世界はこの手の中に

 瞬きをする前。

 僕は確かに、飛竜の狩場に設けられた会場に居たはず。

 アシェルさんが連れてきたとおぼしき人たちに挨拶をしていた。

 ミシェイラちゃんと、ナザリアさん一家。他にもお世話をする人が八人と、寛ぐ女性が三人。

 二人は紫色の髪で、もうひとりは病的な白さの女の子。

 そうだ。その女の子の緑色の瞳を覗き込んだら、引き込まれたような感覚に捕らわれて……


 ここはいったいどこだろう?


 真っ白な世界。

 なにもない世界。

 天も地も、前も後ろもない純白の空間。

 ううん、空間じゃないのかもしれない。

 僕は視界を奪われて、しているだけなのかも。


 でも……

 視線を落とすと、自分の身体が見えた。

 晴れ着に身を包んだ、先ほどまでと変わらない姿。

 自己を確認するようにひらひらと動く手。地面を確認しようと動く足。

 僕には僕が見えている。

 では、視界が奪われたわけではないんだね。


 手を動かす。身体を動かす。すると、空気の流れを感じる。衣擦きぬずれの音は……しない。だけど、服がこすれ合う摩擦まさつは感じた。

 足を動かしてみる。天も地もない不思議な場所だけど、足の裏からはしっかりとした地面の感触が伝わってきた。


「ここはどこだろう?」


 と独り言のように声を発しようとして。

 口から空気は漏れるんだけど、声が出ないことに気づく。


 違う、声だけじゃないのか。

 衣擦れの音も、地面を踏みしめる音も、僅かな耳鳴りさえもしない。

 無音だ。


 僕という存在以外は全てが排除された領域に捕らわれてしまっていた。


 だけど、不思議と不安感は沸き起こらない。

 理解不能の状況だというのに、僕は楽観的に状況を観察していた。


 本当になにもない空間なのかな?

 あっ、空間じゃないかもしれないんだっけ?

 いやいや。僕がいて、真っ白な世界が広がっているんだから、空間なんだよね?

 なんでこんなところに居るのかな?

 ぱっと思いつく原因は、やはりあの女の子だよね。

 女の子の瞳には特殊な力かなにかがあって、僕はそれに引きずり込まれた。

 では、ここは女の子の創り出した空間なのかな?


さとい男の子です』


 すると、僕以外はなにも存在しないはずの真っ白な空間に、声が降ってきた。

 声は音としてではなく、頭に直接響く。


「ええっと、先ほどの人ですか?」


 と声を出そうとしたけど、声は出ない。でも、声の主は僕の意思を読み取って、また頭のなかに直接声を降らせてきた。


『意識してください。ここはなにも無い世界ですが、全てが存在する世界でもあります』


 むむむ。なにか難しいことを言ってますよ。

 なにも無いのに全てが存在する世界?

 なにも無いなら、全てが無いんだよね。

 全てが存在するのなら、なにも無いとは言わないよね。

 矛盾する言葉に困惑する僕。だけど心に届く声はそれ以降、反応しなくなる。

 どうやら自分で考えろ、ということらしい。


 僕は存在している。

 それ以外のものは存在していない。

 でも、まずこの時点で、なにも無いとは言わないよね。

 そうすると……。そもそもこの空間には、僕自身さえも存在していなかった?

 ではなぜ突然、僕はこの世界に現れたのだろう。


 女の子のせい?

 なにかの事変に巻き込まれた?

 もしくは、僕自身が無意識に生み出した?

 いいや、それはないか。

 僕には竜力や精霊の力を借りられる能力はあっても、こうして世界そのものを生み出せるような特殊な能力はない。修行をしたこともなければ、力の片鱗を感じ取ったこともないからね。


 ではやはり、この特殊な環境は僕自身に起因するものではなく、あの女の子か他の要因がからんでいるはずだ。

 そして心に響いた声は、全てが存在する世界、と言った。

 僕さえも存在しなかった空間に僕が現れた時点で、なにも無い世界から全てが存在する世界に変わったってことじゃないのかな?

