功労者には報酬を
魔王城での休息も終わり、僕たちは帰るべき場所へ帰ることになった。
とはいっても、父さんたちを迎えに行ったりと、まだまだやらなきゃいけないことは山積みなんだけどね。
「それじゃあ、また遊びにきまーす」
「私の居城に気軽に遊びにくるような
「はっ、言われてみると!」
なんて魔王から突っ込みを受けながら、僕たちはレヴァリアに乗って、魔都を離れた。
魔族が支配する繁栄した街並みを飛び去り、レヴァリアは北へと向かう。
まず最初に目指すのは、竜王の都だ。
北の大地を完全支配すべく進撃を続けていた巨人の魔王配下の魔王軍は、いよいよ最辺境にある竜王の都付近まで迫ってきているらしい。
もちろん、竜王の都は僕たちの影響下にあるので、魔王軍に
それに、魔王軍と共に行動しているはずの父さんたちを、そろそろ回収しなきゃいけないし。
「いっぱいお
「金銀財宝なんて、僕たちにはいらないんだけどね」
魔王は、セフィーナさんとマドリーヌ様以外の僕たちにも、気前よくご褒美をくれた。
ただし、二人のときのように、僕たちに選ぶ権利なんてなく!
「魔法武具なんていらないわ」
「呪われた家具なんていらないわ」
「
「わたしも、宝石をあんなに貰ってもねぇ」
たぶん、これは嫌がらせか何かに違いありません。
魔力を帯びた武具や家具は、当たり前のように呪われていた。
終いには、宝石とか美術品なども強引に渡されたけど、どう考えても、再建途中の魔王城には置いておけない宝物の在庫処理を僕たちに押し付けたようにしか思えません!
ご褒美を貰ったはずの僕たちは困り果て、魔王やシャルロットの方がなぜか愉快そうにしていた。
あれは間違いなく、迷惑している僕たちの様子を見て楽しんでいたよね。
「アレスちゃん、あんなにいっぱい変な物を収納して、大丈夫?」
「だいじょうぶだいじょうぶ」
僕の
金銀財宝以外にも、貴重なお酒や食べ物も貰ってきた。そして、その全てはアレスちゃんの謎の空間に収納されている。
「まさか、謎空間でいろんなものがごちゃ混ぜになったりしていないよね!?」
「まぜまぜ」
「ひぃっ」
悲鳴をあげたのは、マドリーヌ様。
なにせ、奪還した錫杖や天雷の羽衣も含めて、アレスちゃんが収納しているからね。
ヨルテニトス王国に戻って取り出したら、お酒の匂いが染み付いていたり、お菓子まみれになっていました、なんて悲惨な状況になっていたら、目も当てられない。
「だ、大丈夫ですよね?」
僕とアレスちゃんを、不安そうに見つめるマドリーヌ様。
マドリーヌ様も、こんな表情をしたり不安がったりすることがあるんだね。と新たな一面が見られて、僕は楽しい。
みんなも、マドリーヌ様の
「マドリーヌ、大丈夫よ。アレスは優秀だから」
「ゆうしゅうゆうしゅう」
ミストラルに褒められたアレスちゃんは、ぺったんこの胸を張って威張ってみせた。
すると、なぜかオズが対抗意識を見せて、威張ったように身構える。
だけど、談笑するみんなは、そんなオズに気づかない。
可哀想な狐さんですね。
みんなの注目を集められずに、少し気落ちした様子のオズを見て、僕は内心で少し同情するのだった。
相変わらず、いつでもどこでも賑やかな僕たちの家族を乗せて、レヴァリアは北上し続けた。
ずっと昔から巨人の魔王が支配していた繁栄した国土を飛び去り、荒廃してしまった土地に入る。
お昼の休憩を
「ねえねえ、奇妙じゃない? 破壊し尽くされた街と、そうじゃない街が点在しているね?」
「言われてみると、そうですわ」
僕と一緒に地上を覗き込んでいたライラが頷く。
地上から黒煙が上がっている場所は、村であれ都市であれ、壊滅的な被害が出ていた。でも、それとは逆に、別の地域では何事もなかったかのような街や都が在ったりする。
この違いって、なんだろう?
「
「ルイセイネ、それはどうかしら? いくら赤布盗とはいえ、都市を破壊し尽くすほどの戦力は持ってなかったのじゃない?」
無事な様子の街や都だって、少なからず損傷している。それは、魔王クシャリラが去って以降の荒廃を物語っているんだけど、やはりミストラルが指摘するように、いくら赤布盗とはいえ、都市を根底から破壊し尽くすほどの戦力はなかったはずだ。
では、なぜ破壊し尽くされた村や都市が所々に点在しているのか。
「それは、ほら。遠征軍じゃないかな? 陛下の威光にひれ伏した場所は見逃されて、抵抗の意思を少しでも見せたところは徹底的に蹂躙されたんだと思うよ?」
「ルイララ!?」
君も、レヴァリアに騎乗していたんだね。
当たり前のように僕たちに同行しているルイララに、今まで全く気づかなかったよ!
と、まあ。冗談はさておき。
「やっぱり、魔族は魔族なんだね」
改めて、思い知らされる。
シャルロットは面白おかしく僕たちを弄ぶけど、身の危険や命の危機を感じるようなことはほとんどない。魔王だって、なんだかんだと言いつつも、懐深く僕たちを見守ってくれている。
だけど、やはりあの二人は魔族で、ここは魔族が支配する土地なんだね。
弱肉強食の世界。
力ある者が力なき者を一方的に支配する、無慈悲な社会。
北の大地の新たな支配者になった巨人の魔王に従うならよし。ただし、従わないのであれば、容赦はしない。
これは、遠征軍の暴走なんかじゃない。
全ては、魔王の意志だ。
巨人の魔王は言った。蹂躙してこい、と。
僕はレヴァリアの背中の上で、あの時の言葉の意味と重さを、ようやく知るのだった。
遠征軍が侵攻したと
すると、地上を埋め尽くすかのような黒々とした一団が現れた。
「あれが、遠征軍だね」
「いやあ、壮観だね」
「ルイララでも、見るのは初めて?」
「あの規模の軍勢はね」
確か、数十万規模の魔王軍なんだよね。
上空からのレヴァリアの接近に、有翼の魔王軍が慌ただしくなる。だけど、有翼の魔族でも届かない高度と、紅蓮色に輝く鱗の飛竜、そして荒々しい咆哮で、こちらが何者か理解してくれたようだ。
僕たちはゆっくりと動く地上の大軍と有翼の魔王軍の頭上を、何事もなく通り過ぎる。
地上のどこかに、父さんたちがいるはずなんだけどね。
でもその前に、寄らなきゃいけない場所があります。
そう、竜王の都です。
なぜ、先に竜王の都へ向かうのかというと……
「なんだい、魔族どもを滅ぼしてやろうと思っていたところなんだけどね」
「アシェルさん、駄目ですってば!」
そうなんです。この古代種の竜族が、暴れだしそうだったから!
「魔王城に行く前にも言いましたよね。魔王軍が接近してきても、手を出しちゃ駄目ですよって」
「愚かだね。わたしには何が魔王軍で、何が
「くっ、なんという言い訳!」
侵攻を続ける魔王軍は、既に竜王の都付近まで迫っていた。
情報通の住民のなかには、都市を囲む城壁の上に登って、外の様子を興味深そうに伺っている人たちもいた。
僕たちは、そんな人たちを安心させるように戻ってきたわけなんだけど。
アシェルさんはどうも、
そりぁあ、そうだよね。見知らぬ土地を守護しなきゃいけないどころか、住民は魔族と奴隷の人たちばかりなんだから。
「んんっと、お土産は?」
「お土産ほしいにゃん」
「はいはい、いっぱい貰ってきてますからね」
とはいえ、少しでもアシェルさんの気を
そうです、最終兵器のプリシアちゃんとニーミアの投入です!
プリシアちゃんとニーミアは、僕たちと一緒に魔王城へは行かなかった。代わりに、竜王の都でアシェルさんと一緒に過ごしてもらっていたんだ。
「エルネア、あまりプリシアを甘やかす必要はないですからね?」
「はい、ときには厳しく、ですよね」
それと、もうひとり。
禁領からついて来たのは、プリシアちゃんのお母さんだった。
アシェルさんの鬱憤を少しでも緩和させるための、ニーミアとプリシアちゃん。その、ニーミアとプリシアちゃんの暴走を阻むための、リディアナさん。
完璧な布陣!
「どこが、完璧な布陣だね! 周りに迷惑をかけておいて」
「うわっ、ごめんなさいっ」
ずしんっ、とアシェルさんの手が僕を潰そうと襲いかかる。僕はそれを回避しながら、改めてお礼を言う。
「アシェルさん、リディアナさん。周りが魔族ばかりで大変でしたよね。ありがとうございます」
「ふふんっ、あとでたっぷりと、奉仕してもらうからね?」
「ふふふ、わたしは意外と楽しめたわ。アリシアやプリシアが外の世界に興味を持つのも、分かる気がしました」
アシェルさんからは、念入りな
プリシアちゃんのお母さんは、普段は真面目で怖い女性だけど、思いのほか竜王の都での生活を楽しめたみたい。
僕たちが何度もお礼を言っていると、レヴァリアの飛来を知ったメドゥリアさんや
「エルネア様、おかえりなさいませ」
「みなさん、ただいま」
今度は、メドゥリアさんたちにお礼を言って回る。
竜王の都の守護のためとはいえ、アシェルさんを
「あっ、そうだ!」
僕の意思を読んで、プリシアちゃんと遊んでいたアレスちゃんが、謎の空間から金銀財宝を取り出し始めた。
「ええっと、みなさんに今回のお礼を」
そして、魔剣とか呪われた家具なんかを配る。
「ああっ、なんという逸品でしょうか。本当に頂いても?」
「どうぞ、どうぞ!」
人族である僕たちから見ると困った品々だけど、魔族から見れば普通に価値のあるものなんだよね。
魔族なら、呪われないし。
ということで、魔王から貰いながらも所蔵に困っていた物品を、メドゥリアさんたちに譲る。
誰が頑張ったのかとか、功績があったのかはここに滞在していなかった僕にはわからない。なので、分配に関することはメドゥリアさんにお任せです。
もしかして、魔王はこうなることを見越して、あえて魔力を帯びた報酬をいっぱい僕たちに手渡したのかな?
なんて深読みをしつつ、メドゥリアさんたちに金銀財宝を譲っていると、広場の外から声が掛かった。
「皆さま、外に!」
おおっと、そうでした。
アシェルさんたちの様子も確認できたし、そろそろ遠征軍の先頭が竜王の都に到達するはずだ。
僕たちは揃って、外門へと向かう。
僕たちが到着すると、外門が開け放たれた。
遠くに、土煙を上げる大軍が見える。
そして、地平線を埋め尽くすかのような大軍を離れ、こちらへと向かってくる少数の影が。
「あっ、父さんたちだ!」
瞳に竜気を宿す。すると、ひと際大きな、黒々とした影が見えた。それは闇属性の地竜グスフェルスで、そこに父さんたちが騎乗していた。
グスフェルスの周囲には、見知った魔族が何人か見える。他にも、屈強そうな魔族がこちらへと向かって来ていた。
「おおーい! いらっしゃい!!」
大きく手を振って、来訪者を迎える。
僕たちの存在に気づいたのか、グスフェルスが歩みを速めて近づいてくる。
父さんたちも、こちらに手を振って嬉しそうに騒いでいた。
「おお、エルネアよ」
「ここは、いったい?」
「王様、ここは竜王の都ですよ。つまり、遠征の終着点です!」
そして、到着した父親連合の面々と魔王軍の代表を迎え入れる。
四本腕の魔将軍が総指揮官なのか、僕への挨拶のあとにメドゥリアさんたち都市の代表者と言葉を交わしていた。
遠征軍のあれこれも、メドゥリアさんたちにお任せだ。
……こう考えると、僕ってひとりではなにも出来ないんだね。
騒動を鎮めるためにはみんなの協力が不可欠で、補佐をしてくれている人たち無しでは、僕は無力でしかない。
アシェルさんの言葉を思い出す。
僕は、実は迷惑ばかりをかけていて、ちっとも立派になれていない。
よし、決めたぞ。
これからは、みんなのために働こう!
とまあ、新たな決意は持ち越しておいて。
「さあ、父さんたち。都の中へ入って寛いでね。ここが、男旅の終着点でもあるんだからね!」
そうそう。先ずは、父さんたちを労わなきゃね。
僕に誘われて、父さんたちはグスフェルスに騎乗したまま竜王の都へと入る。
住民の人たちは、アシェルさんやレヴァリアで竜族にも随分と耐性が付いたのか、グスフェルスが道を
逆に、父さんたちの方が物珍しそうに周りをきょろきょろと見渡していて、落ち着きがない。
特に、二人の王様は目を見開いて周囲を観察していた。
「素晴らしい街並みだ。巨人の魔王が住む魔都とは比べるべくもないが、それでも整備が行き届いている」
「これほどの都が、このような場所に在るとは」
統治者らしい観点から、都市を観察する王様たち。
「先ほどの女領主殿は、エルネアと娘たちの結婚の儀にも参加していたな?」
「ですな。ええっと、たしか……?」
「王様、あの女性はメドゥリアさん。僕の代わりに、この竜王の都を統治してくれている魔族の人ですよ」
「おお、そうであった。あの女性が、エルネアの代わりをのう……ん?」
「そうか、そうか。ここが
落ち着きなく街並みを見物していた二人の王様の動きが止まる。
そして、ぎぎぎっ、と
「いや、ちょっと待て」
「ここが、エルネアが支配する都だと?」
「アームアード王国の王都より」
「ヨルテニトス王国の王都より」
「「でかくて立派な都じゃないかああぁぁぁっっっ!!」」
二人の王様は揃って仰け反り、驚きのあまりグスフェルスの背中からごろんと落ちた。
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