演舞と神楽

 抽選会は、大盛況のうちに幕を下ろした。

 種族を問わず、当選した引き出物に一喜一憂いっきいちゆうするみんな。

 まあ、一憂はほぼ、魔族の国へのご招待券に当選した人に集中していたんだけどね。

 これでもか、と大盤振る舞いしたおかげで、大勢のお客さんが満足顔になってくれていた。

 でもそうなると、当選しなかった方々は逆にひどく落ち込んだようで……


 でも、安心してください!


「はいはーい。悲しんでいる暇はありませんよー」


 リリィの陽気な声に、会場に盛り上がりが戻ってきた。


「残念ながら抽選に外れた皆さんに朗報ですよー。これから披露宴が終わるまでの間にテルルちゃんのいる場所にたどり着けた方には、テルルちゃんより千手の蜘蛛の糸がいっぱい贈られまーす。糸の使い道に困るような魔獣や竜族の方々には、テルルちゃんの縄張りで獲れた珍しいお肉もありますよ。お得ですよねー」


 おおおっ、と上がっていた歓声だったけど、一瞬で途切れた。

 どうやら、みなさんはお気付きのようですね。

 そうです。人がテルルちゃんのそばに行こうと思ったら、あの大迷宮を突破しなきゃいけないのです。でも、翼のある人や大迷宮を飛び越えられる魔獣や竜族は、一瞬だけ沈黙したあとに我先にテルルちゃんのもとへと向かいだした。


『ぎゃーっ』

『おたすけぇっ』

『こんな話、聞いてないぞっ』


 ふっふっふっ。

 不公平は駄目ですよね。

 といわけで、迷宮に入らない方にはれなく、テルルちゃんの千手の手が襲ってきます!

 これまでは気楽に近づけたのに、突然近づけなくなりましたね。


 会場で青ざめている人々と同じように、魔獣や竜族も顔を青くして舞台の上の僕を見る。


「おい、これは朗報と言えるのかよ?」

「スラットン、なにを言っているのかな。十分お得じゃないか。誰でも平等に、あの千手の蜘蛛の糸をいっぱい貰える機会なんだよ」

『いやいや、割に合わんぞ?』

「大丈夫だよ。テルルちゃんは無駄な殺生はしないからね。あっ。大迷宮の地下で彷徨さまよっている魔族にも殺生は禁止しているから、逆に魔族を殺そうとしちゃ駄目だよ」

「無理だ……。披露宴が終わるまでという期限以前に、絶対にたどり着けん」

『珍肉が食べたい、珍肉が食べたい……』

『というか、我らは水から出られないので、最初から無理なんじゃ?』

「水竜たちには不利かもしれないね。でも、安心して。こういう時のルイララだから!」

「エルネア君はいつも酷いよね」


 苦笑するルイララを水路に投げ飛ばす。

 ルイララとしては関わりたくないんだろうけど、巨人の魔王から「余興よきょうに付き合え」と命令されているので、仕方なく水竜たちが届く範囲を逃げ回り始めた。


「さあさあ、躊躇ためらっている暇はないですよー」


 リリィが発破はっぱをかけると「命の保証はされているんだし、物は試しだ」と冒険者を中心に動きが見え始めた。


 迷宮を突破するためには冒険者の知識や経験が必要で、一般の人や王侯貴族、商人たちは不利なようにみえるけど、そこは彼らの知恵の見せ所。

 会場で仲良くなった者に協力を求めるとか、金品で雇うとか。いろんな方法があると思うんだ。

 なのでみなさん、頑張ってくださいね。


 引き出物の抽選会が終わって、さあ帰ろうか、と身支度を整えていた人たちも、祭りは続くと知ってまた騒ぎ始めていた。


 僕たちは、賑やかな会場を横目に舞台を降りる。

 これからはまた、挨拶回りかな。

 舞台では抽選会の道具が片付けられて、次の用意が進んでいく。次は、京劇の第四幕です。


「でも、ちょっとお腹が空いちゃったね」


 気づけば、太陽は随分と傾き、竜峰の先に隠れようとしていた。

 夜になっても披露宴ひろうえん、というか祭りのような宴会えんかいは続く。

 でもその前に、お腹を満たしたいね。


 挨拶回りをしながら食べ物を頬張るのはお行儀が悪いので、一旦家族の区画へと行くことになった。

 相変わらず巨人の魔王が滞在しているけど、仕方がない。魔王だからね。気安く会場を彷徨うろついていたら、他のお客さんがひっくり返っちゃう。


 というか、魔王はそろそろスレイグスタ老の「待て」を解除してあげたほうがいいんじゃないかな。スレイグスタ老が霊樹のそばでしょんぼりとしているよ?

 スレイグスタ老に吊られてアシェルさんもなんだか大人しい。

 やはり古代種の竜族でも、最古の魔王は恐ろしいのかな?


「其方には少し折檻せっかんが必要なようだな?」

「いえ、間に合ってます!」


 僕の思考を読んだ魔王が、なぜかあきれたようにため息を吐いていた。


「んんっと、プリシアたちもテルルちゃんのところに遊びに行ってもいい?」

「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」


 みんながテルルちゃんを目指すものだから、ちびっ子たちも行きたくなったらしい。

 ニーミアが大きくなり、プリシアちゃんとメイとフィオリーナとリームが乗り込む。そして、あっという間にテルルちゃんのところへと飛んで行った。

 リリィも大役を終えて、プリシアちゃんたちに混ざって飛んでいく。


 テルルちゃんの妨害はありませんでした!


 どうやらここに、最も簡単な答えがあったみたいだね。もしもプリシアちゃんかちびっ子の誰かと親密になっていれば、テルルちゃんの妨害を受けずに到着できたのに。

 易々やすやすとテルルちゃんの頭の上に到着したニーミアとリリィを、誰もが呆然と見つめていた。


「披露宴が終わるまで、という区切りであったが、これから日が暮れても続けるのかな?」

「はい、ずっと僕たちがこの場にいるわけではないですが、会場は数日の間は解放しておく予定ですよ」


 王様たちも合流してきて、本当に身内の区画になっちゃっています。

 復活した父さんがヨルテニトス王国の国王様から晩酌ばんしゃくされて恐縮している姿が面白い。巨人の魔王と気安く飲み交わしているのに、もっと身近なはずの人族の王様には緊張するんだね。


「エルネア君、どうぞ」

「ありがとう」


 ルイセイネが取り分けてくれた食べ物をありがたく受け取る。ミストラルに飲み物を貰うと、ライラが「あーん」と僕にお肉を向けてきた。

 周りのみんなの視線が集中する。


 は、恥ずかしいですよっ!


 でも、食べなきゃライラに悪いし……


「遠慮をすることはないと思いますよ。今日は君たちの愛をみんなに見せつける日ですからね」

「そうですよ、存分に見せてください」


 聖職者であるルイセイネの両親にそう言われちゃったら、もう引けません。ライラの差し出したお肉にかぶりつく。


「エルネア君、あーん」

「エルネア君、あぁん」

「くううっ、やっぱり恥ずかしいよっ」


 ユフィーリアとニーナが雛鳥ひなどりのように、僕に顔を近づけて口を開けている。

 僕は顔を真っ赤にしながら、二人の口に果物を放り込んだ。


「エルネア様、私もあーんをして欲しいですわ」

「仕方ないな、こうなったら僕も男だ!」


 恥ずかしさを捨てて、ライラのお口にもお肉を入れる。

 そして、さっと視線を逸らして逃げようとしたミストラルとルイセイネを捕まえた。


「ふっふっふ。逃げようったって、そうはいかないよ」

「こらっ、離しなさい。そういうことはあなた達だけでやればいいのよ」

「わ、わたくしここのあとの神楽かぐらの準備がありますので……」

「三人とも、この二人を取りおさえるんだ」

「おまかせですわ」

「仕返しのときね」

「日頃の恨みね」


 ライラとユフィーリアとニーナに押さえつけられたミストラルとルイセイネ。そこに、僕がお肉を手にして近づく。

 二人は嫌よ嫌よ、と頭を振って逃げようとするけど、そうはいかない。

 さあ、恥ずかしさに耐えながら「あーん」をするんだ!


 僕たち夫婦の騒ぎに、区画の外にいた人たちまでもが集まってきて、騒ぎ出す。

 ほおら、抵抗するから余計に目立って野次馬が増えちゃったじゃないか。


「くくくっ、観念するがいい」

「エルネア、口調が変よ!?」

「エルネア君、巫女にこのようなことはしてはいけないんですよっ」

「さあさあ、口を可愛く開けなさい。さもないと、もっと恥ずかしいことになっちゃうからね」


 ミストラルとルイセイネは、顔を真っ赤にしていた。


「くっ、覚えていなさいよっ」

「女神様からの罰がありますからねっ」


 でも、どうやっても抜け出せないと覚悟したのか。二人は渋々、口を開ける。僕はそこに、お肉を放り込んだ。

 もぐもぐと食べるミストラルとルイセイネ。

 口もとから溢れた肉汁を拭いてあげると、子供じゃないんだから、と睨まれちゃった。

 でもね。拘束されているから、自分じゃ拭けないんだよ。


 僕たちの甘い光景に、見物していたみんなの方が恥ずかしそうにしていた。


「お前ら、よくやるなぁ」

「見ているこっちが恥ずかしくなっちまう」


 ルドリアードさんとキャスターさんは肩を組んでどこかへと行ってしまう。

 どうやら、あまり見せつけていると刺激が強すぎるようです。


 やんやと騒ぎながら、空腹のお腹に食べ物と飲み物を補充する。そうして僕たちはまた、挨拶回りへと戻って行った。






 は完全に竜峰の先へと沈み、半月と星が空にまたたく時間になった。

 だけど、会場の熱気は一向に収まる気配を見せてはいない。

 テルルちゃんのもとに挑む有志たちは、失敗しても何度となく挑戦し続けている。

 酔っ払ったり食べ過ぎた者も、時間が経てばまた復活する。

 夜になった会場では、法術の光、魔法の光、そして光の精霊たちの輝きで照らされていた。


 このころになると僕たちの挨拶回りもようやく終わり、今度はみんなから祝福の言葉やお祝いの品を逆に貰う立場へと移り始めていた。


 舞台では、相変わらずいろんなもよおしが続いている。

 そのなかで、ようやく終幕を迎えたのは京劇だった。

 僕の歩み出しから、アームアード王国とヨルテニトス王国を救う壮大な物語。ひとつの劇団だけでは演出しきれずに、アームアード王国とヨルテニトス王国、二国の合計五団体が協力して演じてくれた。


 騒がしい会場だけど、この珍しい大舞台を観覧していた者は多かったようで、終幕に合わせて盛大な歓声と拍手が送られていた。

 劇団の人たちもやりきった感があるようで、全員が舞台に立って歓声に応えている。


 でも、これで終わりではなかった。


 京劇といえば、演舞対決だよね。

 本来は、舞姫まいひめのいる劇団だけの特別な演目なんだけど、今日は違う。


 僕も劇団の人たちに拍手を送りながら、舞台へと上がった。


「さあさ、これより最後の演目を開始します。どうぞ最後まで、お見逃しなく!」


 代表の男性の声に合わせて、挨拶を済ませた劇団員たちが舞台のそでに戻っていく。すると、舞台には限られた人たちだけが残った。

 太鼓や笛といった楽器を手にした人たち。露出の多い衣装と双剣を手にした舞姫。

 そして、僕。


「この日だけの特別な共演でございます。題目は、竜王と舞姫の演舞対決!!」


 わあっ、と会場が揺れた。

 食べ過ぎて転がっていた竜族、遊び疲れて伸びていた魔獣、酔っ払って寝ていた人。みんなが舞台に注目していた。


 舞姫が双剣を高く掲げ、構える。

 僕は右手に白剣、左手には装飾剣を握っていた。

 霊樹は、舞台の背後で僕たちを見守っているからね。残念ながら霊樹の木刀ではない。神殿から借りた、儀式用の剣だ。


 りぃん、と舞姫の剣と僕の剣が僅かに触れ合う。

 そして、僕と舞姫の視線がぶつかり合った。


 音楽が鳴り始める。

 最初はゆっくりと。

 舞姫は緩やかな動きで舞い始めた。

 僕も、ゆっくりとした動きで竜剣舞を舞い始める。


 まさか、こんな日がくるなんてね。

 二年前のあの日、リステアと一緒に京劇を見に行ったときに、舞姫の演舞を見て心に電撃が走った。目に焼き付いた美しい舞は、今でも忘れていない。

 そしてあのときの舞姫が今、僕の隣で舞っている。


 剣先まで研ぎ澄まされた精神。足先は美しく宙に弧を描き、ころもが流れるように舞姫の動きを追う。

 緩やかな舞だからこそ、卓越たくえつした技術が目に映る。

 決してぶれない身体の軸や視線。次へと繋がる動きに無駄はなく、見る者全てを魅了していた。


 僕も負けてはいられない。

 本来は、戦うための技術である竜剣舞。だけど今は、せることに集中する。

 音楽に合わせ、型を舞う。

 複雑な足捌き、相手を惑わせるような剣捌き。

 舞姫の演舞とは違う魅力で観客を惹きつける。


 最初の曲が終わり、次の曲へ。

 僅かに速くなる曲調。

 音楽の変化に合わせ、僕と舞姫の演舞も変化する。


 これまでは小手調べだ。

 くるりと回ったときに、また舞姫と視線が重なった。


 私についてこられますか、と舞姫の瞳は挑発的に僕を見ていた。

 負けるものか、と視線を返す。

 一瞬だけ交差した視線で火花を散らし、お互いにどれだけ多くの観客を魅了できるかと舞う。

 だけど、演舞対決はみんなを魅了させるだけが勝負ではない。

 二曲目が終わり、三曲目へ。三曲目が終わり、四曲目へ。

 次の音楽に移るたびに、曲調は激しく、そして速くなっていく。


 音楽に合わせ、舞姫の演舞は激しさが増していく。だけど優雅さはひと欠片かけらも失われず、魅惑的に踊り続けた。

 僕も、竜剣舞の速度を上げていく。

 手数こそが最大の武器である竜剣舞は、曲調が速くなれば速くなるほど、その本領を発揮する。

 鋭い斬撃は残像を残し、次の剣戟と重なり合う。高く上げる蹴り、身体をひねりながらの跳躍。激しさのなかにも、優雅さと美しさを忘れない。

 気づいている者はいるはずだ。

 僕の竜剣舞は、隣で舞う舞姫に合わせた動きで演じられていた。


 今でも目を閉じれば、舞姫の一挙手一投足を思い浮かべることができる。

 そして竜剣舞は、ひとりで舞うものではなく必ず相手がいるものだ。

 僕の相手は舞姫。隣で舞っている女性を意識しながら竜剣舞を舞う。

 すると、どうやら舞姫も僕の竜剣舞の動きに気づいたらしい。


 やってくれるわね、と一本取られたような悔しさが舞姫の瞳に宿っていた。


 曲調はさらに速くなっていく。

 だけど舞姫は遅れを見せるどころか、僕に向かって剣を向けてきた。


「おおっと!」


 白剣で受け流す。

 白剣の斬れ味を抑えるように気をつけながら、舞姫の挑戦を受けて立つ。

 舞姫の双剣と僕の剣が重なり合う。舞姫の滑らかな足捌きをかわし、蹴りを放つ。

 決闘ではないので、相手が受けられるような動きだ。

 でも、手加減は禁物。相手は歴史に名を残すような至高の舞姫だ。舞姫も僕の動きに合わせ、軽やかな舞踊ぶようを披露する。


 舞台で繰り広げられる、僕と舞姫の交差した演舞。

 どちらが先に遅れるか。会場のみんなも固唾を飲んで見守っていた。


 だけど、最初に負けが確定したのは、楽団の人たちだった。

 あまりにも速くなった音楽についていけなくなり、音が乱れる。


 そうだったね。

 本来の演舞対決は、楽団と舞姫の勝負だったんだよね。

 だけど、僕と舞姫の勝負はついていない。

 お互いにまだ余裕を残している。


 すると、音楽の代わりに会場から手拍子てびょうしが鳴り始めた。

 手拍子は手加減なく速い調子を刻む。

 僕と舞姫は、こうなったらとことんやるまでだ、と演舞をぶつけ合った。






 わあっ、と夜を吹き飛ばすような歓声が上がった。

 鳴り響く拍手と、賞賛の咆哮。

 誰もが立ち上がり、惜しみない感動を舞台の上の僕と舞姫に送っていた。


 勝負は、とうとうつかなかった。

 どれだけ速い調子にも、遅れることなく舞い続けた僕と舞姫。

 音楽の代わりになっていた手拍子は、最後には惜しみない拍手に変わり、僕たちはそこで申し合わせたかのように演舞を止めた。


 舞姫は肩で激しく息をしていたけど、歓声に応えて優雅に挨拶をしている。

 僕も息を整えながら、会場のみんなに応える。

 そして、素敵な演舞をしてくれた舞姫に僕も拍手を送った。

 と思ったら、舞姫も僕に拍手を送っていた。


 お互いに笑い合い、握手を交わす。


「ありがとうございました」

「こちらこそ、竜王様と舞えて光栄でした」

「いいえ、僕の方こそ。僕は貴女にあこがれて、この竜剣舞を習い始めたんですよ」

「おやまあ、そうなんですか!?」


 舞台の上で舞姫と楽しく言葉を交わしていると、袖の方から咳払いが飛んできた。


「歓談中、失礼するわね」


 舞台に上がってきたのは、ミストラル。

 ミストラルは弦楽器げんがっきを手にしていた。

 ミストラルに続いて舞台に上がってきたみんなも、手に手に楽器や鈴を持っていた。

 ライラは太鼓を。ユフィーリアとニーナは、大小の笛。プリシアちゃんとメイは鈴を構えて舞台に並ぶ。

 ルイセイネは錫杖だけで、楽器は持っていなかった。


 演舞対決は、引き分けに終わった。

 続いては、僕たち家族の神楽かぐらだ。


 舞の演目のあとにまた舞というのも変なんだけど。

 まさか、演舞対決がこれほど盛り上がるとは思ってもみなかったからね。


 舞姫と別れて、息を整える。

 装飾剣を鞘に納め、袖口に控えていた人に手渡した。

 そして僕が次に向かった場所は、舞台の背後に生えている霊樹だ。


「少しだけ、枝を分けてね」

『はい、どうぞ』


 ふわり、と頭上の枝からひとふさの枝が落ちてきた。

 枝はおうぎのように広がっていて、葉っぱがいっぱい付いている。

 僕は枝を受け取ると、舞台の中心へ戻る。


「ええっと、演舞対決のあとで恐縮するんですけど。みんなにはぜひとも観てほしい演目です。僕たちは今日、みんなに祝福されて結婚することができました。僕たちは今、幸せでいっぱいです。なので、この幸せな気持ちをみんなにもお裾分けしたいと思います。心を込めた神楽ですので、どうかご観覧あれ」


 僕の挨拶が終わると、全員で一礼する。


 最初に、しゃらん、とルイセイネが錫杖を床に打ち付けて合図を送る。

 ミストラルが弦楽器を爪弾つまびき、ライラが太鼓を叩く。ユフィーリアとニーナが笛を奏で、プリシアちゃんとメイが鈴を鳴らして演奏が始まった。

 ほがらかな声で、ルイセイネがうたう。


 そして、僕は謳と音楽に合わせ、神楽を舞った。


 これも、立派な竜剣舞だ。

 今度は魅了のものから、捧げる舞へ。

 どうか、僕たちの幸せがみんなにも届きますように。仲良く、元気に、楽しく、誰もが笑って日々を過ごせますように。


 演舞対決のような激しさはない。

 ゆるやかに、心を込めて大切に舞う。


 手にした霊樹の枝を振ると、枝葉がこすれてさらさらと自然の音を響かせる。

 僕たちの音楽と謳に合わせて、霊樹がさわさわと優しく揺れていた。


 この日のために、みんなで練習してきた神楽だ。

 丁寧に、美しく、ひとつひとつの動きに細心の注意を払い、神楽を舞う。

 音楽と謳と舞踊は、僕たち家族のようにひとつにまとまり混ざり合って、会場を包み込む。


 きらきらと、万色の光の粒がどこからともなく会場全体に浮かび上がった。

 光の粒は神楽に合わせ、踊り始める。

 どうやら、精霊たちが我慢しきれずに参加してきたみたい。

 だけど、精霊の光がより一層僕たちの神楽を幻想的なものにしたようで、ついさっきまでの演舞対決で最高潮に盛り上がっていた会場のみんなは、うっとりと見入ってくれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る