魔族の脅威
樹木が根こそぎ吹き飛び、大地が
双子王女様ほどの威力ではなかったけど。僕は何本もの竜槍を飛ばした。
竜力が一気に消費されていく。
だけど、成果はあった。魔族の集団は、いまの竜槍乱舞もどきで壊滅した。
ライラと男性は魔族たちのずっと後ろの方で結界を張っていたので、気配を通して無事なことが確認できていた。
そして僕は、残った魔族を斬り伏せていく。
突然の事で動揺する魔族たちに、身体能力を強化して肉迫し、白剣で真っ二つ。
霊樹の木刀を使い、目眩ましの結界を逃げ惑う竜人族の人たちの周りに張る。
そこに、竜術の矢の雨が降り注ぐ。
ライラと男性が、息を切らせながら僕のもとへ駆けてきた。
僕たち三人はお互いに背中を預け、魔族の残党を倒していく。
いったい、どれだけの勢力なのさ!
主力となっていた魔族の集団は蹴散らしたけど、竜槍乱舞の範囲外だった魔族はまだまだ存在していた。
肉厚な曲刀を振り回す魔族が迫る。
僕は霊樹の木刀で曲刀を受け、流れる動きで右手の白剣を一閃させる。そして、斬り伏せる。
決して魔族が弱いわけじゃない。白剣の斬れ味が良すぎるんだ。
現に、ライラの両手棍の攻撃では、魔族は思うように倒せていない。男性も、手にした剣ではなく、竜術で魔族を倒していた。
魔族の防御魔法も、硬い皮膚も、大した抵抗感もなく斬り裂く白剣の威力様様だよ。
僕たちの周りに増える、魔族の
霊樹の結界内の竜人族は、集まって塊っている気配を感じる。
外からだと結界の内側は見えないけど、中からは普通に外が見えるんだ。
逃げ出した村人だろう女性や子供たちは、恐怖と摩訶不思議な状況に混乱しているだろうね。後で説明しなきゃ。
そう周りに気を遣えるくらいには、僕には余裕があった。
突進してくる大鬼を、障壁を張ってやり過ごす。
体勢が崩れたところに、ライラの両手棍の一撃が飛んだ。
大鬼は咄嗟に腕で防いだけど、鈍い音と共に太い腕が折れる。
苦痛に叫ぶ大鬼の口腔に、男性の剣が突き刺さった。
脳天を貫通し、大鬼は絶命する。
「ありがとうございます」
僕に加勢してくれたけど、他は大丈夫なのかな、と見渡すと、すでに生きている魔族はいなくなっていた。
村の方の騒ぎも最初より収まってきている気がする。村に残った人たちが勝利していることを願うけど。
戦況がいち段落した、とライラが深く息を零す。でも僕は、そのライラに注意を促した。
「油断しちゃ駄目だよ」
周りの魔族は倒し終えたけど、周辺の状況は不明なままなんだ。
どれくらいの魔族が攻め込んできたのかわからない以上、敵の応援が来る可能性もある。
「へええ、人族なのに凄いね」
すると案の定、林の奥から得体の知れない者が現れた。
見た目は、身なりの良い少年。
竜人族ではない、とは思った。でも確証があるわけではない。人族の僕は、見ただけでは相手の種族はわからないから。
確認するように竜人族の男性を横目で見たら、彼は緊張した面持ちで、現れた少年を凝視していた。
「魔族だ」
ごくり、と唾を飲み込む男性。
「初めまして。
言って少年、ルイララは上品に会釈をした。
僕はぞわり、と全身に悪寒が走るのを感じた。
ライラが不安そうに僕の服の裾を掴む。
「子爵位。貴族か」
男性が震えていた。
僕は、魔族社会の階級には詳しくないけど、目の前の少年が魔族の中でも只者じゃないことくらいはわかる。
整った顔立ちに、貴族らしい高級な服装。礼儀正しい仕草が、僕の思っていた魔族像と食い違い過ぎていて、違和感しか感じない。
「お手並みを拝見させていただきました。人族なのに素晴らしい。僕の手勢が全滅だよ」
乾いた拍手を送る魔族のルイララを、僕は睨む。この魔族が村を襲撃した首謀者なんだね。
「やあ。良い気迫だね。どうだい、僕の下で働かないかな。奴隷としてではなくて、兵士として雇ってあげるよ」
僕の迫力なんて気にした様子もなく、にこりと笑うルイララ。
余裕な態度が、僕たちの焦燥感を誘う。
「お断りだよ。魔族の手下になんてなるもんか」
僕はミストラルたちと幸せな家庭を築くんだ。極悪な魔族の傘下になんて入らない。
「そうか。残念だね」
期待なんてしていなかったのか。もともと興味なんてなかったのか。ルイララは僕の拒絶に、あっさりと諦めを見せる。
「なら仕方ない。手勢を殺されたし、僕にも仕事があるからね」
言ったルイララの手元に、突然細身の直剣が姿を現す。
「召喚魔法だ」
竜人族の男性は、既にルイララに気圧されていた。
戦士ではないとはいえ、竜人族の男性が格下の種族であるはずの魔族に怯える。異様な事態に、僕はルイララという魔族の得体の知れなさを感じ取る。
僕は、震える男性と、竜力の消耗が激しいライラを下がらせた。
ルイララが優雅に細身の直剣を構えた。
僕も油断なく霊樹の木刀と白剣を構える。
「まあ、なんと言うか。邪魔だから死んでもらうよ」
ルイララは地を蹴る。
ルイララの動きは優雅だけど、速くもなく威力も無さそうに見える。
でも、僕は油断なく霊樹の木刀で受けた。
力一杯、ルイララの直剣を弾こうとした。
しかし、僕はルイララの直剣を弾けない。むしろ力負けして、僕の方が弾かれた。
左方向に体勢を崩す。
ルイララは空かさず直剣で突いてきた。
僕は流れる身体の勢いを利用し、白剣を振るう。
今度は直剣を弾き返せた。
でも、と思う。白剣の斬れ味なら、本来は直剣を真っ二つにしていてもおかしくはなかったんだよね。
ルイララの見た目と優雅な動きに騙されちゃ駄目だ。この魔族も、魔力で僕たちのように全身を強化している!
「放出系の術なんて、無粋だとは思わないかい? 君もなかなかに剣術が使えるようだ。僕も得意なんだよね」
言ってルイララは、激しい連続突きを繰り出してきた。
僕は後退しながらやり過ごす。
そして、連戟を返す。
ルイララを、竜剣舞に誘い込む。
相手の
ルイララが後退すると、合わせて前進する。
だけど、僕の剣戟は全て阻まれる。
ルイララは無駄のない動きで流れる僕の剣筋を読み、防ぎきって反撃してきた。
受けたはずの直剣が大きくしなり、僕の肩口を斬りつける。
ルイララは続けざまに直剣を鞭のようにしならせて斬りつけてくる。
「この武器、面白いと思わないかい?」
折れることなく大きくしなる直剣が、僕の全身を襲う。
横腹、腕を斬られ、太腿に浅く刺さる。
連続した痛みに、僕の動きが鈍った。すると瞬く間に攻勢へ転じるルイララ。
今度は僕が防戦一方になる。
激しく剣をぶつけ合い、互いに相手の隙を伺う。
十合二十合と打ち合う中で何度となく反撃にでたけど、完璧に防がれてしまう。
逆に、僕は直剣のしなりを読み切れず、全身に斬り傷を作っていった。
ルイララの上段斬りを、白剣で受ける。しなり首筋に迫る直剣を、体勢を崩しながら回避した。
ルイララが更に追い討ちをかけようと、一歩前に出て左から薙いできた。
体勢を崩し、沈み込む僕。
勝利を確信したルイララの表情が緩む。
後方でライラが叫ぶ。
しかし。
僕は狙っていた。
低く落ちた体勢でルイララの渾身の一撃を白剣で受け。
強く地面を蹴り、跳ね上げた上体の勢いを乗せて、霊樹の木刀を下から上に斬り上げる。
深く踏み込んでいたルイララの上半身を、霊樹の木刀が斬り裂く。
僕は間髪置かずルイララの背後に空間跳躍し、白剣を胸へと突き立てた。
「ぐうっ!」
勝利を確信していたはずのルイララが、苦痛に顔を歪ませる。
僕は、竜気を有りったけ白剣に流し込んだ。
「ぐああぁぁぁっ!!」
白剣を通して流し込まれる殺意の奔流に、ルイララは
「す、素晴らしい!」
しかしルイララは絶命せず、自分の胸から突き出た白剣の刀身を掴む。
僕は両断しようと、全力で白剣に竜気を送る。
ルイララは激痛に顔を歪ませて痙攣し続けるけど白剣を離さない。
僕は、ルイララの首を刈り取る勢いで霊樹の木刀を振るう。だけど、首に叩き込まれた霊樹の木刀は、ルイララの首に深くめり込んだだけで、切り落とすことはできなかった。
ルイララは激しい悲鳴をあげる。その瞬間に、白剣を握るルイララの力が弱まった。僕は白剣を引き抜き、追撃しようとして。
動きを止めた。
「くくく。素晴らしいよ」
胸部から黒い血を流し、首がへし折れた状態で痙攣しながら立つルイララに、僕は戦慄し動けなかった。
「凄いよ、君」
ルイララは、僕が愕然と見つめる前で、両手で自分の頭を元の位置に戻す。すると頭は何事もなかったかのように固定された。
胸から流れ落ちる黒い血は、気にした様子もない。
ルイララは恍惚とした表情で僕を見た。
「君には感謝しよう!」
細身の直剣を捨て、最初の時のように優雅に拍手する。
「素直に剣術勝負をしてくれて、有難う。竜術を放っている姿を見たからね。剣で応戦してくれるかは半信半疑だったんだ」
ルイララは胸から流れ落ちる血をすくい、口にする。
「まあ、素直に応じていなかったら、この場の者は皆殺しにしていたんだけどね」
言ってルイララは、霊樹の結界で隠れているはずの、竜人族の村人の方に視線を向ける。
「今日は数十年ぶりに楽しい思いをさせてもらったよ。それで配下の者を殺ったことは見逃してあげる」
見た目は僕くらいの少年だけど、ルイララは人族よりも遥かに長く生きてきた魔族に違いない。
「しかしまさか、木刀に切り裂かれるとは思わなかった。これは僕の油断だね」
ルイララの上半身には、腹部から肩口にかけて縦に奔った剣戟の跡もある。
霊樹の木刀は防御だけしか出来ないわけじゃない。竜気を込めれば、白剣並みの斬れ味も出せるんだ。
僕は隠し技でルイララに斬撃を放ち、必殺の
しかし、霊樹の木刀で斬られた傷は既に塞がり、胸元の傷も今、綺麗に無くなって出血が止まった。
「僕が剣術において遅れをとるとは思わなかった。これは素直に賞賛するよ。そしてその褒美に、今回は見逃してあげる」
ルイララの言葉は、虚勢でも負け惜しみでもない。
今からでもそれくらいやってみせる、という気配を漂わせ、居合わせた全員が恐怖していた。
僕も、ルイララの気配の変化に気づいて追撃できなかった。それどころか、気配の変化だけで、ルイララは僕の動きを止めさせたんだ。
「それとも何かな。やたらと周りをうろついている精霊と共に、もう一試合してみる?」
うっ、と僕は息を呑む。
アレスちゃんの存在に気づいている。
アレスちゃんは奥の手だった。融合するにせよ不意を付いてもらうにせよ、アレスちゃんの存在は隠し技として最後まで取って置くつもりだったんだけど。
完全に見透かされていた。
「どうするのかな。本意じゃないけど、君が望むなら最後まで付き合うよ?」
挑発するように、にやつくルイララ。
存在が露見したアレスちゃんが、僕の側に姿を現す。
睨みを利かすアレスちゃんを、ルイララは目を細め興味深そうに見た。
「その精霊は興味深いね」
ルイララの気配がぞわりと膨れ上がる。
その時、僕たちの上を、高速で何かの影が通り過ぎた。
そして、上空から舞い降りる七人の男女。
「おおう、竜峰で何してくれてんだ!!」
「こいつは見たことがある。子爵のルイララだな」
「これはこれは。竜王竜姫、お揃いですね」
上空から現れた男性六人が武器を構え、ルイララを警戒する。
「エルネア、無事だった?」
そして唯一の女性、ミストラルが僕に駆け寄った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます