双子の王女

 お茶会の日がやって来ました。


 僕は朝からリステアの家に行き、使用人さんに手伝われながら着替えを済ませた。

 リステアとスラットンも身だしなみを整え、女性陣の支度が終わるのを待つ。


 スラットン、君の整えられた髪を見るのは初めてだよ。


 女性陣の支度は昼前に終わった。

 セリース様の正装は前回王城に招かれた時に見ていたけど、クリーシオとネイミーの華やかな姿は初めて見たよ。

 やっぱり女性は化粧をすると見違みちがえるね。


 準備が整うと、全員でリステアの家の馬車に乗り込み、出発する。


 凄いです。自家用の馬車と馬、御者の人まで居るなんて、リステアはなんてお金持ちなんだろう。


 馬車の中で軽く昼食をとりながら、会場に向かう。

 軽い昼食と言いつつ、僕の家の年末の夕食より豪華ですよ。

 僕は会場に着く前から、場違いな雰囲気を感じていた。

 そして案の定、会場に着いた僕は顔を引きつらせて、すぐさま帰りたい気分になる。


 お茶会は、王家の離宮の大広間で開催れていた。

 大広間は暖かく、外の寒い冬とは別世界に感じるよ。

 そして大広間には、身だしなみを整えた男女が大勢参加していたんだ。


 聞いていた話と違うよ。


 僕は飛竜狩りの関係者が顔見せで集まるお茶会だとばかり思っていた。

 なのに、会場にいる人の半分は女性だった。

 もちろん、いかにも軍人風の女性も沢山居るけど、明らかに良家の娘さんといった感じの女性も多く見受けられる。


 多分、百人以上は大広間に居るんじゃないのかな。思っていた以上の人の多さと華やいだ雰囲気に、僕は気圧される。


「どうやら、大規模なお見合いも兼ねているらしいな」


 リステアもお茶会の詳細を聞かされていなかったのかな。僕とリステアは見つめ合って、苦笑しあう。

 離宮の大広間には、リステアと一緒だったので招待状の確認もなしに入ることができた。


 しかし、そこからが本当の僕の苦労だった。


 リステア及び勇者様御一行は大広間に入るや否や、大勢の男女に取り囲まれる。

 僕はと言うと、勇者様御一行の仲間じゃないことをすぐに見分けられてしまい、人混みの外にはじき出されてしまった。


 勇者様御一行の男性はスラットンひとりだけなので、誰でも僕が部外者だとすぐにわかるよね。


 でも、僕も一応リステアの友人なんだよ。速攻で除け者にして弾き出さなくても良くない?

 と思ったけど、よく見ればリステアたちに群がっている人の多くはヨルテニトス王国の紋章を服の胸元に着けていた。

 なるほど、僕はよほどヨルテニトス王国の人には嫌われているらしい。


 大広間を見渡す僕。


 そうすると、お茶会に参加している人は衣服のどこかに必ずアームアード王国かヨルテニトス王国の紋章を着けていることがわかった。

 僕の胸元にも、ちゃっかりアームアード王国の紋章が付けられていることにも気づく。

 そして、両国の紋章を着けていなく、お揃いの服装で大広間を忙しなく動き回っている人は、使用人の人なんだろうね。


「ふふん、よもや貴様がここに招ばれるとはな。勇者に取り入って入ってきたのか。図々ずうずうしい奴め」


 僕がきょろきょろと大広間を見回していると、ここで一番会いたくない人にいきなり声をかけられてしまった。


「あっ、グレイヴ殿下。こ、こんにちは」


 僕は慌てて振り向き、声の主であるグレイヴ様に深くお辞儀をする。


 華やかな会場でいきなり嫌味ですか。

 この人は本当に僕のことが嫌いなんだろうね。

 というか、性格悪すぎない?

 なんてことは表には微塵も出さず、僕は頭を下げる。


 グレイヴ様は、前回身に纏っていた鎧と同じ青を基調とした美しい服装に身を包み、僕を蔑むような目で見下ろす。

 でもまあ、最初から嫌われているとわかっている人から冷たい視線を向けられても、僕は気にしないんだけどね。


「ここに来られただけでも有り難いと思うなら、邪魔にならぬように広間の隅にでも立っているんだな」

「は、はい。そうします。殿下にまたお会いできただけでも、今日は来た甲斐がありました」


 僕の小さな反抗に、グレイヴ様はぎろりと睨み返してきたけど、追加で嫌味を言うようなことはなかった。

 ここは大勢の人の目もあるし、これ以上は自分の気品にも関わることだから言いたくても言えない、そんな感じだね。


 僕はグレイヴ様に言われた通り、そそくさと大広間の隅っこに移動をして、気配を消す。

 そもそも僕は、来たくて来た訳じゃないので、あえてグレイヴ様に反抗して会場で目立ちたいとは思わない。

 隅に居ろと命令されれば、素直にそうしますよ。


 僕のような華のない小市民が気配を抑えて会場の隅にいれば、気付く人なんていないだろうね。

 と思ったけど、流石に飛竜狩りを目指す両国選りすぐりの軍人さんだった。

 気配をうまく消す僕は、余計に「あいつは何者だ」と目立ってしまい、視線を向けられることが多くなってしまう。


 むむむ、素直に隅に居るだけにしておけば良かった。気配なんて消すんじゃなかったよ。


 僕は気配を消すことを取り止め、飲み物片手に大広間の隅で大人しくすることに変更した。

 でも、ただ立っているだけでは暇だったので、会場に集まった人たちを観察する。


 リステアたちは大人気だね。絶えず大勢の男女に取り囲まれて大変そうだ。

 王女のセリース様にも人が多く集まっているよ。こちらは男性の方が多いのかな。

 セリース様はリステアのお嫁さんになる人ということは全員が知っているんだろうけど、あの可愛さはお近付きになりたいと誰もが思うんだろうね。


 意外なのはスラットンか。沢山の女性に囲まれて、四苦八苦している姿は珍しい。

 スラットンは背も高いし意外と男前だから、髪を整えて正装に身を包んでいると、いい男に見えるんだろうね。


 クリーシオとネイミーの周りにも、大勢の男女が居る。クリーシオは女性たちと和やかに談笑しているし、ネイミーの周りでは楽しそうな笑いが起きていた。


 みんな人気者で楽しそうだね。

 このお茶会はお見合いも兼ねているらしいけど、あわよくば自分も勇者の仲間に、もしくはお嫁さんに、という人たちでお茶会の注目の的になっているようだ。


 リステアたちが注目を集める中、明らかに場慣れしていない風の一団もあった。

 その多くが、体格の良い若い男性だよ。


 うん。あれは両国の王国騎士様たちなんじゃないかな。

 武道に邁進まいしんしてきた彼等は、こういう賑やかで華やいだ場所はあまり経験したことがないんだろうね。

 数人単位で固まった若い男性陣は、どう女性に話しかければ良いのか困っている様子に見える。


 そんな中、たまに僕の方に鋭い視線を向けて来る人たちがいた。

 確認するまでもないよ。ヨルテニトス王国の王国騎士様たちだね。

 グレイヴ様から僕の事を聞いたんじゃないのかな。

 下手をすると殺気のこもった視線を度々浴びて、僕は居心地が悪くなる。


 隅に居ろって言うだけじゃなくて、更に追い討ちですか。

 僕は、少しでも早くこの気まずいお茶会が終わりますようにと願う。


 だけど、僕が願っても時間は早く進んではくれない。だから仕方なく、更にお茶会の様子を伺う。


 ほほう。悔しいけどグレイヴ様も大人気ですね。

 リステア以上に大勢の女性に取り囲まれているよ。

 グレイヴ様は、僕に対しては辛辣しんらつだけど、流石はヨルテニトス王国の第一王子様。玉の輿狙いの多くの女性に言い寄られている。

 そして、それをうまくやり込めているところなんかも、流石だなぁと僕は素直に感心してしまう。


 おや? さらに別の場所では、今度は多くの男性陣に取り囲まれている人がいるみたいだよ?

 アームアード王国とヨルテニトス王国の男性が入り混じって押し合いへし合いしている様子は、セリース様以上。ううん、倍は多いんじゃないかな。

 どんな人が囲まれているんだろう、と僕はそちらに注意を向けた。


 すると男性陣の包囲網が割れ、中から現れたのは、美しい二人の女性だった。

 しかもこの二人、見た目が全く一緒で、僕は驚いてしまったよ。


 二人の女性の豪奢ごうしゃな装いの隙間から見える肌は、健康そうな小麦色。

 目鼻立ちが少し鋭い感じもするけど、びっくりするくらいの美人さんですよ。

 美しく長い銀髪がくるくると縦巻きに巻かれている姿は、まさに大物貴族様、といった風貌だった。

 そしてお胸様。

 ああ、なんて大きいのでしょうか。

 大きく開いた服の胸元からは、溢れんばかりの胸の双丘が頭を覗かせていた。


 二人の銀髪の美女は、取り巻きの男性陣を軽くあしらいながら、仲良く手を繋いでこちらの方へとやってくる。


 途中、空になった飲み物を新しいものに取り替え、こちらの方に。


 近寄る男性たちを払いのけ、なぜかこちらの方へ……


 ええっと、二人の女性が向かってくる方角には、ひっそりと佇む僕しか居ないんですけど?

 会場で一番多くの男性から注目を集めている人がこっちに来ちゃったら、僕まで目立っちゃうよ。

 困ります。


 にこにこと二人だけで談笑しながら、銀髪の二人の美女は僕の困惑を余所に近づいてきて。


「うん、この子で間違い無いわ」

「小柄で栗色の髪の毛の可愛い子」


 そしてあろうことか、僕の前までやってきた美女二人は小さく僕を指差す。


「初めまして、わたくしはアームアード王国第一王女のユフィーリア」

「初めまして、わたくしはアームアード王国第二王女のニーナ」

「「会いたかったわ、エルネア君」」

「えええっっっ!」


 あまりにも予想外の出来事に、僕は声を上げてしまう。


 ななな、何で二人の王女様が僕の名前を知っているの?

 もしかして、セリース様から何か聞いているのかな、と思ってセリース様の方を見たら、彼女もこちらを驚いた様子で見ていた。


 あ、今の僕の声で大広間の注目を集めちゃった。みんながこっちを見てますよ。


「あらま、慌てる様子が可愛いわ」

「抱きしめちゃいたいわ」


 と言ってるそばから、僕は二人の美女に思いっきり抱きつかれてしまった。


「むくぐっ」


 そして僕は、四つの大きなお胸様に顔を押しつぶされた。


 天国!?

 それとも地獄!?

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