狂騒曲の始まり

「それじゃあ、行ってきます!」


 ミストラルたちに見送られ、僕たちは空へと上がった。


 アームアード王国へと迫った魔族軍。それを迎撃するために、僕たちは役割を分担して動きだした。

 僕とルイセイネ、双子王女様はリリィの背中に乗り、竜の墓所ぼしょを目指す。


「プリシアも一緒に行くの」

「にゃんもついて行くにゃん」


 出発前。駄々だだねたプリシアちゃんとニーミアが急遽追加されたけど、これは許容範囲内。

 リリィが居れば、プリシアちゃんも安全なはず。


「にゃんも居るにゃん」

「いやあ、僕もいるんだけどな」

「うん。ニーミアも頼りにしているよ。ルイララは……。邪魔しないでね!」

「ひどい扱いだなぁ」


 なんて会話が出発前にあったくらいには、僕たちの動揺は落ち着き始めていた。


 リリィは僕たちを背中に乗せて、全速力で北上する。ニーミアに匹敵するような速度に、眼下の景色が線状に流れていく。


 飛竜の狩場北部に展開し始めているはずの大邪鬼ヤーンの軍勢。既に王都内へと侵入している魔将軍ゴルドバが率いる死霊軍。竜峰内で暴れながら東へと進んでいる魔族たちと、行方を眩ませた獣魔将軍ネリッツ。

 このなかではやはり、王都を既に襲撃し始めている死霊軍が一番気になる。


 だけど、僕はあえて王都には向かわなかった。


 王都には、竜王イドと勇者リステアたちが到着している。きっと彼らなら、王都を守り抜けると信じている。


 それなら。


 僕には、優先すべき問題がもうひとつあった。


 魔王クシャリラ。


 魔族の軍勢と共に、自国領から姿を消したクシャリラ。その消息が、今になっても手がかりひとつない。


 魔王はどこへと消えたのか。

 考えられる可能性で一番高いのは、どこかの軍勢に紛れていること。

 それではいったい、どの軍勢に紛れているのか。


 獣魔将軍ネリッツの軍は、と考えたとき。

 ネリッツ自身が姿を眩ませ、出鱈目に暴れながら東へ進む魔族や魔獣たちのなかには居ないはずだ。各個が統率されていない魔族のなかに魔王のような計り知れない存在が居れば、竜峰各地の竜族がその存在に気づくはずだから。

 でも、竜族からそういった報告は上がってきていない。だとしたら、ネリッツの軍には紛れ込んでいない。


 では、大邪鬼ヤーンの軍勢はどうか。

 これも、ないと言える。以南の戦士たちはヤーンの動きを追えていなかったけど、北部の竜人族は竜峰を横断するヤーンの軍勢を把握していた。そのなかに魔王が居れば、やはりその存在に気づいたはずだ。


 そうなると、残された可能性は、魔将軍ゴルドバの軍に紛れること。

 死霊の軍勢に魔王が居れば目立つ。だけど、死霊軍は竜峰に入って間もなく竜の墓所に迷い込んだ。

 ううん。僕たちは迷い込んだと思ってしまった。だから実は、死霊軍に対する警戒は最も薄かった。以南の者たちも、北部の者たちも。


 ゴルドバが死期の近い竜族を探しているかも、という警戒はあった。だけど、オルタのことや他の魔族軍、北部竜人族の人たちに注意が向いていて、後回しになっていた。

 その死霊軍に魔王が居たら、誰か気づけただろうか。そう思うと、魔王クシャリラはやはり、そこに居る可能性が高いと判断できた。


 さすがの竜人族や竜族でも、魔王相手に立ち回るのは難しい。なにせ、触れるだけで魂が滅んでしまう恐ろしい魔剣を所持しているんだ。


 巨人の魔王は言った。

 魔王クシャリラを確認したら、決して戦わないこと。クシャリラの相手は、同じ魔王である巨人の魔王が相手をしてくれるらしい。

 ありがたいことです。


 だから、僕はアームアードの王都ではなく、竜の墓所を目指すことにしたんだ。

 リリィはともかくとして、魔族のルイララは、どうも僕にくっ付いて行動するみたいだから。僕が竜の墓所に行かなくちゃ、ルイララを魔王クシャリラの居る可能性が高い場所に誘導できない。


