恐ろしい結末

 巨大蛇女は遥か頭上から俺たちを見下ろし、憎々しげに瞳を光らせた。

 そして、水掻みずかきの付いた手を、水面に激しく叩きつける。

 高く上がった水飛沫は鋭く尖った槍となり、雨のように降り注ぎ襲ってきた。


「ドゥラネル!」

『ええい、わかっているわっ』


 ドラネルは咆哮をあげ、闇の息吹を空に向かって扇状おうぎじょうに放つ。

 しかし、漆黒の霧を突き破り、水の槍が迫る!

 ドゥラネルは後方へと跳躍し、槍の雨から距離をとった。それでも数本の槍からは逃れられない。それを俺様が大剣で叩き落とす。


「おいおいおい。こんな化け物、どうやって倒せってんだっ!?」


 蛇女は尚も水飛沫から槍を創り、手当たり次第に投げてきた。更に蛇の尻尾が水面を薙ぐと、水の刃が作られて飛来する。ドゥラネルと俺様は、回避行動で手一杯になる。

 幸いというか、ドゥラネルの逃げ回る方角が集落とは別方向だったため、村民たちの方に被害が行っていないことだけが救いだ。


「ドゥラネル、一旦森へ避難しろっ」

『くっ、馬鹿者め……』


 しかし、ドゥラネルは俺様の指示に従わず、湖畔こはんを回るように逃げる。


「どうした!? 一度態勢を整えないと、反撃できないぞ」


 竜族のドゥラネルが状況判断を誤るとは思えない。

 だとしたら、俺様の判断が間違えているというのか?

 だが、それは妙だ。

 雨あられと降り注ぐ水の槍や刃。それだけではなく、水面に近づくと蛇女の尻尾や腕が唸りをあげて襲ってくる。

 こちらは逃げの一手で、反撃の隙がうかがえない。

 この状況では、一度背後の森へと姿を隠し、蛇女の不意をつくか遠隔からの攻撃が有効だと思うんだが。


 濃い闇の壁で蛇女の尻尾の一撃を防ぎ、頭上からの水槍は俺様が叩き落とす。

 それでも後退しないドゥラネルをいぶかしく見ると、こいつは蛇女ではなく別の方角に注意が向いているように感じた。


「どうした?」


 目の前の危機よりも気になるものだと?

 疑問に思い、ドゥラネルの意思を読み取ろうと集中する。


「森?」


 なんとなく、ドゥラネルが警戒している方角を感じ取り、俺様は視線を動かす。

 湖畔から少し離れた茂みの奥。

 木漏れ日が眩しく、俺様たちがこうして必死に戦っている場面から切り離されたような、のどかな風景の中に。

 人影が見えた。


「ぎええぇぇぇぇっっ!」


 俺様の視線で、蛇女も茂みの人影に気づく。

 しまった!

 そう思う暇もなく、蛇女は水の槍を茂みへと放つ。

 槍の雨が、茂みの人影を襲う。激しく立ち昇る水蒸気で、一瞬にして人影は見えなくなった。


 なんてこった……

 あの槍の雨を受ければ、恐らくドゥラネルでさえも負傷するだろう。それを全弾浴びただろうあの人物は、もう生きてはいまい。

 もしかすると、俺様たちの戦いの様子をこっそりと見届けようとしていた村人だったかもしれない。

 誰であれ、俺様の周囲への配慮不足で犠牲者が出てしまった。


「くそっ」


 ドゥラネルの背中の上で強く舌打ちする。

 ドゥラネルも、蛇女と人影が見えた茂みを交互に見ながら、低く喉を鳴らしていた。


『退くぞ』


 ドゥラネルは、最初から茂みの人物に気づいていたのだろう。だが、蛇女の攻撃でその者もられてしまった今。

 躊躇いなく後退をするドゥラネル。

 俺様は森へと退くドゥラネルの背中で、蛇女を睨んだ。


「あはははっ……」


 必ずかたきはとってやる。

 強い意志で蛇女を凝視する俺様の耳に、場違いな笑い声が届いた。


「いやあ、こんな所で面白い魔獣に出会えるなんてね」


 なんだ!?

 愉快ゆかいな笑い声と共に聞こえてきた声に、緊張で全身が固まった。ドゥラネルも、より一層喉を低く鳴らし、足を止める。

 そして、声が聞こえてきた方角に視線を向ける俺様とドゥラネル。


「ば、馬鹿な……!」


 視線の先は、先ほど茂みの奥に人影が見えていた場所。そして、そこから平然と現れたのは。


「糞魔族野郎……!!」


 知っていた!

 貴公子然とした風貌。場の雰囲気なんて読まない自分勝手な言動。

 こいつは、いつぞやの騒動の際にエルネアが連れていた魔族だ!

 確か、名前は……。なんだったか?

 名前は忘れたが、防御に自信のある俺様を押すほど剣術に優れた奴だったと記憶している。

 しかし、なぜこの魔族がこんな場所に?


「いやあ、物資を運んだ帰りに見知った君たちを見かけたから、ついつい尾行してみたんだけど。辺鄙へんぴな場所で面白いことをしているね?」


 まさか、俺様たちをつけてきていたのか!?


 魔族野郎は、愉快に笑いながら呑気に湖畔へと歩いていく。

 しかし、魔族野郎の周囲は壮絶だった。

 蛇女はこちらへの攻撃の手を休め、魔族野郎に獣術をありったけ叩き込んでいた。

 槍の雨が降り、水の刃が乱舞する。地中から水の柱が立ち、氷柱つららが落ちてくる。

 しかし、魔族野郎は全ての攻撃を受けながら、平然と笑って湖へと向かう。


 な、なんだ、こいつは……!?


「エルネア君は酷いよね。僕がこうして頑張っているというのに、あまり労ってくれないんだよ。人族って、もしかして魔族より極悪なんじゃないかと最近思うようになってきたよ。君たちもそう思わないかい?」


 蛇女の攻撃を平然と受け止めながら、あははっ、と陽気に笑う魔族野郎は、とうとうホレイスタ湖にたどり着いた。

 そして、水遊びでもするかのように、気持ち良さそうに足を水に浸ける。


「でもまあ、こうして珍しい魔獣にめぐり合わせてくれるのも人族だし、今回は大目に見てあげよう。さあ、仕事を頑張った僕を十分に楽しませてくれよ?」


 言って、魔族野郎は湖に沈んだ。

 と思った直後。


「ぎゃああぁぁぁっっ!!」


 俺様は情けなくも悲鳴をあげてしまった。

 ホレイスタ湖に、もう一体の巨大な化け物が出現した。

 しかも、巨大蛇女を更に大きく上回る巨体。まるで、巨大な竜族のような図体ずうたいの大きさだ!


 湖面を爆発させて現れた化け物の上半身は、貝殻かいがらの内側のような美しい肌。耳が魚のひれのような形をしていて、同じような鰭が肩口にも生えている。背中の翼も、巨大な鰭に似ていた。

 長い髪。そして、整った顔立ちは先ほどまで愉快そうに笑っていた魔族野郎の面影があった。


「ば、馬鹿な……。俺様は夢でも見ているのか……」


 透明度の高いホレイスタ湖。その揺れる湖面の下。新たに現れた巨大な化け物の下半身は、伝説に聞くような魚の姿をしていた。


「に、人魚だとぉぉぉぉぉぉっっっっ!?」


 魔族の正体に、俺は絶叫してしまった。

 俺の悲鳴はしかし、蛇女の奇声によってかき消された。


 魔族野郎改め、巨大人魚野郎は蛇女へと組みかかった。

 水掻きのある手で蛇女を捕まえる。

 蛇女も、人魚野郎こそが強敵だと判断したらしい。耳障りな奇声を発しながら、人魚野郎の胴体に蛇の下半身を巻きつけた。そして、ぎりぎりと人魚野郎の身体を絞りあげようとする。

 人魚野郎は、絡みつく蛇女の下半身なんて気にすることなく、愉快そうに笑いながら、ぼこんっぼこんっ、と蛇女を殴る。

 殴るたびに、蛇女の輪郭りんかくが歪んでいった。


 そして、化け物同士が湖の中で戦うと、余波はこちらにまで及んできた。

 高波が押し寄せ、湖畔近くに並んでいた集落を押し流す。

 建物内に逃げていた村人が、湖へと投げ出された。


 しまった!


 このままでは、村人に大きな被害が出てしまう。

 助けなければ!


 しかし、ホレイスタ湖は巨大な化け物たちのせいで荒れに荒れ、容易には近づけない。

 高波にさらわれた村人たちが悲鳴をあげていた。


 くそうっ。こうなったら、危険でも助けに行くしかないか!

 蛇女も人魚野郎も、人族のことなんて全く気にした様子もなく戦っている。

 若干、というか完全に人魚野郎の一方的な戦いにも見える。野郎は、蛇女をいたぶって遊んでいるようだ。

 こちらや流された村人たちに意識が向いていないからこそ、どんな余波が飛んでくるかわからない。であれば尚のこと、村民を助けださなければ!


「きゃああっっ」


 ナザリーも巻き込まれたのか、高波でホレイスタ湖に流されていた。

 俺様はドゥラネルから飛び降り、湖へと駆けだす。


『おいっ』


 ドゥラネルが背後で吠えたが、今は構っている場合ではない。

 ひとりでも多く、助けださなければ。

 そう気合を入れ、湖に飛び込もうとした時。


「ルイララさん、あんまり暴れてはいけないんですよー」


 空から、新手が現れた。

 今度は、人魚野郎に匹敵する巨竜が二体。

 漆黒の鱗をした巨竜と、白桃色をした巨竜だ。


「にゃーん」

「ぎゃあああっっっっ」


 俺様はまたもや悲鳴をあげて、逃げ出した。

 可愛い鳴き声とは裏腹に、白桃色の巨竜が落下してきやがった!


 そしてそのまま、白桃色の巨竜はホレイスタ湖で戦っていた化け物二体を押し潰す。


 これまで以上の高波が!

 ということはなかった。

 どういうことだ?


『くっ。あの衝撃をいとも容易く中和するのか……』


 逃げ惑い、ドゥラネルの背後に隠れた俺様は、ドゥラネルの悔しそうな歯ぎしりを聞いた。


「エルネア君の家族は酷いなぁ」


 直撃を受けたはずの人魚野郎は、よっこらしょ、と白桃色の巨竜を押し退けて姿を表す。


「蛇は美味しいらしいですよー」


 すると、人魚野郎と一緒に湖面に浮いてきた蛇女の下半身に食らいつく漆黒の巨竜。


 うげぇ。

 巨大で強力なあごで蛇の部分を食いちぎった漆黒の巨竜は、美味うまそうに咀嚼そしゃくしていた。


「にゃんは遠慮するにゃん」

「んんっと、美味しいの?」


 な、なんてことだ!


 人魚野郎に押し退けられた後はのんびりとホレイスタ湖を泳いでいた白桃色の巨竜の背中に、小さな幼女が乗っていた。


『人助けするよっ』

『エルネアは褒めてくれるかなぁ?』


 よく見ると、巨竜二体だけではなく、ドゥラネルよりももっと小さな竜までいやがる!

 なんなんだ、こいつらは!?


 と思ったが、冷静になってきて思い出した。

 そう言えば、こいつら全員、エルネアの傍にいた奴らばかりじゃねえか……

 魔族野郎、漆黒と白桃色の巨竜、可愛い幼女。小さな竜二体は初めて見るが、何処どことなくあの炎帝やヨルテニトス王国のはくに似している。。

 覚えている。どいつもこいつもが、エルネアの自慢する家族だ!

 だが、なぜこんな場所に?

 いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。


 先んじて、子竜たちがホレイスタ湖に流された村民たちを助け始めていたが、俺様も加わることにする。

 湖に飛び込み、近くのナザリーを救出した。

 人魚野郎は人助けなんてする気がないのか、呑気に周りの様子を伺っていた。

 それ以外の手の者で、村民たちを助けていく。


 だが、漁業を生業なりわいとする村の民というだけはあるようだ。

 湖に流されはしたものの、子供や年寄りも含めて、おぼれている者はひとりもいなかった。


「んんっと、プリシアも泳ぎたいよ?」

「だめにゃん。水が冷たいから、風邪をひくにゃん」

「風邪を引いた状態で帰ったら、怒られてしまいますよー」


 どうも、幼女は白桃色の巨竜の背中の上で、長い毛によって縛られているらしい。落ちないようにか?

 そして、手分けして村民を助けている様子を見て、水遊びでもしていると勘違いしたのかもしれないな。幼女は羨ましそうに湖面を眺めていた。


「ところで、なんでリリィたちがここに来たのかな?」


 どうやら、人魚野郎も巨竜たちの来訪の意図いとは知らないらしい。


「ルイララさんを呼びにー。エルネア君たちがもうすぐ帰ってくるので、ルイララさんも合流しないかな、と思いましてー。気配を探ったらここに居たので、飛んできましたー」


 ん?

 あいつも帰還が遅れているのか?


「いやあ、それは気が効くね」

「魔王陛下の指示です。優しいですよねー。と言ったら怒られそうです」


 漆黒の巨竜と人魚野郎の会話から、こいつらの本当の親玉はエルネアではなく魔王だと知る。


 おいおい……

 あの野郎、魔王の手下と仲良くしていたのか!?

 いや、魔王自身と親しげだったし、それくらい普通なのか。

 待てっ!

 そんなものは普通じゃないっ!!


 エルネアの異常さに改めてあきれていると、俺様のれた服を引っ張る者がいた。


「あのう。ありがとうございます」


 ナザリーだった。

 湖から助け出し、そのまま抱きかかえていたのを忘れていたぜ。


 ナザリーは少しほほを染め、上目遣いで俺を見上げていた。

 濡れた服や髪、しずくのついたままのまつ毛がなまめかしい。


「おおっと、いつまでも悪かったな」


 俺様はナザリーを降ろす。

 しかし、ナザリーは俺様から離れようとしなかった。


「む、村は……」


 そこへ、村長らしきじいさんがこちらへと歩いてきた。

 助け出されたり、高波に飲まれなかった村人たちは、湖畔から遠巻きに巨竜や人魚野郎を眺めていた。

 恐ろしい存在に感じているのだろうが、やっているのが水遊びなので困惑している様子だ。

 村長も、ときおりホレイスタ湖の様子を伺いながら、俺様の前まで来た。



「すまない。蛇女は退治できたようなんだが……」


 退治したのは俺様ではないし、被害があまりにも大きすぎた。

 まさか、高波で集落が壊滅してしまうとは。

 見渡すと、健在な建物はひとつとして残ってはいなかった。


 村長や村人たちは、まだ春だというのにホレイスタ湖で遊ぶ人魚野郎や巨竜たちを遠巻きに見ていた。

 湖面は、蛇女の青色の血で染まっていた。その蛇女は絶命したのか、陸側に流れ着いて動かない。


「この魔獣の蛇の下半身は美味しいですよー。切り取って売れば、お金になりますよー」


 漆黒の巨竜がそう言っていた。

 本当に美味いのか?

 竜族と人族の味覚は同じなのだろうか、と考えてみて。俺様とドゥラネルが美味しいと感じる肉や料理が共通しているので、味覚は似ているのだろう、と結論付ける。


「あの竜がそう言っているんだ。蛇女の肉を売って村の再興に役立てたらどうだ?」

「よ、よろしいのでしょうか?」

「気にするな。俺やあいつらはそれで良いと思っている。むしろ、村を壊してしまって申し訳ない」

「いえいえ、竜騎士様とお仲間様のおかげで助かったのでございます」

「仲間!?」

「はい。皆様のおかげで、私どもは救われました。家は再建すれば良いのです。人命が失われなかったことこそが喜びです」


 どうも、常識外れのあいつらと俺様が仲間だと思っているらしい。

 これは訂正が必要だ。

 あいつらは、エルネアの身内だ!


「そ、それで……。報酬の件なのでございますが」


 そういえば、報酬の部分を聞いていなかったな。

 ナザリーも言っていなかったな。


「こんな山奥の村です。大した金品はございません」


 それどころか、家財一式流されたしな。


 困った表情の村長は、俺様に寄り添うように立つナザリーの背中を押した。


「これは器量も良く、よく働きます。身内が言うのもなんですが、美しい娘です」

「いや、報酬はいらん」


 俺様はぴしり、と村長の言葉を止めて断りを入れた。


「もとより報酬なんて考えてなかった。だから何も必要ない。俺様は一応、勇者の相棒だからな。報酬としてそういったものを受け取るわけにはいかない」

「勇者様のお仲間でしたか!」

「ああ、そうだ。勇者リステアの相棒と言えば、この竜騎士スラットン様だ! それだけを覚えておけ」

「スラットン様……」


 ナザリーが俺様を見上げて熱っぽくつぶやいた。


「それと。俺様にはすでに誓いあった女がいる。あいつを裏切ることはできない。すまないな」


 俺様も男だ。向けられる熱意くらいは読み取れる。

 だがな。

 俺様は、クリーシオひと筋だ。

 リステアやエルネアのように、多くの女を同時に愛することができるほど器用な男じゃない。

 そして今もきっと、クリーシオは俺様の帰りを待っていてくれているだろう。

 あいつの想いを強く感じる。俺様は、あいつの想いに応え、絶対に裏切るようなことはしない。


「あんたはいい女だ。俺なんかじゃなく、もっといい男がすぐに現れるさ」


 好意を断るというものは、どうしても精神を疲弊させる。だが、断られる者の方こそが精神を潰されるのだ。

 だから、しんみりとなってしまってはいけない。

 口角を上げ、復興を頑張れよ、とナザリーの肩を叩いた。


「はい。いずれ、またお会いできますでしょうか?」

「ああ、今度は勇者たちと遊びに来させてもらうぜ」

「では、その時を心よりお待ちしております。それまでには、立派な村を再建しておきますね」

「そりゃあ、楽しみだな」


 ナザリーは気丈に明るく笑い、俺様も元気づけるように微笑んだ。


 蛇女討伐の余波で村が壊れた状態のまま去るのは忍びないが、いつまでも滞在なんてできない。

 俺様は王都へと戻る旅の途中だし、なによりもクリーシオが待っている。


「それじゃあ、一緒に行こうか」

「はあ?」


 振り返ると、いつの間にか人魚姿から貴公子姿へと戻った魔族野郎が立っていた。


「リリィ、お客さんをひとり追加で」

「お安い御用ですよー」

「まてまてっ。俺様はドゥラネルと……」


 見ると、ドゥラネルは既に漆黒の巨竜に鷲掴わしづかみにされてしまっていた。

 おお、ドゥラネルよ。その情けない姿はなんだ。

 ドゥラネルは漆黒の巨竜の手の中で脱力し、なぜか俺様を恨めしそうに睨んでいた。


「さあ、帰ろう」


 魔族野郎は軽やかな足取りで、漆黒の巨竜の背中に飛び乗る。


 本当に俺もこいつらと帰るのか? と疑問を浮かべる暇もなく。


「ぎゃゃゃぁぁぁっっ……」


 俺様も漆黒の巨竜につままれて、一瞬にして空へと舞い上がっていた。


「せ、せめてもう少しまともな扱いをしやがれぇぇぇっっ!」


 俺様の叫びはしかし、聞き入れられることはなかった……






 余談。


「リリィ、どうして一旦竜峰近くまで飛んで南下するんだい?」

「それはですねー。北から帰らないと、後々怒られるからですよー」

「なるほど。訳ありってやつだね」


 魔族野郎と漆黒の巨竜はそんな会話をしていた。

 そしてその疑問の答えは、王都に着いて知るのだった。

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