集合しましょう

 年が明けて数日が過ぎ、お祭り騒ぎだった王都にもようやくの落ち着きが見られるようになったある日。僕はいつものように獣人族のみんなと手合わせをしたり、竜族と遊んだりしていた。

 そろそろ、ユフィーリアとニーナを呼びに行こうかな。ルイセイネも神殿のお仕事がいち段落しただろうし、合流には頃合いだと思うんだ。

 ミストラルにも会いたいし、ライラを迎えにも行かなきゃいけません。

 そう思い始めた午後。


「エルネア様!」

「うわっ、ライラ! 抜け駆けしてきちゃったんだね?」

「ち、違いますわ。実は大切なお願いがございまして」

『ふんっ、貴様らといると、いつもこれだ』

「なるほど!」


 東の空から高速で飛来したのは、レヴァリアとそれに騎乗するライラだった。

 いったい、ヨルテニトス王国でなにが起きたと言うんです?

 ライラの焦り具合とレヴァリアの深いため息から、ひしひしと嫌な予感が漂ってきています。

 今年こそは平穏に過ごすと新年の誓いを立てたばかりなのになぁ。……まあ、立てた直後に大神殿で騒ぎを起こしちゃったわけですが。


「ヨルテニトス王国に耳長族の方々が現れたのですわ。そしてとても困っているのです」

「耳長族が?」

「はい。東の大森林の奥地に住んでいた方々なのですが、巨人族に追われて逃げてきたらしいのですわ」

「そ、それじゃあ、巨人族も……?」


 少し焦り気味のライラを落ち着かせようと、抱き寄せる。するとライラは逆に顔を真っ赤にして照れ始めて、話どころではなくなってしまった。


「ライラ様にお水を飲ませてください。そうすれば落ち着くと思います」

「カレンさん、ありがとう」


 お庭での騒動にいち早く駆けつけてくれたカレンさんからお水の入った器を受け取って、ライラに飲ませてあげる。ライラは恥ずかしそうにしながらもお水を飲んで、深く深呼吸をした。

 そうしているうちにカレンさんは大きなおけに水を汲んで、レヴァリアにも飲ませてあげていた。

 ええっと。本来、竜族をお世話するはずの竜人族さんはどこへ? と思ったら、レヴァリアの存在に怯えて逃げ出していました。

 まあ、竜人族ですからね。レヴァリアが咆哮をあげて空から迫ってきたら、本能的に逃げちゃうよね。


 お水をもらい、僕の抱擁ほうようから解放されたライラは、落ち着きを取り戻す。そして、ヨルテニトス王国に降りかかった新たな問題を話してくれた。


「耳長族の方々は、巨人族に村を襲われたそうなのでございますわ。それで森の他の場所にも居場所がなくて、ヨルテニトス王国の東の国境付近に逃げてきたのですわ。耳長族の方々は、自分たちの住む新しい森をヨルテニトス王国に譲って欲しいと申し出されました」

「そう言われても、大切な国土をそう簡単には譲渡できないよね?」

「はい。それで、エルネア様にご相談を、とみなさまが……」

「な、なぜその話から僕に飛び火しちゃったのかな!?」


 詳しい事情はもう少し聞き出さないといけないかもしれないけど、大まかな事情は飲み込めた。


 耳長族かぁ。

 東の大森林にも、耳長族が住んでいたんだね。でもまさか、巨人族と争いになっていたとは。


 耳長族は、深い森を住処すみかとして暮らしている。

 ヨルテニトス王国の東部国境の先に広がる大森林は、耳長族の格好の住処だったんだね。

 ただ、あそこは魔物の巣が多く存在していて、危険なはずだけど。耳長族のことだから、森に迷いの術を施して魔物の侵入を阻んでいたのかもしれない。

 でもそうすると、巨人族の侵入も容易ではないだろうし、耳長族の村が襲われたということに少し疑問が浮かんじゃう。


「とにかく、その耳長族の問題で僕を頼ってきてくれたんだね?」

「はい。みなさま、エルネア様でしたらと仰って」

「頼られることは嬉しいけど、僕になにができるかなぁ」

「エルネア様でしたら、きっと素敵な結果に導いてくださいますわ」

「うううっ。なんという期待感……」


 ライラの輝く瞳を直視できずに、僕はつい目を逸らしてしまった。

 ともあれ、協力を要請されているなら動かなきゃいけないよね。


「それじゃあ、みんなを集めようか」

「いえ、私とエルネア様だけで!」

「いやいや、そんなことをしたら、あとでこっぴどいお仕置きが待っていますからね!」


 抜け駆けしようとするライラをなだめて、まずは家族を招集することに。


「それじゃあ、手分けして招び集める?」

「私はエルネア様と一緒に居たいですわ」

「やっぱりか!」

「では、私が王宮に出向いて双子様をお呼びいたしましょう」

「おお、カレンさん。でも、大丈夫かな?」


 あの双子王女様のことです。新年早々に僕が迎えに行かないとなると、不貞腐ふてくされそうな気もするよ。


「いや、やっぱり自分の足で向かおうかな。カレンさんは、旅の準備をしておいてください」

「かしこまりました」

「それじゃあ、ライラ。まずはユフィとニーナを呼びに行こうか」

「はいですわ」


 こうして、年が明けて間もないというのに、僕の慌ただしい一年は始まった。……いや、そんな断言なんていりません。

 どうか、今年こそは平穏でありますように。






「……そんなわけで、迎えにきたよ!」

「エルネア君が新年初っ端から騒動を呼び込んできたわ」

「エルネア君が新年早々から問題を連れてきたわ」

「いやいや、僕のせいじゃないと思います。……むふっ」

「お、お二人とも……私も混ぜてくださいませ」


 王宮へと向かったら、身体検査もなく無条件で奥へと通された僕とライラ。そして待ち受けていたのは、お胸様の抱擁だった。

 ううん、違いました。

 ユフィーリアとニーナの素敵な抱擁でした。


 王様や王妃様の前でこんな出迎えはちょっと恥ずかしい、と思っても、僕にはどうすることもできません。

 結局、お胸様連合の三人が満足するまで抱きしめられた僕は、気まずく顔を赤らめたまま、王族の方々に新年の挨拶をすることになった。


「明けましておめでとうございます。挨拶が遅れてごめんなさい」

「明けましておめでとう。気にする必要はない。家族別々の年越しとは面白いことを考えるものだ、と感心しておったのだ。来年は儂も……」

「貴方? そうやって何かと理由をつけては遊びに行こうとするのですよね」

「ちっ」


 王様の思考なんて、古代種の竜族じゃなくても丸わかりです。

 王妃様に指摘されて、悔しそうに顔をしかめる王様。それを見た僕たちは笑ってしまう。


「しかし、年明けからお前は忙しいな」

「そうだ! 勇者のリステアにも協力を要請しよう!」

「お前はなにを言っているんだ。アームアード王国の問題ならまだしも、ヨルテニトス王国の問題なら俺たちは出しゃばれないぞ」

「ぐぬぬ」


 王宮には勇者様ご一行も滞在していて、リステアだけじゃなくセリースちゃんやスラットンたちにも新年の挨拶をすることができた。

 ついでに巻き込もうと思ったのに、軽く断られちゃった。

 勇者はアームアード王国の象徴。それに対し、ヨルテニトス王国の象徴は竜騎士なんだよね。だから、勇者が勝手にヨルテニトス王国の問題に首を突っ込むわけにはいかないのか。

 でも、それなら……


「俺を見ても無駄だぜ。俺は竜騎士である前に勇者の相棒だからな」

「まあ、スラットンは役に立ちそうにないし、期待はしていなかったよ」

「なんだと!」

「きゃあっ」


 僕は慌ててクリーシオの背後に隠れる。すると、彼女はスラットンに鋭い視線を飛ばし、僕をかばってくれた。

 くっくっくっ。スラットンはクリーシオには逆らえないんだよね。

 案の定、スラットンは憎々しそうに僕を見ていたけど、クリーシオの気迫に負けてしまい、振り上げていたこぶしを下ろす。


「ともあれ、双子の隣国の問題に無関心でいるわけにもいくまい。こちらも国として何か手伝えぬか、ヨルテニトス王国と相談してみることにしよう」

「ご協力をありがとうございます」


 王様の協力を取り付けた僕は、ユフィーリアとニーナを連れて王宮をあとにした。

 次は、大神殿でルイセイネです。……会うのが怖いな。






「エルネア君?」

「ごめんなさいっ!」

「エルネア君が新年初っ端からルイセイネにしかられているわ」

「エルネア君が新年早々にルイセイネから正座をさせられているわ」

「エルネア様、いったい何をされたのでございますか?」

「それはね、ええっと……」


 やっぱり怒られちゃった。

 年越しの夜神楽のときにルイセイネの姿を見かけなかったから、もしかするとあの騒動には気づいていないかも、という一縷いちるの望みは絶たれて、僕は大神殿の応接室で正座をさせられてしまう。


「ふふふ、今年も賑やかになりそうですね」

「ヤシュラ様、明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」

「いえ、こちらこそ」

「エルネア君、反省をしているのですか?」

「しているよ。本当だよ?」

「口調が軽いですよ?」

「ごめんなさい」


 大神殿では、ルイセイネの他にも彼女のご両親が働いていて、正座のあとに新年の挨拶を交わしてから次の目的地へと移動した。


 次は、苔の広場です。

 一旦、実家へと戻る。そしてレヴァリアに乗せてもらい、竜の森の上空へ。その際に、カレンさんから旅荷物を受け取った。

 今回の問題の解決にどれくらいの日数が掛かるかわからないむねを伝えたら、お土産を期待されちゃった。

 貴女はどこのプリシアちゃんですか。


 ともかく、僕たちは苔の広場を目指す。

 レヴァリアは、苔の広場に入ることを許されている数少ない者なので、拒絶されることなくたどり着けた。


「おじいちゃん、明けましておめ……っ!」

「ぶえっっっっっ、あんぎゃあっ!」


 僕たちを手荒く出迎えようとしたスレイグスタ老。だけどその気勢を制したのは、漆黒の片手棍を振り下ろしたミストラルだった。


「ミ、ミストラルさん、明けましておめでとうございます!」

「エルネア、わたしの呼び方が最初のころに戻っているわよ? 明けましておめでとう。今年もよろしくね」

「は、はい!」


 お、おそろしい。


 今年も、ミストラルだけには逆らわないように気をつけましょうね。

 僕だけじゃなく、ライラとユフィーリアとニーナも気を引き締めているようです!


「それで、どんな問題に巻き込まれたのかしら?」

「ひどいよ。そんなこと、まだひと言も話してないじゃないか」

「まだ、なのね」

「ううう、ごめんなさい」


 さすがはミストラルです。

 僕たちがすでに問題を抱えていることを看破したんだね。

 僕は早速、ライラから聞いたヨルテニトス王国の問題を話す。


「ふうむ、耳長族と巨人族であるか。気をつけて行ってくるのだな」

「貴方は、まったくもう……」


 しくしく。ここでもやっぱり、僕のせいになっちゃうんだね。


「耳長族の問題であれば、同じ耳長族に助力を求めるのが得策であろうな」

「はい。そのつもりです。プリシアちゃんを迎えに行ったら、誰かに協力してもらおうと思ってました」

「エルネア君はプリシアちゃんを巻き込む気満々なのですね」

「はっ!」

「プリシアを連れて行かないという選択肢は持ち合わせていないわけね」

「ああっ!」

「とは言っても、耳長族の協力を求めに村を訪れれば、プリシアちゃんはついてくるわ」

「とは言っても、耳長族の村に挨拶に行けば、プリシアちゃんは飛んでくるわ」

「ですよねぇ……」

「エルネア様、自重ですわ」

「ライラ、なんてことを言うんだい!」


 家族を呼び戻すという部分に、プリシアちゃんを含めていたことへの違和感はありませんでした。とはいえ、ユフィーリアとニーナの言う通りで、耳長族の村に行ったら、プリシアちゃんは僕たちとの合流を望むだろうね。だけど、耳長族の協力を得るためには、ユーリィおばあちゃんの許可が必要だと思うから、村には絶対に行かなきゃいけないだろうし。


「話を聞いた限りでは争いごとに発展はしていないようだし、仕方ないわね」

「だよね。プリシアちゃんを除け者にするのは可哀想だよね」

「もう、エルネア君は……」


 妻たちにため息を吐かれちゃったけど、許可が出たことだし、今度は耳長族の村へと向かおう。





 耳長族の村に到着すると、真っ先に飛んできたのは、予想通りのプリシアちゃん。ただし、お母さんに手を引かれていて、いつものように僕の胸には飛び込んで来なかった。


「……というわけで、協力をお願いしたいんです」

「んんっと、わかったよ!」

「プリシアちゃんはどんな協力をしてくれるのかな?」

「あのね。みんなでいっぱい鬼ごっこをするの。そしてね、あのね……」

「プリシア、母さんとの約束は覚えているかしら?」

「むうう……」

「言ってごらんなさい?」

「わがままは言いません」

「他には?」

「迷惑をかけません」

「それと?」

「お勉強もします」


 ああ、なんて健気なプリシアちゃんでしょう。

 どうやら、年末年始の間にしっかりとお母さんからしつけをされたみたい。プリシアちゃんは唇を尖らせながら、お母さんとの約束事を口にした。


「ミストラル、そういうわけだから、今年もよろしくね」

「はい、大切に預からせていただきます」


 行っちゃ駄目、と言わないところがお母さんらしいのかも。さすがはユーリィおばあちゃんの曾孫ひまごですね。


「ええっと、それでですね。こちらの耳長族の誰かにも協力してほしいな、と思うんです」


 東の地で起きた別の部族の問題を相談すると、僕たちはユーリィおばあちゃんや村の重鎮さんたちが集まる場所に案内された。というか、ユーリィおばあちゃんの家だね。

 そこで再度、ライラに説明してもらう。そして僕の提案に、長老会の面々は顔を見合わせて相談し始めた。


「巨人族との争いか。そういえば、あそこはそういう問題を抱えていたな」

「だが、あの森の奥には強力な迷いの術が掛けられていたはずでは?」

「巨人族といえど、そう易々やすやすとあれは突破できぬはずだが……」

「確か、あちらには強力な精霊使いがいたはずだが?」

「あの者はたしか、まだ寿命ではなかったな」

「そもそも、彼女はアリシアよりも少し上ほどの年齢だったろう?」

「はい。ちょっと質問です! お話の様子からみて、もしかして東の大森林に暮らす耳長族の人々と交流があったんですか?」

「まあ、この村だけでは閉塞感へいそくかんがあるからね。結婚相手なんかも他所よその村の者と交わらねば、衰退すいたいするだけだ」

「東の森だけでなく、湖の南に住む部族とも交友はある」

「湖って、竜の森の南にある?」

「そうねえ。往来には目立つ船などを使えないから、湖をぐるりと大きく迂回しなきゃいけないけどねえ。東の森とも、親交はあるわねえ」

「最近では、三十年ほど前にこちらから向こうへと使者を送ったか」

「向こうからは百年ほど誰も来ていないがな」


 なんと悠長な時間の使い方でしょう。

 人族であれば人生で一度、有るか無いかの交流を繰り返しているんだね。


「とにかく、あちらが困っているというのであれば、協力しないわけにはいくまいよ」

「しかし、なぜ我らにではなく向こうの人族を頼るのだ?」

「いや、それよりもまず、なぜ同じ森の他の部族を頼らない?」

「なにか事情があるのか……。こちらは特殊な地だ。あちらもそれは理解しているのだろうが……」


 確かに、交流があったのであれば、真っ先に同じ種族を頼りそうなものだけど。もしかすると、なにか別の問題を抱えているのかもしれない。

 なにはともあれ、長老会の話し合いを元に、竜の森に住む耳長族からの協力者は選定された。

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