過激な旅はお好きですか
ほらね、やっぱり僕が大変な目にあっちゃうんだ。
ということで、母親連合の旅第二弾が決まってからというもの、僕はまた振り回されることになった。
レネイラ様をヨルテニトス王国の離宮へと返すことは大前提として。次に、王妃様たちの対応を決める。
まあ、大変さの大半はここに集約されていたよね。
「エルネア君、ヨルテニトス王国へ行くときは、ぜひ飛竜に乗って」
「スフィア様、却下です!」
「だってね、エルネア君。飛竜ちゃんたちもあんなに飛びたがっているのだわ」
「飛竜が飛びたいと思っているのは、本能です! だいたい、なんでスフィア様が飛竜の気持ちを代弁しちゃっているんですか」
『飛びたいなー』
『東に行きたいなー』
『人の女どもを乗せることに、否定はないぞ?』
スフィア様たちに
僕は飛竜たちの冷やかしを黙殺し、必死に王妃様たちを説得した。
竜峰で竜族たちと交流を持ったことで、王妃様たちは飛竜に乗れるようになった。それで、ヨルテニトス王国への旅は、今度は飛竜に乗って行きたいと言い張るのです。
飛竜たちも、母親連合を乗せることに否定的な反応はしていない。
だけど、これだけは絶対にしちゃいけないんだ。
だって、竜族に乗って大地を爆走したり空を自由に飛び回るのって、竜騎士団の
べつに、飛竜騎士団以外の者が竜族に乗ることを全否定しているわけじゃない。
僕たちだって、竜騎士ではないけどニーミアたちのお世話になっているからね。
問題なのは、母親連合が竜族に難なく騎乗し、思いのままに操るということ。
先祖代々の竜騎士の家系の人でも、幼い頃から竜と接して、大変な苦労をしてようやく一人前の竜騎士になれる。
元々が竜騎士の家系でない人は、もっと大変だ。
飛竜狩りなどに参加して、死に物狂いで捕らえた竜を調教し、ようやく竜騎士になれる。
もちろん、今では暴力による支配を廃止し、意思疎通によって竜と人とが結びつくように変革され始めているけどさ。少なくとも、現役の竜騎士の人たちは、そうして命の危険や途方もない努力の末に栄光ある称号と
そこに、なんの苦労も見せないで母親連合が飛竜たちを操って現れたら、竜騎士の人たちの誇りが傷ついちゃう。
「でもね、エルネア君。これから融和が大切だというのなら、私たちが飛竜に乗っていけば示せるはずだわね?」
「いいえ、スフィア様。それはちょっと違いますよ。それをやって良いのは、やはり努力をしている人たちだけです」
「私たちも、竜峰で努力したのだわ」
「はい、それはよく理解しています。でも、それは絶対に言えないことですよね? 竜峰を旅したときに会得しました、なんて言ったら、それこそ国民から
母親連合の旅第一弾は、あくまでも秘密の旅だったからね。
「それに、です。竜騎士はヨルテニトス王国の象徴だから、アームアード王国の王族が真似しちゃうのは駄目ですよ。たとえば、グレイヴ様が俺も勇者だーって言ったら不満に思うでしょ?」
「殴り倒すわね!」
ひどい!
「な、殴るかどうかは置いておいて。やっぱり、できるからとなんでもして良いわけじゃないんです。特に、王妃様たちはね。だから、我慢してください!」
簡単にまとめるとこんなやり取りだったけど、実際はもっと精神と体力を消費する説得劇でした。
母親連合の代表として交渉の
もうね。母親連合、というか王妃連合は怖いです!
