飛竜狩りはどうなった
ルイセイネと手を繋いで苔の広場に帰り着くと、ミストラルに睨まれた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「ただいま戻りました」
それでも挨拶を返してくれたのは、自分が色々と
あるよね?
「ルイセイネ、随分とご機嫌ね」
「そうでしょうか。気のせいですよ」
ふふふ、と笑いあうルイセイネとミストラル。
いやいや、お互いに目が笑ってませんから!
「エルネア様っ、私、頑張りましたわ!」
乙女二人の緊迫した空気を引き裂いたのは、輝く笑顔で走り寄ってきたライラだった。
そしてそのまま、僕に思いっきり抱きつく。
張りのあるお胸様の感触が素晴らしい。
「んなっ!?」
「ライラ、なにをしてるのっ」
「はわわっ、誤解ですわ。つい、嬉しくて」
ミストラルに怒られるライラ。いつも通り、大胆な行動の後に顔を真っ赤にして僕を突き飛ばしたライラは、もじもじと恥ずかしそうにしながら言い訳をする。
「なにが嬉しかったの?」
体勢を整えながら、聞き返す。
「私の力を、ぜひ見てくださいませ」
言ってライラは、ルイセイネと握ったままだった僕の手を振り解き、強引に引っ張って行く。
「ライラさん、何気にわたくしとエルネア君の繋がりを切らないでくださいっ」
「ライラ、貴女の力は……」
ミストラルとルイセイネも、僕の後を追ってついて来る。
そして、僕たちの向かう先には、可愛くお座りをしたニーミアが。長い尻尾が、ふわりふわりと右に左に揺れている。
ライラはニーミアの正面まで来ると、自分も苔の上に座る。そして、真剣な表情でニーミアを見つめ始めた。
まさか、もう力を制御できるようになったのかな!?
僕は
そして。
「お手っ!」
「にゃ」
「おかわりっ!!」
「んにゃ」
ライラの気迫のこもった言葉と同時に、ニーミアが右手と左手を出す。
「……ライラ」
君は……
褒めてください! と言わんばかりにこちらへ振り返ったライラに、悲しい現実を教えてあげる。
僕も座り。
「ニーミア、お手」
「にゃん」
「おかわり」
「にゃあ」
僕の言葉に合わせ、先ほどと同じように右手と左手を出すニーミア。
「ライラ、だからそれは違うと言ったでしょう」
ミストラルが呆れて苦笑し、ルイセイネもどう言葉をかければ良いのかわからない様子で、視線を逸らしていた。
「エ、エルネア様……」
うるうると瞳に大粒の涙を溜め、僕を見るライラ。
「うん。これはきっと、ライラが悪いわけじゃないからね」
僕はライラの頭を撫でてあげながら、ニーミアに説明を求めた。
結局、事の元凶はプリシアちゃんで、ニーミアの悪戯が上乗せされた結果でした。
昨日、村に帰ったプリシアちゃんは、村人のある行動を目撃したらしい。その村人は、飼っていた愛犬を
犬の愛らしい動きに
プリシアちゃんの指示に従わないニーミアを見ていたライラが、これはもしや練習になるのでは、と
早速、実践。そしてそこに、ニーミアの悪ふざけが重なってしまった。
真剣な表情でお手、おかわり、と命令を出すライラに、あっさりと従うニーミア。
プリシアちゃんの指示には従わなかったのに、ライラの命令には従った。そのせいで、ライラが勘違いしてしまったらしい。
ライラの純粋な心と、ニーミアの気まぐれで起きた悲劇だった。
「ニーミア、謝りなさい」
「ごめんなさいにゃん」
僕が怒ると、ニーミアもしゅん、と項垂れて、ライラに謝る。
ほろほろと零れ落ち出したライラの涙を、ニーミアが小さな手で拭いてあげる。
「いいのですわ。小さな子供は、悪戯が大好きですもの。私は、ニーミアちゃんを怒っていませんわ」
事の真相がわかり、ニーミアの謝罪も受けたことで、ライラには笑顔が戻る。最後の涙の粒をニーミアが可愛い舌で舐めて拭いてあげた。
ライラは優しくニーミアを撫でて、抱きしめる。
「悪戯も過ぎれば、相手を傷つける場合もあるのだからね。気をつけなさい」
なぜかミストラルは、ニーミアでもプリシアちゃんの方でもなく、スレイグスタ老の方をじっと見ながら言う。
「我の場合は、愛があるから問題ない」
ふいっ、と視線を逸らし、子供のような言い訳じみた言葉を呟くスレイグスタ老に、みんなで顔を見合い笑いあう。
よくよく考えてみれば、今回のニーミアの悪戯に関しては、スレイグスタ老にも悪い部分があったんじゃないのかな。だって、ライラが勘違いしていた時にスレイグスタ老がきちんと指摘してあげていれば、間違いは起きなかったはずなんだよね。
ということで、スレイグスタ老も同罪だね。
「手厳しいことだ」
僕の思考を読んだスレイグスタ老が、苦笑する。
「さあ、ライラの勘違いも解決したことだし、そろそろ帰らないと。貴女たちは日暮れまでに間に合わなくなるわ」
「あ、そうやってわたくしたちからエルネア様を奪うのですわね」
「ミストさん、ずるいですわっ」
「ちょっと貴女たち、そういう意味じゃないわよ」
押し問答を始めた乙女たち。相変わらずの微笑ましい風景に、僕の顔は綻んでばかり。
だけど、ひとつだけ気になったことがあった。いつもは元気なプリシアちゃんが、今日はやけにおとなしい。
いつの間にか僕のそばに来て、服の裾を握って立っているんだけど、場をかき乱すことなく、おとなしくことの成り行きを見守っている。
「プリシアちゃん、どうかした?」
僕はプリシアちゃんと視線の高さを合わせて、顔を覗き込む。
「んんっと」
プリシアちゃんは困った表情になり、僕を見返す。
「お兄ちゃんは、プリシアのことが嫌い?」
「えええっ、突然どうしたのかな。僕はプリシアちゃんが大好きだよ」
「本当に? 嫌いにならない?」
「ならないよ。ずっとプリシアちゃんのことが大好きだよ」
僕とプリシアちゃんのやりとりを見て、ルイセイネとライラが笑っている。
「どういうこと?」
二人を見上げて、聞いてみる。
「じつはですね」
「プリシアちゃんは昨夜、お母様に酷く怒られたのですわ」
昨日、久々に村に帰ったプリシアちゃん。そこでお母さんに、あまりにわがままが過ぎて迷惑をかけていると僕に嫌われるからね、と脅されたらしい。
それでおとなしくなるプリシアちゃんは、やっぱり素直で可愛いね。
僕がプリシアちゃんを抱きしめると、強く抱きしめ返された。
よほど不安だったんだろうね。
僕はプリシアちゃんを安心させるように、いっぱい撫でてあげて、抱きしめた。
「エルネア」
「エルネア君」
「エルネア様」
そして乙女たちに、白い目で見られる。
「変態にゃん」
「ち、違うよっ」
ニーミアめ、君は反省しているのかい。
ニーミアの暴言に慌てて弁明する僕。だけど、胸元にへばりついて離れようとしないプリシアちゃんを仕方なく抱きかかえた状態では説得力はなかったようで、村に帰り着くまで、ミストラルは僕に冷たい視線を投げ続けた。
そしてこの日以降、夏にかけてずっと、修行に明け暮れることになる。
僕は竜の森で魔獣たちと追い追われる日々。ライラは苔の広場で、能力の制御訓練。ミストラルとルイセイネはプリシアちゃんの相手をしつつ、手合わせを重ねて腕を磨く。
少しずつではあるけど、僕は不意な出来事に耐性をつけ始めたし、ライラの能力も彼女の竜気の練成熟練度とともに発動率が上がり始めた。
ライラの能力は、彼女の感情に強く左右されるようで、普段の穏やかな感情の時には、ほとんど成功しない。だけど逆に、鬼気迫る場面や怒っている時などは、高い確率で強い力を発揮した。
苔の広場での基本的な能力把握が済むと、ライラはニーミアに竜峰へと送ってもらい、竜族を相手に練習する。もっぱら鶏竜が練習相手になってくれるんだけど、上達速度は速いみたいだ。
ちなみに、なぜニーミアやスレイグスタ老で試さないかというと。
「怖いにゃん」
「我は耐性がある。練習相手にはならぬだろう」
ということでした。
ニーミアは子供だから、怖がるのは仕方ないよね。スレイグスタ老も、流石は竜の森の守護竜だ。どんなにライラが力をつけても、耐性によって完全に跳ね返すらしい。恐れ入りました。
修行以外では、竜峰のことも気になった。だけど、今の僕たちが出しゃばっても、何も役に立たない。僕とは逆に、平地の勇者様御一行の活動は順調なようで、今はヨルテニトス王国方面で活躍を見せているのだとか。
そうそう。戦士の試練での珍事件がひとつ、耳に入ってきた。
馬鹿正直に竜の巣に卵を取りに入った人がいるらしくて、巣の近くの村が一時、竜族に占拠されるという事件が起きた。運良く温厚な種族であり、竜峰同盟の話が広がっていた後だった為に、そこまで大事にはならなかったらしいけど。
しかし、村に危険を持ち込んだ戦士候補者は散々に怒られて、人族の国で冒険者になって一旗あげるまでは竜峰に戻って来てはいけない、という厳しい罰が下された。
彼は今、アームアード王国で必死に頑張っていることだろう。
そして、夏真っ盛りのある日。
「おい。もうすぐ
いつものように、日暮れ前に村へ帰ってきた僕に、ザンが声をかけてきた。
そういえばそうでした。僕か春先に竜峰を旅した時、不慮の事故で吊橋が崩壊したんだよね。若干の罪の意識を感じていた僕は、作業を手伝うことを約束する。
ちょっと修行からは離れてしまうかもしれないけど、仕方がないよね。自分が強くなること優先で、他のことは知りません、なんて薄情な真似は出来ないからね。
ミストラルも何か手伝えれば、と協力を申し出てくれる。
よし、明日はみんなと相談してみよう。と話しながら、いつものようにミストラルの実家に向かう。
もう当たり前のようにミストラルの実家で寝泊まりしているけど、毎夜の胸の高鳴りは慣れそうもない。
すぐ横で静かな寝息を立てるミストラルは、僕には刺激が強すぎます。
甘い匂いも触れ合う肌の温もりも、全てが少し前までは想像もできなかったことなんだ。
いきなり慣れるなんて無理むり。
寝返りを打ち、ミストラルの方を振り向くと、彼女は仰向けになって寝ている。僕は起き上がり、そっとミストラルの唇に触れると、また横になって眠りについた。
暗闇の中、ミストラルが微かに笑みを零したことを、僕は知らない。
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