お肉の食べ過ぎには注意です
呪われた大地と、
偉い人にこうして物語を話すなんて、なんだか宮廷詩人にでもなったかのような気分だね。
剛王は持参したお酒で唇を湿らせながら、嘘か真か、といった様子で聴き耳を立ててくれていた。
周りでご飯の準備を進めていた耳長族の人たちも、手を動かしながら僕の話を聞いているみたい。
それでより一層気分が良くなって、あれやこれやと話す。
「ヨルテニトス王国とアームアード王国の王都を消しとばしたのはエルネア君だわ」
「ヨルテニトス王国とアームアード王国のあちこちに迷宮を創っているわ」
「極悪っぷりは、魔王以上ですよねー」
時折、ユフィーリアとニーナの突っ込みやリリィの出鱈目が入って、そのたびに巨人族と耳長族は顔を青くしたり僕から距離を取ろうとするのはご
「いやいや、誤解だからね? 最近の僕は、そんなに色々とは破壊してません! というか、迷宮を創ったのはプリシアちゃんです!」
「だが、都を消し飛ばしたという事実は否定しないのだな?」
「アームアード王国は、僕じゃないよっ。それにヨルテニトス王国の件は、力の加減を知らなかったし。ほら、剛王と戦ったときには、側近の人と二人だけが飛ばされたでしょ? 今はもう、手当たり次第に巻き込むなんてことはしないよ」
「……あの時のことは思い出すのも恐ろしい。だが、貴様が本気を出していたら、我が軍丸ごとが犠牲になっていたのだな」
「エルネア君が本気だったら、最初からリリィたちの餌食でしたけどねー」
「……」
「気をつけて。あの黒竜は魔王の子飼いです!」
リリィちゃん。駄目出しのように剛王たちを脅すのは禁止です。
見た目で威圧しているのに容赦のないことを言うものだから、内情を知らない人たちが逃げ腰になっていた。
「はい。お話はここまで。あとはご飯を食べてからにしましょう」
「ようやく出来上がりました。こんなお料理は初めてです」
すると、巨人族と耳長族をまとめるように指示を出しながら料理を作っていたミストラルとルイセイネが僕たちを呼ぶ。
「うわっ、豪華だね!」
「ふんっ、これが豪華だと?」
「いやいや、僕たちから見れば、豪華だよっ」
ミストラルに手招きされて向かう先には、山盛りになった料理が並べられていた。
豪快に切り分けられたお肉。冬だというのに集められた色とりどりの野菜と果物。
特大のお鍋では
巨人族と僕たちが別々に調理したわけじゃなく、みんなで、という僕の意思に従うと、こういう風になっちゃうのか。
巨人族は僕たちの数倍の大きさで、人族や耳長族の普段の大きさに合わせて調理しちゃうと、巨人族から見れば小さすぎて粗末な料理になっちゃうんだね。だから巨人族に大きさを合わせて調理をしたみたいだけど……
お肉の塊は僕たちの顔と同じくらいの大きさだし、量も多い。
「おわおっ。美味しそうだよっ」
調理の間、邪魔にならないようにリリィと遊んでいたプリシアちゃんが、元気よく駆け寄ってきた。そして巨大なお肉を見て、竜族のように瞳を輝かせて喜ぶ。
「それじゃあ、みんなで食べようか」
大森林に住む耳長族の食事は、ミストラルの村の様子と似ている。大勢が集まれば料理を大皿に盛って、好きなものを好きなだけ取って食べる。
今回の食事も、それに
「みんな、仲良くね!」
巨人族も、従軍中だったからなのか、昨日見た限りでは似たような食事の風景だった。
ただし、剛王は王様。みんなと同じお皿から同じように取って食べる、ということに抵抗があるみたい。
さらに、巨人族と耳長族とが同じお皿から食べ物を取るということに、抵抗感を示す人もいた。
なので、僕たちが率先して料理を取る。
「遠慮していたら、欲しいものがなくなっちゃいますからね。こっちには食いしん坊さんがいっぱいいるんだからね」
「お肉っ、お肉っ」
プリシアちゃんが小躍りしながら、自分のお腹よりも大きなお肉を取ろうとしている。
背後ではリリィとレヴァリアも食べたそうにしているし、油断していたらあっという間になくなっちゃうよ?
