第一回 竜騎士選考大会
「王様! 竜騎士選考大会ってなんですか!?」
「エルネア君、来ていたのだね。出迎えに行けず、申し訳ないことをした」
僕たちは、王様がいる
ただし、
「エルネア、よく来た。お前からも言ってやってくれ。陛下が自ら出ていかれるなど、
「グレイヴさま、こんにちは。それで、どういう状況なんです?」
グスフェルスに騎乗しようとする王様と、それを阻止しようとするグレイヴ様や近衛の人たち。
僕たちには、さっぱり意味がわかりません。
というか、竜騎士選考大会の詳細を教えてほしいよね?
「ふむ。仕方がない。それでは、道中に説明するとしよう。ほれ、エルネア君たちも乗りなさい」
「いやいや、グスフェルスに全員は乗れませんよ?」
グレイヴ様たちの静止なんて耳に届かないといった様子で、僕を
「仕方ないわね。エルネア、代表して行ってきなさい。私たちは王子に話を聞いて、後から追いかけるから」
「わかったよ」
ミストラルに促されて、僕は王様と一緒にグスフェルスに騎乗させてもらう。
グレイヴさまや近衛の人たちも、僕が同行するということで
グスフェルスは、厩舎係りに導かれて外へ出ると、そのまま走り出す。
ずしんっ、ずしんっ、と地面を響かせて走る地竜のグスフェルス。
迫力のある走りに、僕は思わず声をあげて喜ぶ。
「空を飛ぶのとは違った迫力がありますね!」
「そうだろう? 地竜も良いものだ」
「はい」
「にゃんっ」
「ニーミア!?」
驚いて、僕は自分の頭の上を確かめる。すると、ニーミアがいつものように尻尾を揺らして寛いでいた。
普通に慣れすぎていて、今まで気付かなかったよ!
まあ、プリシアちゃんがいない時は僕の頭の上が指定席だからね。
「大迫力にゃん」
「守護竜の娘様にも気に入ってもらえて、光栄であるな」
グスフェルスは勢いをそのままに王宮を飛び出ると、王都の中心へ向かって走る。
「それで、王様。説明をいただいても良いでしょうか?」
「ふむ。そうだったね」
王様は、今でも下半身が悪い。それでも、寝たきりだった頃よりかは随分と良くなったようで、自分の力で
「既に、ユフィーリア姫とニーナ姫に竜騎士選考大会のことは聞いたのだね?」
「はい。二人が竜族召喚でご迷惑をおかけしました」
「いやいや、迷惑などしていないから、安心しなさい。それに、是非にと頼んだのは儂の方なのでな」
「それって、やっぱり?」
「うむ。思いついてしまったのだ。竜騎士選考大会をな!」
と言って、豪快に笑う王様。
街中を王様が乗ったグスフェルスが
「それで、王様。竜騎士選考大会のことをもっと詳しく聞かせてください」
「うむ。良かろう」
竜騎士団の人たちが騎乗する飛竜は、もっぱら飛竜の狩場で人族の前に屈した者たちだ。他にも、北部山岳地帯に生息する地竜と食糧供給などを条件に契約したり、個別の繋がりで人族と契約を交わす竜族もいる。
ただし、近年は飛竜の狩場で大々的な狩りは行われていない。
なぜかというと、ヨルテニトス王国はフィレルを中心として竜族と人族の新たな関係構築を模索している最中だからだ。
竜殺しの武器を使って脅迫的に契約を交わす手段から、
だけど、素晴らしい思想を抱いているだけでは、竜騎士団員の減少を止めることはできない。なにせ、人族の寿命は短いからね。加齢や体力の
そこで王様が思いついたのが、今回の「第一回、竜騎士選考大会」らしい。
「きちんと、国民にも布告しておるぞ。王都を使って、竜騎士団の選考を執り行うとな」
「でも、それって開催直前だったんですよね?」
「わっはっはっ。急に思い立ってしまったのでな。だが、国民も理解しておる。なにせ、全ての者に等しく機会が与えられるのだからな」
