姉妹喧嘩
「ユフィ、ニーナ!」
止めに入ろうとした僕を、しかしセフィーナさんが
「ユフィ姉様、ニーナ姉様、本気で言っているのね?」
手だけで僕を来るなと制止し、鋭い眼光で二人の姉を
ユフィーリアとニーナが遊びや冗談で挑発しているのではないということくらい、気配でわかる。
「セフィーナ、言うことを聞きなさい」
「セフィーナ、現実を受け入れなさい」
ユフィーリアとニーナの触れ合った肩を通して、竜気が
今にも
セフィーナさんも竜気を
「もしも、私が嫌だと言ったら?」
「強制的に帰ることになるわ」
「強引にでも帰ってもらうわ」
「そう、それがユフィ姉様とニーナ姉様の考えなのね」
どうにかして、姉妹の争いを止めなければ。
セフィーナさんの処遇は、僕が決断しなきゃいけない問題なんだ。けっして、ユフィーリアとニーナに押し付けていいようなものではない。
「三人とも、
いい加減にしないと、僕も怒るよ。と三人の間に割って入ろうとする僕を、今度はユフィーリアとニーナが
「エルネア君、ごめんなさい。だけど、これは避けて通ることのできない喧嘩だわ」
「エルネア君、ごめんなさい。だけど、これは姉妹のけじめとしての喧嘩だわ」
「二人とも、なにを言ってるんだ!」
ユフィーリアとニーナは、当初から一貫してセフィーナさんを認めていなかった。
だけど、実力行使の喧嘩をしてまで拒絶することはないんじゃないか。もしも、どうしてもセフィーナさんを帰したいのなら、それは家長として僕が担わなければいけない責務だ。
姉だからという理由で、二人が背負わなきゃいけない問題じゃない。
だけど、僕の想いは伝わらない。
ユフィーリアとニーナは、竜奉剣に竜気を送り、今にも大技を放ちそうだ。
「最後の警告よ。
「最後の警告よ。帰りなさい」
二人の姉に敵意を向けられたセフィーナさんは、十分に距離を取ると不敵な笑みを浮かべた。
「いいわ。姉様たちがその気なら、私も
「覚悟はできているわ。もしもエルネア君と共にいたいのであれば、私たちを倒しなさい。でも、
「覚悟はできているわ。もしも自分の思いを貫きたいのであれば、私たちを排除することね。でも、
姉妹の争いは避けられない。
きっと、ミストラルやルイセイネがこの場にいても、誰も止めることはできない。
それくらい三人の気迫は本物で、他者の介入を許さなかった。
僕は、歯がゆい思いで三人を見つめることしかできないのだろうか。
昨日、セフィーナさんの件は僕が決断するとミストラルに約束したばかりなのに……
北と西に枝分かれした道の分岐点で、姉妹の運命にも亀裂が生じていた。
「私は私の想いのために、姉様たちだろうと邪魔者は排除するわ!」
先に仕掛けたのは、セフィーナさん。
低く腰を落とした体勢から、地を
「はあっ!」
竜奉剣は長大で、小回りの効くような振るい方はできない。間合いに入られたユフィーリアは竜奉剣で対応することができず、回避に移る。
背後に倒れるような勢いで、大きく仰け反るユフィーリア。そこへ、セフィーナさんの拳が伸びる。
「っ!?」
だけど、仰け反ったユフィーリアの上半身を
セフィーナさんは、思わぬ軌道を通って迫る竜奉剣に
握り締められていた拳を開く。そして、迫り来るニーナの竜奉剣の分厚い刃の腹を
大振りの一撃を弾かれて、ニーナが体勢を崩す。
セフィーナさんは掌底から流れるように身体を
そこへ襲いかかったのは、ユフィーリアの竜奉剣だ!
言葉を交わさずとも、目を合わせずとも、自然にお互いの動きを把握し、隙のない連携を繋ぐ。
セフィーナさんは二人の姉の連携に、
だけど、先制の機会を
振られたユフィーリアの竜奉剣が、ニーナの竜奉剣と交わる。
「ユフィと」
「ニーナの」
「「
二人を中心に、竜術の鋭い刃が無数に出現する。
剣の形を取った竜術は、セフィーナさんに狙いを定めて襲いかかる。
迎え撃つセフィーナさんは、高速で迫る剣の雨を静かに待ち構えていた。
「はっ!」
そして、短い気合のあと。
眼前に迫った剣を、先ほどと同じように掌底で払い落とす。さらに、水の流れを体現した動きで、ひらりひらりと無数の剣を
セフィーナさんが叩き落としたり回避した竜術の剣が地面に着弾すると、爆発を起こした。
竜槍乱舞ほどの威力はない。だけど、竜術の剣は竜槍乱舞よりも遥かに数が多く、速い。それを、セフィーナさんは華麗に受け流していく。
そして、回避が困難なものだけを、掌底や蹴りで叩き落とす。
そんな無茶苦茶な、と驚愕する僕。
触れれば、爆発する。そんな竜術を爆発させずに払うなんて芸当は、僕にもできないよ!
でも、現にセフィーナさんはやってのけている。
これが、セフィーナさんの修行の成果だ。
セフィーナさんに流体の動きを伝授しているのはジルドさんだけど、そこで忘れちゃいけないことがある。
ジルドさんは、ミストラルも舌を巻くほどの竜術使いでもある。
洗練され、気の行き届いた竜術は、放ったあとも自在に操作できるほど。そして、自由自在の竜術は
そんなジルドさんに修行をつけてもらっているセフィーナさんは、竜気の巧みな操り方をこれまで以上に身につけていた。
「ユフィと」
「ニーナの」
「「
双子王女の掛け声に合わせ、緑色の竜気で練り上げられた飛竜が顕現する。それも、三体同時に!
飛竜はセフィーナさんへ狙いを定めると、鋭い牙をむき出しにして襲いかかる。
ようやく竜術の剣を捌ききったと思ったら、次は三体の飛竜。セフィーナさんは更に後退する。と、みせかけて。踏みしめた地面を強く蹴ると、双子の姉へ一気に迫る。
ユフィーリアとニーナは竜奉剣を所持しているものの、どちらかといえば竜術での遠隔攻撃を得意としている。セフィーナさんは、それを見越して接近戦を仕掛けた。
「
「
だけど、ユフィーリアとニーナは妹の動きを完璧に読みきっていた。
「「はああっ!」」
大振りではあるけど、ユフィーリアとニーナは竜奉剣を振るう。完全に一致した二撃が、間合いに飛び込もうとして跳躍してきたセフィーナさんを迎え撃つ。
「くっ!」
ユフィーリアの斬撃を掌底で払い、ニーナの
あえて竜奉剣を振るう間隔をずらすと、絶え間なくセフィーナさんを追い立てる。
ニーナを狙おうとするセフィーナさんを、ユフィーリアが
体勢を整えようと、セフィーナさんは二人から間合いを取る。そこへ、飛竜が襲いかかる。
さらに、飛竜はセフィーナさんがユフィーリアとニーナに接近している最中でも容赦なく襲う。
完璧な連携を見せる双子だ。その二人が顕現させた竜術の飛竜も、
僕は、知っている。
ユフィーリアとニーナも、僕たちやセフィーナさんと同じように修行を続けてきたということを。
負けない戦い。
これは僕たち全員の課題だけど、
ユフィーリアとニーナは二人で文字通り手を取り合い、負けない戦いを
「貴女の覚悟は足らないわ。私たちだって、エルネア君の足手まといにならないように必死に努力しているわ!」
「貴女はエルネア君を利用しているだけだわ。自由に世界を冒険したい、そのためにエルネア君が都合のいい存在なだけだわ!」
容赦なく竜奉剣を振るい、
セフィーナさんは攻撃を捌きながら、二人の姉のきつい言葉を真正面から受け止める。
「エルネア君には、もう私たちがいるわ。だから、同じ王族の血はもう必要ないわ」
「エルネア君には、もう私たちがいるわ。だから、妹は引っ込んでなさい」
セフィーナさんは、防御型の戦いをする。
相手の術や技を捌き、逆転の機会を狙う戦法だ。
流体の動きも、術の効果を発揮させずに受け流す技も、耐えて好転を探るために身につけた
だけど、双子の姉たちの完璧な連携を前に、逆転の機会を
無理もない。