なにはともあれ、色々な経過を得て、なんとか母親連合の旅、第二弾はまとまった。
まず、レヴァリアを呼び出す。
ライラが切望していたからね。
レヴァリアには、ライラとレネイラ様と僕が騎乗して、ヨルテニトス王国の離宮を目指すことになった。
次に、ニーミアに頑張ってもらう。
こちらには、母親連合のみなさんとマドリーヌ様とルイセイネが乗ることになった。
レヴァリアとニーミアは、ヨルテニトス王国の国内に入ったら別々の空路で目的地へと向かう。
僕たち、というかレネイラ様はお忍びの旅なので、
逆に、ニーミアは母親連合改め外交使節団と
まずは、シューラネル大河を活動範囲としている水竜騎士団の拠点、カッド砦に行ってもらう。そこで使節団の来訪目的などをヨルテニトス王国側に告げて段取りを組んだあとに、王都へ行く手はずだ。
まあ、いきなり王妃様を中心とした使節団が来たら、カッド砦も大変な騒動になるだろうね。
そこはもう、頑張って、としか言えません。
ちなみに、ライラとルイセイネ以外の妻たちはお留守番です。
ルイセイネも本当は残って良かったんだけど、マドリーヌ様を送り届けないといけないからね。
仕方がありません。
「それにしても、まさか竜峰の次はヨルテニトス王国だなんてねえ」
「母さん、この際だから思いっきり楽しんできてね。僕たちも後から合流するから」
そして、僕の母さんやルイセイネのお母さんを含む母親連合を乗せたニーミアが先に飛び立ったのを見届けると、僕たちもレヴァリアに騎乗した。
ミストラルが、プリシアちゃんを抱っこしたまま手を振っている。
「エルネア、行ってらっしゃい。向こうでまた変な問題に首を突っ込まないように」
「い、行ってきます。僕だって、好き好んで首を突っ込んでいるわけじゃないんだよ?」
「ライラ、抜け駆けをしたら承知しないわ」
「ライラ、抜け駆けをしたらお仕置きだわ」
「だ、大丈夫ですわ!」
「んんっと、ライラの目が泳いでる?」
なんてミストラルや居残り組のみんなと挨拶を交わし、レヴァリアを
『ちいっ、我を小間使いか何かと勘違いしているのではなかろうな?』
なんて愚痴りながら、レヴァリアは荒々しい羽ばたきで空へと昇る。
「レヴァちゃん、よろしくお願いしますね?」
『ふんっ』
レネイラ様に鱗を撫でられて、まんざらでもない様子のレヴァリアは、先行したニーミアを追いかけるように南へと進路を向けた。
空の旅は、実に快適だね。
なにせ、大騒動の母親連合がいないからね!
あっ。レネイラ様がいるけど、ライラと楽しそうに談笑したり空からの景色を満喫してくれているので、全く問題はありません。
だけど、穏やかな僕たちとは違い、ニーミアの方は大変そうだ。
アームアード王国とヨルテニトス王国の国境になっているシューラネル大河までは、僕たちが初めてヨルテニトス王国へと行ったときの空路を使うことになった。
なので、先ずは竜の森に入り、南の
湖が見えて来る前に、レヴァリアはニーミアに追いついた。
そして、その時点で既に大変なことになっていた。
「にゃーん」
「きゃーっ」
「にゃにゃーん」
「きゃあぁぁーっ」
「にゃにゃにゃーんっ」
「きゃーっ、きゃーっ!」
ニーミアは、急上昇をしたかと思ったら、急降下。森の樹々すれすれを飛んだり、ときには竜の森に突っ込んで、樹を右に左に避けて飛んだり。
空中でくるくる回ったときなんて、マドリーヌ様が振り落とされていましたよ!
まったくもう。マドリーヌ様のことだから、ニーミアの毛を腰に巻かずに危険なことをしていたんだろうね。
振り落とされたマドリーヌ様は、ニーミアにぱくりと咥えられて救出されたんだけど、なぜか楽しそうに笑っていた。
いや、マドリーヌ様だけではない。
王妃様たちも悲鳴をあげてはいるけど、実に楽しそうだ。
ああ、母さん。貴女だけは顔を青ざめているんだね。
母さんが一般庶民の反応で良かった、となぜかレヴァリアの上から観察していて、しみじみと思っちゃった。
ニーミアの遊びはまだまだ続く。
湖に出ると、まだ冷たいというのに
ばっしゃばっしゃと跳ねる水がとても綺麗で、上空から見下ろしていたレネイラ様がライラと楽しそうに笑う。
「レヴァリアも、実はニーミアみたいに遊びたいんじゃないの?」
『黙れ。我はお子様のような遊びなど興味ないわ』
「ふぅーん。本当は、まだ傷が痛むとか」
『貴様だけは振り落としてやろう』
「きゃーっ、止めてっ」
レネイラ様やライラも、ニーミアたちのようにはしゃぎたくはないのかな、と思ったんだけど。
どうやら、二人は絶叫する遊びよりも、いっぱいお話がしたいみたい。
僕とレヴァリアの会話をライラが通訳して、レネイラ様が笑う。するとライラも嬉しそうに微笑むので、僕も楽しくなっちゃう。
「スフィア様たちには飛竜の旅を自重してもらったけど、やっぱり竜に乗せてもらうのって楽しいよね」
「ですが、あの方々に許可を出してしまうと大暴走ですわ」
「間違いない!」
いつか、人と竜がいま以上に親密になって、旅のお供に竜族を、なんて気軽に言える時代が来るのかな?
来たら、絶対に楽しいだろうな。
それに、竜族がお供になってくれたら、竜峰の旅もぐんと楽になるんじゃないかな。
なんて楽しくお話をしながら進路を東に変えて飛行していると、あっという間に本日の夜営地へとたどり着いた。
「はっくちゅんっ」
「ルイセイネ、大丈夫!? 風邪をひかないようにね?」
「はい、大丈夫です。ニーミアちゃんに乗っている間は加護があって寒くなかったのですが、やっぱりまだ水遊びには早かったですね」
散々湖で遊んだニーミアと母親連合のみなさんは、夜営地に降り立つとずぶ濡れの衣服を着替え出した。
「わっ!」
そして、僕は赤面しちゃう。
だって、王妃様たちが僕の前で服を脱ぎ出しちゃうんだもん。
「あら、遠慮しないで、エルネア君」
「いいえ、遠慮申し上げます!」
上半身下着姿になったセレイア様から、慌てて視線を逸らす。
娘と同じで、この人も
「あら、こんなおばさんでもいいの?」
「うふふふ、じっくり観てくださいね」
「はわわっ」
そして、視線を逸らしたつもりだったけど、視界には新たにカミラ様とアネス様が!
濡れた衣服を色っぽく脱ぐ二人。
というか、わざと
またも慌てて視線を逸らす僕。
「恥ずかしがることなんてないわね」
「いいえ、僕じゃなくてみなさんが恥ずかしがってください!」
くっ、なぜだ。
なぜ、視線の先では必ず王妃様が着替えているんだ。
今度はスフィア様が豊満なお胸様を露わに、濡れた体を拭いていた。
「エルネア君!」
「ご、ごめんなさいっ」
僕が王妃様たちの禁断の肢体を見るので、ルイセイネのお叱りが飛んできちゃった。
違うんだ、誤解だよ。と声のする方へと振り向くと、濡れた巫女装束のルイセイネとマドリーヌ様がいた。
「おおっ、濡れた素肌も良いですが、衣類越しに覗く女性の輪郭も……ぎゃーっ」
でもさ。これって僕が悪いのかな?
どこを見ても濡れた女性ばかりで、どうしようもないよね。
というか、今ようやく気がつきました。
僕は、着替えをする女性たちの中心に立っています!
それゃあ、どこに視線を移しても誰かが目に入るわけだ。と冷静に状況を分析しながら安全な視界の角度を探していたら、着替え中の母さんが目に入った。
うわぁ。
おばちゃんだ。ってかさ、母親の着替えとか裸とか、見たくありません!
でも、このなかでは母さんを見ている方が一番安全だよね?
「違うにゃん。そもそも、目を閉じれば良いだけにゃん」
「はっ、その真理には思い至らなかったよ!」
なんという
でも、なぜか僕の
「ふふふっ。エルネア君に裸を見せて、既成事実を! 巫女頭の裸を見たら、絶対に責任を取ってもらうわ」
「あらあらまあまあ。マドリーヌ様、それは駄目です」
「むぎゅっ」
「んにゃっ」
嬉々として巫女装束を脱ぎ出したマドリーヌ様。そこへ、小さくなって僕の頭の上に移動してきたニーミアを捕まえたルイセイネが、ニーミアを僕の顔面に押し付けて視界を奪った。
「エルネア様、お守りしますわっ」
そして、その上からライラのお胸様で包まれる。
おお、完全な暗闇が!
そして、素晴らしい感触!
「ライラさん、なにをしているのですかっ」
「はわわっ。ルイセイネ様、それよりも早くお着替えを」
視界を奪われた僕の耳に、乙女たちのやりとりだけが入ってくる。
すると、あははっ、と母さんの豪快な笑い声が聞こえてきた。
きっと、騒ぐ僕たちを見て笑っているに違いない。
母親の前で
ライラのお胸様のなかで!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます