朝ですよ 全員集合
ええええっ!
な、なんか……背後から、この場に居ないはずの人たちの声が、聞こえたような……?
感じ慣れた背後の気配に、僕とライラはとっさに振り返った。
そして、
「はわわっ、エルネア様っ」
「な、なんですとーっ!」
振り返るとそこには、家族のみんなが!
いや、そんな馬鹿な……
僕はライラと抜け駆けして、ひっそりと朝陽を観に来たんだ。
お部屋から抜け出す際にみんなの様子を伺ったけど、たしかに寝ていたよね!?
でも、なんで……?
「全てお見通しだわ」
「丸っとお見通しだわ」
ユフィーリアとニーナが、勝ち誇ったようにお胸様を突き出して腕組みしている。
うむ、まさに勝者です!
なにがって?
それは、ほら。
「にゃん」
僕の頭の上に飛び乗ってきたニーミアが、ふさふさと尻尾を揺らす。
「さては、やっぱりニーミアは起きていたんだね?」
「みんな起きていたにゃん」
「ふぁっ!?」
まさか、ミストラルたちは
「さあ、ライラ。貴女の悪巧みもここまでよ」
ミストラルが腰に手を当てて、ずずいっと前に出る。
ライラは
「ミストラル、待って! それは誤解だよ。僕がライラを誘って、ここに来たんだよ」
「あら、エルネア君が格好良いことを言っているわ」
「あら、エルネア君が男らしいことを言っているわ」
「えへへ」
「そこで目尻を下げなければ、本当に格好良いのだけれど」
「しくしく、ミストラルは手厳しいね」
ここは男としてライラを
そんなことをする以前に、ミストラルたちはライラの抜け駆けだということを完全に見抜いちゃっていた。
だけど、誰もライラに詰め寄ったりお仕置きしようとはしなかった。
「ふふふ。こちらはこちらで楽しかったし、今回は大目に見てあげるわ」
はて、何が楽しかったんだろうね?
ミストラルの言葉には疑問が残るけど、なぜかみんなは満足そうだ。
そしてミストラルは、僕の背後に隠れたライラの手を優しく握ると、改めて雲海から昇ってくる朝陽に視線を移した。
「竜峰でもあまり見られないような、良い景色よ。だから、しっかりと目に焼き付けておかないと、もったいないわよ?」
「は、はいですわ。来て良かったですわ」
どうやってミストラルたちがライラの抜け駆けに気づき、ここまで追跡できたのかは不明だ。
そして結局は、最後の最後でライラの抜け駆けは失敗に終わってしまった。
だけど、暁色に光り輝く雲海から悠然と姿を現していく太陽を山頂から望めるなんて滅多にできない経験は、誰かと抜け駆けしてこっそりと見るよりも、みんなで仲良く見た方が良いよね。
僕たちは、ホルム火山の山頂で肩を寄せ合いながら、みんなで美しい日の出を眺めた。
ひとしきり絶景を楽しむと、今度はお腹が不満を主張し始めた。
特に、食いしん坊さんであるプリシアちゃんのお腹がね。
「朝食の準備をしてきていますので、ここで頂きましょうか」
すると、準備の良いルイセイネが荷物から敷物を取り出して広げる。
アレスちゃんが謎の空間から食べ物や飲み物を取り出して、ミストラルが敷物の上に並べていく。
「あれれ? 僕とライラが道中で食べた物と一緒じゃない?」
「あらあらまあまあ、エルネア君。それは気のせいですよ?」
「そうかな?」
まあ、ルイセイネが気のせいだというのなら、気のせいなんだよね?
「にゃん」
みんなを乗せてここまで飛んできたニーミアも、お腹が空いているよね。
僕は、ニーミアを頭の上から膝の上に乗せ変えて、美味しそうなお肉の
「レヴァリアにも、特上の牛をあげるからね」
『期待せずに待っていてやる』
「お腹いっぱい準備しますわ」
『うわんっ、良いな?』
『お肉ぅ』
「いやいや、フィオとリームは、もうお肉にかぶりついているじゃないか」
子竜用の肉の塊も準備してあったようだ。
しかも、お好みで表面を
フィオリーナとリームは特製のお肉を食べながら、
「あんまり食べすぎると、太って飛べなくなるからね?」
『違うよ。育ち盛りなんだよっ』
『レヴァリアみたいに大きくなるんだよぉ』
そういえば、フィオリーナとリームは、出会った当初よりも随分と大きくなったね。
最初の頃は、幼女を乗せて飛ぶくらいが丁度良い程度の大きさだったんだけど。今では、大人が乗れるくらいまで成長している。
「よし、今度は僕も背中に乗せてもらおう」
『竜騎士ごっこだねっ?』
『悪い奴らをやっつけろぉ』
「おわおっ。プリシアも混ぜて?」
『もちろんっ』
『いいよぉ』
「んんっと、それじゃあプリシアとメイが
「よぅし、それじゃあ僕は、リリィに騎乗して悪者竜騎士の王様だぞー」
あれ? 気のせいかな?