狩りに出ていた飛竜騎士団も帰ってきて、他種族に遠慮することなく料理に手を伸ばしていた。
少し離れたところでは、飛竜たちが狩ってきた獲物にかぶりついている。
獲物をそのまま食べているので、慣れていない人は見てはいけません。
「しからば、遠慮なく」
すると、空腹に負けたのか、小人の僕たちに遅れを取るまいと思ったのか、ひとりの巨人族が最初に動いた。
僕が剛王と一緒に吹き飛ばした、あの人だ。
名前はたしか、ボーエンといったかな。
剛王の側近らしい。
「巨人族に遅れを取るな!」
ボーエンが動いたことで、慌てて耳長族もあとを追うように動き出す。
小皿を片手に、大盛りの料理に手を伸ばす。
未だに耳長族と巨人族の間には大きな壁があるけど、それは仕方がない。
これまでの歴史を振り返れば、いきなり仲良くなれとは言えないけど、これからこうして交流の場を持って、少しずつ和解していってほしいよね。と耳長族と巨人族の様子を見ていたら、あっという間に狙っていた目の前の料理が消えてしまっていた。
「ああっ、僕のご飯がっ!」
「はいはい。ちゃんと取ってあるわよ」
「ありがとう、ミストラル」
「エルネア君、これを取ってきたのはわたくしですよ?」
「ルイセイネも、ありがとうね」
「んんっと、お肉いる?」
「……プリシアちゃん。絶対にそれは食べきれないよね?」
ミストラルとルイセイネから料理を受け取りながら、みんなでプリシアちゃんを見る。
小さな食いしん坊さんは、あろうことか巨人族用の器に大量のお肉や果物を確保して、満足そうに笑っていた。
誰だ、プリシアちゃんに巨人族の器を与えて、さらに料理を取り分けてやった人は……
「プリシアちゃん、一番良い肉を取れたわ」
「プリシアちゃん、一番多く肉を取れたわ」
犯人発見!
というか、最初からわかっていたのかもしれない。悪巧みをするのは、だいたいこの二人だよね。
ユフィーリアとニーナは、プリシアちゃんの欲望を満たすために、彼女が望むままに食べ物を取ったに違いない。
「ユフィ、ニーナ。それとプリシア。よそった食べ物は責任を持って全部食べなさいね?」
「うっ」
「ひっ」
「はいっ!」
ミストラルの忠告に、ユフィーリアとニーナは顔を青ざめさせて、巨人族用の器に盛られた料理を見る。
プリシアちゃんだけは元気よく返事をすると、絶対に幼女のお腹には収まりきらないお肉にかぶりついた。
「そ、それじゃあ、僕たちも食べようか。いただきます」
僕とミストラルとルイセイネは、仲良く座って食べ始める。
ユフィーリアとニーナは仕方なくといった感じで、プリシアちゃんと一緒に食べきれない量のご飯に手をつけ始めた。
見ると、巨人族や耳長族は、盛られた料理を中心にして自然と輪になり、ご飯を食べ始めていた。
お替わりに手を伸ばす巨人族と耳長族が「あっ」と触れ合う。そして気まずそうにしながらも、同じ料理を取って食べる。
剛王は野菜が嫌いなのか、ボーエンによそってもらった器はお肉ばかり。同じように、耳長族のなかにもお肉だけを食べる人がいたりする。
種族は違っても、食べ物の趣向が一緒だったりするんだね。
みんな、そういうところにちゃんと気づいているのかな?
