「翌日もザンに言い寄られるだなんて」
「エルネアよ、いい加減に諦めろ」
「嫌だ。僕は絶対に諦めないんだ」
「往生際が悪いぞ」
「ザンこそ、今更この話を蒸し返すだなんて!」
「エルネア君。そうは言いますが、やはり負けを認めてしまった方が後々の生活が楽になりますよ?」
「くうっ。ルイセイネまで……」
「そうだわ。もう私たちだけでは手に負えないわ」
「そうだわ。もう私たちだけでは制御できないわ」
「んんっと。プリシアはどっちでもいいよ?」
「ユフィとニーナは、昨夜のうちにお酒で
「エルネア様、
「ライラさん、どうやら貴女も現実が見えていないようですね?」
「はわわっ。ルイセイネ様、違うのですわ……」
「いいえ、違いませんよ」
「エルネアよ。お前の家族も、お前の敗北を認めているんだ。もう諦めたらどうだ?」
「うううっ。そんなことを言ったって……。ねえ、ミストラルはどう思うの?」
「わたし? そうね。やはり、エルネアの負けじゃないかしら?」
「えええっ。ミストラルはそれで良いの?」
「良いもなにも。そもそもの原因は貴方にあるのよ?」
「そうですね。エルネア君が最初から強気でいてくれたら良かったのですけど」
「ルイセイネまで! そうは言うけどね。ミストラルたちも……」
「なにかしら?」
「なんでしょうか?」
「……な、なんでもないです」
「諦めないお前の気持ちは尊重する。だが、やはりお前の負けだ」
「これは、勝ち負けの問題じゃないよっ」
「いいや、勝負だったんだよ。そして、お前は守れなかったんだ」
「僕は生半可な覚悟じゃなかったんだ」
「それはわたしも一緒よ」
「みんな、エルネア君と同じですよ?」
「エルネア君、それでも諦めが肝心なこともあるわ」
「エルネア君、それでも覚悟を捨てる勇気が必要だわ」
「エルネア様、もう一度だけ考えましょう。私も一緒に考えますわ」
「あのね。プリシアは
『うわんっ。行きたいよっ』
『暇だよぉー』
「……レヴァリア、お願いできるかな?」
『我は貴様の小間使いではない』
「お願いだよ。僕は今、人生の瀬戸際に立たされているんだ」
『貴様の人生など、奈落の底に落ちてしまえ』
「ひどい!」
『そもそも、我は最初から貴様の敗北を確信していた。これも全て、日頃の行いだろうよ』
「そんな馬鹿な……。僕はただ、一生懸命だっただけなのに」
『この際だから言っておく。すでに噂は竜峰に住む竜族たちに広まっている』
「な、なんだってー!」
『まさか、隠し通せるとは思っていないだろうな?』
「ううん、隠そうとはしていないんだけど……」
『諦めろ。話が広まった時点で、すでに貴様は屈していたのだ』
「んんっと、レヴァちゃんお願いね?」
『くっ。貴様は、なにを勝手に背中に乗っているんだ』
「んんっと、暗くなる前には帰ってきますからね?」
「プリシアちゃん、それは保護者が言う注意事項だからね?」
「仕方ないわね。ライラ、貴女はプリシアのお
「はいですわ! レヴァリア様、宜しくお願い致しますわ」
『ちっ』
『行ってきますっ』
『いこぉー』
「行ってらっしゃい……」
「お前の家族はいつも騒がしいな」
「大家族だからね。毎日が楽しいよ?」
「その楽しさにかまけて、この有様なんだろう?」
「うっ。まさか、話を戻す気だね?」
「戻すもなにも、最初からこの話だ」
「そ、そういえば! ザンは最近、アネモネさんとはどうなのさ?」
「なんのことだ?」
「もう、とぼけちゃって。知っているんだよ。この間も会っていたんでしょ?」
「お前はなにを言っている!?」
「隠しても無駄だよ。アネモネさんがこっそりと教えてくれたんだ。とても楽しそうに話していたよ」
「こっそりなのに話したら意味がないわ」
「密会なのに密会になっていないわ」
「あら、ザン。そういうこと?」
「あらあらまあまあ、ザンさんも隅に置けないですね」
「お前たちはなにか誤解をしているようだな。やましい事はなにもない。ただ、あれが狩りの仕方を覚えたいというから付き合ってやったまでだ」
「ああっ。焦ってる! さては図星を突かれて困っているね?」
「困っているのはお前たちの方だろう!」
「こ、困ってなんかいないやい」
「嘘をつけ。いい加減に全てを白状しろ。何人だ。いったい、お前たちの結婚の儀式には何人来るんだ!?」
「こ、これは僕たちの問題だよっ」
「ライラの国からは、千人以上来るって言ってたにゃん」
「ごめんなさい。竜の森の耳長族と魔獣たちは全員参加よ」
「竜の森の精霊さんたちも、たくさん来ると思います」
「冒険者もいっぱい来るわ」
「貴族や商人たちも押しかけるわ」
「み、みんな!? というか、ニーミアはプリシアちゃんたちと一緒に行かなかったの?」
「お昼ご飯を準備してもらったにゃん。今から追いかけても追いつくにゃん」
「……あまり、レヴァリアの誇りを傷つけちゃ駄目だよ」
「行ってきますにゃん」
「行ってらっしゃい。鶏竜さんたちに迷惑をかけちゃ駄目だからね?」
「やれやれ、本当に騒がしいな。……それで、合計すると何人になる?」
「ええっと、数え切れないかなぁ」
「そうね。これに加えて貴方は、獣人族にも大盤振る舞いしているわけだし」
「魔族の方々も招んでいらっしゃいますし」
「竜峰の竜族に話が広まっているなら、招ばなくても来るわ」
「竜人族だけ除け者はできないから、大勢呼ぶことになるわ」
「エルネアよ、諦めろ」
「くうう、どうしてこうなった」
「問題の元凶は、お前が最初に節操をなくしたことだろう?」
「そんなことを言われても、断り切れなかったんだよ」
「なら、この件も断れないと諦めろ」
「そうよ、エルネア。もう、わたしたちだけでは手に負えないのよ」
「さすがに、わたくしたちだけで準備を進めるのには限界があります」
「結婚の儀の進行自体は計画通りでいいわ」
「でも、参加者への食事などは
「そういうことだ。お前は諦めて、俺たちにも協力させろ」
「僕はただ、僕たちの手で準備をして、おもてなしがしたかっただけなんだよ」
「それは、わたしたちも同じ想いよ」
「そうですよ。ですが、スレイグスタ様やアシェル様も
「考えてみると、予定通りにならないのはエルネア君らしいわ」
「考えてみると、周りを巻き込むのはエルネア君らしいと言えるわ」
「三人の言う通りよ。みんなに協力してもらう、多くの者たちに支えられているというのがエルネアらしいと、わたしは思うわよ?」
「リステア君のような、最初から最後まで自分たちの計画通りの式典は素晴らしいと思いますが、エルネア君の持ち味は別にあると思います」
「あのリステアだって、国に協力してもらっていたわ」
「あのスラットンなんて、全てクリーシオ任せだったわ」
「なにからなにまで自分たちで、という心意気は褒める。だが、それで肝心の儀式が
「僕は間違っていた?」
「いいえ、貴方は間違えてなんていないわ。ただ、少しだけ修正をするの」
「そうですね。わたくしたちだけで手作りした結婚の儀式から、多くの方々と力を合わせて作る結婚の儀式へ」
「基本方針は譲らないわ」
「計画の基本は譲らないわ」
「どうだ、諦められたか?」
「……ううん、まだちょっと、未練はあるけど。でも、大勢のみんなが来てくれるならそれが一番で、準備を僕たちだけで、とこだわるのは違うのかもね」
「ああ、そうだ。だから、俺たちにも協力させろ」
「うん。ありがとう。ザンや竜人族のみんなには感謝するよ」
「そうと決まれば、早速動くとしよう。よし、お前ら。戦士としての腕の見せ所だ。誰がエルネアたちの祝いの儀式に最も相応しい獲物を狩ってくるか、競争だ!」
『おおうっ!』
「うわっ、やる気満々だ」
「当たり前だ。竜姫と竜王の婚姻は数百年ぶりだからな」
「そうか。ずっと前におじいちゃんに聞いたことがあるよ。初代の竜姫以来なんだっけ?」
「それでしたら最初から、竜人族の人たちが手を貸したいという想いを
「ルイセイネの言う通りだね」
「さて、俺も狩りに行くとしよう」
「ははぁん。さては、アネモネさんと狩りをするんだね?」
「お前のその軽口を封じなきゃならんらしいな」
「ふっふっふっ。大丈夫だよ。次の勝負は、ザンがアネモネさんと結婚する直前だよ。今度は、僕がザンに覚悟を問いてやるからね」
「勝手に言ってろ」
「痛いっ。ザンの拳骨はミストラルと違って愛情がないから痛いんだよっ。しかも熱いし。
「ああ、
「うわんっ。やめてぇっ」
「ふふふ、仲が良いこと。それじゃあ、わたしは衣装合わせがあるから失礼するわ」
「では、わたくしはお昼の準備に参加してきますね」
「それじゃあ、私はコーア様のお手伝いをするわ」
「それじゃあ、私はコーア様の相手をするわ」
「ユフィ、ニーナ。貴女たちもお昼の準備を手伝いなさい」
「そうですよ。
「僕は、今日はおじいちゃんのところに行こうかな。霊樹の精霊さんにも顔を見せておかないと、王都が森に沈んじゃいそうだし。ザン、明日は僕も狩りを手伝うからね」
「エルネア、忘れてないかしら。明日はフィオを連れてカルネラ様の村へ行くのよ?」
「はっ、そうだった。たまにはフィオを仲間のもとへと戻さないとね」
「そうよ。だから狩りはザンたちに任せておきなさい。きっと、立派な獲物を狩ってきてくれるわ」
「うん、期待しているよ」
「ああ、期待して待っていろ」
「ちっ、そこで余計なことを言うな。と焦ってくれた方が面白いのにな」
「残念だったな。俺はお前たちには乗せられん」
「ふふぅーん。アネモネさん……きゃーっ!」
「じゃれ合うのは程々にね。それじゃあ、今度こそわたしはこれで」
「はい。ミストさんの衣装がどういったものになるのか楽しみにしています」
「エルネア君だけ楽しそうだわ」
「エルネア君だけ遊んでいるわ」
「遊んでなんていないよっ。は、
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