本来、飛竜狩りに参加する者は、命知らずの者か屈強な戦士たちだけだ。なにせ、相手にする竜族は人族より遥かに優れ、空を自由に飛び回る飛竜だからね。生半可な覚悟では参加できない。
しかも、参加して生き残ったからといっても、竜騎士になれるわけではない。そもそも飛竜が狩れなければ新たな騎竜は得られないし、自分で狩らなければ資格さえ手に入らないからね。
だけど、今回の竜騎士選考大会は飛竜狩りとは違うらしい。
「姫が言うには、召喚の際に要望を竜族に伝達するらしい。今回は何用で喚ぶ、とな。それに応じた竜族が召喚されるわけだ」
「つまり、王都に召喚された竜族たちは、最初から竜騎士選考大会に応じてくれた者たちってことですね?」
「そうだ。そして、これも最初に竜族に伝えてある。絆を結んでも良いと思う人族がいたのなら、契約して竜騎士団に加わってもらう。代わりに、大会中は自由に王都を
他にも、竜族たちには街並みを破壊しないこと、関わりのない者たちに危害を加えないことは伝えてあるらしい。
約束を破ると、ユグラ様のお
レヴァリアとユグラ様の存在を出されたら、そりゃあ竜峰の竜族は素直になるよね!
「竜族が自由に王都内を
「絆を結ぶ方法は、各人に任せてある。力比べで力量を示すのも良いし、度胸を見せるのも良い。手荒な手法ではなく、其方らのように仲良しになって絆を結ぶ者が現れると嬉しく思うのだがな」
「人族は思い思いの方法で竜族に接するわけですね。そうして、竜族が契約を交わしても良いと思える者が現れれば、新たに竜騎士団に加われる。素敵な選考大会だと思います!」
しかも、だよ。力だけに頼らない選考方法なら、万人に
大切なのは、竜族と深い仲になりたいと思う気持ちと、竜騎士団になりたいという
その想いさえ持っていれば、昨日までお花屋さんだったり公園を駆け回っていたような者たちが、明日からは国の象徴である竜騎士団の一員になっているかもしれない。
なにせ、竜族は王都内を自由に歩いたり飛び回っているんだからね。接触しようと思えば、誰でも竜族に近づける状況なのが、今だ。
王様は、命知らずや屈強な戦士にだけ開かれていた竜騎士団の門を、全ての者たちに開いたわけだね。
これは、革命といってもいいくらいの成果だ。
「エルネア君にそこまで褒めてもらえるとは。フィレルは喜ぶであろう」
「もしかして、王様の考えではなくて?」
「そうだ。選考大会こそ儂が思いついた案ではあるが、全ての者に機会を、と提案したのはフィレルだ」
「そうなんですね!」
フィレルの夢が一気に前へ進んだ気がするね。
竜と人が強い絆で結ばれた国を造る。
竜騎士団がその象徴であり、今回の選考会が第一歩になるはずだ。
もちろん、竜族と絆を結んだだけでは竜騎士団に正式加入はできない。騎士としての資質は問われるだろうけど、最低限必要な「騎竜を得る」という条件は突破できているからね。あとは本人の努力次第だ。
「ようやく、わかりました。王様やフィレルがどんな想いで選考大会を開催したのかや、竜族たちは騒いでいるけど暴れていない、という理由が。それで、王様。僕たちはどこへ向かっているんです?」
「ふむ。言っていなかったか。儂らは、大会の運営会場に向かっておる。竜族と絆を結んだ者は、そこに集まるように通知しておるからな」
「王様は、竜騎士団の卵を早く見てみたいんですね?」
「わっはっはっ。ライラもそこにおるしな」
「そこが本命か!」
第一回、竜騎士選考大会の運営会場は、王都の中心にある王宮跡の広大な敷地が利用されていた。
王宮跡の地下は某幼女大賢者と某大精霊のせいで迷宮化しているんだけど、地上はまだ広く使えるからね。そこを会場に仕立て上げたわけだ。
そして王様は言わなかったけど、会場にはフィレルとユグラ様も居た。というか、運営の総責任者はフィレルで、ライラは付き添いでした!
「エルネア様! はわわっ、国王陛下!」
僕たちが会場に到着すると、ライラが飛んできて僕に抱きつく。そうしたら、王様が少し悲しそうな顔をしたので、ライラは慌てて王様にも抱きついた。
三人で笑い合っていると、上空からユグラ様に騎乗したフィレルが降りてきた。他にも、こちらへ向かって突っ込んでくる影が!
『うわんっ。会いたかったよっ』
『リームもぉ』
「フィオ、それにリームも! どうやってここに!?」
妖魔の王との戦いが終わり、小竜のフィオリーナとリームは仲良くユグラ様の故郷で過ごしていたはずだ。それなのに、どうやってヨルテニトス王国まで?
と、思ったけど、答えはひとつしかないよね。
「リームはまだしも、フィオはもうちょっと自重しなきゃね? じゃないと、ユグラ様に怒られるよ?」
『もう、叱った。やれやれ、誰に似たのやら』
ぐりぐりぐり、と僕のお腹に頭を
いったい、誰の影響でしょうねぇ……
「エルネア君、こんにちは。陛下も、ご足労いただきましてありがとうございます」
ユグラ様の痛い視線に目を逸らしていたら、フィレルがやってきたので、僕もグスフェルスを降りて再会を喜び合う。
「フィレル殿下、素敵な大会ですね!」
「ありがとうございます。このなかから、未来の竜騎士が誕生すれば喜ばしいのですが」
「おや? その口ぶりだと、まだ合格者は出ていない感じかな?」
まあ、急に開催が決まった選考大会で、合格者がすぐに出てくるわけもないよね。
王様が会場に足を運んだのだって、苦労している希望者たちを
会場を見渡すと、待機している竜騎士団に助言を求めたりしている人たちが多く見受けられた。
「選考会を開くだけで国の役目は終わり、というわけでなく、ああして先達の人たちから助言や協力を受けることもできるんですね。これなら、きっと近いうちに竜と人の絆で結ばれた竜騎士が誕生すると思います」
気のせいかな。少数だけど、耳長族や巨人族の姿も見える。もしかしたら、種族の
「とはいえ、やはり苦戦しています。それで、エルネア君」
「はい?」
がしり、とフィレルに両手を握られて、期待の込められた視線を向けられる僕。
ふむふむ、なんとなく先が読めたよ?
フィレルは、僕が予想した通りにお願いしてきた。
「誉れ高い竜王として、是非にお手本を見せていただけないでしょうか!」
「ほうほう。この八大竜王であり、竜峰同盟の盟主たる僕にお手本を、と? 良いでしょう!」
「威張っているにゃん?」
「ニーミア、僕にもたまには格好つけさせてね?」
「でも、もう暴露しちゃったにゃん」
「しくしく」
やはり、僕には威厳とか格好良さなんて、まだまだ縁が遠いらしい。
仕方ないので、いつもの調子でやらせていただきます。
「おおーいっ、竜王様が手本を見せてくださるそうだぞ!」
会場に詰めていた竜騎士団の人たちによって、僕の噂は瞬く間に広まった。
僕は、集まった者たちの手本となるように、気合を入れる。そして、
「おいでおいでー」
両手を挙げて、大きく手を振る。
すると、僕の竜心を受け取った竜族たちがすぐに反応を示した。
『おっ。竜王だ』
『何かくれるのかのう?』
『よし、向かえー!』
『乗り遅れるな!』
『者ども、エルネアが呼んでいるぞっ』
『ひゃっはー!』
どどどどどっ、と地響きを
終いには、竜騎士団に所属する竜族たちまでもが僕に向かって押し寄せてきた。
「しまった、手加減するのを忘れてたよ!」
四方八方から勢い良く押し寄せる竜族の
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