いがみ合うばかりじゃなくて、こうして
移動や労働のあとということもあり、準備された料理はあっという間になくなった。
結局、プリシアちゃんのお皿に盛られた料理は三人でも食べきれずに、リリィとレヴァリアに食べてもらっていた。きっと、このあとミストラルのお説教ですよ。
満腹のお腹をさすりながら食後のお茶をしていると、巨人族と耳長族が手持ち無沙汰のように落ち着きがなくなってきたことに気づく。
そうか。食事という共通の行動が終わって、次にやることがないからどうして良いのかわからないんだね。
埋葬も
さて、次はどうしよう。そう思考を巡らせていると、なにか身体の内側から力を引っ張り出そうとする気配を感じる。
「エルネア?」
どうやらそれは僕だけじゃないらしく、ミストラルや家族のみんなが僕を見ていた。
「んんっと、あのね。リンリンが用事みたい?」
「そうか。これってリンリンが顕現したいって合図なんだね」
僕たちの使役下になったユンさんとリンさん。たぶん、正式な召喚は僕たちの意思に従って喚ばれるという手順なんだろうけど。むこうから顕現したいと思ったときは、こうして僕たちの力を引き出そうとするのか。と真新しい感覚を実感しながら、リンさんを喚ぶ。
ただし、ライラがこの場には居ないので、制限付きの召喚だ。
「だ、誰がリンリンなのよっ!」
「あっ。聞こえていたんだね」
僕たち家族の力を受け取ったリンさんが召喚される。そうしたら、いきなり眉間に皺を寄せて詰め寄られた。
「どうどう。落ち着いて、リンリン。それで、どうしたの?」
「リンリンって言うなっ。……それはともかくとして、力を貸して」
きっと、周囲で見つめている耳長族や巨人族に気を向けたくないんだろうね。リンさんは僕から視線を逸らすことなく言う。
「ランが……。ランを封印している泉に、妖魔が」
「なんだって!?」
どうやら、リンさんは顕現していない間にランさんの様子を見に行っていたらしい。
「ランの気配を嗅ぎつけた妖魔が、封印を破ろうとしているの。このままでは、ランが危ないから助けて!」
「我からも願う。ランを救ってほしい。ここまできて、ランを失うわけにはいかない」
リンさんに続き、長女のユンさんが
変だな、ユンさんを召喚したつもりはなかったんだけど?
「賢者ランが!?」
ユンさんとリンさんの顕現に驚く耳長族の人たち。だけどそれ以上に、ランさんが危ないということでにわかに騒ぎ出す。
「急いで助けに行こう。リンリン、案内して!」
こうしちゃいられない。僕たちは素早く身支度を整える。耳長族の人たちも完全武装をすると、僕たちに連れていけ、と促す。
「危険な妖魔かな?」
「見たこともないやつだよ。何本もの触手のような足。鎌の手。数えきれない瞳。硬そうな鱗。はっきり言って気持ち悪いの。早くしないと、湖が侵食されてランが……っ」
「なにっ、バリドゥラか!?」
すると、リンさんの説明に剛王が反応した。
「バリドゥラ?」
「百目、百足の大妖魔だ。奴は巨人族を数多く殺してきた宿敵。奴ならば、俺様たちも連れていけ!」
「巨人族を森の奥へと連れて行けるものかっ」
耳長族が剛王の申し出を強く拒否する。
和解へ向けて歩もうとしているけど、それはまだ先のこと。顔を合わせ、ご飯を一度だけ一緒に食べたくらいで、大切な森の奥へとは案内できない。耳長族の主張はもっともだ。
「……ううん、連れて行くわ。戦力は多い方が良いもの」
だけど、リンさんが頷いた。
憎々しそうに剛王と巨人族を睨むリンさん。その彼女が同行を許す、と言うので、耳長族だけじゃなくて僕たちも驚く。
「あれは、生半可な力じゃ倒せない気がするの。ランのためだから、仕方なくよっ!」
道案内をするリンさんがそう言うのなら、耳長族でも逆らえない。
リンさんの許可が下りると、剛王たちは戦いの準備を済ませる。
僕に両断された戦斧は真新しいものになり、闘志を
「……仕方ない。今回は従おう。我らとて妖魔との戦いは厳しい」
「ふんっ。バリドゥラが現れたとなれば、耳長族の案内がなくとも向かっていたところだ」
どうやら、巨人族にとってバリドゥラという妖魔は相当な宿敵らしい。
僕たちは全員の準備が整うと、リンさんの案内で出発した。
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