賑やかしい僕たち

「にゃっ」


 ニーミアが、走って僕とマドリーヌ様を追いかけてきた。

 マドリーヌ様が抱きとめる。


「あっ、ニーミア様!」


 僕たちを見送るメアリ様が、残念そうな顔をしていた。


「メアリ、貴女は今からお勉強の時間です」

「はい、お母様」


 だけど、イリア様にうながされて、渋々しぶしぶと邸宅内へ戻っていくイリア様。

 僕たちも、仲良く手を繋いで丘を下る。


「そういえば、ニーミアちゃん」

「にゃん?」


 ニーミアの今日の寛ぎの場は、どうやらマドリーヌ様の頭の上らしい。

 尻尾を可愛く振って、マドリーヌ様を見下ろすニーミア。

 マドリーヌ様も、ふんわりとした頭の感触を確かめながら、疑問を口にした。


「気のせいでしょうか。昨夜からずっとお喋りされていないような気がするのですが?」

「んにゃん。ほとんど喋ってなかったにゃん」

「まあ、それはどうしてでしょう?」

「刺激が強すぎるにゃん。メアリの修行の邪魔をしたら駄目にゃん?」

「ああ、なるほど!」


 僕も、疑問に思っていたんだよね。

 ヴァリティエ家を訪問してから、ニーミアはほとんど喋らなかったし、空も無闇に飛ばずに駆け回っていた。

 最初はメアリ様と遊ぶためだと思っていたんだけど。


「ニーミアは、メアリ様に気を遣っていたんだね? メアリ様は、完全にニーミアのとりこになっていたからね。あそこで更に喋ったり飛び回っていたら、メアリ様の集中は完全に途切れていたんだろうね」


 月光矢の維持なんて余裕そうに見えたメアリ様。だけど、やっぱり内面では年相応に苦労していたんだね。

 そしてニーミアは、そんなメアリ様の心を読んで、自粛じしゅくしていたわけだ。

 あまり刺激を与えちゃいけないって。


「それじゃあ、アレスちゃんが全然姿を見せなかったのも、その辺が影響しているのかな?」

「じしゅくじしゅく」


 ぽこんっ、と唐突とうとつに姿を現すアレスちゃん。

 霊樹の精霊であるアレスちゃんは、今でも僕にいてくれている。帰ったら、霊樹ちゃんに僕の冒険譚を語り聞かせなきゃいけないからね。


「アレスちゃん。それではこの後も、私とエルネア君のことを想って自粛してくださいね?」


 今度はアレスちゃんを抱きかかえたマドリーヌ様がお願いすると、小さな霊樹の精霊は「しかたないしかたない」と笑って消えてしまった。


「あらら? あのアレスちゃんがいさぎよく身を引くなんて?」

「ふふふ。きっと私の心を読んでくださったのでしょう」

「マドリーヌ様、何を思ったんです? というか、本当に良いのかな? マドリーヌ様と楽しく一日を過ごすことが試練の内容だなんて?」


 マドリーヌ様が、まれ癇癪かんしゃくを起こすことは知っているよ?

 でも、それが可愛いんじゃないか。

 他にも、素の性格はちょっとわがままだったり、どこかの双子王女様に似て強引だったりするけど、その全てを含めて、僕はマドリーヌ様が好きだ。


 だから、今さらそんなことで悩んだり困ったりはしない。

 ということは、そうした部分以外に、今日一日のお出かけに試練たりうる理由があるはずなんだけど。僕には、さっぱりわかりませんよ?


「にゃん。試練にゃん」

「むむむ。ニーミアはこの試練の中身を知っているんだね? 誰の心を読んだのかな?」

「秘密にゃん」

「ふふふ、秘密です。エルネア君、ちゃんと私を導いてくださいね?」

「はい、それはもちろん!」


 さてはて、どんな試練になるのやら。

 僕とマドリーヌ様は仲良く手を繋ぎ、ニーミアはマドリーヌ様の頭の上でのんびりと寛ぎながら、ゆるやかな丘を下って林を抜ける。

 そして、王都の市中に出た僕たち。

 だけど、僕は思い知るのだった。

 この試練の、本当の過酷かこくさを。






「ああ、巫女頭様!」

「まあ、巫女頭様がこんなところに」

「おしたいしております、巫女頭様!」

「わわわっ!?」


 閑静な住宅街を抜け、繁華街に足を延ばした僕たち。

 出店で食べ物を買ったり、素敵な雑貨屋さんに入ろうか、なんて計画していた僕だったけど、そんな余裕は一切ありませんでした!


 ヨルテニトス王国の大神殿、そこの筆頭であり国を代表する巫女頭のマドリーヌ様。彼女を知らない国民なんて、存在しない。

 そして、巫女頭様は普段、大神殿の奥に控えて、あまり市井しせいには姿を見せない。

 そんなマドリーヌ様が、取り巻きもなく突然街中に現れたんだ。

 そりゃあ、人だかりができるよね!


 マドリーヌ様を見つけた人々が、わらわらと集まってくる。そして、マドリーヌ様に挨拶あいさつをしたり握手を求めたり。なかには、お祈りを始める敬虔けいけんな信者さんたちも現れ始めた。


「そ、そうか! こういうことか!」


 なぜ、イリア様がマドリーヌ様を僕だけに預けて外出する試練を与えたのか。それは、こういう騒ぎになると最初から知っていたんだ。そして、この状況の中で、僕はマドリーヌ様をしっかりと護り、更には楽しませなきゃいけない。

 なるほど、なかなかに難しい試練だね。

 だって、街中にいる限りは必ずこうした騒ぎの中心になってしまうし、だからといって逃げるように郊外ばかりに行っていたら、女性のマドリーヌ様は楽しめない。

 だから、僕はこの騒ぎをどうにかしつつ、マドリーヌ様と楽しく一日を過ごす必要があるわけだ。


「みなさん、お騒がせしてしまい申し訳ありません。ですが、マドリーヌ様は私的な外出なので、どうか冷静に……」

「おい、この小僧っ子は誰だ?」

「まあ、可愛い坊や」

「マドリーヌ様、その頭の上の可愛らしい子猫ちゃんはどうなされたのでしょう?」


 くっ!

 なんてことだ。誰も僕なんて意識していない。


 まあ、そりゃあそうだよね。

 巫女頭として特別な法衣ほうえを身に纏ったマドリーヌ様はよく目立つし、昔から人々に愛されているので顔も知れ渡っている。

 逆に、僕なんてヨルテニトス王国の国民でもないし、象徴的な白剣と霊樹の木刀を腰に下げていない。そうなると、途端とたんに僕は「竜王」ではなくて「無名の男」になってしまう。

 なにせ、このヨルテニトス王国では、竜王エルネア・イースは天女として知れ渡っているからね……


「と、ともかく! マドリーヌ様、ここはさすがに逃げましょう!」


 騒ぎが急激に大きくなってきた。

 幸い、聖職者のマドリーヌ様に手荒なことをする者は現れないけど、人々同士が押し合いになったりして、これ以上は危険だ。

 マドリーヌ様の手を取る僕。だけど、周囲を分厚く包囲されて、逃げ場なんてない。

 それどころか、マドリーヌ様を独占しようとした僕に野次が飛ぶ。


「やい、小僧。なんでお前みたいな奴がマドリーヌ様と一緒にいるんだ!?」

「お前にだけ独占なんて、させねえぞ?」

「あら、可愛い顔をして、意外と大胆な坊やね?」


 迫る群衆ぐんしゅう

 だけど、日頃から鍛えている僕だ。たとえ周囲を包囲されたって、僕を捕まえることなんてできないからね!


