕草で驚く二人に、僕はつい笑ってしまう。
でも、それって失礼だよね。
ごめんなさい、と謝ってから、僕はユフィーリアとニーナの言葉に補足を入れた。
「でも、飛んでいけばあっという間ですよ!」
「「ええっ!?」
困惑色を深めるヴィレッタさんとヴィエッタさん!
「んんっと、ニーミアに飛んでもらうんだよ」
「んにゃん。にゃんは
「みんな、ニーミアちゃんの背中に乗っていくわ」
「みんな、ニーミアに連れて行ってもらうわ」
「さあ、ニーミアよ。僕たちを乗せて、いざ、北の海へ!」
「えええっ!?」
大きな瞳を全開まで見開き、子猫のような小さなニーミアを見つめる二人。
いったい、この小さくて可愛いニーミアに、どうやって全員で乗って飛ぶというのだろう!
という困惑が手に取るように伝わってきます。
とまあ、ヴィレッタさんとヴィエッタさんを
「ニーミア、それじゃあ、お願いね?」
僕がお願いをすると、ニーミアは元気良く走って、僕たちから離れる。
そして、可愛く「にゃーん」と鳴いて、いつものように巨大化してくれた。
「えええええっ!!」
ひっくり返って驚くヴィレッタさんとヴィエッタさん。
「ええっと。ニーミアは古代種の竜族でも特別な子なんですよ。普段はさっきのような小さな姿なんですけど、本当の姿はこっちです」
「大きくても可愛いにゃん?」
「うん、可愛いよ」
ふわふわの長い毛並みは、毛先にかけて白から薄桃色に変色している。
羊のような丸まった
プリシアちゃんは、早速のように空間跳躍でニーミアの背中の上へ飛び乗る。
「それじゃあ、僕たちもニーミアに乗せてもらいましょうか」
ヴィレッタさんとヴィエッタさんを促す僕。
だけど、そんな僕にミストラルが声をかけてきた。
「エルネア、忘れ物よ」
「ん?」
振り返ると、ミストラルが大きな
「そうだった! 肝心の釣竿を忘れるところだったよ」
わざわざ倉庫に走って釣竿を持ってきてくれたミストラルにお礼を言う。
釣竿は、僕の身長の三倍もある、長いやつだ。その先に釣り糸が結んであり、長い糸は釣竿の本体にぐるぐる巻き。
単純な釣竿なんだけど、これで良い。
「アレスちゃん」
「おまかせおまかせ」
ぽんっ、と
そして次の瞬間には、プリシアちゃんと並んでニーミアの背中の上だ。
突然現れたり、消えたと思ったら別の場所に瞬間移動する幼女たちに、ヴィレッタさんとヴィエッタさんは目を白黒させて驚く。
「さあ、ニーミアちゃんの上に行くわよ」
「さあ、ニーミアちゃんの上に登るわよ」
そんな双子巫女様を、双子王女様が手を取って導く。
僕も、ミストラルに改めてお礼を言うと、走ってニーミアのもとへ。
「ルイララは……」
「ははは。僕も背中の上に乗るに決まっているじゃないか!」
ルイララは嫌な予感でも感じたのか、素早く跳躍すると、ニーミアの背中の上に飛び乗った。
「ちっ。ニーミアに掴んでもらって移動しようと思ったんだけどね?」
「悪いエルネアお兄ちゃんにゃん」
「そんなことはないよ?」
ただ、魔族に慣れていないヴィレッタさんとヴィエッタさんに気を使おうとしただけなんだからね?
と言い訳をしつつ、僕も久々に手と足を使って、ニーミアの背中の上へと移動する。
「あのね。落ちないようにニーミアの毛を腰に結ぶんですよ?」
「そう言うプリシアちゃんは、腰に巻いていないよね?」
「んんっと、結んだらニーミアの頭の上に行けないよ?」
「飛んでいる時は、大人しくするんだよ」
僕は、ニーミアの背中の上でも暴れそうなプリシアちゃんを捕まえて、ニーミアの体毛を腰に巻き付けて結ぶ。
僕?
僕はライラ直伝の引っ付き竜術があるから大丈夫です! と思ったら、お礼にとプリシアちゃんとアレスちゃんがきつく結んでくれた。
これ、解けるのかなぁ……?
双子の巫女様も、ユフィーリアとニーナに教えてもらいながら、おっかなびっくりの様子でニーミアの背中に登ると、言われた通りに素直に腰に毛を巻き付けて、結ぶ。
「そ、空を今から飛ぶのですよね?」
「わたくし、飛ぶのは初めてなのですが……」
「大丈夫ですよ。誰にでも初めてはありますから。それに、これは貴重な体験で、病み付きになること間違いなしです!」
それでは、とニーミアの背中の上から、ミストラルに手を振る。
「にゃーん」
ニーミアは綺麗な翼を大きく広げると、柔らかく羽ばたいて舞い上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます