喜びの舞
早速、使ってみたいです。
純白の竜殺しの剣を手に入れた僕は、どれくらいの威力があるのか、試したくて仕方がないのです。
「エルネア」
ミストラルが苦笑している。
「その剣は、わたしたちにとって危険なものであるということを認識してちょうだい」
「あ」
そうでした。
竜殺しの剣なんだから、竜族のスレイグスタ老とニーミア、そして竜人族のミストラルとジルドさんにとっては、とても危険なものなんだよね。
「ごめんなさい」
僕はみんなに謝る。
みんなの前で無邪気に喜ぶなんて、僕は気配りが出来てなかったね。
「気にするでない。剣を造らせたのは我である。危険を承知で汝に渡したのだ。それは我らが注意すれば良きことなり」
「そうよ。さっきはああ言ったけど、気にすることはないわ。それに、その剣をわたしたちが怖がってばかりいたら、貴方の相手をできないでしょう」
「そうなんだけど、でもやっぱり危険じゃない?」
竜殺し属性の武器は、本当に竜族や竜人族には危険なんだよね。
どんなに硬い鱗も、全てを切り刻む鋭い爪も竜殺し属性の武器の前では紙同然になる、と聞いたことがあるくらいに絶対的な威力なんだよね。
万が一、間違えてみんなを負傷させるようなことになったら、僕は立ち直れないよ。
「心配し過ぎな気がするのう」
ジルドさんが優しく微笑む。
「儂は老いたとはいえ元竜王。ミストラルは竜姫。スレイグスタ様とニーミアに至っては、古代種の竜族じゃ。竜殺し属性への対処くらい心得ておるよ」
「にゃんは怖いにゃん」
ジルドさんは長い髭を撫でながら心配ないと言ってくれたけど、ニーミアはふるふると首を振って怖がった。
「ニーミアはプリシアが守ってあげるね?」
「にゃあ」
ニーミアを抱き寄せたプリシアちゃんが、僕に背を向けてニーミアを庇った。
「大丈夫だよ、僕は絶対にみんなを傷つけないからね」
心配ばかりしている場合じゃないんだね。
ジルドさんの言う通り、みんなはこの剣の怖さを知りつつも僕に授けてくれたんだよ。
それは自身の力をきちんと把握し、僕を信頼してくれている証でもあると思う。
だから、僕はこの竜殺しの剣を一日でも早く使い慣れるように努力しなきゃいけないんだね。
そしていずれは、竜殺しの剣を持っていても他の竜人族や竜族からも信頼され、安心される存在にならなきゃいけないのかもしれない。
「武器が恐ろしいのではない。扱う者の心が恐ろしいのだ。汝は純真であれ」
「はい。この剣を罪で汚さないようにします。誰かを傷つけるためじゃなくて、みんなを守るために僕はこの剣を振るいます」
「良い心構えだ。君なら儂の後を継ぎ、立派な竜王になれるだろう」
「がんばれがんばれ」
アレスちゃんが僕に寄り添う。
「もちろん霊樹も大切にするからね」
僕がアレスちゃんの頭を撫でてあげると、霊樹の木刀とアレスちゃんから喜びの気配が伝わってきた。
「あ、ずるい。プリシアも撫でて」
慌てて駆け寄ってきたプリシアちゃんと、そしてニーミアも撫でてあげる。
「やれやれ。相変わらずお子様たちに大人気ね」
ミストラルが呆れたようにため息を吐く。
「ミストラルも遠慮することはないよ。撫でてあげようか?」
「は?」
冗談のつもりで言ったのに、返ってきたのは冷たい視線ですね。
しくしく。
「あらあらまあまあ、ミストさんは要らないんですね。それでは、わたくしはエルネア君に撫でてもらいましょう」
と言ってルイセイネがやって来たので、頭を撫でてあげた。
「ぐぬぬ」
そうしたらミストラルは悔しそうな顔になったんだけど、
「それで、性能は確かめないのですか」
ひとしきり笑いあった後、ルイセイネが質問してきた。
「そうだね。試してみたいね」
僕はずっしりと重い竜殺しの剣を握り締める。
竜気無しでどれくらい振れるのか。竜気有りの時の威力はどれくらいなのか。そして、どれくらいまで竜気を送り込めるのか。
いろいろと試してみたいね。
「それなら、ルイセイネが試してみたら?」
「わたくしがですか?」
「わたしとジルド様はある程度の威力は把握できているもの。でも、貴女はその剣の威力を全く知らないでしょう」
ミストラルの言葉に、ルイセイネはしばし考え。
「そうですね。威力を知るためには手合わせをしてみるのが一番かもしれません」
「それじゃあ、よろしくお願いします。最初は竜気なしでやってみるね」
ルイセイネと頷きあって、僕たちはみんなから少し離れたところで相対した。
僕は竜殺しの剣を抜き放ち、鞘は腰にさす。
お、重い。
竜気で身体能力を強化しない場合だと、どうやら片手では扱えないくらいの重量だよ。
僕は両手で竜殺しの剣を持つ。
もともと両手持ちも想定していたのか、柄は両手で持っても余裕なくらいの長さがある。
「それでは、行きます」
ルイセイネは薙刀を下段に構え、間合いを詰めてきた。
これはあくまでも竜殺しの剣の性能を見るための試合。だから、回避したり小手先技を駆使したりするわけじゃなくて、純粋に刃を合わせるんだね。
斬り上げてきた薙刀に合わせて、僕は竜殺しの剣を振った。
「っ!?」
そして、
ルイセイネの薙刀の刃は、半ばから切断されてしまっていた。
「いいいいいいややややややややゃゃゃっっ!!」
ルイセイネの悲鳴が、苔の広場に
「ああああっ」
僕も悲鳴をあげた。
何だ、この威力!? この斬れ味!
竜殺しの剣とルイセイネの薙刀の刃が交差した。そうしたら、竜殺しの剣は薙刀の刃を易々と、そのまま抵抗なく切断してしまったんだ。
重い剣に振り回されたという僕の状況もあったけど、まさか手応えもなく鉄を両断するなんて!
斬れ味有り過ぎじゃありませんか!?
「かかか、我の牙から造られたのだ、当然の斬れ味である」
スレイグスタ老が自慢げに笑っている。
「ああああああああぁぁぁぁ」
あああ、ルイセイネが壊れています。
先端の無くなった薙刀と、刃の先を手に取って、右往左往してますよ。
「ご、ごめんよっ。ルイセイネ」
僕は慌ててルイセイネに駆け寄る。
「どうしましよう、どうしましょう」
ルイセイネは涙目で僕を見る。
「これは祖母から譲り受けた大切なものなんです。折れちゃいました。刃が無くなっちゃいました」
「ご、こめんなさい。こんなに威力があるなんて知らなかったんだよ」
大切な薙刀だと知って、僕も慌てる。
「ま、まさかこれ程の斬れ味だなんて……」
ミストラルも、予想外の威力に顔を引きつらせて固まっていた。
「にゃあ、大変なことになったにゃん」
「ルイセイネの槍が壊れたの?」
僕たちの慌てた様子に、ニーミアとプリシアちゃんも不安そうにしている。
「だいじょうぶだいじょうぶ」
そんな僕たちを
「ルイセイネ、かしてかして」
アレスちゃんは、未だに精神崩壊中のルイセイネから、薙刀と切断された刃を取り上げる。
そしてあろうことか、僕の霊樹の木刀の鍔についている葉っぱを一枚千切った。
「えええっ、大丈夫なの?」
霊樹の精霊が霊樹の幼木を傷つけても良いのかな。
「はっぱはまたはえるよ」
だけど、アレスちゃんは気にした様子もなく、僕に微笑む。
そして薙刀を両腕で抱き、切断された刃の先と葉っぱを両手に持つ。
何を始めるんだろう。
固唾を飲んで僕たちが見つめる中、アレスちゃんが緑色に発光しだした。
右往左往していたルイセイネも、動きを止めアレスちゃんを見つめている。
アレスちゃんに続き、抱いた薙刀が輝き出し。刃先と葉っぱの乗った両手が眩い光に包まれた。
「霊樹の加護をこの武器に。
いつもとは違うアレスちゃんの口調。
アレスちゃんは、歌のような旋律でその後何口か呟くと、ふうっと両手に息を吹きかけた。
すると、眩く発光していた光は雪の粉のように舞い散り、そしてアレスちゃんの周り全体が眩い光に包まれた。
「なおったなおった」
光が収まると、アレスちゃんが薙刀を大切そうに抱えて立っていた。
薙刀の先端には、ちゃんと刃先が付いているよ。
「す、すごい!」
目の前で起きた奇跡に、ルイセイネだけじゃなくて苔の広場にいたみんなが驚く。
「これはこれは、良きものを見せてもらった」
ジルドさんが珍しく目を見開いて驚嘆しているよ。
「はい、どうぞ」
アレスちゃんがルイセイネに薙刀を返す。
ルイセイネはお礼を言って受け取ると、修復された薙刀を
凄い! 完全に復元されているよ。と思ったけど、明らかに違っている箇所がひとつだけあることに、僕もルイセイネもすぐに気づく。
薙刀の刃の付け根に、深い緑色の光を放つ小さな宝玉が埋め込まれていた。
「はっぱをうめこんだよ。いや?」
少し不安そうに聞くアレスちゃん。
「いいえ、とても綺麗です。それに直してくれたのですから、感謝以外の気持ちはないですよ。ありがとうございますね、アレスちゃん」
ルイセイネは
「霊樹の力を取り込んだか。その薙刀も、もう普通の武器ではあるまいな」
そうだね。幼木とはいえ、霊樹の一部を取り込んだんだよ。きっと凄い力が薙刀に宿っているんじゃないのかな。
「なら、
ミストラルに促されて、僕とルイセイネは再び相対する。
だけど、お互いに恐る恐るな感じで、自分の武器を振った。
竜殺しの剣と薙刀の刃が交わる。
ぎんっ、と鋭い音を響かせ、今度は薙刀の刃が竜殺しの剣の一撃を受け止めた。
「おお」
「あらあらまあまあ」
刃毀れもせずにお互いの刃を受け止めたことに、僕とルイセイネは感動する。
その後、数回刃を交えてみて、強化された薙刀は竜殺しの剣に問題なく耐えれることが実証された。
ちなみに、僕は剣の重量に振り回されて、まともに試合えるような技量じゃありませんでした。
僕はなんて非力なんだろうね。
とほほ……
「さあ、その白剣の重さと威力は実感できたでしょう。次は竜気を纏いなさい」
「んん、これって白剣って言うの?」
そう言えば、さっきもミストラルは「白剣」と言っていたね。
「ああ、そうね。それを造り上げたお方が「白剣」と言っていたのよ。白い剣だから、見たままね」
「なるほどね」
「竜殺しの剣」なんて思っているとスレイグスタ老やミストラルに後ろめたい気持ちが沸くし、僕も白剣と呼ぼうかな。
それに普段「竜殺しの剣」なんて思っていてつい口に出しちゃったら、大変なことになるもんね。
王国内では、竜殺し属性の武器は、大貴族や特別な許可を得た冒険者とか以外だと、所持自体厳禁なんだよね。
そういえば、元魔剣属性の竜殺しの剣はどうなったんだろうね。
「何をしているの、構えなさい」
どうやら、竜気を使った手合わせはミストラルがするようだね。
僕は頷き、竜力を解放する。
さっきまでは重くて仕方なかった白剣が、手頃な重さへと変わった。
竜気で強化された身体能力だと、今まで使っていた武器のように自在に扱える気がするよ。
僕は、今度は白剣を右手だけで持ち、ミストラルに斬りかかった。
ミストラルも、竜気を練って僕の一撃を正面から受ける。
漆黒の片手棍と白剣がぶつかり合う。
そして、爆風にも似た衝撃波が苔の広場に
「ふぁああ」
「にゃあ」
あまりの衝撃波の威力に、プリシアちゃんとニーミアが尻餅をついちゃった。
「ああ、ごめんよ」
僕は慌ててプリシアちゃんを抱き起こしてあげた。
「とんでもない威力ね」
ミストラルが苦笑していた。
「本気でやれば、飛竜の首くらい軽く落とせるのでは」
ジルドさんも、若干引き気味だよ。
「かかか、流石は我の牙から造られし剣である」
スレイグスタ老だけが喜んでいた。
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