青の竜騎士
美味しい飲み物とお菓子を食べながら話していると、いつの間にか王城に着いたらしい。
馬車が止まり、外から声をかけられる。
「それじゃあ、行こうか。エルネア、緊張するなよ」
リステアの合図で、僕たちは順番に馬車を降りる。
降りたらびっくり、結構な大人数で出迎えられた。騎士とお役人が多かったけどね。
その中でひとり、圧倒的な存在感の可憐な少女が代表して出迎えてくれた。
セリース様だ。
「おかえり、リステア。エルネア君もよくおいで下さいました」
微笑むセリース様にぎこちなくお辞儀をする僕。
学校では親しく接しさせてもらっているけど、こういったお城とか公然の目がある所での所作なんて、平民の僕にはわからないよ。
僕の変な動きに、リステア、ネイミー、スラットン、クリーシオまでもがにやりとしている。彼らは僕を面白いものとして見ているんだね。ひどいよ。
「さあ、中へどうぞ」
セリース様だけが優しくしてくれた。僕たちを促し、お城の中へ導いてくれる。
初めて王城に来たけど、やっぱり凄いね。
玄関口だけで僕の家の倍はあるんじゃないかな。
床も壁も柱も大理石。至る所に彫刻が施され、絵画がかけられ。花瓶には色鮮やかな季節のお花が生けられていた。
ふあああ、目も眩む程の豪華さだ。
僕が一生働いても、その辺に何気なく置いてある調度品の一個も買えないんだろうな。
「お上りさんだな」
落ち着きなく辺りを見回しながら歩く僕を見て、スラットンが苦笑する。
「仕方ないじゃないか。初めてこんな豪華なところに来たんだし。それに、僕なんかじゃこんな所にはもう一生来られないかもしれないんだよ」
「ははは。そんなことはないさ。なんなら、俺に会いに来たって言って毎日来てもいいんだぞ」
笑うリステア。
そういえば、リステアはセリース様と許婚になってからは、王城に住んでいるんだっけ。スラットンとクリーシオ、それとネイミーもだったかな。
「うん、これからはクリーシオに会いに行くね」
「あらま」
「おい」
「ひどいわ、私には会いに来てくれないの?」
「あはははは」
勇者様ご一行はそれぞれの反応を見せて笑っていた。
「思っていたほど緊張もしていないみたいだし、意外とエルネアは強いな」
リステアに指摘されて、えっへんと胸を張ってみる。
「まぁ、城の入り口で緊張されて動かなくなっても困るけどな」
スラットンめ、僕を
「さあさあ、こちらですよ」
セリース様に導かれて、僕たちはお城の中を移動する。
そして幾つかの中庭と長い通路を抜け、辿り着いたのは大きな両開きの扉の前。
セリース様が扉の前に控えていた衛兵を促すと、扉を開けて僕たちを中へ案内してくれた。
部屋は、大人数が寛げるような場所だった。
相変わらず壁も柱も大理石。床には踏むのも躊躇われるくらい高級そうな絨毯が敷かれ、部屋の幾つかの場所に豪華な長椅子と机が設置されていた。
暖炉が両端にあるよ。僕の家なんて、居間に一個だけなのにね。
ふあああ、と僕が部屋の中を見渡していると、背中を押された。
「早く進め」
スラットンだ。
スラットンに押されて進む先に、一組の先客がいた。
あ、緊張してきた。
まず目に入ったのは、青い全身甲冑を着込んだ騎士。側に控える二名の白甲冑の騎士。その三人と机を挟んで反対側には、でっぷりとした豪華な服を着た人と、反対に痩せた人。痩せた人も豪華な服だね。お役人さんに違いない。
それと、鎧の上から衣を羽織った白髪のお爺さんと、同じような衣だけど装飾の違う巨漢の黒髭おじさん。
最後に、輪の中心にいるのは灰色の髪の
ああ、きっとあれがセリース様のお父上なんだろうね。つまり、あれだ。
部屋に入ってきた僕たちを、全員で出迎えてくれた。
「リステアよ、用事を押し付けてすまなかった」
「いえ、お役に立てて光栄です」
偉丈夫の言葉に、リステアは頭を下げる。
ぼ、僕は
いきなり王様とか予想外すぎて、どう動いていいのかわからずに狼狽える僕。
「お父様は気さくな人ですよ。自然体で」
あわあわあと狼狽える僕の背中にそっと手を添えて、セリース様が囁いてくれた。
「ふむ、そこの初めて見る少年が、エルネアと申す者か」
「は、はい。エルネア・イースと申します」
突然名前を言われて、あせって跪いちゃった。自然体でいいって言われたばかりなのに。
来る前は、スレイグスタ老やミストラルさんといつも接しているから威厳のある人には慣れていると思っていたけど、王様はまた違った存在感だったよ。
なんだろう。王様は人の上に立つ威厳さがやっぱりあって、作法のない僕でも無意識に跪かせてしまう。
「ははは。ここは
言って王様は、青い全身甲冑の男に視線を送る。
「はい。結構だと思います。私も畏まられていては話し辛いですしね」
頷く青の全身甲冑の男性。
僕は恐る恐る立ち上がる。
「そうだな、まずは自己紹介からしようか。エルネア君は名乗ってくれたので、まずはわしから」
偉丈夫の、つまりセリース様のお父さんで国王陛下は、人懐っこいい笑顔で言う。
「わしは見たまんま、この国の王様。アームアード四世である」
王冠を冠ってますもんね。僕でも一発でわかったよ。
「ふむ、では次にわたくしめが。わたくしは宰相のコランタと言います、以後お見知り置きを」
豪華な服を着た痩せた方の人がお辞儀をする。つられて僕も、お辞儀をひとつ。
「私はナール。副宰相である」
これは豪華な服の、太った人の方。なんか、太った人の方が貫禄があって偉そうに見えるよ。威張っているし。
「我は国軍将軍テイゼナル」
黒髭の巨漢の人だね。無口で、いかにも軍人さん、って感じだよ。
「わしは近衛騎士隊長のコールアーヌですじゃ」
優しく微笑んでくれたのは白髪で鎧の上から衣を纏ったお爺ちゃん。見た目はとても優しそうだけど、近衞騎士隊長なんだからすごい人なんだよね。
「それでは、続いて私が。私はヨルテニトス王国飛竜騎士団団長の、グレイヴという。今日はよろしく頼む」
青の全身甲冑の男の人が、胸に手を当てて挨拶をしてくれた。
おおお、この人こそは、今朝飛来した竜騎士団の団長様ですか。かっこいいなあ。
「側の二人は私の護衛なので、自己紹介は省かせてもらう」
グレイヴ様の言葉に、同じく胸に手を当てて挨拶をする二人の白甲冑の男性。この人たちも竜騎士なんだね。
「よ、よろしくお願いします」
僕はそれぞれにお辞儀をする。
ああ、緊張でお腹が痛くなってきたよ。皆さん雰囲気は穏やかだけど、これってつまり、今から僕は、ここにいる人たちから質問攻めにあうってことだよね。
学校では同級生から逃げたけど、ここじゃあ逃げれないよ。
助けて、ミストラルさん。心の中で叫んでも、さすがのミストラルもここには助けに来てくれなかった。
「ここでは狭いな。窓際の席に移って話すとしよう」
王様に先導されて、僕たちは窓辺へと移動する。
大きな窓の前にはコの字に長椅子が設置されていた。
セリース様が呼び鈴を鳴らすと、部屋に使用人が入って来て僕たちに飲み物を配ったり、机にいろんな食べ物を置いていった。
「さて、何から話すべきか、聴くべきか」
思案する王様に、宰相のコランタ様が手を挙げる。
「まずは必要なことを済ませてしまいましょう。着て早々で申し訳ないですが、エルネア君。この間の遺跡での事を聞かせてもらっても構わないかな」
きたきた。早速きた。僕は緊張した面持ちで頷く。
飲み物をひとくち口に含んで喉を潤し、話し出しす。
とはいっても、ミストラルのことは内緒だから、嘘を交えてだけどね。
僕が魔剣使いとなったヨルテニトス王国騎士の人を倒した話には、飛竜騎士団様の面々が興味深く耳を傾けていた。
きっと、僕のようなお子様が自国の王国騎士を倒したことに疑問を持っているに違いない。グレイヴ様の視線が刺さって痛かったもの。
「ふむ、通りすがりの冒険者が黒甲冑の魔剣使いを倒し、巫女の傷も癒したと」
疑い深そうに見る太った副宰相のナール様。この人も僕を疑って見ている人だね。
「は、はい。僕もいっぱいいっぱいだったので、詳しい容姿なんかは確認できませんでしたが」
「ふむむ。魔剣使いを追って冒険者が現れたとなると、その者がなにか詳しいことを知っているのかもしれませんね」
顎に手を当てて考え込む痩せた宰相のコランタ様。
ああ、どうか僕の嘘が発展して大きな事件になりませんように。この嘘が墓穴を掘ることになるんじゃないかと、僕は戦々恐々な思いだった。
でも、その怯えた様子を勘違いして見てくれた人がいて。
「おおう、恐ろしかったことを思い出させてすまないな」
王様が僕の頭を撫でてくれた。ミストラルの時とは違って、あまり嬉しくなかったよ。どうやら頭を撫でてくれる人によって、感じ方は違うらしい。王様に撫でられた、という貴重な体験にどきりとしたくらいだったね。
「冒険者であれば、冒険者組合に何か情報があるかもしれませんね。わたくしはそちらの手配をしてきましよう」
「ならば、私は王都内の宿場にそれらしき者が滞在した形跡がないか探りましょう」
言ってコランタ様とナール様は部屋から出て行った。
「ふむ、もう少し魔剣使いのことを聴かせてもらえるかな」
さらなる詳細を求める王様。
「私どもとしましても、魔剣使いへと堕ちた王国騎士の詳細をお聞きしたい」
青の竜騎士のグレイヴ様にも言われて、僕は思い出せるだけ話した。
もっぱらどういう剣筋だったかとか、どう攻防したのかということを、竜騎士の方の質問を交えて話す僕。
「ふむ。聴くにどうやら、魔剣使いとなって剣筋は落ちていたのだろう。勇者のリステアならともかく、君のような少年に王国騎士の者がそう容易く負けるとは思えん」
不満そうに感想を漏らしたのは青の竜騎士、飛竜騎士団団長のヴレイヴ様だった。
自国の王国騎士が他国の見るからにひ弱そうな少年に負けたという事が気にくわないんだろうね。側の白甲冑の二人も、
僕も、正気な王国騎士様に勝てるとは思っていないけど、そんなにあからさまに不満そうにしなくてもいいのに。
僕は黒甲冑の魔剣使いのことと竜気のこと以外は嘘を言わずに答えたんだよ。なのに、なんか責められているようで居心地が悪かった。
「何はともあれ、エルネア君は巫女と教師の二人を助け出したのだ。これは賞賛すべきこと。国として今後、正式に褒美もだそう」
あ、王様に気を遣わせちゃった。
王様は場の空気を晴らそうと、にこやかな笑みで僕の頭を撫でてくれた。
今回のはちょっと嬉しかったな。
その後は、勇者の話や竜騎士の話をしながら過ごした。
正直、僕は場違いなところに来ている気がして落ち着きがなかったよ。
早く帰りたいなあと思っていると、部屋の外から声をかけられ、二人の人物が中に入ってきた。
見るからに、神官様と巫女様だね。
「陛下に報告をしたきことがございまして、お伺い致しました」
跪く神官様。その横に立つ巫女様は、四振りの剣を抱えていた。
見たことのある剣だ。忘れるはずもない。先日、遺跡に現れた魔剣使いが所持をしていた、あの魔剣だった。
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