 それなら確かに、ここには全てが存在しているはずだ。ただ、僕が認識できていないだけなんじゃないかな。


 もう一度、自分の存在を確かめてみる。

 視線を動かせば、手が見えるし足も見える。もちろん胴だって確認できるよ。

 肌に触れる衣服の感触。空気の抵抗、足もとの感触。

 心を内側に向けると、胸の鼓動と静かに脈動する竜宝玉の存在も認識できる。

 普段と変わらない僕。

 だけどひとつだけ、いつもとは違うものがあった。

 そう、声が出ない。声だけじゃなく、音がしない。声も衣擦れの音もしなければ、耳に届く音もない。


 でも、頭に降ってきた声が正しいのなら、音が無いはずはない。僕が認識できていないだけじゃないのかな?


 僕という存在が見えるのも、肌に伝わる衣服の感触も、僕が僕だと認識するための判断材料であり、この世界に存在するためには必要な要素だ。

 でも音はちょっと違うのかも、と物思いにふける。

 声は、相手との繋がりを感じ取るための能力だし、耳からの情報は世界との繋がりを把握するためのものだ。


 純白の世界。

 僕以外は存在しない世界。

 違う。僕がそうやって誤った世界を認識しているから、世界や他者との繋がりを感じ取れていないだけなんだ。


 なにも無いはずなんてあり得ないじゃないか。だって、ついさっきまでは会場で賑やかに過ごしていたんだ。目の前には、謎の集団が居たはずなんだ。

 ミストラルたちやスレイグスタ老、巨人の魔王だってあの場には居たよね。


 ここは、なにも無い空間ではない。

 全てが存在する世界。そう、それは先ほどまで僕が居た世界と同じはずだ。


 とはいえ、音は出ないし聞こえないし、見えるもの全てが真っ白なことには変わりない。

 では、どうすれば世界を認識できるんだろう?


 視界に頼らず、音に頼らず、肌から伝わる感触に頼らず、世界を認識する方法。


 うん。僕はもうひとつ、別の方法を知っているよね。


 なにも無いんだけど、確かに伝わってくる地面の感触を頼りに、僕は腰を下ろす。そして胡座あぐらをかくと、瞑想めいそうを始めた。

 心を鎮めて、深く意識を落とす。


 世界は、竜脈で繋がっている。

 目で見ることはできないし、直接触れることはできない。だけど、感じ取ることはできる。

 緩やかな流れの大河に見えたり、急流に感じられたり。とても不思議な竜脈の奔流は、網の目のように広がって世界中に流れている。


 瞑想に耽る僕は、すぐに竜脈の流れを感じ取った。

 本流ではない、細い流れ。でも確かに、僕の座る下には竜脈の流れが存在している。


 やはり、僕以外は存在していない、ということはなかったんだね。

 深く沈んだ心が竜脈に触れる。

 細い竜脈なのに、油断をすれば飲み込まれておぼれてしまいそうなほど強い流れ。


 あれ?

 もしかして……

 ふと、妙な考えが頭を過ぎった。


 この細い竜脈もまた、僕がそうだと認識してしまっているからじゃないのかな?

 もしかすると、細くはないのかもしれない。激しい流れではないのかもしれない。

 そう思ったときだった。


 小川のような細さの竜脈は、たちまち両岸が見えないほどの大河へと変貌する。激しい流れは一変し、穏やかな流れへと変わる。

 今や、僕の足もとに流れる竜脈は、本流のような雄大な姿に変化していた。


 なんとなく、目を開けてみた。

 これだけの竜脈の流れだ。瞑想していなくても、強くその存在を感じることができる。

 そして、目を開けてみて驚く。


 真っ白だった世界に変化が現れていた。


 天も地もなかった空間に、大地が生まれていた。

 でも、それは普通の大地ではない。

 きらきらと虹色に輝く大地。少し視線が動くだけで、金色になったり銀色になったり。よく見ると、光り輝く大地は大河のようなゆっくりとした動きで流れていた。

 僕は、不思議な大地に立っていた。


 知っている。

 この美しい風景。風景というか、大河のような流れ。

 僕は今、竜脈の上に直接立っているんだ。

 初めて目視する竜脈だけど、間違えではない。いつも心で捉えていた風景を、確かに目で捉えていた。


 なるほど、全てが存在する世界だね。

 こうして、流れる竜脈の上に立つ、という普段ではあり得ない事象までもが存在するだなんて。

 それなら、この世界にはもっと色々なものが存在しているはずだ。そして、僕はそれらを認識できるはず!


 竜脈を感じ取ることはできた。

 では、次に認識できるものといえば……


 大河ではない、今や大地となった竜脈を辿り、意識を広げていく。するとすぐに、僕は次の世界を認識することができた。


 竜脈を元気一杯に吸い上げる存在。竜脈をかてとする大樹。本来であれば根付いていなくて、代わりに僕が栄養を与えているんだけど。

 今は思う存分、大地からご飯を貰っている。

 吸い上げられる竜脈の流れを追っていくと、そこには見上げるほど大きく成長した霊樹が存在していた。

 僕がそう認識した瞬間。

 霊樹は白い世界に現れた。

 突然目の前に現れたはずなのに、元から存在していたような感覚。気配だけでなく、目で確認することができる霊樹に、僕はそっと手を添えた。

 樹皮の感触。幹の内側からは、竜脈を吸い上げている生命力を感じる。

 さらさらと、霊樹は枝葉を揺らして僕に挨拶をしてきた。


『ここにいるよ』


 霊樹の声が心に届く。


「うん、そばにいてね」


 と心で返事をすると、霊樹は頼もしい存在感で頷いた……ように感じ取れた。


 さあて、こうなると次はあれですね。

 僕しか居ない世界、なにも無い世界ではない、と確認できたのなら、あとは僕が世界の全てを感じられるか、という問題が残るだけだ。


 僕は霊樹の存在と竜脈の流れを頼りに、次の存在を探す。

 霊樹といえば、霊樹の精霊であるアレスちゃん。そして、普段から竜脈を無意識に吸い上げている古代種の竜族だ。


 僕と霊樹がこの場に存在していて、いているアレスちゃんが居ないなんてことはない。

 竜脈の流れを通して、スレイグスタ老のあの圧倒的な存在を感知できないなんてあり得ない。


 探せば、それらは呆気あっけなく見つかった。

 見つけた瞬間、やはり彼らはこの世界に存在していた。


 霊樹が生えている奥で寛ぐ、スレイグスタ老。

 それと、アシェルさん!


「居たら悪いような感想だね」

「うひっ」


 ぎろり、とアシェルさんに睨まれた。

 そして気づく。

 音が聞こえる。声が出せる。

 世界との繋がりを認識した現在、僕は声が出せるようになっていて、音も聞こえるようになっていた。

 だけど、驚くのはこれだけじゃなかった。


「ふしぎふしぎ」

「んんっと、ここはどこ?」

「んにゃっ、プリシアがついてきたにゃ」


 なんということでしょう。

 アレスちゃんを認識しようとしたら、おまけもついてきちゃった!

 でも、そうか。ちびっ子はいつも一緒だもんね。アレスちゃんといえば、遊び友達のプリシアちゃんだし。ニーミアは古代種の竜族で、しかもプリシアちゃんとアレスちゃんの親友でもあるわけだから、こういうことになるのかな。


 アレスちゃんが僕に抱きついてきた。

 プリシアちゃんは寝起きなのか、眠たそうに僕と手を繋いできて、辺りを不思議そうに見回している。

 ニーミアは、プリシアちゃんの頭の上でいつも通りに寛いでいた。


「ふむ、珍しい場所にいざなわわれたものだ」

「おじいちゃんはこの空間を知ってるの?」

「知っておるな。だが、望んで来られるような場所ではない。やはり、あれに呼び込まれたか」

「あれ、とは爺さんでも口が過ぎるわね」

「くくく、そうであったか。あれは其方そなたが護る者であったな」


 僕からスレイグスタ老に睨みの矛先を変えたアシェルさん。


 どういうこと?

 アシェルさんが守護する者のせいで、僕やみんなはこの空間に呼び込まれたの?

 僕は確か、病的な白さの女の子の瞳に吸い込まれて……


夢見ゆめみ巫女みこ。私らが守護する、いにしえみやこの主人よ」


 困惑する僕の心を読んだアシェルさんが教えてくれた。


「……えええっ!?」


 数拍置いて、僕は驚きに仰け反りかえった。


「初めまして。夢の世界へようこそ、竜王エルネア様。ここはわたしが見る夢の中。わたしの夢はあなた達の夢。あなた達の夢はわたしの夢。わたしは夢で世界を渡り歩く者です」


 僕が認識するまでもなく。唐突に彼女たちはこの世界に現れた。


 病的な白さの女の子が微笑み、僕に優しい視線を向けている。

 紫色の髪をした二人の女性が立っていて、ミシェイラちゃんも佇んでいる。

 四人の背後には、ナザリアさん一家と八人の人たちが。


「ええっと、貴女はアシェルさんが守護している人で……。ここは貴女の夢の中?」

「わたしの夢ではありますが、あなた達の夢でもあります」


 ううーむ、難しいことを言われているような。

 アシェルさんが守護する人、ということは理解できる。

 つまり、病的な白さの女の子は夢見の巫女と呼ばれる存在で、アシェルさんやニーミアが守護している古の都のご主人様ってことだよね。

 古の都っていうのは、ほら、あれですよ。

 女性ばかりが住んでいるという楽園だ。


 僕の思考を読んだのか、ミシェイラちゃんと女の子以外にも、紫髪の二人の女性が笑っていた。


 はっ。まさか、この人たちも心を読めたとは!

 変な思考を綺麗な女性に読まれてしまったと知って、途端に恥ずかしくなる僕。

 くうう、とんだ失態だ。と赤面させながら視線を泳がせていたら、スレイグスタ老とアシェルさんの姿が目に入った。


 普段通りなんだけど。なんだか、普段通りすぎて気持ちが悪い。

 女の子は、アシェルさんの大切な要人だよね。古代種の竜族が護るような人物だ。そして、ミシェイラちゃんも紫髪の二人の女性も、その要人と同じような立場の人のはずだ。

 なのに、かしこまったりうやまったりするような気配がない。


 僕も王様を前に改まったりしないから、あまり他者の事は言えないんだけど。

 それでも、高い存在の人にはそれなりの態度があるような……


「そう思考する汝も、現時点でそれらしい態度をとっておらぬではないか」

「言われてみると!」


 ははあっ、とひざまずいたほうが良いのかな?

 が高い、と怒られちゃう?

 でも、ミシェイラちゃんやナザリアさんたちとは、そういう上下の関係じゃない気もするし……?


「畏まる必要はないの。わたしたちは権力者や偉い人ではないの」

「爺さんは霊樹を守護しているけれど、霊樹を敬ったりなんかはしていないでしょう? それと同じよ」

「ううーん……。つまりこの方たちは霊樹のような人たち?」


 竜脈を吸い上げたり、凄い人や竜に護られるような存在?

 怒らせちゃったりすると、文明が滅ぼされるような恐ろしい人たちなのかな!?


「大丈夫ですよ、こう見えて温厚ですから」


 くすくす、と笑う女の子。

 しまった、また変な思考を読まれちゃった。

 こう見えて、と言うけど、どこをどう見ても病的な女の子の姿だから、某竜族や某精霊のように怒ったら文明を破壊するとは到底思えないよね。

 でも、どうなんだろう。

 ミシェイラちゃんも可愛らしくて恐ろしい感じはしないんだけど。


 紫色の髪の二人は……


「汝は思考を読まれておるのだから、少しは控えめに物事を考えたほうが良い。さもなくば、後悔するであろう」

「……おじいちゃん、そういうことは最初に教えてほしいよ」

「ふむ、汝は心を読まれぬようにする修行がまだであったか」

「いまさらだよね!」


 そういえば、心を読まれない試練とか受けたことないしね。

 こうして心がだだ漏れなのは仕方がない。


 僕の思考とスレイグスタ老のやりとりに、紫髪の二人の女性は笑っていた。

 笑う姿は優しい感じがするんだけど、やっぱり気配が只者じゃないような気がする。


「それよりも、なの。エルネアの世界はこれで全て? 足りないものはないかしら、と忠告しておくの」

「むむむ、忠告ですか……」


 ミシェイラちゃんは笑顔だけど、油断大敵だ。

 禁領では、仲良くしていたと思ったらいきなりアレスちゃんを奪われちゃったからね。

 もしかすると、今回もまたなにかしらの問題を強引に押し付けられるのかもしれない。

 女の子も自身を温厚だとは言っているけど、庶民的な僕の温厚の基準と彼女たちの持つ温厚の基準は違うかもしれない。


 ならば、僕は警戒しなきゃいけない。

 これからなにが起きても対処できるように。


 抱きつくアレスちゃんと、手を繋ぐプリシアちゃんを強く引き寄せる。

 ちびっ子を危険に巻き込むわけにはいかない。


 そして……


 もう一度、意識を竜脈に戻す。

 竜脈の流れを頼りに、身近な存在を探す。


 強く凛々りりしい気配。そこを起点に、清き気配を探す。

 隠れるのが上手な気配も、今の僕には探し出せる。

 自由奔放な気配。それと瓜二つの、もうひとつの気配。

 探せばすぐに見つかった。


 見つけた瞬間、彼女たちはこの世界に存在していた。


「……エルネア、ここはいったい?」

「エルネア君、今度はなにをしたんですか」

「えええっ、僕のせいなの!?」

「エルネア様、できればわたくしだけをお誘いして欲しかったですわ」

「お酒の飲み過ぎかしら?」

「夢でも見ているのかしら?」

「うん、これは夢らしいよ」


 ミストラル、ルイセイネ、ライラ、ユフィーリア、そしてニーナ。

 僕の妻たちは、この不思議な世界に呼び込まれて困惑した様子を見せる。そんな彼女たちに、僕は経緯と状況を説明した。


「……それで、貴女がたの目的はなんでしょうか」


 状況を把握すると、家族の主導権を握るのはミストラルです。

 ええっと……。僕が最初に引き込まれたので、僕が話を進めたいのですが!


 僕の困った思考を読んだミシェイラちゃんやスレイグスタ老たちが、呆れたように笑っていた。

 だけど、笑顔を収めて僕たちの方へと一歩、距離を詰めた女性がひとり。紫色の髪を背中まで伸ばした、額飾りの女性だ。


「竜に導かれ、多くの種族に愛される者よ。では、貴方は世界に相応しいのか。どうか、わたしたちに試させてください」

「えっ!?」

「わたしたちは世界を巡る者。あなた達が世界にどう関わるのかを知らなければいけません」

「ええっと……。もしも世界に相応しくない存在だったらどうなるんでしょう?」

「安心するの。夢見の巫女が言ったように、わたしたちは温厚なの。エルネアたちが世界に関わる者でない場合は、今まで通りなの」


 僕の疑問に答えてくれたのは、ミシェイラちゃんだった。


「もしも試験に合格できなかった場合は、これは夢のお話。エルネアたちが望まなくても、夢の話。だけど、ほんのちょっとでも世界に認められてエルネアたちにやる気があるのなら、ご褒美ほうびがあるの。結婚のお祝いになるの」

「それってつまり、これから試験があって、失敗しても僕たちには悪いことはなにも起きない。でも合格すると、良いことがあるってこと?」

「そうなの!」


 ううーん、本当にそんなこちらだけが得するような話はあるのかな?


「大丈夫ですよ。わたしたちにもちゃんと得になることはありますから」


 竜脈の上に髪で紫色の小川を作る女性が優しく微笑ほほえんでいた。


「どうしよう?」


 僕はみんなを見つめる。みんなも僕を見つめていた。


「失敗しても夢だわ」

「成功すれば、ご褒美だわ」

「物は試しですわ!」


 やる気満々のユフィーリアとニーナとライラ。


「エルネア君にお任せします」


 僕を頼ってくれるルイセイネ。


「貴方は、また変なことに巻き込まれて……」


 ため息を吐きながらも、僕に任せてくれるミストラル。


 それなら、答えは決まったようなものだよね。


「では、その試験を受けさせてください!」


 家族を代表して僕が言うと、額飾りの女性が頷いた。


「ではまずは、あなた達の実力を見せてもらいましょう。わたし、ファルナがお相手します」

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