支配の玉座

「それで、奴の動きは把握しているのか?」

「バグラッド伯爵はくしゃくの近親者を潰したのち、魔都に戻ってきたと報告が入っている」

「これで、バグラッド伯爵の一族は全滅か」

「おのれ、ギルラード……」


 長い年月君臨し続けてきた支配者を失い、短期的に現れた新たな統治者が過ぎ去った魔都。

 次の魔王に手を伸ばす魔族たちの争いが苛烈かれつを極め始め、荒廃しだした街並みの一画。

 住人が早々に逃げ去った屋敷に、複数の魔族が集っていた。


 しかし、集まった魔族たちの表情は一様に暗い。

 一時期、姿をくらませていた上級魔族、ギルラードが魔都へと戻ってくると、瞬く間に周辺一帯を支配下に置かれてしまった。


「憎ましきは、あの魔剣ビエルメア。かの魔刀匠まとうしょうビエルメアが打ったとされる最後にして最高の魔剣。あれさえなければ、我らにも一矢報いる機会があったものを」

「それだけではないぞ。いにしえの魔王が妖魔ジェスチェリフの外皮を剥いで作ったと云われる常夜とこよ羽衣はごろも。あれのせいで奴の実体を掴むことができぬ」

「爵位も持たぬ平民風情めが……」

「しかし、奴はこの辺一帯を仕切る魔族狩り共の首魁しゅかい。権力は持たずとも、最初から私兵を抱えておったようなものだ」

「やはり、我らも協力して……」

「西に領地を持つユーヨ伯爵殿に協力を要請しては?」

「あのお方も魔王位を狙う者のひとり。目下、いちじるしく勢力を広げているギルラードを協力して討つ我らの意見に賛同してくれるかもしれんな」


 厳重に警備された屋敷の奥で、魔王位をそれぞれに狙う魔族たちが顔を突き合わせていた。

 よもや、あのギルラードが真っ先に魔都を占領しようとは。

 南の魔王の手勢が撤退した後。

 お互いに様子を見合い牽制けんせいし合っていた隙を突かれたのだ。

 出遅れた貴族や上級魔族、別の地域から来た野心ある魔族たちは、他者よりも頭ひとつ抜けた実力を持ち始めたギルラードを協力して倒そうと、ここ最近のギルラードの動向を探っていた。


「それでは、早速ユーヨ伯爵へ使者を……」


 場を仕切っていた魔族が、不意に言葉を途切らせた。

 どうした、といぶかしむ集った魔族たちの目の前で、その魔族の頭部が床に落ちた。


「っ!?」


 突然のことに、さしもの魔族たちも息を呑み、身体を硬直させる。


「おやおや。雁首がんくびそろえてなにを話し合っているかと思えば」


 そして。


 いつの間にか、首を失った魔族の背後に漆黒の外套がいとうを羽織った魔族が立っていた。

 紳士的な笑みとは裏腹に、手には青い魔剣が握られていた。


「ギ、ギルラード……っ!」


 紳士風の魔族の名前を叫んだ男が、突然縦に真っ二つになり倒れる。

 いったいなにが、と理解が追いつかない魔族たち。

 ギルラードは、最初の位置に立ったまま、集った魔族たちを優雅な仕草で見つめた。


「私と争いたいのなら、どうぞこの場で。こちらとしても、手っ取り早いですしねぇ」

「くっ。貴様っ!」


 いち早く正気に戻った魔族が、ギルラードに襲いかかる。

 右手に魔力を込め、鋭い爪でギルラードを引き裂いた。

 しかし、手応えのなさに戸惑いを見せる魔族。そしてそのまま、爪を振るった魔族は床に崩れ落ちて息絶えた。


 そんな馬鹿な、と誰かが驚愕きょうがくの声を漏らす。


 たった今まで、そこに立っていたはずのギルラードがいない。

 間違いなく、魔力の込められた爪に引き裂かれた姿をこの場の誰もが目撃したはずなのに。


「常夜の羽衣……」


 次に誰かが呟いた時。

 すでに絶命した魔族が五人、床に転がっていた。


「くそうっ、見張りはなにをしていたっ!」


 叫び、魔法を放つ魔族。


「知っているではありませんか。私の魔法、所持する魔具まぐを」


 ギルラードの噂は、誰もが知っていた。魔族の間では、他国にまで伝わる有名な話だ。

 知っていながら、それをあたたりにすると、それでも「まさか」と思ってしまうほどの力だった。


 見えているはずなのに。聞こえているはずなのに。

 そこにギルラードは居ない。

 魔法はギルラードの幻影を焼き、魔剣は残像を通り過ぎるのみ。

 そして、この場にいながら誰からも正しく認識されないギルラードは、ただ悠然ゆうぜんと紳士的に、魔族たちの視線の先にたたずんでいた。

 佇んでいるだけで、次から次に魔族たちが魔剣ビエルメアの餌食えじきになっていく。


 やけを起こした上級魔族が、ありったけの魔力で屋敷ごと炎に包み込んだ。

 いかにギルラードの本体を捉えられずとも、周囲ごと消し飛ばせば、と目論もくろんだ魔族は、胸から青い刀身を生やし、息絶えた。


「ふふふっ。その程度でこの私をどうにかできるとでも?」


 ギルラードは爆炎を払いのけ、別の魔族が放った火球を蹴散らす。

 背後から迫る赤い肌の魔族を煙に巻き、逆に視覚を奪う。

 そして、何事もなかったかのように別の場所に立つ。

 なにが起きたのかもわからぬまま、さらに数人の上級魔族が息耐えた。

 ギルラードは続けて瞳を危険な色に輝かせた。

 圧倒的な実力差を見せつけられて逃げ出した魔族が、突如として輪郭りんかくを膨らませる。そして、そのまま爆散した。

 周囲で未だに敵意を見せていた多くの魔族がぎょっと後退あとじさる。


「ギルラード……。これほどとは」

「ほんの僅かな時間で、上級魔族を幾人も……」


 ギルラードの放つ桁違いの殺気と瘴気しょうきに、敵対していた魔族たちは怖気付いていた。


「くそうっ、誰だ。大勢で襲いかかれば勝てるなんて言った奴は」

「無理だ、魔力が違いすぎる……」


 怯える周囲の魔族たちに、ギルラードは紳士の笑みを取り戻し、身嗜みだしなみを整える。

 勝負はすでに着いていた。

 いつの間にか、手には青く光る魔剣ではなく、杖が握られていた。


「愚かしい。どれほどの大軍で襲いかかろうと、ご主人様の気配を読めねば手の出しようもあるまい」


 廃墟になった屋敷の陰からギルラードの家臣が現れ、うやうやしく礼をする。

 屋敷を警護していたはずの魔族は、ひとり残らず駆除くじょされていた。


「そもそも、貴方たちは間違っているのですよ。大勢で仕掛ける? 愚かです。魔王に選ばれるのは真に実力のある者のみ。他者と協力してでしか私を襲えないような者は、最初から負け組なのですよ」


 ギルラードの言葉に、誰も言い返せない。

 彼らの目論見としては、魔王位争奪の戦いで一歩抜きん出た存在であるギルラードを協力して倒し、その後に自分たちの戦いをする、というものであった。

 しかし、結果は無残だった。

 ギルラードを襲う計画をっていたはずが、逆にギルラードの襲撃を受けたのだ。

 この場のなかでも実力者であった上級魔族は、ギルラードの気配を読むことすらできずに、おそらく何が起きたのか理解する前に絶命しただろう。

 残った手勢で反撃に出てみたものの、ギルラードの防御さえ崩せずに、今に至る。

 同盟を組んでいた数十人の魔族は、短い攻防で半数以下に減っていた。


 魔族たちは降伏するようにひざをつき、武器を捨てる。


「私とて、未来の国民を無下むげに減らす気はないのですよ。これからは私に忠誠を誓う、というのであれば、貴方たちの処遇は考えましょう」

「あ、ありがとうございます。わたくし、ギルラード様にお仕えいたします」

「どうか、わたくしも」

「どうぞそれがしを家臣に」


 平伏する魔族たちに、ギルラードは満足そうな笑みを見せた。


「貴方たちの忠誠を受け取りましょう。しかし、裏切りは許しませんからね」


 ぎらり、と光ったギルラードの瞳に、魔族たちは戦々恐々とした。


「では、ご主人様。昼食の準備が整ってございます。お戻りいたしましょう」


 古くから仕える執事しつじに促され、ギルラードはきびすを返す。

 争いを好まない魔族たちが去り、さびれた魔都を戻っていく。

 ギルラードは、人族の王が統治する国から魔王クシャリラが支配していた国へと戻ると、それまで占領していた巨人の魔王が撤退した隙をつき、瞬く間に占領下に置いた。

 現在は魔王城を根城にし、徐々に支配権を周囲へ広げ始めている。


「城の上層部の修復を急ぎなさい。あれでは見苦しい」

「急がせます。しかし、大工だいくどもも逃げ出している始末で、なかなか人手が確保できず」

「奴隷狩りを地方にまで広げなさい。手勢は先ほど確保できたでしょう。新たに組織した軍隊も編成が終わり次第、周辺の支配へと向かわせるように。抵抗する者は根絶やしに。服従する者は寛大かんだいに」

「ギルラード様の御心みこころのままに」


 向かう先に見える魔王城を見つめ、ギルラードは指示を出す。

 魔都の大通りを堂々と歩くギルラード。

 魔都にわずかに残った住民たちは、新たな支配者に怯えの視線を向けていた。


 権力を握ることの、なんと容易たやすいことだ。とギルラードはほくそ笑む。

 ギルラードはもともと、魔都に住む上級魔族のひとりだった。奴隷狩りを生業なりわいとし成り上がった、生粋きっすいの戦闘狂。

 ギルラードの狡猾こうかつな狩りは国内外に有名で、今も彼の所業に怯えて魔都を去る魔族が後を絶たない。

 気づけば、争いを好まない魔族は早々に逃げ出し、ギルラードと同じように野心を持っていた魔族はことごとく敗退し、魔都を中心とした一帯はすでに支配下に落ちていた。


 これほど容易く権力を手に入れられるのなら、苦労して竜峰を越えずともよかったのでは。とギルラードは慎重すぎた過去の自分にため息を入れた。


 人族との戦争に敗退し、情けなく戻ってくる魔王軍の流れを逆行し、密かに竜峰を越えた。越えた先にあった人族の国は脆弱ぜいじゃくで、なぜ魔王軍が敗退したのか疑問に思えたほどだ。

 しかし、自分が到着した時にはすでに人族の国は南の魔王の庇護ひごを受けており、あまり目立つ行動をとれば、自分も目をつけられるかもしれない。それで慎重になってしまい、愚かそうな人族に取り入って、先の大戦の中心人物である人族出身の竜王を狙ったのだが。

 結果としては、取り込んだ人族があまりにも無能すぎて、くたびれ損に終わってしまった。

 竜族やら竜人族やらが出張でばり始めていて面倒になると判断し、仕方なく戻ってきたのだが。

 やはり、最初からこちら側で活動しておけばよかった、とギルラードは思うのだった。

 気配を遮断しゃだんし、竜峰を越えて戻る前。最後に情報を収集したところによると、狙っていた人族はその後、姿を眩ませてしまったという。

 やはり、人族は人族だ。

 小物すぎて、改めて狙う気も起きない。

 撤退の間際、念のために挑発を入れておいたが、これでは何も収穫は得られないだろう。


「ご主人様、連れて来た人族の処理はどうなさるおつもりでしょうか? あの者、ことあるごとにご主人様の名前を出すようで、家臣どもが苛立ちを見せております。……本当に、あのような者と契約をなさったので?」

「馬鹿を言いなさい。私が本当に人族と契約を交わすとでも? あれも使い捨てのこまのひとつにすぎませんよ」

「しかし、最近では目に余る有様でございます」

「竜王を釣る手段として連れてきましたが。まあ、今の所は取り敢えず、放置しておきなさい。処遇は後ほど考えましょう」


 結局、あの人族は役に立たなかったか、とギルラードはやはり自分の過去に深いため息を入れた。


 小手先の企みなど、するものではない。

 やはり魔王位を狙う者として、堂々と動かねば。

 魔王位を狙う争いは、特別今回が初めてというわけではない。

 魔王の証、魔剣「魂霊こんれい」は余っているのだ。なにゆえにの方が新たな魔王を選出しないのかはうかがい知れないが、各地で自己を主張する魔族は暴れている。

 今回、魔王クシャリラが国替くにがえさせられたということで、この地が支配者のいない土地へと変わった。そのために、周辺の魔族の国々から魔王位を狙う者たちが集まってきているのだ。


 ギルラードは、その魔王位を狙う魔族のなかでも、すでにひときわ目立つ存在へとのしあがっていた。

 魔都を素早く支配したことが大きな要因になっている。

 魔王クシャリラが支配していた国の中心だ。そこの新たな支配者ともなれば、はくがつく。

 戦わずしてこちらに服従する魔族が大勢現れた。

 もちろんギルラードから魔都を奪おうと、争いを仕掛けてくる先ほどのような者もいるが、ギルラードの魔力は上級位に相応しい。そして、優れた魔具も所有している。

 名のある上級魔族を倒せば、降伏する魔族はさらに増え、勢力は一気に拡大していった。


ゆるい世界ですね。これなら、もっと早く権力を望めばよかった、と最近思うのですよ」


 ギルラードの呟きに、執事は左様ですな、と頷く。


「私は最近、思うのですよ。なぜ、魔王が新たに選出されないのか。ですが今回の件で理解しました。牙を抜かれた獣。それが今の魔族なのです」

「ほほう、詳しくお聞きしても?」

「ええ、話しましょう」


 支配下に置く魔王城に戻ってきたギルラードは、忠実な執事をともなって進む。魔王城で働く魔族や奴隷たちが、恭しく叩頭こうとうし、新たな支配者を迎え入れた。

 ギルラードは現状に酔い浸っているような表情で話す。


「現在君臨する魔王たちを思い浮かべてみなさい。圧倒的な魔力は言うに及ばず、絶対的な支配力で国を牛耳っています。南の魔王のように穏健派もいますが、それは完璧に国を支配しているからです。愚か者が自国で僅かでも波風なみかぜを立てようものなら、残虐無慈悲に処理する。魔族のなかで最も強く、残虐なのが魔王なのです。ですが、どうでしょう。今の貴族や上級位の魔族たちにその残虐さはあるでしょうか? 支配されることに慣れ、与えられるえさに満足している者たちばかり。ですから、彼の方々は新たな魔王を選ばないのです。いいえ、選べないのでしょう。最上位に支配者が君臨しているとはいえ、魔王とは支配する者。けっして、支配される者ではないのですよ」

「ほうほう」

「一度でも他者に首を垂れた時点で、その者は魔王に相応しくない。共通の敵を倒すためとはいえ、同盟などもってのほか。魔王のうつわとは、同盟ではなく支配なのです」

「まさに、ご主人様が歩む道でございますな」

「ふふふっ。見ていなさい。いずれ、この国全体を支配下に置いてみせましょう。国を支配し、魔族を支配する。それこそが魔王。そして私の未来です。実力と支配力を示せば、彼の方々も必ずや私を魔王へと選出することは間違いありません」

「おおっ! ご主人様の未来が明確に見えますぞ」


 執事の賞賛に、ギルラードは満足そうに笑みを浮かべた。

 執事の大仰おおぎょうな反応に、ギルラードは満足しながら魔王城のなかを進む。


「しかし、ご主人様。最近になって、地方に妙な動きがございます」

「話してみなさい」


 階段を上がり、目的の部屋へ足を向けながら、執事の報告に耳を傾けるギルラード。


「はい。北部の地方都市、あの死霊使いゴルドバが支配していた不気味な都市をご存知でしょうか?」

「死霊都市ですね。死者のみが住むという忌々いまいましい都市でしたか」

「左様でございます。その死霊都市から亡者どもが消えて以降、南の魔王の配下が支配しておりましたが」

「南の魔王の親衛隊ですか。あれもいずれ、どうにかしなければいけませんね」

「実は少し前より、北の地方ではその死霊都市へと向かう難民の流れができ始めているのでございます」

「どういうことですか?」

「どうも、争いを好まぬ、まさに牙の抜けた魔族どもが、死霊都市へと逃げているらしく。聞くところによると、黒翼の魔族どもはこれまでの何者も都市には入れない、という方針を変えたようで。都市の内部に、避難してきた魔族や奴隷どもをかくまっているそうでございます」

「忌々しい者どもですね。南の魔王が撤退した後も占領し続けているというだけでも不愉快ですが。よもや、南の魔王に反旗はんきひるがえし、自ら国を起こそうとでも思っているのでしょうかね」

「わかりかねますが……」

「たしか、あそこは去年、あの人族が暴れた場所でしたか」


 そういえば、と少し前まで狙っていた人族のことをもう一度思い出す。

 竜王エルネア。

 現在は行方不明だが、はたしてあの人族と今回の死霊都市の動きは無関係なのだろうか。

 不死と思われていた死霊使いゴルドバを倒したのは、あの人族だ。

 弱肉強食の世界。

 言ってみれば、死霊都市の新たな支配者はあの人族ということにもなる。


「少し、調べる必要がありますね」

「おまかせくださいませ」


 ギルラードの懸念を敏感に理解した執事は、すぐさま姿を消して行動に移った。

 よく気が利き、働き者の執事だ。ギルラードは感心しつつ、かりの玉座がえられた広間へと入る。

 魔王城中層。その奥に設けられた玉座ぎょくざは、昼間だというのに薄暗い。


 誰か、あかりを。と発声しようとして。

 奇妙な違和感に眉根まゆねひそめた。


 どうも、妙だ。

 家臣たちの気配が薄い。

 魔王城に詰める兵士や家来が居ないわけではない。ただし、玉座の間の周りには、魔族どころか奴隷たちの気配さえない。

 たまたま、だろうか?

 いいや、違うようだ。


 ギルラードは、薄暗い玉座の間の奥を睨む。


「そこに座る者は、何者ですか?」


 広間の奥。ぎらぎらと金色に染まる玉座に、不遜ふそんに座る者がいた。


「くっくっくっ」


 不敵に笑う声は幼い。だが、気配は凄まじく、なぜ今しがたまでこの気配に自分は気づけなかったのだ、とギルラードは警戒に身を硬くする。


「そこは、私の玉座です。退いていただきたいものですね」

「くくくっ。そうか。これがお前の玉座か。随分と不釣り合いな代物しろものだ。そもそも、お前はまだ魔王になっていないだろう。それなのに玉座とは……。くふっ」

「言ってくれますね」


 なにが可笑おかしいのか、玉座に深く腰を下ろした不届ふとどき者は、腹を抱えて笑う。

 ギルラードの神経をさかなでするその態度に、殺意が湧いてくる。

 いったい、何者が自分の玉座を汚したのか、とギルラードは数歩進み、薄暗い広間の奥を凝視した。


「……き、貴様はっ!?」


 そして、予想外の人物が玉座に座っていることに驚愕きょうがくし、息を呑む。


「約束通り、魔都に来ましたよ」

「ぐぬぬ。貴様は人族の竜王……エルネアかっ!」


 ギルラードの言葉に、不遜な態度で玉座に座っていた者、八大竜王エルネア・イースはゆっくりと立ち上がる。


「僕を狙ったこと、家族を巻き込んだことを後悔させてあげましょう」


 言ってエルネアは、白剣と霊樹の木刀を抜き放った。

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