妖怪ぐちゃぐちゃ
柳生潤兵衛
ぐちゃぐちゃ
この世には、片付けが苦手な人が大勢いる。
ここにも一人、汚部屋の主が……。
社会人として働き始めて間もなく一年の彼が、自宅マンションのエントランスを
ファッション誌から出てきたような容姿に、道ゆく異性は目を奪われる。
しかし、そんな彼の住むワンルームマンションは汚部屋。
足の踏み場もないほどに物は溢れ、料理をすることのないキッチンはシンクにまでゴミが浸食していて、かろうじて身動きが出来るのはユニットバスだけという有様だ。
スーツやシャツなど、仕事に必要な衣類だけはクリーニングに出して外見を保っている。
主が出勤し、静まり返った部屋。
その天井の照明の陰に妖怪ぐちゃぐちゃが潜んでいた。
じわじわと床に零した水の如く陰から這い出てくると、これまたじわじわと身体が膨らんでくる。
人間の子どもの様な
しばらくすると、ぐちゃぐちゃは静かに動き出し、汚部屋のゴミの一部を少しだけ自らの腹に片付け、そしてまた照明の陰に隠れる。
何日も何日も、部屋の主が気付かぬ程度に片付け、隠れる。
それが何日も続けば、主がゴミを増やすよりも片付く方が優勢となり、流石の主も気付くほどになろう。
だが主は気付かない。
なぜなら――。
主が寝静まった頃、ぐちゃぐちゃが姿を現し、腹に貯め込んだゴミを主の上に吐き出すから。
吐き出されたごみは、主の体に染み込んでいき、そして……今度は主の心が――精神が、汚れていくからである。
会社に新入社員が入り、二年目を迎えた彼は、つい数週間前までの面影を失っていた。
スーツは皺にまみれ、シャツは黄ばみ、頭髪は乱れ髭も伸び放題……。
瞳に生気も覇気も無くなり、朦朧とした状態で自宅マンションのエントランスを出ていく。
道ゆく人々は彼を見ぬように目を逸らし距離をとる。
更に数日。
彼は会社に姿を現さなくなった。
そして行方をくらました。
彼の部屋を訪れた者は
これほど綺麗に生活してた彼が何故? と。
そこに妖怪ぐちゃぐちゃの姿は無く、部屋はゴミ一つない状態であった。
ぐちゃぐちゃは、新たな汚部屋を求めて物陰を渡り歩く。
妖怪ぐちゃぐちゃ。
古くから汚い屋敷に取り憑き、ゴミや汚れを住人の精神へと移す妖怪。
妖怪ぐちゃぐちゃ 柳生潤兵衛 @yagyuujunbee
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