セフィーナさんは、ユフィーリアとニーナの全力の竜術を捌くだけでも、竜気を激しく消耗しているはずだ。
もともと竜力の小さいセフィーナさんにとって、この長期戦は不利にしかならない。
それでも竜奉剣の斬撃を受け流し、竜術を躱すセフィーナさんは、十分すぎるほど強いと思う。
相手が悪かっただけ。
相性の悪い、双子の姉たち。そして、姉妹だからこそ動きを読まれてしまう。
大粒の汗を流し、息を荒くするセフィーナさん。
だけど、ユフィーリアとニーナは手を緩めたりはしない。
「私とニーナを排除しなければ、エルネア君の隣に貴女の
「ユフィ姉様と私がいる限り、エルネア君の隣に立たせたりはしないわ」
体力と竜気の限界なのか、竜奉剣の斬撃を受け流しきれずに、セフィーナさんが吹き飛ぶ。そこへ、飛竜が風の
暴風は竜巻を生み、セフィーナさんを高く巻き上げる。そして鋭い旋風がセフィーナさんの全身を斬り刻み、地面に叩き落とした。
「くうぅぅ……!」
それでも立ち上がろうとするセフィーナさん。だけど、震える腕で上半身を起こすことがやっとのようで、下半身には全く力が入っていない。
「セフィーナ、貴女の覚悟なんて
「セフィーナ、貴女の努力なんて
上半身だけを起こしたセフィーナさんに、ユフィーリアとニーナが歩み寄る。そして、竜奉剣の剣先をセフィーナさんに突きつけた。
「そんなことないわ……!」
だけど、セフィーナさんは強い意志の宿った瞳で二人の姉を見上げる。
戦いに負けても、意思では負けていない。そんな気負いが感じられる、強い瞳だ。
「諦めの悪い妹だわ。なら、聞かせてあげる」
「諦めの悪い妹だわ。なら、教えてあげる」
「「私たちの秘密を」」
あっ! と僕が割って入るよりも前に、ユフィーリアとニーナは家族の秘密を口にした。
「私たちには、寿命がないの。だから、寿命のある貴女は私たちについていけないわ」
「私たちは、不老になったの。だから、人族の貴女だけが老いていくのよ」
二人の姉の衝撃的な告白に、セフィーナさんはとっさに僕を見た。
間違いないよ、と僕は頷く。
「私たちだけじゃない。ミストラルやルイセイネやライラもそうよ」
「私たちだけじゃない。妻であるみんながそうよ」
「だから、寿命のある貴女がどれだけ願っても、エルネア君とずっと一緒にはいられないわ」
「貴女だけが老いていくことに、耐えられはしない。だから、貴女を迎えることはできないわ」
不老の話は、告げるのであれば僕の口からという方が正しかった。もしくは、身内に招かないというのであれば、このまま
だけど、ユフィーリアとニーナはあえて自分たちからセフィーナさんに伝えた。それは、姉だからこそ、妹を強く突き放せると思ったからかもしれない。
でも……
僕は、ユフィーリアとニーナを見る。セフィーナさんを見る。そして、お屋敷と森と霊山に続くそれぞれの道を見た。
ユフィーリアとニーナは、姉としてセフィーナさんのことをよく理解している。
出会った当初、セフィーナさんに
僕だって、下心だけしかない相手なら問答無用で拒絶していたと思うし。
僕も、ユフィーリアとニーナほどではないにしても、セフィーナさんのことをたくさん知った。
お屋敷から続き、ここで森と霊山に向かうために二股に分かれた道。
僕は改めてもう一度、耳長族や精霊たちが新居に選んだ森へ続く道を見る。
細く、まだ頼りのない道だ。ここ最近でようやく踏み固められたとはいえ、道を阻む草木はまだ伸び放題のまま。細い道の脇には石が転がっていたりと、頼りなさが見て取れる。
次に、霊山へと続く道を見た。
僕が作った道とは違い、しっかりとした立派な道がどこまでも続いている。
僕だけじゃない。ミストラルやルイセイネや、他のみんなが知っていた。
この道は、セフィーナさんがひとりで作り上げた道だ。
毎日、オズへと食べ物を届けに行っているセフィーナさん。
だけど、実は普通に移動していると、霊山とお屋敷は一日で往復できるような距離じゃない。そこを、セフィーナさんは竜気全開で駆け抜けている。
そう、毎日だ。
雨の日も、風の日も。きっと、体調の悪い日だってあったと思う。面倒だと思った日もあったと思う。だけど、毎日欠かすことなく走り続けた形跡が、この立派な道だ。
そして、それだけじゃない。
オズのご飯を毎朝準備しているのは、セフィーナさんだ。ミストラルやルイセイネと同じ時間に起きて、ご飯を作る。
そして、毎日オズへと届けている。
さらに、竜気全開で駆け抜けてお屋敷に戻ってからは、日が暮れるまでジルドさんと修行をしていた。
どんなに大変なことだろう。
どれほどの覚悟があって、こんなに努力しているんだろう。
生半可な想いでこんなことはできない。
セフィーナさんは、決して
それだけじゃない。姉たちから下心で僕に近づいたなんて言われても、そこに思い当たる節が僅かでもあれば、決して言い訳なんかしない。
僕たちは、知っている。
セフィーナさんはすごく真面目な女性であり、
そんな彼女が、軽い気持ちで僕と一緒にいたいと願い続けるだろうか。
「ユフィ、ニーナ。もうそれくらいにしようよ?」
僕は二人の竜奉剣にそっと手を
触れた竜奉剣が、僅かに震えていた。
戦いに興奮しているわけじゃない。
「ごめんね、ユフィ、ニーナ。辛い役目を押し付けちゃって」
僕は知る。
ユフィーリアとニーナは、けっして妹が嫌いだから喧嘩をふっかけたわけじゃないんだ。セフィーナさんが邪魔だから排除しようとしたんじゃないんだ。
そう。姉だからこそ、妹を大切に想っているからこそ、ここで、自分たちの手で引導を渡し、真っ当な暮らしに戻してやりたいと願ったんだ。
憎まれてもいい。嫌われてもいい。それでも、妹には普通の人として幸せになってほしい。
僕は、ユフィーリアとニーナになんて辛い役目を担わせてしまったんだろう。
近い将来、なんて
二人の想いに、もっと早く気づいていれば良かった。
「ごめん……」
僕には謝ることしかできない。
だけど、
「違うわ、エルネア君。この役目は誰にも
「こればかりは、エルネア君にも
どうやら、昨日の話を聞いたからこその行動だったみたいだ。
でも、それでも僕の心は痛んでいた。
そして、僕と同じように心を痛めている人がもうひとり。
「そう。エルネア君は私の
セフィーナさんは
セフィーナさんは、僕もユフィーリアとニーナと同じように、拒絶していると思ったのかもしれない。
だけど、セフィーナさんの瞳には未だに強い覚悟が宿っていた。
「不老不死?」
「ううん、不死ではないよ。不老といっても寿命がないだけで、精神年齢に合わせて見た目の変化はあるみたい」
セフィーナさんの短い質問に、僕は包み隠さず答える。
「私は不老になれないわけね?」
「僕たちも、思わぬ切っ掛けでなったわけだしね」
「エルネア君、私は邪魔なのね?」
「邪魔だなんて思っていないよ。ただ……」
僕が決断を口にする前に、セフィーナさんは
「セフィーナさん……」
「エルネア君」
僕とセフィーナさんは見つめ合う。
どうやら、僕の言葉を聞く必要もなく、セフィーナさんは自分で自分の未来を決めたようだ。
セフィーナさんはひとつ大きく深呼吸をすると、はっきりとした口調で自分の決意を口にした。
「べつに、気にしないわ、その程度のことなんて」
「やっぱりか!」
いや、知っていましたよ。
だって、昨日ミストラルが言っていたもん。
セフィーナさんは、寿命の問題なんて気にしないだろうってね。
「だって、姉様たちでもなれた不老なのでしょう? なら、きっと私もなってみせるわ。何年だろうと、何十年だろうと、可能性がある話なら絶望なんてしないわ」
「そう言うだろうな、とは予感していたよ……!」
「だから、これからも私はエルネア君についていくわ。ユフィ姉様とニーナ姉様になんて言われようともね!」
セフィーナさんの男前な宣言に、僕は笑いながら
「うん、その覚悟でお願いします。僕も、セフィーナさんを追い返そうとは思っていなかったんだ」
「あら、そうなの?」
「そうだよ。だから、ユフィとニーナの行動に驚いちゃって」
「セフィーナの想いを確認する役目は譲れなかったわ」
「セフィーナの意志を確認する役目は譲れなかったわ」
「それなら、事前に相談してほしかったな?」
僕は、ユフィーリアとニーナがどれほど妹を愛しているか、見誤っていたようだ。
それと、僕はセフィーナさんの意志がどれほど強固なのかも知らなかったみたい。
いや、見落としていたと言うべきかな?
そうだよね。
毎日オズにご飯を届けに行って、今では立派な道を作り上げたセフィーナさんだ。
なら、未来に続く道は自分で地道に作り上げるのがセフィーナさんだ。
どんなに困難であろうと、途方もない努力が必要であろうと、そんなことは問題じゃない。
たどり着ける場所があるのなら、絶対にたどり着く。
セフィーナさんとは、そういう女性なんだ。
なんて格好良い生き方なんだろう。
それと、ユフィーリアとニーナ。
僕はてっきり、妹のセフィーナさんが邪魔だから毛嫌いしていたのかと思ったけど、それは間違いだった。
実は心を鬼にして、セフィーナさんを普通の人族らしい暮らしに戻そうとしていたんだね。
もともと二人自身が自由奔放な性格だし、妹に言葉で言っても伝わらないと思ったから、こうして実力行使に出たんだろうね。
どうやら、僕は三人の評価を改めなければならないみたい。
そして、未熟な僕とは違い、二人の姉は全てを知っていたようだ。
「もう、馬鹿な妹だこと」
「せっかく真っ当な道に戻してあげようと思ったのに」
「姉様たちのそんな考えなんて、こちらもお見通しだわ」
どうやらセフィーナさんも、ユフィーリアとニーナのことをきちんと理解していたようだね。
きついことを言われようとも、剣を突きつけられようとも、姉からの愛を疑いなく知っている。
やれやれだ。
どうやら、この姉妹喧嘩は茶番だったみたい。
「これから、きっと辛いことがあるわ」
「これから、きっと耐えきれないこともあるわ」
「それでも、エルネア君の側に居たいのね?」
「それでも、エルネア君と共に生きたいのね?」
「ええ、そうよ」
ユフィーリアとニーナは竜奉剣を手放すと、大切な妹に抱きついた。
セフィーナさんも、大好きな姉を抱き締める。
「もうっ、さっきの竜術は痛かったのよ?」
「ごめんなさい」
「許してね」
「許さないわ。姉様たちの馬鹿っ」
「妹のくせに、生意気だわ」
「妹のくせに、泣かせるんじゃないわ」
そして、三人揃って泣き出した。
さっきまでは、セフィーナさんのことも僕がけじめをつけなきゃ、と思っていたんだけど。
どうやら、ユフィーリアとニーナという偉大な姉の想いには届いていなかったらしい。でも、それだけユフィーリアとニーナが妹のことを大切に愛しているってことだよね。
いつもは喧嘩ばっかりしている三姉妹だけど、喧嘩するほど仲が良いとはこのことだよ、と僕は泣いている三人を見守った。
「エルネア君、セフィーナを泣かせちゃ駄目だからね?」
「エルネア君、セフィーナを怒らせちゃ駄目だからね?」
「エルネア君、姉様たちを泣かせないでね。それと、これからもよろしくね」
「うん、約束するよ。それと、こちらこそよろしくね」
涙を流しながら、三人は僕を見る。
僕は笑顔で応えた。
「エルネア君、セレイア母様への
「エルネア君、陛下への
はっ、しまった!
セフィーナさんを迎え入れるということは、また王様と実母さまへの挨拶が待っているんですね!
まさか、僕が担うべき役目とは、最初からこれだったのだろうか!?
だから、セフィーナさんを迎え入れるかどうかの判断はユフィーリアとニーナが担ったというのだろうか。
くううっ、あとに待つ儀式の方が大変じゃないか!
だけど、僕はまだ本当の絶望というものを知らなかったようだ。
「エルネア君、マドリーヌのこともよろしくお願いするわ」
「エルネア君、マドリーヌのことはよろしくお願いするわ」
「エルネア君、気をつけてね。未婚の
「えええぇぇっっっっ!」
なんでマドリーヌ様まで加わっているのかな!?
僕は未来に続く道の先に待ち構える難題に、絶望の悲鳴をあげるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます