追い込みの日々
騙された。騙されました!
何をって?
なんと、ミストラルたちはお茶会での事を知っていたんだ。
知っていて、僕をからかっていたんだよ。
酷いよね。
僕は
ミストラルの共犯者は、大狼魔獣。
なんで大狼魔獣が離宮に現れたのか。
それは、ミストラルから僕の後をついて行けって言われていたんだ。
大狼魔獣は、ミストラルには絶対逆らえないからね。
そして大狼魔獣は僕を尾行し、離宮の事を報告していたらしい。
あいつめ、さっき会った時にはそんな素振りひとつ見せなかったよ。
こういうところは、流石は
なにはともあれ、僕の行動は大狼魔獣を通して、みんなにある程度は知られていた。
だけど、大狼魔獣は途中で勘のいい衛兵の人に見つかってあの騒ぎを起こしてしまったから、それ以降のことはミストラルたちも知らないみたい。
知っていたら大変でした……
「酷いよ。僕を監視するなんて。僕って信用ならない人?」
「違うわ。それこそ誤解よ。貴方を監視というよりも、人族の貴族の動きが知りたかっただけなのよ」
「なんで?」
お茶会には、貴族の人も確かに参加していたとは思うけど、アームアード王国とヨルテニトス王国の
「エルネア、これは真面目な話よ。あのね、昨年から魔族や竜人族の中に怪しい動きを見せている人たちがいるでしょう?」
「うん」
ミストラルの真剣な様子に、僕はまたからかわれているんじゃないか、という疑念を払拭する。
「竜人族の中に魔族と内通している部族が存在しているのは確かよ」
ミストラルはこの調査や問題解決のために、昨年末からあんまり苔の広場に来られなくなったんだよね。
「でもね。魔族と竜人族が内通して、人族の国に被害が出るのは何か不自然だわ。もしかすると、人族の中にも協力者がいるのかも」
「あっ!」
ミストラルの指摘に、僕は思わず声を漏らす。
そうか。
ミストラルの考えがわかった。
竜人族と魔族が内通した場合。本当なら、被害を被るのは同じ竜人族だよね。
裏切り行為っていうのは、本来なら仲間に被害を与えるために行うものだから。
なのに、関係のない人族に被害が出ている。
魔剣使い
でも、こう考えるとどうだろう。
元々は人族が悪い事を考えた。
人族の国で騒乱を起こそうと、魔族を呼び寄せようとする。だけど、竜人族が竜峰に居るから、魔族はそう易易とは人族の国に来られない。
その時に、魔族と竜人族が内通すれば、魔族は簡単に人族の国に入り込み、悪さが出来るよね。
「つまりミストラルは、僕が参加するお茶会で不穏な動きをする人族がいないか調べたかったんだね」
「そうよ。わたしがもっと人族の暮らしに精通していれば違う探り方はいくらでもあるんだと思うけれど。わたしは貴族が多く集まるような場所を知らないから」
「そうだったのか。ミストラルは、お茶会は貴族が集まる場所だと思ったんだね」
「ふふふ、実際はお見合いだったみたいね」
「うん、その通りだよ。僕も会場に着くまでは知らなかったんだけどね」
ミストラルは、人族の国で騒乱を起こそうとしている黒幕は貴族だと思ったんだ。
一般市民が騒乱だなんて物騒な事を起こしても、何の得にもならないからね。
でも貴族なら、騒乱のどさくさに紛れて身分を上げたり、下手をすると王座を狙っているような人もいるかもしれないと思ったんだね。
だから、貴族が集まりそうなお茶会に参加する僕に大狼魔獣をつけさせ、会場を特定させて監視したのか。
監視したのは僕じゃなくて、あの場にいた人たちってことだろうけどね。
「でも凄腕の兵士ばっかりで、大狼魔獣は見つかっちゃったんだね」
「まさか魔獣の遁甲を見破れるほどの者がいるような場所だとは思わなかったから」
ミストラルは苦笑していた。
「それで、何かあの場所で見つかった?」
「残念ながら」
肩をすぼめるミストラル。
「けれど、強い竜力を持った者がいたとは報告を受けたわ」
「あ、それはきっと双子王女様だよ」
そして僕は、双子王女様のこと、アームアード王国の王族のことをミストラルに伝えた。
「なるほどね。貴方以外にも竜力のある人族がいたのね」
「みたいだね」
僕も双子王女様には驚いたよ。
竜力を持っているだけじゃなくて、高位竜術の竜槍を乱発できるような人族がいるだなんてね。
「ユフィーリアとニーナか」
僕とミストラルの話をじっと聞いていたジルドさんが、話に割って入ってきた。
「そういえば、双子王女様もジルドさんのことを知っていましたよ?」
「そうじゃろうな。昔あれらがまだ冒険者の駆け出しだった頃に、会ったことがある」
「どういう人なのでしょう?」
ミストラルが興味津々に質問する。
珍しいね、ミストラルが人族に興味を示すなんて。
もしかして、竜術が使える人族だからかな?
「違うであろう。汝の嫁が増える可能性を危惧しておるだけだ」
「翁は黙っていて」
口を挟んだスレイグスタ老を睨み、次いで僕も睨まれた。
なんで僕も睨まれるのさ。
「ふはは、ユフィーリアとニーナか。あれは二人でひとり。まさに双子なのじゃよ」
ジルドさんは懐かしい過去を思い出すような、遠い目をした。
「竜槍乱舞か。あれは桁違いの術じゃったろう」
「はい。まさか、高位の術だと教えられた竜槍を乱れ撃ちするような人がいるなんて、思ってもみませんでした」
たぶん、ミストラルなら一発の竜槍で双子王女様の竜槍乱舞以上の威力を出すんだろうけど、何が凄いって、人族が乱れ撃ちしたのが凄いと僕は思うんだよね。
たぶん僕には出来ないよ。
「確かに、あの術は人族とは思えない程のものだね。しかしあれは、あの二人が一緒でなければ使えないもの。いや、それだけではない。あの二人が使う竜術は全て、二人一緒でなければ使えないのじゃよ」
「どういうことですか」
ひとりでは、竜術を使えない?
簡単なものでも?
「まずは双子の姉であるユフィーリア。あれは竜人族並みの竜力を持つ。しかし、竜気を錬成することはできぬ。逆に妹のニーナは、竜力を全く持たないが、竜気を極めて高度に錬成することができる」
「つまり、姉の竜気を妹が錬成して、竜術を使っていると?」
「その通り。だからどちらか一方だけでは決して竜術は扱えない。不器用な双子姉妹なのじゃよ」
セリース様は、自分は竜力が弱いと言っていたけど、まだ一人で術が使えるから良いのかもしれない。
僕は双子王女様の事を知って、あの方たちにも少なからず苦労はあるんだな、と思った。
「ユフィーリアとニーナね。覚えたわ」
しっかりと頷くミストラル。
ミストラルにとって、竜術が高度に使える人族は警戒対象なのかもしれないね。
「先ほども言ったであろう。汝の嫁になりそうな危険な者を警戒しておるだけだ」
「翁?」
「ぐっ」
片手棍を抜いたミストラルにまた睨まれて、スレイグスタ老は顔を引きつらせた。
「んんっと、遊ぼ?」
今までは霊樹の精霊のアレスちゃんと風の精霊さんと土の精霊さんと遊んでいたプリシアちゃんが、僕の服の裾を引っ張る。
「プリシア、口の周りが汚れているわ」
僕が持ってきたお土産のお菓子を食べたんだね。口の周りについている汚れを、ミストラルが布で拭ってあげた。
「わたしもわたしも」
どうやらアレスちゃんも一緒に食べたらしい。僕はアレスちゃんの口の周りを拭いてあげる。
プリシアちゃんとアレスちゃんは、既に大親友だね。
僕が苔の広場にいる間は、いつもずっと二人一緒に行動している。
どこぞの双子みたいに、最近では言動も似てきているような気がするよ。
僕はプリシアちゃんに、風の精霊さんと土の精霊さんのようにアレスちゃんと契約するのか聞いたんだけど、それはしないらしい。
「アレスちゃんはお兄ちゃんが好きだから、取らないであげるね?」
だそうです。
ちなみに、プリシアちゃんはまだ精霊さんの名前を決められないみたい。
ニーミアにこっそり聞いたら、ポチとかタマとかとんでもない名前しか提案しないみたいで、精霊さんと耳長族の人全員に却下されているんだて。
早く名前が決まるといいね。
子供二人の様子に微笑ましい雰囲気になる、苔の広場に集う面々。
「んんっと、鬼ごっこしよう」
年が明けてから、僕たちの行う鬼ごっこには変化が見られた。
逃げて追うのは今まで通りなんだけど、そこにジルドさんとスレイグスタ老の妨害工作が入るようになって、より高度になったんだ。
具体的には、ジルドさんが逃げ回る人に竜術を飛ばしてくる。
極弱いものを使ってくるんだけど、これが恐ろしく速いんだ。発動するのも飛んでくるのもね。
当たるとちくりとして、追加効果で一瞬麻痺しちゃう。
ミストラルは難なく避けて、ルイセイネは先読みして回避する。プリシアちゃんはまだ小さいから狙われない。
あれれ、実質僕だけが被害を被っていますよ。
そしてスレイグスタ老は、竜気を練ること自体を妨害してくる。
これは極めて厳しいものだった。
逃げたり追いかけたりする際に空間跳躍や身体能力向上を使おうとすると、どんな術なのかは不明だけど、竜気を消されてこっちの術が発動しないんだ。
これは僕だけじゃなくてミストラルも被害を受けていた。
スレイグスタ老の妨害を回避するためには、素早く竜気を錬成して術を発動しなきゃいけない。
少しでも遅れるとミストラルでさえ術が発動出来ないんだから、スレイグスタ老の凄さを初めて身に染みて知ったよ。
ちなみに、竜術の使えないルイセイネとプリシアちゃんには影響はなかった。
プリシアちゃんが満足するまで鬼ごっこのような修行を行った後は、瞑想。竜剣舞の型の練習。そしてミストラルやジルドさんを相手に実践練習と、とても濃い午後を僕は過ごす。
旅立ちの日まであと僅か。
まだまだ至らない僕は、少しでも力をつけようと必死に努力し続ける。
僕は旅立ちの一年間の目標を、年が明けてようやく決めたんだ。
だから、一瞬でも手抜きはできないよ。
僕の目標を聞いたミストラルやみんなも、惜しむことなく僕を鍛えてくれた。
立春の日までには、両親を安心させれるだけの力をつけて、ミストラルたちからも大丈夫と言われるくらいの経験は積みたいよね。
そして僕は毎日、陽が暮れるまで修行に明け暮れた。
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