王女三人
柔らかく大きな胸に押しつぶされる僕。
「さあ、遠慮することはないわ」
「殿方はこうされると嬉しいと聞いたわ」
「むぐぐ」
嬉しいというか、状況が理解できずに僕は混乱しています。
そして苦しい!
大きなお胸様は素晴らしいんだけど、押し潰されている僕はまともに呼吸もできなくて、窒息してしまいそうになる。
た、助けて。
僕は苦しいことを伝えようと、王女様をとんとんと叩く。
でも顔はお胸様に沈んでるので、闇雲だった。
「あらま、意外と積極的よ、ニーナ」
「ユフィ姉さん、お尻を触られているわ」
あわわ、僕はどうやら第一王女のユフィーリア様のお尻を叩いてしまったらしい。
ど、どうしよう。
僕は慌てるんだけど、もがけばもがくほど、お胸様の奥に沈んでいく。
「お、お姉様方、何をなさっているんです!?」
この声はセリース様!
「たすけてぇ」
と、お胸様の奥で叫んだけど、僕の悲鳴は届かなかった。
「ふふふ、くすぐったいわ」
「
ち、違います。僕は苦しくてもがいているだけです。
「お姉様、エルネア君は苦しんでいるんです。放してあげてください」
「そうかしら?」
「そうなの?」
そうなんです!
ま、まさか僕はお胸様に挟まれて死んじゃうんだろうか。
呼吸ができなくて意識が
「エルネア君、今助けますからね」
セリース様はそう言って、僕の手を取って引っ張ってくれた。
そしてようやく、僕は天国のような地獄のお胸様から解放されたのだった。
「はぁはぁ」
僕はやっと呼吸がまともに出来るようになって、肩で息をする。
まさかお胸様がこれほど恐ろしい凶器になるとは。僕は女性の胸の恐ろしさを初めて知ったよ。
ああ、ミストラルとルイセイネがちっぱいで良かったです。
「ユフィお姉様、エルネア君が興奮しているわ」
「そうね、ニーナ」
「ち、違いますよ。苦しかったんです」
僕はついつい苦情を言ってしまう。
「照れなくて良いわ」
「照れてる様子も可愛いわ」
「お姉様方、エルネア君をからかうのはお止め下さい」
見れば、セリース様が僕と二人の王女様の間に立ちはだかって、守ってくれていた。
「セリース、そこを退きなさい」
「セリース、退かないとお仕置きよ」
僕をなおも捕まえようとするユフィーリア様とニーナ様を、セリース様が必死に止めてくれていた。
僕は息を整え、心を落ち着かせる。
そして自己紹介をした。
「初めまして。僕はエルネア・イースと言います」
僕が礼儀正しく自己紹介をすると、ユフィーリア様とニーナ様はセリース様との押し問答をやめて、優雅にお辞儀をし返してきた。
この辺は、流石は王女様なんだね。
どんな状況でも優雅さと社交礼儀はなくさない。
「改めて、こんにちは。
「改めて、こんにちは。
「お姉様は双子なんです。ごめんなさいね、エルネア君。迷惑したでしょう」
「まあ、なんてことを言うの」
「エルネア君は私たちの胸を堪能していたわ」
「いいえ、エルネア君は苦しんでいたんです。その無駄に大きい胸に挟まれてっ」
ぎりり、と何故か対峙する王女三人。
ええっと、無駄かどうかは僕にはわからないけど、セリース様の胸も負けず劣らず大きいと思うんです。
「なんだ、エルネア。お前って双子王女様と知り合いだったのか?」
僕たちの騒ぎにやって来たのは、リステアだった。
「ううん、知らないよ? 今が初顔合わせのはずだけど」
瓜二つで美しい相貌のこの二人の王女様を、僕が前に見ていたなんて記憶は全くない。
一度見たら絶対忘れないと思うんだよね。
美しい銀髪と小麦色の肌の対称が、見る人に強い印象を与えるんだ。
もちろん、大きなお胸様にも目は行くよ。
「そうよ、エルネア君とは今日初めてあったわ」
「お兄様から話を聞いて、一度会ってみたいと思っていたわ」
お兄様?
ということは、僕はそのお兄様、つまりアームアード王国の王子様と面識があるのだろうか。
そう思って考えてみたけど、思い当たる人は誰もいなかった。
もしかして、前回王城に招かれた時に知らずに顔を合わせていたのだろうか。
そうすると、その王子様が双子の王女様に僕のことを話し、その二人が僕をこのお茶会に招んだのかな?
でも、僕の何に興味が湧いたんだろうね。
僕はいたって平凡な小市民ですよ。
王家の方が興味を示すような人物じゃないです。
「お兄様の言う通り、とても可愛い子」
「お兄様の言う通り、とても素敵な子」
あはは、と僕は愛想笑いを浮かべる。
美人な王女様二人に好意を寄せてもらうのは嬉しいんだけど、理由がわからないともぞ痒いよね。
「ええっと、何で王女様は僕に会いたいと思ったのでしょうか」
「ふふふ、エルネア君はどうやら自覚がないみたいだわ」
「お兄様の言っていたことと少し違う?」
ふううん、と僕に近づいて、まじまじと見つめてくるユフィーリア様とニーナ様。
「お前、王子殿下と顔見知りだったのか?」
「ううん、身に覚えがないよ」
リステアの質問に、僕は困った表情で答える。
本当に、僕自身には身に覚えがないんだ。
第一王女様のユフィーリア様と第二王女のニーナ様がお兄様、と呼ぶ人物は二人だね。
それはもちろん、この国の次期国王様になる第一王子様と第二王子様だ。
そのどちらかの王子様が僕のことを知っている?
僕は王子様のことなんて全く知らないのに?
ううん、謎だ。
王子様はどこで僕のことを知ったんだろうか。
そして、僕の何を知っているんだろうか。
うんうんと唸り考えていると、鋭い視線を沢山受けていることに僕は気付いた。
はっ。
恐る恐る大広間を見渡してみると、ヨルテニトス王国の方々だけじゃなくて、アームアード王国の多くの男性からも、冷たく鋭い視線を向けられていた。
しまった、二人の王女様に抱きつかれて騒いでいた僕は、会場の全男性を嫉妬で敵に回してしまったのか。
グレイヴ様なんて、恐ろしい形相で僕を睨んでいますよ。
どうしよう。
僕はこっそりリステアの陰に隠れた。
リステアも場の雰囲気を察していて、困り顔だ。
「ここで立ち話もなんだし、こっちにいらっしゃい」
「お姉さん達と楽しいことしましょうね」
しかし、双子の王女様は場の雰囲気なんて御構いなしに、僕の腕を引っ張って大広間から連れ出そうとする。
「お姉様方、何をなさっているんです!」
慌てて止めに入るセリース様。
ユフィーリア様が僕の右腕を取る。
ニーナ様が左腕を取る。
セリース様が助けようと僕を背中から捕まえる。
そうして僕は、今度は押し問答を再開させた三人の王女様のお胸様に沈むのであった。
あああ。天国のような地獄。
王女様たちの素晴らしいお胸様に挟まれるのは嬉しいんだけど、男性陣の恨みのこもった視線が痛すぎます。
さあさあ、と引っ張る双子の王女様。離して下さいと引き止めるように僕をがっちりと掴むセリース様。
僕はどうすれば良いのかわからずに、リステアに助けを求めた。
リステアは、苦笑しつつ仲介に入る。
と、その時。
ずうんっ、という低い爆発音と共に、離宮が揺れた。
「なんだっ!?」
大広間に居た女性陣からは悲鳴が上がったけど、多くの男性は状況を確認しようと、冷静に動き出している。
流石に軍人さんだ。
特に、グレイヴ様の周りには屈強な兵士然とした人たちが既に集まり、防御陣形を作っていた。
それに引き換え、こちらの王女様たちの周りには誰も来ないよ。
「ニーナ、危険の臭いだわ」
「ユフィお姉様、楽しそうな気配だわ」
あれれ、この双子王女様、何かみんなと違う反応ですよ?
大広間の人たちは少なからず不安と動揺を見せているのに、僕の両腕を離さない双子の王女様は瞳を輝かせています。
そして、ずううんっ、と二回目の衝撃音が鳴り響く。
「南の方だわ」
「何かしら、行ってみましよう」
あろうことか、双子王女様は
もちろん、僕を離さないままね!
「えええぇぇぇっっ」
突然の大騒動で、セリース様の力も抜けていたみたい。
僕はユフィーリア様とニーナ様に引っ張られて、大広間から連れ出される。
王女様は広い廊下に出ると、そのまま外に繋がる窓を蹴破って、離宮の庭に飛び出した。
「ええぇぇっっ」
王女様らしからぬ振る舞いに、僕は衝撃を受ける。
「ニーナ、あれを見て」
「ユフィお姉様、あそこ」
庭に飛び出した双子王女様は、同時に同じ方向を指差す。
「あああぁぁっっ」
双子王女様が揃って指差す方角では、魔獣が暴れていた。
離宮を護る衛兵の人たちだろうね。鎧を着た兵士たちが、暴れ回る魔獣に悪戦苦闘していた。
「殿下、危険です。おさがり下さい」
双子王女様をいち早く認識した衛兵さんが、慌ててこちらにやって来る。
でも僕は、そんな衛兵さんや両腕を掴んで離さない双子王女様の心配なんて、している余裕がなかった。
「ニーナ、恐ろしい魔獣よ」
「ユフィ姉様、狼魔獣だわ」
そうなんだ。離宮の庭先で暴れているのは、とてもとても見覚えのある、灰色の巨大な狼の魔獣だったんだ。
何で君がここに現れているのさぁぁぁっ!
と心の中で叫ぶ僕。
「殿下、避難してくださいませ」
焦った様子の衛兵さん。
それもそのはず。暴れる大狼魔獣が吠えると、前方で大爆発が起きる。
衛兵の人たちはなんとか回避しているけど、素早く動き回る大狼魔獣を捕捉できずに、右往左往するばかりに見えた。
「下がるのは貴方の方だわ」
「邪魔だからさがりなさい」
しかし、双子王女様は楽しそうに微笑み合い、衛兵さんに命令する。
衛兵さんは、途端に引きつった顔になった。
「ふ、双子様が暴れるぞぉぉぉぉっっ! 逃げろぉぉぉぉっっっ」
叫ぶ衛兵さん。
そして、その叫びに他の衛兵の人たちも気づき。
彼らは全力で逃げ出した。
えっ!?
何が何だか訳がわからない僕は呆ける。
大狼魔獣も、今まで自分を追い回していた人がいきなり全力で逃げたした事態に、呆気にとられて立ち止まった。
そんな僕と大狼魔獣に構うことなく。
双子王女様は僕の両腕を離し、代わりに二人で手を繋ぎあう。
そして、僕の側でくるくると二人で楽しそうに回り出した。
「ユフィーリアと」
「ニーナの」
ぞわり、と僕は双子王女様から湧き上がる気配に総毛立つ。
それと同時に、双子王女様の周りで無数に具現化する飛竜を形取った槍に、僕は見覚えがあった。
これは、ジルドさんに最近教わった放出系の高位竜術。
なんで王女様が竜術を使えるの!?
という疑問は一瞬で消え去る。
僕は咄嗟に、全力で力を解放していた。
「「
双子王女様の力ある言葉が重なり合う。
そして、大狼魔獣に向かい高速で放たれる無数の竜槍。
呆気にとられていた大狼魔獣は反応が遅れた。
一瞬で迫り来る竜槍を避ける暇もない。
大爆発が起きる。
大狼魔獣の攻撃以上の大爆発に爆風が吹き荒れ、離宮が激しく揺れた。
爆煙が上がり、視界が奪われる。
「ニーナ、やり過ぎだわ」
「ユフィお姉様、やり過ぎだわ」
「あらら? エルネア君が居ないわ」
「どうしましょう。今の爆風で飛ばされた?」
視界不良の中で、ユフィーリア様とニーナ様の会話が聞こえてくる。
「ぐるる」
そして僕の背後では、大狼魔獣が申し訳なさそうに唸っていた。
大狼魔獣は既に、僕や竜の森に集うみんなと友達だった。
特にプリシアちゃんのお気に入りなんだよね。
どんな理由でここに現れたのかは知らないけど、死なれちゃ困るんだ。出来れば怪我もしてほしくない。
だから、僕は咄嗟に空間跳躍で大狼魔獣と双子王女様の間に飛び込み、障壁を張って全力で防いだんだ。
今の僕は、竜槍を使える。だからどれだけの破壊力かも知っていた。
全力で防御の竜術を展開すれば、双子王女様の無数の竜槍を止められると思ったんだ。
徐々に煙幕が晴れていき、僕は前方で仲良く手を繋いだままの双子王女様が見えてきた。
そして双子王女様も僕を見つけて、驚いていた。
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