 もしも、竜の墓所側に魔王が居なくて王都に現れたとしても、リリィの飛行速度なら間に合うはず。


「というわけでルイララ、魔王が居たらよろしくね」

「えっ?」

「……えっ?」


 ルイララのきょとんとした聞き返しに、僕の方が逆に聞き返しちゃったよ。


「エルネア君。僕は魔王となんて戦わないよ? さすがの僕も、魂霊の座は怖いからね」

「いやいや、戦えとは言っていないよ。もしもクシャリラが居たら、巨人の魔王を喚んでね」

「えっ?」

「……えっ?」


 なんだろう。久々に嫌な予感がします。


 僕の言葉が理解できません、という感じに見返してくるルイララに、ふつふつと不安感が湧き上がってきた。


「ええっと……。ルイララが巨人の魔王を呼び寄せるんだよね?」

「えっ?」


 首を傾げるルイララ。そして、はあっとため息を吐く。


「エルネア君、なにか勘違いをしているよ。僕が魔王陛下を召喚だなんて、できないよ?」

「……」

「陛下を呼び寄せるなんて、おそれ多くてできるわけがないじゃないか」


 言って、あははと笑うルイララとは逆に、僕は顔を引きつらせる。


「召喚は無理だとしても、知らせてくれるよね?」

「えっ?」

「……」

「僕は伝心術なんて使えないよ?」

「……じゃあ、どうやって魔王を呼ぶの?」

「さあ?」


 リリィの背中の上で、全員が固まった。


 どういうことですか?

 クシャリラの存在を確認したら、巨人の魔王に一任して良いんですよね。だけどもしかして、巨人の魔王への連絡手段がない?


 ……ああ、そうか。


 僕は、リリィを見つめる。


「私も伝心術は使えないですからねぇー。魔王様からの一方通行な伝心を捉えることができるだけです」

「えええっ!」


 ここに来て、衝撃の事実です。

 巨人の魔王への連絡手段が存在しません!

 クシャリラを見つけて、それからどうすれば良いんですかぁっ!


 僕の叫びは、曇天が広がる竜峰の空にむなしく響いただけだった。


「そんなことよりですねぇ。ほら、死霊の軍勢が見えてきましたよぉ」


 巨人の魔王を呼び出せないという大問題なんて気にした様子もなく、リリィが呑気に報告してくる。


「エ、エルネア君……」


 不安そうに僕を見るルイセイネ。


「困ったわ。予想外の展開ね」

「困ったわ。絶望的な展開ね」


 双子王女様もお互いの手を取り合って、むむむと唸る。


 というかお二人さん。背中に背負っている物はなんですか!?

 ユフィーリアとニーナは、其々それぞれが一本ずつ、背中に黄金色の大剣を背負っていた。


 それって絶対、竜奉剣りゅうほうけんですよね!

 なんで当たり前のように所有しているんですか!


 なにか変です。

 オルタ戦の前のような、張り詰めた空気がありません。

 なんかこう、戦いの前ではなくて、お祭り前のようなせわしない胸の高鳴りばかりが沸き起こってきて、緊張感が薄い。


 けっして油断しているわけじゃないんだけど、オルタ戦の前とは違う雰囲気が、僕たち、というか世界を包んでいるような気がした。


 それはともかくとして。


 ここまで来たら、後戻りなんてできない。


 魔王クシャリラが居たら、その時はリリィに乗って全力で逃げるだけです。

 魔族の国に飛んでもらって、巨人の魔王を連れて来るのもひとつの手だ。


「みんな、戦闘準備!」


 僕の号令で、ルイセイネが薙刀なぎなたを構え、祝詞のりと奏上そうじょうしだす。

 双子王女様は、背負っていた竜奉剣を抜き構えた。


 ……やっぱり竜奉剣を使用するんですね。


「リリィ、あの遺跡前に僕たちを降ろしてね。そして、周囲の死霊軍の相手をお願い」

「全部は倒しきれませんからねぇ」

「うん、無理はしないでね。僕たちが遺跡内に入っている間だけ持ちこたえてくれれば良いから」


 死霊軍は、古代遺跡と思われる廃墟を目指して押し寄せていた。先頭は既に、遺跡内に侵入しているみたい。


 やはり、眼下の古代遺跡とアームアードの王都近郊にあった遺跡は、なにかしらの術で繋がっているのかもしれない。


 僕たちは魔王捜索ともうひとつ、役割を担っていた。

 それは、遺跡の破壊。

 遺跡が繋がっていて、ここから死霊軍が王都へと転移しているのなら。こちらの遺跡を壊し、道を塞ぐ。そうすれば少なくとも、王都へと流入する死霊軍を止めることができる。


 遺跡を破壊するための最も有効的な手段を所有しているのは、双子王女様。

 そしてそれを補佐するために、僕とルイセイネが居る。


 巨人の魔王との連絡手段を持っていないと判明した今、ルイララはお荷物でしかないよ!


 リリィは雲の上から急降下し、地上の死霊軍へと迫る。

 そして鋭い咆哮ほうこうと共に、闇の息吹いぶきを放つ。


「お互いに闇属性ですからね、少し効き目が悪いですよぉ」


 という割には、闇の息吹の直撃を食らった死霊たちは霧のように霧散していった。


 リリィは闇の息吹でできた空間に、勢いよく着地する。

 地響きと土煙が上がる。

 リリィは更に闇色の雨を降らせ、迫る死霊軍を蹂躙した。


 リリィが周囲の死霊軍を蹴散らしている隙に、僕たちは地上に降りる。


「今のところ、魔王の気配はありませんねぇ」

「そうすると、最悪な場合はもう、魔王は王都へと行ってしまったのかも」

「魔将軍らしき気配もありませんねぇ。雑魚ばっかりです」

「王都が気がかりですね」


 ルイセイネの顔色が悪い。

 王都のことが、とても心配なんだろうね。

 クシャリラもゴルドバも居ない。そうなると、次の可能性はやはり……


 駄目だ!

 今ここで悩んだり不安がったりしていても、なにも解決しない。


「ルイセイネ、不安を取り除くためにも、急いで動こう」

「はい!」


 僕の言葉に、ルイセイネは気合を入れ直す。


 リリィが時間稼ぎをしている間に、僕たちは遺跡内に入って仕掛けを施さなくちゃいけない。


 武器を構え、遺跡に入ろうとしたとき。


「ちょっとだけ待ってくださいねぇー」


 と言って、リリィが僕に顔を近づけてきた。

 なにかな? と思って様子を伺っていると、リリィはなぜか僕の影に鼻を近づけて、くんくんと匂いを嗅ぐような素振りを見せた。


「なにをしたの?」

「もしも今後、逸れちゃったときのために、エルネア君の竜気を嗅いで覚えたんです。これでエルネア君が世界のどこに居ても、私はすぐに駆けつけられますよぉ」

「へえぇ、なにかの竜術なのかな?」


 リリィは黒竜。子供とはいえ、古代種の竜族なんだよね。僕たちには使えないような超上級の竜術か何かの下準備なのかもしれない。


 リリィが僕の影から鼻面を離したことを確認すると、改めて遺跡へと足を向ける。


「あ、待ってほしいな。僕も付いて行くよ」

「急に暴れたりしないでよね?」

「ひどいなぁ、僕はそんなに信用がないかな?」

「欠片も無いわね」

「微塵も無いわね」


 双子王女様の突っ込みに、肩を落とすルイララ。


「もしも邪魔をするようなら、問答無用で一撃を入れるからね!」

「ははは。エルネア君の一撃は痺れるんだよね」


 気楽に笑い、後をついて来るルイララに、僕たちは顔を見合わせてため息を吐いた。


「遺跡のなかには死霊たちが居るはずだから、油断しないようにね。さあ、行くよ!」


 僕を先頭に、遺跡内に突入する。

 そして案の定、遺跡内は死霊たちで埋め尽くされていた。


「ルイセイネ!」


 僕の合図と共に、ルイセイネが法術を放つ。

 入り口に向かって、奥から押し寄せてくる死霊の前に、淡い月の輝きに似た霧が発生する。

 霧に触れた死霊たちは「おおぉぉ」と喉の奥から息を漏らすようにして浄化されていく。


 法術の威力にたじろぐ先頭の死霊たち。だけど奥からは、わらわらと尚も死霊が押し寄せてきて、腐乱人や顔無し騎士や亡霊の不気味な押し問答が眼前で繰り広げられだした。


 僕はそこへ、竜槍を叩き込む。

 入り口付近に押し寄せてきた死霊軍の先頭は、それで消滅していった。


「いまよ」

「いまだわ」


 更に追い討ち。

 ニーナはお胸様の谷間から、小さな満月に似た霊樹の宝玉を取り出す。そして、遺跡の奥へと投げ入れた。


 清浄なる法力の波が、遺跡の壁や天井、床を越えて広がっていく。

 そして、遺跡の奥から死霊軍の断末魔が響いてきた。


「さあ、行こう!」


 ミストラルの力で強化されたルイセイネの法力を溜め込んだ霊樹の宝玉を、事前に準備しておいて良かったよ。


 遺跡内の死霊を一掃した僕たちは、奥へと向かい駆ける。


「気をつけてくださいね。全部を阻止はできませんからねぇー」


 背後で、リリィがもう一度だけ忠告を飛ばす。


 さすがのリリィでも、一万の死霊軍から遺跡の入り口を守りきるのは難しい。きっと隙を伺い、遺跡に入り込む死霊は居るだろうね。

 そして遺跡の奥では、ニーナの一撃に耐えた死霊も残っていた。


 遺跡は地下に向かい何層にもなっていて、霊樹の宝玉の効果が上手く届かなかったみたいだ。

 それでも、悶絶していたりと死霊たちはかなり弱っていた。


 僕を先頭にして、出会う死霊の残党を排除しながら進んでいく。

 目的の場所がどこかは、事前にベリーグから伝えられていた。だけど、初めて入る場所。何度か道に迷いながら、死霊たちを排除しつつ進む。


 そしてとうとう、僕たちは部屋全体が淡く発光する最奥の部屋へとたどり着いた。


「時間を稼ぐわ」

「時間があまりないわ」

「エルネア君、お願いします」


 奥に進めば進むほど、無事な死霊が多くなっていった。

 最奥の部屋へとたどり着いたのは良いけど、遺跡内を彷徨いていた死霊たちが集まりだしている。


 ルイセイネと双子王女様は武器を構え、部屋へと迫る死霊の相手をする。

 プリシアちゃんは、ニーミアとアレスちゃんに守られて、部屋の片隅へ。

 僕はその間に、部屋に仕掛けをしなきゃいけない。


 仕掛けは、実に簡単だ。

 霊樹の宝玉に時限性を持たせて、設置するだけ。

 双子王女様が投げてから爆発するまでに時間差があるように、操作をすれば、ある程度任意の時間で爆発させることができる。


 僕は、三人が時間を稼いでくれている間に宝玉に竜気を込めて、部屋に置く。そしてみんなで逃げて、爆発させる。という単純な作戦だった。


 淡く発光する部屋の中心へ行き、懐から霊樹の宝玉を取り出す。

 ユフィーリアは、もう残り数個しかないと言っていたっけ。


 宝玉に竜気を送ろうと、意識を集中させる。

 すると、足もとから竜脈の流れを感じ取り、目を見開く。


 偶然なのかな?


 遺跡の下を流れる竜脈は、荒々しいような大河のような、緩さを持つような複雑な気配で。それはまさしく、竜脈の本流だった。


 そして、ふと竜脈の本流に意識を向けると。


「……駄目だ。ここは破壊できないよ!」


 僕の言葉に、傍で興味津々に様子を伺っていたルイララが驚く。


「ここを破壊すると、竜脈の本流が溢れかえる危険がありそう。そしたら、この辺一帯に何が起きるかわからないよ」

「そんな……!」


 部屋へ侵入しようとした亡霊を薙刀で倒したルイセイネが、息を呑む。


「それと……。ここと、どこかが繋がっているような気がする。竜脈の本流に紛れて、糸みたいなもので繋がっている感じがするんだ」


 どこか、とは恐らく、状況からみてアームアードの王都近郊にある遺跡だろうね。

 一瞬だけ意識を竜脈に向けたとき。繋がった糸のようなものに引っ張られる感覚がした。

 もしかすると、そのまま辿れば向こうの遺跡に飛ばされていたような、そんな感覚。


 そのとき、部屋の発光が強くなり始めた。


「なにかしら」

「危険だわ」


 淡く発光していた部屋は徐々に光量を上げていく。

 僕たちは念のために、一度部屋から退避する。

 そして振り返り、部屋を見た。


「これは……!」


 それはまるで、スレイグスタ老が転移の竜術を使うときのような眩い光だった。


「やっぱり、ここから王都の遺跡に飛べるのでしょうか?」


 ルイセイネの言葉に、だけど強く頷くことができない。

 見たことも聞いたこともない遺跡の現象。

 それじゃあ、実験で飛び込んでみよう。なんて、なにが起きるかわからないのに無責任に言えるわけがないよね。


 押し寄せる死霊を倒しながら、どうしたものかと思案する。

 壊すと危険。でも、放置しては戻れない。


「それなら、僕が飛び込んでみようか?」


 そこで思わぬ提案をしたのは、ルイララだった。


「僕だったら、そう簡単には死なないからね。飛ばされた先に危険があっても耐え切れる自信はあるよ」

「でも、なにが起きるかわからないし、危険だよ?」


 ルイララは魔族。巨人の魔王の指示で僕たちに同行している。仲間かと聞かれると首を左右に振るだろうけど、だからといって、そんなルイララに進んで危険な役目を負わせるわけにもいかない。


「こうしようよ。僕が先に飛び込む。危険だったら戻ってくるよ」

「危険だったら、戻ってこられないんじゃないの?」

「ははは。それは魔族子爵位としての僕を信用してほしいな。危険があれば、何がなんでも戻ってきてみせるよ。君の全力にも耐えた僕を信じてほしいな」


 悔しいけど、そうなんだよね。

 ルイララは、僕の一撃を受けても平気なほどに体力があるんだ。


「それで。僕が戻ってこなかったら、君たちも飛び込んでくると良いよ」

「いやいや、とりあえず戻って来ようよ」

「違うね。安全なら、いちいち確認作業をする前に君たちも来た方が良い。こっちに魔王と魔将軍が居なかったとなると、向こうに居る可能性が高いよ。外に出てリリィに移動を頼むよりも、ここから転移しちゃった方が断然速いからね。少しの時間差で取り返しのつかないことになっていたら、どうするのさ?」

「ぐぬぬ」


 魔族に説得されるなんて、悔しい。

 だけどルイララの言う通りなのかも。


「それじゃあ、行ってくるよ。少し待ってみて、僕が戻ってこなかったら安全。そのときは君たちも来ると良いよ」


 言ってルイララは、こちらの返事も待たずに光り輝く部屋へと飛び込んだ。

 部屋に入った瞬間、ルイララの気配が消えた。

 たしかに、どこかへと転移したんだ。


 僕たちは、尚も押し寄せてくる死霊を蹴散らしていく。

 部屋が発光しだしてから、死霊たちの集まりが強くなってきた。

 死霊たちは、知っていたんだ。部屋が強く発光するときが、転移の機会なのだと。


 死霊を倒しながら、部屋の様子を伺う。

 だけど、ルイララは戻ってこない。


「エルネア君!」


 ルイセイネの注意で、部屋の異変に気付く。

 徐々に、部屋の発光が弱まり始めていた。


 だけど、まだルイララは戻ってこない。


 安全ということなのかな?


 このまま待つべきか、光に飛び込むべきか。それか、ルイララの言葉を無視して一旦撤退するのか。


 僕の迷いに答えをくれたのは、アレスちゃんだった。


「だいじょうぶ。りゅうみゃくにのっていどうしよう?」


 プリシアちゃんの手を取って様子を伺っていたアレスちゃんが、力強く頷く。


「よし!」


 周囲の死霊を一掃すると、僕はみんなを呼び寄せた。

 そして全員で手を繋ぎ、減光する部屋へと飛び込む!


 視界いっぱいに広がる光で、なにも見えなくなる。

 そして、苔の広場にたどり着いたときのような、空気や雰囲気の変化を感じた直後。


 僕たちは、違う風景の遺跡に足をつけていた。


「ルイララ、なにやってんのさー!」


 そして。


 なぜか、前方で刃を交えるスラットンとルイララ!


 僕は迷わず、ルイララの背中に思いっきり蹴りを入れた。

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