トモダチ

「はいよ、んで....どーした?」


 私はできるだけその子と目線を合わせて、聞き役に回る。


「サキちゃんが三月みつきくんの事好きなんて知らなくて.....その....ごめん...」


「なんでよ....?謝ることないじゃん。それになっちゃんの方が可愛いからきっと上手くいくよ」


 そう言って笑顔を作る。ほんの少しだけ胃の方から、苦いような酸っぱいようなものが上がってきたような気がする。けれど私は笑顔で乗り切った。

 私の笑顔を見て少しだけ、なっちゃんの目元が柔らかい雰囲気になったのが分かった。


「あ、長く話しすぎちゃった!ごめんサキちゃん」


「走ればすぐだから平気。ほら急ご」


「ありがとうね」


 それを聞いた瞬間、また胃の方から、苦いものが上がってきた。少しの気持ち悪さに耐えながら、私は小走りで教室へ急いだ。私の少し前を行くなっちゃんの足取りはいつもより軽いように見えた。


 ✱✱✱


 朝から苦手な相手と話したこともあって、なかなかあの時の気持ち悪さが取れない。これはいつものことなのだけれど、結構辛かったりする。

 気持を紛らわせるために、ぼーっと外を眺めていると隣の席の友達が肩を軽く叩いて話しかけてきた。


「さっきなんの話ししてたの!」


「へ?」


「ほら、さっきなっちゃんに話したいことあるーって言われてたやつ!」


「あー....好きな人かぶってごめんねって、簡単に内容言うとこんな感じ....。ってか、静かにしないと当てられるよ、ゆいちゃん」


 話に夢中になりすぎて、うっかり忘れてしまいそうになるけれど今はまだ授業中。私は黒板の方に視線を戻して、先生の話を聞く。もちろん、気持ち悪さは残っているから、半分も入ってこないけれど。


 ノートを書こうと目線を机の方に向けてすぐ、またゆいちゃんに肩を軽く叩かれる。ゆいちゃんは、小さなメモを私に渡すとニッコリと微笑んだ。メモには【後で聞くね♪】と書かれていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る