フィオリーナかリームに乗せてもらおうという話が、いつのまにか竜騎士ごっこになっていて、なぜか僕が悪役になっているだなんて。
しかも、フィオリーナにもリームにも騎乗できていない!
そして極め付けは、ユフィーリアとニーナの言葉だった。
「とうとう、エルネア君が本物の悪役になったわ」
「とうとう、エルネア君が悪役に目覚めたわ」
「「天職だわ!」」
こらこら。僕は悪役なんて似合わない、正真正銘の善人ですからね! という突っ込みを忘れない。
そして、みんなが笑う。
思いもよらぬ場所で、思いがけず賑やかな朝食になった。
僕たちはその後も、ホルム火山の山頂で賑やかに時間を過ごす。
そして気づけば、太陽は雲海から突き出た高山よりも高い位置になり、空は青く綺麗に澄み渡っていた。
ということで、きゃっきゃと遊ぶちびっ子たちを横目に、片付けを始める。
もちろん、担当は僕とライラ!
抜け駆けをした罰です。とほほ。
とはいえ、そこは僕の家族だ。
お仕置きです、と最初は言ったけど、最終的にはみんなで片付け作業をしていた。
「さあ、片付けが終わったら、帰りますよ」
「んんっと、プリシアはもっと竜騎士ごっこをしていたいよ?」
「んんっとぉ、アリシアももっと竜騎士ごっこがしていたいな?」
「したいしたい」
……前言撤回、訂正です!
お片付けに参加しなかった大人がひとり、そこにいます。
貴女ですよ、アリシアちゃん!
まあ、アリシアちゃんは、僕たち家族からしてみればお客さん的な存在なので、強要はできないんだけどね。
それはともかくとして。
既に竜騎士ごっこを始めていたプリシアちゃんは、フィオリーナに騎乗して山頂をのっしのっしと可愛く
アリシアちゃんも、リームの背中に乗って楽しそうに歩き回っている。
ふむ。雲の上だから、フィオリーナとリームは飛べないんですね?
だけど、歩き回るだけでも楽しそうだ。
そして、可愛く歩くフィオリーナとリームから逃げて駆け回っているのは、ニーミアを頭の上に乗せて霊樹の木刀を振り回すアレスちゃん!
気づきました。どうやら、アレスちゃんが悪役で、プリシアちゃんたちが追いかけ回している構図ですね?
とても面白そうです!
一緒に混ざって、遊びたい!
「エルネア?」
「はっ!」
振り返ると、ミストラルが笑っていた。
「お遊びは、帰ってからね」
「はーい」
巫女頭のマドリーヌ様やユフィーリアやニーナでさえ真面目に片付けをしているのに、家長である僕だけが
止まっていた手を動かして、片付けを再開させる。
すると、ライラが遠慮がちに提案してきた。
「陛下に、お土産を持って帰りたいですわ」
「あら、良い考えですね。ここで陛下に恩を売っておけば、退位の準備に協力をいただけるかもしれません。ふふ、ふふふっ……」
「マドリーヌが真っ黒だわ」
「マドリーヌが邪悪だわ」
マドリーヌ様。巫女頭を退位するときは、正式な手続きを踏んでからお願いしますね!
王様を味方につけて、神殿側を
とはいえ、ライラの提案は素敵だと思う。
「そういえばさ、来る前にアーニャさんから聞いたんだけどね。この山の麓に、アーニャさんの故郷の村があるんだって」
「現地の特産をお土産にするのね。良い考えじゃないかしら?」
「セフィーナは、お城を抜け出して冒険へ出るたびに、いつもそうやってお父様の機嫌を取っていたわ」
「セフィーナは、王宮を抜け出して冒険へ出るたびに、いつもそうやって母様たちのお叱りを回避していたわ」
ユフィーリアとニーナの突っ込みに、セフィーナさんが苦笑する。
「ちなみに、ユフィとニーナはどうしていたの?」
双子王女様も、セフィーナさんに負けず劣らずの冒険をしていたんだよね?
マドリーヌ様と一緒に。
すると、二人は自信満々に言い放った。
「お父様の機嫌が治るまで、逃げ続けたわ!」
「お母様たちがお叱りを諦めるまで、逃げ続けたわ!」
ユフィーリアとニーナらしい行動に、僕たちは大爆笑。
「それでは、アーニャさんの村へ行ってみましょうか。わたくしも、アーニャさんがどういった場所でお育ちになったのか興味がありますから」
ルイセイネの意見に、全員が同意を示す。
「そういえば、アーニャは騎乗している焦げ茶色の飛竜と一緒に暮らしていたと言っていたわよね?」
「そうそう、ミストラルの言う通り。僕も、それは気になっていたんたんだよね。たしか、アーニャさんの家は竜騎士爵とかいう身分なんだっけ? もしかして、竜騎士の人たちがいっぱいいる村だったりするのかな?」
まだ、竜騎士が竜殺しの武器で竜族を
アーニャさんがどういう環境で、どうやって焦げ茶色の飛竜と心を通じ合わせたのか。
とても興味があります!
ということで、僕たちは
ただし!
『フィオとリームの同行は許さん』
『ええっ。なんで? なんでっ?』
『そんなぁ』
レヴァリアの無慈悲な言葉に、しゅん、と
だけど、ここは保護者であるレヴァリアの考えを優先させたい。
レヴァリアは、僕に関わる者以外の人には、フィオリーナとリームとの接点を極力持たせたくないんだよね。
竜族としての誇り。
人や他の種族と必要以上には
レヴァリアは、フィオリーナとリームに気高い竜族として成長して欲しいんだと思う。
「フィオ、リーム。ここはレヴァちゃんの言うことを聞いてね。帰ったら、いっぱいお土産話をしてあげるからさ」
『うわんっ。いっぱい遊んでね?』
『お土産待ってるからねぇ』
どこかの幼女とは違って聞き分けの良いフィオリーナとリームは、少し残念そうにしながらも、素直にレヴァリアの背中の上へ移動した。
「それじゃあ、ここからはにゃんがみんなを乗せるにゃん」
「ニーミア、よろしくね」
レヴァリアたちは、これからまた空の冒険へと飛び立つらしい。
なので、僕たちはニーミアに乗せてもらって、麓の村を目指すことになった。
「……で、さ。麓の村って、どこだろうね?」
雲よりも高くそびえるホルム火山。その裾野は大きく広がっている。
はたして、アーニャさんが住んでいたという村は、そのどこに位置しているのか。
僕は、詳しい場所を聞いてませんよ!?
ははは、と笑う僕を見て、ミストラルが苦笑する。
「いったい、貴方はこれまでどんな修行をしてきたのかしら?」
「はっ! その手があったか!」
ミストラルに指摘されて、思いつく。
そして、意識を集中させる僕。
「あら。あっちに飛竜の気配を感じるわ」
「あら。向こうに魔物の気配を感じるわ」
すると、僕と同じように気配を探っていたユフィーリアとニーナが、人ならざる者の気配を敏感に読み取った。
いやいや、ちょっと待って。僕たちは、人が暮らす集落の気配を探しているんですからね!?
改めて、ホルム火山の麓の気配を探る。
そうしたら、難なく集落を発見することができた。
「んんっと、あそこに小さな村が見えるよ?」
「気配を探るまでもなかったね!」
太陽が昇りきると、雲海も次第に薄れ始めて、雲の切れ目から麓の様子がちらほらと見え出していた。
そして、プリシアちゃんが元気よく指差す先に、目的地は存在した。
「よし、ニーミア。出発だ!」
「にゃーん」
山頂でレヴァリアと別れた僕たちは、ニーミアに乗ってゆっくりとホルム火山を下山する。
目指せ、アーニャさんの生まれ故郷!
「だけど、僕たちはまだ知らなかった。ユフィとニーナが感知した気配が、僕たちの運命を大きく左右する流れになるということを……。なーんてね?」
「エルネア、不吉なことを言わないの」
「ごめんなさい!」
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