 マドリーヌ様を力強く引き寄せた僕は、空間跳躍を発動させた。


「あっ!」

「消えた!?」

「どこに行きやがった?」

「おい、あっちだ!」

「瞬間移動したわ!」


 騒がしい人集ひとだかりを離れて、僕たちは大通りの真ん中に出る。


「マドリーヌ様、走りましょう!」

「ふふふ、はい」


 僕に手を引かれて、マドリーヌ様が微笑む。そして、一緒になって走り出す。


「待てーっ!」

「追いかけろっ」


 そして始まる、逃走劇。


「大騒ぎにゃん」

「くっ。なぜだ!?」

「それは、ほら。エルネア君はそうした気質をお持ちですから?」

「間違いないにゃん」

「ぼ、僕のせいなの!?」


 なんということでしょう。

 てっきり、マドリーヌ様が中心になった騒ぎだと思ったんだけど。どうやら、マドリーヌ様もニーミアも、根本的な原因は僕の騒動を引き寄せる気質が原因だと確信しているみたい。


「ぐぬぬ。こうなったら、民衆から逃げ回りながら、目一杯マドリーヌ様との一日を満喫するぞ!」


 自分でも言っている意味が不明だけど、これは試練でもあるからね。

 しかも、群がる人々は善良な人たちばかりだから、力尽くで排除なんてできない。だから、野次馬が騒ぎ出したら、逃げるしかないんだ。

 そうしながら、僕はマドリーヌ様を満足させなくちゃいけない。

 試練の厳しさの意味を知って、走りながら頭を抱える僕。

 だけど、今度こそ必ず試練を乗り越えてみせるぞ!


「さあ、エルネア君。私をどこに連れて行ってくれるのでしょう?」

「それは、これからのお楽しみです」


 大通りを走り抜け、脇道に逃げ込む僕たち。

 背後からは、僕たち、というかマドリーヌ様を慕って、人々が騒ぎながら追いかけてきていた。


「逃げろ逃げろーっ」


 追いつかれたら、大変だからね。

 脇道から小道に入り、角を曲がって裏路地に出る。

 裏路地には、午前の早い時間から出店が並んでいて、お肉の焼ける良い匂いが鼻腔びこうをくすぐった。


「そういえば、朝食を食べてから色々あって、お腹が空きましたね?」

「そうですね。ですが、エルネア君。立ち食いなんてしている余裕はないですよ?」

「ふっふっふっ。そこは僕にお任せください!」


 マドリーヌ様も、普段から規則正しく生活し、毎日修行を積み重ねているから、健脚けんきゃくだ。ちょっとやそっとのことでは疲れを見せない。そのマドリーヌ様の手を取りながら、僕は出店が並ぶ裏路地を走り抜けた。

 もちろん、野次馬たちも騒ぎながら追いかけてくる。

 後方との距離を確認しつつ、僕たちはまた脇道わきみちに逃げ込む。

 両側を住宅に挟まれた、真っ直ぐに続く脇道。

 ちょうど良い道だ。


 脇道を走る。野次馬たちが脇道に入ってきた。そして、先を走る僕たちを見つけて、追いかけてくる。


「もうそろそろかな?」


 頃合いを見て、また野次馬の集団を確認する僕。

 野次馬の集団の全てが、脇道に入った。


「よし、今だっ」


 僕はマドリーヌ様を引き寄せると、空間跳躍を発動させた。

 次の瞬間、僕たちは通り過ぎたはずの裏路地に出現した。


「さあ、マドリーヌ様。ちょっと休憩しましょうか」

「あらまあ、エルネア君は民衆を惑わせる悪い殿方とのがたですね?」

「なにせ、みんなが大好きな巫女頭様を独占するような男ですからね!」

「極悪竜王にゃん」

「ニーミア、そんなことを言っていると、お肉を買ってあげないよ?」

「にゃっ」


 足を止めて、焼けたお肉の香ばしい匂いがする出店に寄る。

 串肉くしにくを買い、隣で柑橘系かんきつけいの果物を絞った飲み物を買って、ひと休み。

 立ち食いでちょっとお行儀が悪いけど、仕方ないよね。だって、いつまた野次馬に追いかけられるかわからないんだも。


「ああ、巫女頭様ではないですか!」

「なぜこのような場所に!?」


 ほら、言っているそばから。


 出店に朝食を買いに来た人や、そもそも出店を出していた人たちが徐々に騒ぎ始めた。そこへ、消えた僕たちを探し回っていた当初からの野次馬たちもこちらを見つけて、騒ぎながら押し寄せてくる。


「さあ、マドリーヌ様、小休憩は終わりです。行きましょう!」

「はい、貴方様」


 マドリーヌ様と手を繋ぎ、僕はまた走り出す。

 逃走劇の第二幕が始まった。


 裏路地を走り抜け、公園を横切り、広場に入る。噴水ふんすいの周りを走ったり、芝生を突っ切ったり。そしてまた小道に入り、都中を逃げ回る。


「エルネア君。もしかすると捕まらない程度にわざと力を抜いていますね?」

「はっ! 気づかれちゃいました!?」


 まあ、僕が本気になったら、連続の空間跳躍を駆使して、一瞬で野次馬を撒けるからね。マドリーヌ様も、そこに気づいたんだろうね。


「プリシアちゃんではないですが、エルネア君も鬼ごっこが大好きなのですね」

「そういうマドリーヌ様も、意外と楽しんでいますよね?」

「ふふふ、さすがはエルネア君です。私のことはもう何もかもおわかりですね。実は、こうして賑やかに街を歩いたことはなかったので、楽しいです」

「やっぱり! どうせ野次馬をいても、またすぐ次の野次馬が出てきちゃいますからね。それなら、みんなで楽しく騒ぎながら過ごした方が良いですよね」

「はい、その通りです」


 走りながら、僕とマドリーヌ様は笑う。

 追ってくる人たちには悪いけど、僕たちは思いっきり楽しませてもらっています。


「待てーっ、小僧!」

「マドリーヌ様を解放しろっ」

「巫女頭様、お待ちになってくださいっ」


 まさか、僕たちに翻弄されているとは思いもしていないだろう群衆が、必死に追いかけてくる。

 僕はまるで、マドリーヌ様を連れ去った悪役だ。そして、マドリーヌ様は悪い男に連れ去られる姫君。ううん、正しく巫女頭様。

 さあ、正義の民衆は、悪玉の僕からマドリーヌ様を無事に救い出せるのか!?


「あっ、あそこの服屋さんに素敵な衣装がありますよ?」

「素敵ですが、巫女は普段から法衣を着ることを義務付けられていますから」

「ちょっとくらいも駄目?」

「いいえ、それくらいなら」

「それじゃあ!」


 こういう時は、群衆を本気で撒く。そして、こっそりと服屋さんに入って、マドリーヌ様に似合った衣装を仕立ててもらう。


「お代は、僕が出しますね」

「まあ、エルネア君。お小遣いが少ないのに、大丈夫でしょうか?」

「こういう時に使うために、溜め込んでいるのです!」


 お買い物をしていると、たまたま通りかかった野次馬に見つかった。

 そして、またまた僕たちと群衆の追いかけっこが始まる。


「おっ、あそこの帽子屋ぼうしやさんもお洒落しゃれですよ」

「では、今度は私がエルネア君に似合う帽子を贈りましょう」

「いいえ、僕がマドリーヌ様に買ってあげるんです」

「むきぃっ、今度は私です」


 逃げ回りながら、色々なお店を見て回る。

 途中の公園で休憩したり、物陰に隠れて休憩したり。

 多くの人たちを巻き込んだ逃走劇は、太陽が高く昇っても続いた。






 そして、ついに。


「ぜぇ、ぜぇ……。もう、逃げられねえぜ?」


 緑豊かな住宅街を駆け抜けていた僕たち。

 次は、先に見えるお花がいっぱいの邸宅の庭の角を曲がろうと目論もくろんだ時だった。

 その、曲がろうとした角道から、追いかけてくる人々の分隊が現れて、僕たちの行く手を阻む。

 背後からも、大勢の野次馬たちが。

 僕たちは、花壇かだん鉢植はちうえにお花がいっぱい植えられた邸宅の庭先で、とうとう追っ手に囲まれてしまった!


「やい、小僧。なんでお前のような奴が巫女頭様を連れてやがる?」

「君はいったいどなたかしら?」


 詰め寄られる僕たち。


「ええっと、僕はですね……」


 追いかけっこは、そろそろ終わりかな、と名乗りを上げようとしたら。


「おい、貴様ら、退けっ。いったい、なんの騒ぎだ!?」


 僕たちを包囲する群衆を掻き分けて、ひとりの男性が姿を表す。

 身なりの良い、いかにも貴族然とした男性は、平民の人たちを強引に押し除けて、僕の前までやってきた。

 そして、まゆを上げて驚く。


「これはこれは、巫女頭様。……おお、それと貴方様は、竜王様ではありませんか」

「僕のことを知っている?」


 どうやら、貴族の男性は僕の顔を見知っていたようだ。


「竜王様?」

「えっ?」

「魔族から王族の方々やこの国を護ったっていう英雄の……?」


 集まった人たちが、貴族の男性の言葉を受けて、改めて僕に注目する。

 ただし、この国では救国の英雄は版画絵の影響で天女だし、そもそも僕の顔を知っている一般市民なんて少ない。

 半信半疑はんしんはんぎ、といった視線だ。

 だけど、貴族の男性は疑うこともなく、僕を認めてくれた。


「私は、飛竜騎士団に所属しております。上空で何度も、貴殿やそちらの小さな竜様の勇姿を見てきました」

「ああ、なるほど! それで僕のことを知っていたんですね」


 僕だって、ヨルテニトス王国の貴族の人たちと少しは交流がある。それでも一方的に相手だけが僕を知っていて、僕に心当たりがなかったのは、普段目にする姿と全然違うからか。

 言われてみれば、と貴族の男性を見る。そして鎧姿を想像してみると、確かに見たことのある人だった。


「たしか、赤い飛竜に騎乗されていますよね?」

「おお、私と相棒の飛竜のことを知っていてくださるとは、嬉しい限りです」

「いえ、気づくのが遅れてごめんなさい」


 僕と騎士様が自然な感じで話す姿を、野次馬が静かに見守る。

 未だに身分制度が強く残るヨルテニトス王国において、貴族と普通に会話ができる者は、それ相応の身分や力を持つ者だと、誰もが理解していた。


「さあ、お前たち。巫女頭様や竜王様のお邪魔をするな、解散だ!」


 騎士様に促されて、野次馬たちが散り始める。


「なあんだ、巫女頭様と竜王様のお忍び外出だったのかよ」

「てっきり、巫女頭様が可愛い坊やにかどわかされたのかと思ったわ」


 解散していく人たちは、口々に今回の逃走劇の感想を漏らしていた。どうやら、僕がマドリーヌ様を誘拐していると思っていた人もいたらしい。

 だけど不思議なことに、怒るような人はいなく、誰もが笑顔を浮かべていた。


「まあ、楽しかったな」

「こんなに夢中になって追いかけっこをしたのは、久々なような気がするぜ?」

「しかも、追いかけていた相手が巫女頭様と竜王様だなんて、素敵じゃない?」

「今夜の酒のさかなだな」


 笑いながら去っていく人たち。なかには、最後にもう一度だけマドリーヌ様と握手がしたいという人たちや、僕の正体を知った人が最後の賑わいを見せていた。

 それでも、わずかな時間で野次馬の集団は綺麗に無くなり、緑豊かな住宅街に静けさが戻る。


「誤解させちゃった人たちには申し訳ないけど、楽しかったですね?」

「はい。こんな体験は初めてです」


 笑い合う僕とマドリーヌ様。

 すると、そこへ女性の声で背後から声が掛けられた。


「マドリーヌ」

「は、はいっ!」


 声を掛けられたマドリーヌ様が、直立不動で硬直したのは、次の瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る