密室にて
「ニーナ、どういうことかしら」
「ユフィ姉様、どういうとこかしら」
「エルネア君は今まで私たちの所に居たわ」
「間違いないわ」
「でも今は、何故か一瞬であそこにいるわ」
「しかも魔獣を庇っているように見えるわ」
うんうんと同じ仕草で唸る双子王女様。
これは説明するしかないのかな。
でもその前に。
「お前、なんでこんなところに来たのさ。危ないから帰った方が良いよ」
僕が大狼魔獣にそう言うと、きゅうんと可愛く鳴いて遁甲して消えていった。
「ニーナ、魔獣が逃げたわ」
「逃げられたわ」
「ええっと……」
双子王女様にどう説明しよう。何を説明しようと思案しながら、僕は元の場所に歩いて戻る。
「エルネア、大丈夫か!」
そこにようやく、リステアやセリース様、それに多くの男性陣が駆けつけて来た。
「あらあら、もう結界を破ったのね」
「さすがリステア君だわ」
「えっ?」
この双子王女様、いま何か変なことを言いませんでしたか。
「いけないわ、逃げなきゃ」
「今のことをエルネア君に聞かないとね」
言って双子王女様は、また僕の両腕をがっしりと掴んで、逃亡し始めた。
応援に来てくれたはずのリステアたちからね!
「えええぇぇぇっっ」
僕は悲鳴をあげる。
「お姉様方、待ちなさぁぁぁいっ」
遠く後方で、セリース様の叫びが聞こえて、そして消えた。
「ニーナ、ここなら安心ね」
「ユフィ姉様、ここなら安心ね」
問答無用で連行された僕は、離宮の一室に監禁されてしまっていた。
部屋の入り口には鍵をかけられ、窓には分厚い幕が張られ、双子王女様が何やら結界を張っています。
「さあエルネア君、先ほどの説明をしてね」
「逃げられないわ」
「ひいぃぃっ」
日中だというのに光の閉ざされた一室で、僕は双子王女様に迫られる。
「教えてくれないと、お仕置きよ」
「教えてくれたら、良いことあるわよ」
双子王女様から柔らかく大きな胸を押し付けられて、僕は困惑する。
後退る僕。
追いすがる双子王女様。
お胸様を押し付けられて後ろが見えない僕は、何かに足を取られて倒れ込んだ。
「まあ、私たちを寝台に誘うなんて、なんて大胆な子かしら」
「仕方ないわ。先に良いことしてあげるわ」
言って身体を絡ませてくる双子王女様に、僕の頭は沸騰しそうになる。
「ま、待ってください。お話ししますから、かいほうしてくださいぃぃぃっっ」
右手はユフィーリア様のお胸様の中。そして左手はニーナ様の内股に挟まれて、僕は変な悲鳴をあげる。
お肌すべすべで温かい!
なんて思っていませんからね。
僕は自制を保ってなんとか両手を救出する。
「良いのよ、初めてを君にあげるわ」
「とうとう私たちも殿方に身を寄せる時が来たわ」
ずずいっと寝台の上で双子王女様に迫られるけど、僕は逃げ出す。
へたれじゃないんです。
興味はもの凄くあるんです。
だけど、今双子王女様に手を出してしまったら、大変なことになっちゃうよ!
「ま、待ってください」
「まあ、焦らすのね」
「そんなエルネア君も素敵だわ」
なんでこうなった?
双子王女様のお色気攻撃に参りそうになりながらも、僕はなんとか耐えた。
「ぼ、僕のお話の前に」
またも捕まってお胸様を押し付けてこようとする双子王女様に、僕は言う。
「どうしてお二方は竜槍が使えるんですか」
僕の質問に、ひたりと双子王女様の動きが止まる。
「竜槍を知っているのね」
「やっぱりお兄様の言う通りだったわ」
ふふふ、と二人で見つめ合って微笑む双子王女様。
「むむむ、どういう事ですか」
「竜槍は高位竜術」
「竜槍を知っているということは、エルネア君は竜術に精通している」
おおお、何という勘の良さですか。
「ええっと、お二方が竜槍乱舞と仰っていたので」
でも取り敢えず、
「ニーナ、エルネア君が今更誤魔化そうとしているわ」
「ユフィ姉様、エルネア君が誤魔化そうとしているわ」
うむむ、全て見透かされている気がするよ。
僕は観念して、竜槍を知っていることを打ち明けた。
「エルネア君は竜術を使えるの?」
「お兄様は使えると言っていたわ」
「ええっと、そのお兄様とは誰なんでしょう?」
「使えるの?」
「使えるのよね?」
僕の質問なんて聞いていないみたい。
双子王女様は興奮したように手を取り合って、寝台の上で楽しそうに僕を見る。
「竜術ですか。はい、ほんの少しだけですけど」
僕が竜術を扱えることは、双子王女様には露見してしまっているみたいだね。
でもだからといって、スレイグスタ老や竜の森でのことまで素直に喋る必要はない、と僕は思って隠す。
「もしかして、北のジルド様を知っているのかしら?」
「あの方も、竜術が使える不思議な方なのよね」
「えええっ」
ジルドさんの名前が出てきて、僕は驚く。
それと同時に、双子王女様はジルドさんの正体を知らないんだと確信した。
知っていたら不思議な方、なんて言わないもんね。
不思議な方じゃなくて、竜人族の竜王だもんね。今はもう「元」なんだけど。
それと、もうひとつ思い当たることがあった。
僕は、昨年末はずっとジルドさんのところで試合をしていたけど、近くには北の城壁もあるし砦もあるんだ。
もしかしたら、その時の事を城壁の上とかから見られていたのかもしれない。
視力のいい人なら見えたかもね。
見られているかも、というような配慮は、あの時の僕には出来なかったから。
「僕はそのジルドさんに教えてもらったんですよ」
ちょっと嘘をつく。
本当のちゃんとした師匠は竜の森の守護竜のスレイグスタ老だけど、どこで竜術を習ったのかとか突っ込まれると困るからね。
ジルドさんを知っているなら丁度いい。
僕はそうして双子王女様に出来るだけ怪しまれないように説明する。
「ジルド様のお弟子さんなのね」
「通りで竜術を知っているわけね」
どうやら納得してくれたらしい。
僕はほっと胸を撫で下ろしす。
「それで、どれくらいの術が使えるのかしら」
「私たちの竜槍乱舞を止めたわ」
「瞬間移動したようにも見えたわ」
「魔獣とお話ししていたわ」
よし、その辺はどうやって嘘をつこうかな。
僕は必死に嘘を考える。
双子王女様を騙すなんて心苦しいけど、やっぱり本当のことは言えないよ。
特にこのお二人に話してしまったら、嬉々として竜の森に潜り込みそうで怖い。
第一王女のユフィーリア様。第二王女のニーナ様。どうもこの二人は、
「ええっと、僕自身はちょっとだけ身体強化が出来るくらいです」
身体強化は魔剣使いが遺跡に現れた時にリステアたちにも見られているから、ここは隠しても仕方がない。
「お二方の竜槍は魔獣が止めたんですよ。あの魔獣はすごく強いんです」
「あらら、私たちの竜槍乱舞を止めるだなんて、なんて恐ろしいのかしら」
「なんで魔獣が離宮に現れたのかしら」
「あの魔獣は、実は僕のお友達なんです。遁甲してたら僕を見つけて現れたみたいで……あいつは良い奴なんで、本当は人なんて襲わないんですよ」
本当は、あの大狼魔獣に僕は散々追いかけ回されたんだけどね。
「ニーナ、エルネア君は魔獣とお友達なんですって」
「ユフィ姉様、エルネア君は魔獣とお友達なんですって」
ううん、双子だね。言動の全てが瓜二つだよ。
ちなみに僕は、見た目では同じ容姿、同じ服装のユフィーリア様とニーナ様の区別がつかない。
お互いに名前を呼びあって会話をしているから、辛うじて見分けられている程度だ。
「お友達の魔獣を助けるために、私たちの間に入ったのね」
「危険を
「そ、そうですね」
双子王女様は何故か興奮した様子で、僕に迫り寄る。
「聞いていた以上に素敵な子だわ」
「聞いていた以上に可愛い子だわ」
そしてまたもや、僕はお胸様に押し潰された。
あああ、なんて天国のような地獄なんだ。
「やっぱりこの子に決めたわ」
「ユフィ姉様ずるい。私もこの子が良いわ」
「それじゃあ、二人で分かち合いましょう」
ひえええっっっ。
なんでこのお二人は僕をお色気で惑わすんですか。
誰か助けて!
じゃないと僕の理性が飛んで行っちゃうよ。
「お姉様ぁぁぁっっ!!」
絶体絶命の危機に陥ったその時、部屋の入り口の扉が吹き飛んだ。
そして部屋に乱入してきたのは、セリース様とリステアだった。
「エルネア君を返しなさぁぁぁいっ」
部屋に入るなり、猛然とこちらへ突っ込んでくるセリース様。
こんなに鬼気迫ったセリース様を見るのは初めてです。
「きゃっ、セリース何てことするの」
「きゃっ、セリース酷いわ」
抵抗する双子王女様の魔の手から、ううん、魔のお胸様から僕を助け出してくれるセリース様。
そしてそのまま、リステアに保護された。
「お姉様方、エルネア君は一般人なんですよ。危険なことに巻き込まないでください」
セリース様は手を腰に当てて、双子王女様を威嚇する。
「酷いわ。私たちはエルネア君と良い事しようとしていただけなのに」
「酷いわ。私たちはエルネア君と楽しく遊んでいただけなのに」
「度が過ぎます」
セリース様にぴしゃりと言われて、しゅんとした様子の双子王女様は、ちょっとだけ可愛かった。
「さあエルネア君、ここは危険ですから移動しましょう」
「素直に従っておけ」
先頭で部屋を出て行くセリース様。
そしてリステアは僕に囁きかけ、退出を促した。
「いいもの。セリースにはエルネア君の魅力を教えてあげないわ」
「ふふんだ、セリースにはエルネア君の素敵なところを教えてあげないわ」
部屋に取り残された双子王女様の
「た、助かったよ」
本当はちょっとだけ残念な気持ちもあったけど、救出されて正解だよ。あのままセリース様とリステアが助けに来てくれなかったら、きっと大変なことになっていたと思う。
「ごめんなさい。お姉様方はとても自由気ままな方で」
「あはは、でもちょっとだけいい思いができただろう」
にやりと笑うリステアを、セリース様がじとめで見る。
「ははははは」
僕は乾いた笑いしか出来なかったよ。
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